仕事のデキる人はどこが違うのか。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の秋元祥治教授は「意識的に『スピード』に注意を払っている人が多い。
スピードが、共感や応援を生み、リソースに直結するからだ」という――。
※本稿は、秋元祥治『自分だからできる仕事のつくり方』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
■低迷していた泡盛の酒造が売り上げを3倍にしたワケ
沖縄県石垣島。
ここに、「最も個性的な酒蔵」を掲げる酒造メーカーがあります。造っているのは泡盛。1951年の創業以来、小さい蔵ながら、「白百合」ブランドで多くの人から愛されています。
いま、私はこの池原酒造の経営を支援しています。もっといえば、3代目社長の池原優さんを応援しています。
きっかけは、2020年、何気なく見ていたクラウドファンディングサイトの「makuake」にて、「酒造り体験 2万円」という返礼品を見たことでした。当時はコロナ禍も2年目に入り、ステイホームも辛くなってきた頃。安全には配慮したうえで、家族でどこかに出かけて、その場所でしかできない経験ができないかと考えていたのでした。
酒造り体験を楽しんだあと、現場にいた池原さんと話していたときに、「どうしてクラファンを? 誰かに相談して取り組んだんですか?」と聞いてみました。

すると返ってきたのは、
「やったことはなかったんですけど、中田敦彦さんのYouTubeを見てやってみました!」
とのこと。続けて、「ぜひ、秋元さんにも相談させてください!」と元気よく頼まれたのでした。
さて、池原さんのこのエピソードを読んで「創業70年超の離島の酒蔵の話が、どうして自分だけの仕事をすることとつながるんだろう」と思っておられる方も多いのではないでしょうか。
しかし、今ご紹介したエピソードの中に、自分だけの仕事をできる人の特徴が表れています。事実、私が応援しはじめてから、池原さんは池原酒造にしかできない新規事業を次々と繰り出し、この3年で、売上を3倍近くまで伸ばしたのです。
ではその特徴とは何か。
それは、「すぐに、ちょっとやる」です。
■「やったことがない=できない」は大間違い
やったことがなくても、これだと思ったらすぐに、ちょっとやる。
そんな池原さんを見て、私がまず提案したのが、「クラブハウス」でした。
覚えているでしょうか。2021年初頭に、音声SNSとして大バズりしたあのサービスです。私の提案はこうでした。

「日本初の新商品開発会議をクラブハウスでやりましょう!」

「よくわかりませんけど、やります!」
結果的にこれは大きな話題となりました。しかも、当日会話に参加してくれていた琉球染め物の老舗、知念紅型研究所・知念さんと意気投合し、新商品の「共同開発」まで決まりました。
「すごい反響でしたね。すぐにプレスリリース打ちましょう!」
意気揚々と語りかけた私に対して、池原さんはまたも言い放ちました。
「やったことないんですけどやります。プレスリリースの打ち方、教えてください!」
「やったことがない」と、人はすぐに「できない」とイコールで結びつけてしまいます。
ちゃんとやれないんじゃないか?
必ずしも結果が出るとは限らないし……。
しかし、そんな考えは間違いです。
■「ついつい手を差し伸べてしまう」人の特徴
今では池原さんは、ピッチコンテストでも活躍するほどに成長しています。最近では、大企業からスタートアップまで全国から経営者が1000名以上集まるカンファレンス「ICCサミット2024」の「第2回SAKE AWARD」で優勝しました。
もちろんICCへのチャレンジをもちかけた時も、こんな調子でした。
「ICCでSAKE AWARD出場のチャンスがありそうですが挑戦しませんか?」

「ICCってなんですか? わかりませんけど、出ます!」
結果、さらなるリソースが池原さんのもとに舞い込み続けています。
池原さんにしかできない仕事をつくる素地が、こうしてどんどん整っていっているのです。
池原さんがリソースを集め、チャンスを掴むことができたのは、「素直で、そしてすぐやる」に尽きます。
できていないことも時にありますが、やる努力をしているし、少なくとも何らかのことに着手しているのが見えているから、応援をやめようという気になりません。それどころか、「そこで苦戦しているなら、あの人を紹介しようかな」などとついつい手を差し伸べてしまいます。
■キーワードは「すぐに、ちょっとやる」
私は、「すぐに、ちょっとやる」、つまり言われてすぐに着手できるかどうかこそが、オンリーワンの仕事をつくるうえでとても重要だと考えています。
オカビズで多数の相談を受けてきたなかで、ビジネス的に勝ち筋を描けているにもかかわらず、自分だけの仕事をつくり損ねた人もたくさん見てきました。
なぜできなかったのかを突き詰めていくと、「すぐ、素直にやるかどうか」はとても重要な要素だという答えに行き着きました。頭の良し悪しやセンスのあるなし以上に、すぐ素直にできるか、はずっと重要なことなのです。
実際、「クラファンどう?」「クラブハウスやってみない?」といった提案は、池原さんにだけしたわけではありません。多くの人は、反応すらしないのです。
理由を聞けば、ほぼ全員が「よくわからないから」「やったことがないから」。いろんな事情があるのはわかりますが、これではいつまで経っても――目の前にチャンスがぶら下がっていても――自分だからできる仕事の芽は見つかりません。

