子供が中学受験を「やめたい」と言い出したら、親はどうすればいいのか。プロ家庭教師集団名門指導会代表の西村則康さんは「現状がうまくいっていなかったり、心身が疲れていたりすることが多い。
ほとんどは親の言葉がけや勉強のやり方を変えることで解決できる」という――。
■最初の「やめたい」タイミングは4年生の9月
【4年生】活を入れたつもりがあっさり脱退宣言されることも
一般的に小学4年生から6年生の入試本番まで、3年間かけて準備を進めていく中学受験。しかし、主役はわずか10~12歳の小学生の子供。3年間高いモチベーションを保ちながら、頑張り続けるのは難しい。ときには「受験をやめたい」と弱音を吐くこともあるだろう。長年、中学受験の指導に携わってきて感じるのは、各学年それぞれにやめたくなるタイミングがあるということだ。最初のタイミングは4年生の9月。夏休み明けに行われる模試の結果が返って来る頃に訪れる。
中学受験の勉強は小学校の勉強よりもはるかに難しいというイメージがあるが、4年生(小3の2月からスタート)の始めの半年間はそれほど難しい内容には触れない。そのため、塾の勉強についていけない子はあまりいない。ところが、親の方が受験勉強が始まった途端、「早く勉強を始めなさい!」「もっと勉強しなさい!」を連呼するようになる。そして、子供がやる気のない態度を見せようものなら「ダラダラ勉強するなら、塾をやめさせるわよ!」と脅し言葉を投げるようになるのだ。

■現実のしんどさを実感する時期
夏休みが終わり、小4生にとっては夏期講習中の学習の成果を計り、しかもクラスの上下を決める大事な模試を受けることになる。その結果に、親はあれこれ言いたくなる。そして、わが子にもっと頑張ってもらわなければ! と思い、「受験するって言ったのはあなたなのよ。中学受験の世界は甘くないんだから、こんな調子のままなら塾をやめさせるよ」と発破をかける。
すると、あっさり子供の方が「うん、やめる!」と言い出すことがある。親としては、子供が悔しがって頑張ってくれるのを期待しての言葉だったのだが、まさかの展開に面食らうことになるだろう。
昨今、中学受験者数が上昇傾向にある中、子供から「受験したい」と言い出すケースは少なくない。その言葉を聞いて、親は「自分から言い出したのだから、きっと頑張ってくれるはず」と期待してしまいがちだ。
しかし、実際に塾通いが始まると、自由な時間が減ってしまう。特に夏休みは4年生といえども、夏期講習で多くの時間が取られる。すぐに「あれ? こんなはずじゃなかったんだけどな」と、現実のしんどさを実感するようになる。子供は本人なりに頑張っているつもりだったけど、親はちっとも褒めてくれないし、受験勉強が始まった途端にあれこれ口うるさく言われるようになり、なんだか毎日が楽しくない。
そして、「こんなんだったら中学受験なんてしなくていいや」と思ってしまうのだ。
■受験をやめる子が一番多いのは5年生
【5年生】中学受験の関門は5年生 勉強のやり方を変えることで壁を乗り越える
子供は大人と比べて精神的に未熟なため、遠い未来に向かって頑張り続けるのは難しい。塾通いを始めてまだちょっとしか経っていないのに、こんなに大変だったらもうやりたくない。そう思う子がいても何の不思議もない。わが子に受験勉強を頑張ってもらいたいと思うのなら、親は子供が気持ちよく勉強できるように、子供の気分が高まるような声かけをしてあげることだ。
発破をかけたり、精神論を訴えたりして相手の心を動かすというのは、大人には通用するかもしれないが、子供の場合は気分を下げるだけ。かえって逆効果になることをぜひとも知っておいていただきたい。
ただ、4年生の時点で受験を撤退するケースは、実際はそこまで多くはない。中学受験でもっとも脱退者が出るのは、受験勉強が本格化する5年生だ。鬼門となるのは算数の「割合と速さ」(1学期)と「比を使う応用」(2学期)を学習するタイミング。これらの単元になると、知識の丸暗記や解き方を覚えるだけの勉強法では解けなくなり、理解を大切にした学習が必要になる。
つまり、「なぜこの公式を使うのか」きちんと理解した上で、「今分かっているのはこことここの数字、求められているのはこの距離。
ということは、線分図で考えたら解けそうだなとか、この場合は面積図の方がいいかな」など、自分で手を動かしながら考えて解き進めていかなければ、正解を出すことができなくなってくる。それをやらずに、それらしい公式にただ問題文に出てくる数字を当てはめてみるだけの子は少なくない。特に低学年の頃から丸暗記や大量演習といった学習法に走っていた子は、ここでこれまでのやり方が通用しなくなり、ガクッと成績を落とすことになる。
■焦りが原因で成績が低迷するパターンも出てくる
また、中学受験の学習範囲は、5年生の終わりでほぼ終了するため、5年生の間は次から次へと新しい単元を学習することになる。しかも、4年生と違って内容も難しい。そのため、毎回の勉強が納得感をもって理解していない状態のまま、ただ宿題をこなすといったアタフタ学習に陥りやすい。すると、きちんと問題文を読まないで解いてしまったり、回答に数字や単位を書き間違えたりといったケアレスミスが多発する。あとで見直しをしてみたら、各教科30点もケアレスミスで点を落としていた、なんてこともある。
つまり、「早く宿題を終わらせなければ」「早く問題を解かなければ」といった焦りが原因で成績が低迷してしまうパターンだ。こういう場合は、問題文を丁寧に読む習慣をつけることで解決することが多い。おすすめは音読だ。または、親が読んであげるのでもいいだろう。
そうやって、一度立ち止まり、丁寧に問題に向き合う姿勢を身につける必要がある。
■この時期のスランプは勉強法を見直すチャンス
中学受験で子供がやめたがる一番の理由は、成績不振だ。親から見ると、まだまだ勉強が足りない、やる気が感じられないように見えても、その子なりに頑張っている。その努力が結果につながっていかないというのは、子供にとってはとてもつらいことなのだ。でも、それは子供が悪いのではなく、正しい学習の仕方が身についていなかった、つまり努力の仕方を間違えていただけに過ぎない。
公式の丸暗記やアタフタ学習で成績が低迷しているのなら、「納得感を得た学習をする」「問題文をきちんと読む」「考えるときは手を動かす」といった正しい勉強法に変えていけばいい。そうすれば、おのずと成績は上がって、子供の自信も回復していく。ここで気づけるか、改善できるかが、今後の伸びに大きく関わってくる。
そう考えると、この時期のスランプは、これまでの間違った勉強のやり方に気づけるいいチャンスだと前向きに捉えることができる。子供が成績不振で弱音を吐くようになったら、言葉巧みになだめるのではなく、まずはこれまでの勉強のやり方を見直すことだ。
■親の心が折れるケースもある
【6年生】子供以上に親の心が折れるのが9月
6年生になると、すでに2年もの月日を受験勉強に費やしているので、さすがに途中で受験をやめるというケースは少なくなる。ただ稀に起こるのが、親が受験を撤退したいと言い出すケースだ。

