※本稿は、秋元祥治『自分だからできる仕事のつくり方』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
■自動車部品メーカーなのに「ウェルカムボード」「身長計」
製造業のまち・岡崎を象徴する自動車の部品製造を手がける町工場、飯田樹脂。その名の通り、樹脂の製造・切削加工を手掛け、小指の先に載るようなコンマ何ミリの部品をつくることも可能という、確かな技術を持つ企業です。
技術もある、業績も好調という同社の山川麻依さんがオカビズに訪れたのは、自社ならではの「新商品」について相談するためでした。
「EV化が進むと部品点数が減ります。樹脂のニーズもこのまま順調というわけにはいかなさそうで……」
そう言って見せてくれたのは、結婚式のウェルカムボードや、子どもの身長計。樹脂製で、切削加工により文字が彫られています。
自動車の部品メーカーが、ウェルカムボードや身長計? 意外な組み合わせに、思わず前のめりに。
「こだわりはどこですか?」
「どんな技術が使われているんですか?」
「どうしてその技術を、ウェルカムボードや身長計に使ったんです?」
オカビズの鉄則は徹底的な「いいとこ探し」。そのためには、相手が何を考えて新商品をつくったのか、技術はもちろん、会社の歴史と照らし合わせるとどうなのか、どういう風土の会社なのか、といったところまで押さえることが欠かせません。
■「当たり前」に隠れていた“2つの強み”
すると、飯田樹脂には同業他社と比べて特に抜きんでているポイントが、ふたつも見つかったのです。
ひとつは、技術力(①)。自動車で培われた精緻な技術力により、なんと筆文字のかすれすら樹脂上に再現できるといいます。強みを深掘りしているなかで、山川さんが「……魚拓も彫れるんです」と誇らしげに言ってくれたのがとても印象的でした。この樹脂でできた魚拓は、創業者である麻依さんのお父さまの趣味である釣り(⑦)との掛け算だったのです。
そしてもうひとつの強みこそ、会社の歴史(⑧)と風土(⑩)でした。飯田樹脂には、昭和63年の創業当初から、人材を区別せずに採用を実施し、子育て中の母親も多く雇用してきたという歴史があったのです。事実、従業員の6割が女性で、彼女らの感性を活かす事業として考案されたのが、ウェルカムボードや子どもの身長計でした。
ここまで話を聞いたときに、「ひらめき」が起こりました。
強みの「10の類型」
① 技術
② 製品
③ サービス
④ デリバリー
⑤ 社会的価値
⑥ ターゲットの取り方
⑦ ひと
⑧ 歴史・信頼・実績
⑨ 製造プロセス
⑩ 組織文化・チーム
■逆転のアイデア「読みにくい名札」
この相談を受けた2017年当時、社会を大きく騒がせた事件がありました。行方不明の女児が、2年ぶりに発見されたというニュースです。登下校時に名札を見て名前を呼んだというその手口に、学校や保育園、保護者、地域の人が震撼しました。そもそも名札は、学業においてはもちろん、災害時にも役立ちます。
「文字がくっきりはっきり見えるように彫れるんだったら、読みづらく彫ることもできますか?」
「……できるかもしれません、やったことはありませんが」
「知っていますか? 最近、全国の小学校では登下校では名札を外して、と指導されているんですよ」
こうして誕生したのが、近くにいると読めるけど、3メートル離れると読めなくなる名札「お名前かくれんぼ」。子育て中の母親が多く働く飯田樹脂では、この社会課題との親和性も高い。「子どもたちの安全のために、母親たちが名札を開発」という位置づけで、毎日新聞、NHK「おはよう日本」など全国メディアにも取り上げられていきました。全国から注文も殺到し、卒園記念品や教材といった新たな販路の開拓にもつながっていったのです。
他社と比較して優れているポイントは、容易に強みに転換できるものです。飯田樹脂の場合は、技術力だけでなく、会社が培ってきた歴史や組織風土そのものが差別化のポイントとなり、唯一無二の新しい仕事へとつながっていったといえます。
■顧客に「なんでうちなんですか?」と正直に聞く
『自分だからできる仕事のつくり方』(ダイヤモンド社)の中で同業他社のことを実は知らない、と書きましたが、オカビズに相談に来る人と話していると、「自社の商品・サービスを購入している顧客」のことを知らないということもまた、よくあります。
「さすがにそれは知っている!」
と、相談ブースで声を上げる方に対して、私はいつもこう問います。
「お客様に『なぜ自社の商品・サービスを利用しているか』を聞いたことはありますか?」
「……」
自社商品の分析や、マーケットの調査はしても、お客様と話したことがある人は、本当に少ないのです。
よく考えてみてください。これまで事業を継続してきたということは、お客様に選ばれ続けてきたということ。しかも、老舗の場合は、1世紀前後ものあいだ、選ばれ続けてきたわけです。
だったら、「なんでうちなんですか?」と正直に聞いてみる。お客様の声に耳を傾けていけば、「当たり前だと思っていたけど実は強みでした」ということが必ず起こります。競合他社より御社を選ぶ理由があるから、お客様はお客様になってくれているのです。
■生産中止になった商品に隠れていた活路
1928年創業の純国産花火メーカー、「太田煙火製造所」の5代目、太田恒司さんがオカビズに相談に来たのは、2016年のことでした。打ち明けられたのは、暗く重い話ばかり。
・厳しい経営環境:国内の花火市場の9割が安価な中国産。
・打ち手の行き詰まり感:戦後に発売され、日本中で愛された噴出型花火「ドラゴン」は2008年に生産中止。代わりになる商品がない。
こうした状況の中で、新たな売り上げの柱となるような新商品は作れないだろうか? そんな思いでご相談にお越しになりました。
太田さんは「人気は過去のものですよ。もう生産していませんし」と浮かない顔。
製品(②)がユーザーの夏の思い出にダイレクトにつながっている。それってとんでもないブランド価値だと思いませんか?