例えば「わが家は何が何でも御三家に入れたい」「偏差値50以上の学校でなければ行かせたくない」などといったこだわりがあり、親の希望と子供の実力に大きな乖離がある場合。1学期はまだ合格可能圏に入っていなくても、「夏休みに頑張れば逆転できるかもしれない」というかすかな期待を持つことができる。ところが、夏休みが終わり、9月の模試でも見込みがないことが分かると、親の気持ちが持たなくなり、「もう受験はやめようか」と言い出すことがある。
誤解をしないでいただきたいのだが、受験を撤退すること自体はマイナスに捉える必要はない。なぜなら、中学受験は子供の将来を考えた選択肢の1つに過ぎず、中学受験を途中でやめたからといって、その子の人生が狂ってしまうことはないからだ。
ただ、撤退するときは、「こんな成績では中学受験をする意味がない」などといった言い方は絶対に避け、「今はちょっと難しいかもしれないけど、このままコツコツと努力を積み重ねていけば、高校受験や大学受験で希望の学校に入れると思うよ」と、前向きな声かけをしてあげてほしい。そうやって、子供の実力を否定せず、目標を変えただけであることを伝えれば、挫折感を味わうことはない。
■「難関中学合格」=「中学受験の成功」ではない
ただ、中学受験をする意義は、偏差値の高い学校へ行かせるためだけではない。受験を通して、目標に向かってコツコツ頑張ること、学習習慣や考える型を身に付けることなど、合格といった結果よりも、その目標に向かってどのように過ごしてきたかといった過程の方がはるかに大事であって、「難関中学合格」=「中学受験の成功」というわけではないのだ。
目標校に届かない場合は、今の子供の学力に合った学校選びを検討するという方法もあることを忘れないでほしい。高い目標を持つこと自体は否定しないが、実力と乖離した高すぎる目標に向かって頑張らせることは、そもそも無理があることも知っておいてほしい。
一方、この時期に子供が手を付けられないほど荒れていたり、親の顔色をうかがい萎縮していたり、もしくは無気力、無表情になっていたりする場合は、中学受験が相当ストレスになって、追い込まれている状態になっていることが考えられる。
この場合は、今すぐ中学受験を撤退した方がいい。中学受験は小学生の子供を追い込んでまでしてするものではない。子供の幸せを願ってするものだ。
■「ちょっと先の明るい未来」を感じさせる声かけが効果的
このように、中学受験に費やす3年の間には、いくつかの「やめたい」タイミングというものがやって来る。学年によってその深刻度は違ってくるが、子供が「やめたい」と言い出したときは、現状がうまくいっていなかったり、心身が疲れていたりするときだ。そして、そのほとんどが親の言葉がけであったり、勉強のやり方を変えてみたりすることで解決する。
子供のやる気を維持するには、明るい未来を感じさせる声かけが必要だ。ただ、この未来も遠すぎてはダメで、今ちょっと頑張れば、お母さんが褒めてくれるとか、次の小テストで得点アップするかもしれないといった即効性がある方がうまくいく。これを日々積み重ねていくことで、子供のモチベーションを高め、最終的に目標を達成できた、または目標に近づけたというのが、理想の中学受験だと考える。どうか長い目で応援してあげてほしい。

----------

西村 則康(にしむら・のりやす)

中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員

40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。新著『受験で勝てる子の育て方』(日経BP)。

----------

(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)
編集部おすすめ