実際、かつてドラゴンで遊んでいた、当時30~40代の元ユーザーに話を聞いていくと、思い出の話が次々と集まりました。
■「大人のきのこの山」がヒントに
「もし今ドラゴンがあったら?」
と問えば、
「絶対また遊びます」
「子どもと一緒にやりたいですね」
との声が続々寄せられ、長年培ってきた信頼・実績(⑧)があることを確かめることができたのです。本人たちにとってみれば当たり前となっていたドラゴンの存在も、これまで慣れ親しんだお客さんの視点から、改めてその可能性を再確認したのです。
加えて「大人のきのこの山」「大人のたけのこの里」といったお菓子や、シルバニアファミリーの大人向け展開など、子どもの頃に慣れ親しんだものの大人向けリメイク商品が次々ヒットするトレンドを背景に、新たな展開を立案しました。
こうして立ち上がったドラゴン復刻プロジェクトは、クラウドファンディングを活用したところ345%の達成。大きな話題を呼び、新聞6紙、テレビ5局で取り上げられ、ウェブメディアにいたっては71件も取り上げられました。新たな販路の開拓にもつながり、太田さんは、この顧客の声をもとにしたプロジェクトで再発見した強みを軸に、今も新しい挑戦を続けています。
「自分がやってきたことなんて」と思う人こそ、ぜひ一度自分のお客様に話を聞きに行ってみてほしい。
■過去の「無理難題」を思い出す
これまで4400社の相談を受けてきたことで、私は「強み」が隠れている場所に、当たりがつけられるようになっています。
なかでも一番多い隠し場所が、過去に対応した珍しい仕事・難しい仕事です。
「無理難題だったけど、なんとか対応したんです」
「発注先から頼まれて、仕方なくやりきりました」
そんな難しい仕事をこなしたということは、それだけの実力があったということ。この後紹介する木村産業はまさにその典型例です。
また、その派生形として、過去につくった試作品もまた、武器になり得ます。それがたとえ失敗したものだったとしても、試行錯誤して実力の限界に挑んだことそれ自体が、強みのタネとなり得ます。
過去の難しい仕事を思い出し、なぜ自分・自社にそんな仕事ができたのか、そこにどんなニーズがあったのかを、改めて考えてみることで、強みが見える化されていきます。
■一見「何もない」ように見えても…
「うちには、良いところは何もないんです」
仕事量が減って売上も下がっている、とオカビズを訪れた木村産業の木村裕康社長は、そう言って、目線を下に落としていました。自動車向けの機械設備、金型などに使われる鋼材の溶断加工が主力の、いわゆる町工場です。
ところが、そんな木村産業の過去の仕事を一緒に洗い出していくと、一見「何もない」ように見えても、本人の気づいていない「強み」を見つけることができたのです。
急ぎで鉄板を切ってもらいたい、鋼材を用意してもらいたいという要望に対しては、「なんとか時間を捻出したり、週末を使って即日納品に対応してきた」と木村さん。
「めっちゃすごいじゃないですか!」
と強みを発見。高い技術力(①)だけでなく、即日デリバリーできる力も備え(④)、大手メーカーからも信頼されている(⑧)わけですから。
こうして、注文から最短1日で鋼材を切断・納品する「超特急サービス 鋼材切断119番」と銘打ち新たなサービスとして打ち出したのでした。
本人たちからすれば当たり前のようにしていたこと、そして言われたときに対応していただけのことですが、売りを見える化し発信することで、新たな顧客の開拓につながりました。
売上が伸びただけではなく、新販路の開拓にもつながり、文字どおり木村産業にしかできない仕事になりました。
以上が「自分の強みを発見するための方法」でした。これを使って、ぜひ誰かの、そして自分の強みを見つけ出して、言葉にしてみてください。きっとあなただけの仕事につながるタネが見えてくるはずです。
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秋元 祥治(あきもと・しょうじ)
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授、OKa-Biz チーフコーディネーター
NPO法人G-net理事(創業者)。1979年生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。在学中の2001年、起業家的人材育成と地方創生をテーマにG-netを創業(現在理事)。2013年、33歳で「売上アップ」に焦点を当てた愛知県岡崎市の公的産業支援機関「オカビズ」センター長に就任。2021年からチーフコーディネーター。オカビズは開設12年で累計約2万9000件・4400社の来訪相談の対応を行う。2021年には武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の立ち上げに携わり、現在教授。内閣府「地域活性化伝道師」・総務省「地域力創造アドバイザー」等、公職も多数。著作に『20代に伝えたい50のこと』(ダイヤモンド社)がある。
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(武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授、OKa-Biz チーフコーディネーター 秋元 祥治)