やりきれなくてもいいから、着手してみる。その「すぐ、ちょっとやる」姿勢が、自分だけの仕事につながるリソースを呼び込んでくれるのです。
■「すぐやる」「まずやる」人は複利的に成長する
池原さんのケースでもうひとつ注目してほしいのは、売上を3倍にし、ICCでのピッチコンテスト優勝までのスピードです。
私が応援しはじめたのが、2021年。そこから3年くらいで、大小さまざまな新しい手を繰り出し、いくつかは仕事として結実していっているのです。
「ああでもない」「こうでもない」と悩んで手をこまねいていたら、3年なんてあっという間に過ぎ去っていきます。特に大企業にお勤めの方は思い当たるところがあるでしょう。
自分にしかできない仕事をつくる人は、まわりが悩んでいるあいだに、「すぐに」「まず」やってみています。もちろん、うまくいくこともあるでしょうが、大半はうまくいきません。でも、その失敗の経験にも価値がありますし、その結果「こっちはだめだな」と行き先を変えることにつながることもあります。
こうして経験値を少しずつスピーディに蓄積していくと、複利的な成長をもたらします。前にうまくいったこと、失敗したことを踏まえて(=元本に加えて)新しい手を打ち続ける。
その繰り返しが、やがてあなたにしかできない仕事を呼び込み、圧倒的な成果につながっていくのです。
池原酒造は、さまざまなチャレンジを続けるなかで、世界的なレストランであるノーマ(※1)に見出され、京都でのポップアップ出店の際には食後酒として採用が決定。トップクラスのレストランやホテルへの販路が広がるなど、大きく飛躍を遂げています。
■川邊健太郎氏が20代の頃から言い続けてきたこと
自分で仕事をつくっている人ほど、意識的に「スピード」に注意を払っています。スピードが、共感や応援を生み、リソースに直結するとわかっているからです。
その代表例が、LINEヤフー代表取締役会長の、川邊(かわべ)健太郎さん。
「爆速経営」を掲げている川邊さんは、20代の頃から自身の署名に「Win-Win with Speed」と書いていたほど、スピードを重要視していました。
なぜスピードがそこまで重要なのか。それは「相手の期待を上回るうえで、一番難度が低いから」です。
仕事での評価は、「相手の期待を上回れるかどうか」で決まります。相手の期待を上回った分が満足になり、下回れば不満足になってしまいます。そして、その上回り方は、3つしかありません。

1 相手が期待するより高いクオリティを

2 相手が期待するより多くの量を

3 相手が期待するより速く
クオリティを上げるには研鑽(けんさん)が必要ですし、量を出すには大量のインプットが欠かせません。この中で一番簡単ですぐに実現できるのが、3の「スピード」なのです。たとえば金曜日までに提出するべきものを、2日早く水曜日に提出する。それだけで「早く出してくれてありがとう!」と思ってもらうことができるのです。
※1:「世界のベストレストラン50」で5回世界一に輝き、ミシュラン3つ星も獲得した名店です。
孫正義氏はTwitterで「すぐやります」と回答
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部での新たな取り組みを学部長・伊藤羊一(※2)さんにご相談すると、その場で「いいね、やりましょう」とご返答いただくことが大半です。
孫正義さんなど成功した起業家、すなわち唯一無二の仕事をつくってきた人も、そのほとんどが「即やろう」で勝ち抜いてきた人たちです。中身の詳細な検討よりも先に、「いいね! やろう!」と言うのが通常なんです。
一時期、孫正義さんがTwitter(現X)で投げかけられた要望に「すぐやります」と回答していました。あれはパフォーマンスだったのではなく、それくらい「すぐやろう」が口癖になっていたのでしょう。
一般的な感覚では、「言ったのにやれなかったらどうしよう」と思いがちです。でも、「即やろう」の人たちは常に、「できない理由」ではなく「どうやればできるのか」を考えればいいというスタンスです。仮に失敗したとしても、そのことを責める人は少なく、すぐに忘れられることを知っているのでしょう。
■「すぐやる」「まずやる」と、「まめ」にもなれる
「すぐやる」「まずやる」については、私が20代の頃からお世話になっている方の話もご紹介しましょう。現在はセイノーホールディングスの代表取締役をされている田口義隆さんです。
当時は西濃運輸に所属されていて、G-net時代の私は折につけて相談をさせていただく、メンターのような存在として大きく支えていただきました。
印象的だったのは、その「御礼」の早さです。
ご飯に連れていっていただいた帰り道、御礼のメールを打っていたら、先に向こうから御礼が届くのです。明らかに自分よりも忙しく、またお付き合いの範囲も広い人が、まめに連絡をくださることに、最初の頃は、
「えらい方なのに、なんてまめなんだろう」
と感銘を受けていました。ですが、田口さんがやっているなら、と真似して御礼をすぐにするようになった私は、だんだん自分に挑戦のためのリソースが集まってくることに気づきました。そして、悟ったのです。
「まめで丁寧だから、えらくなったんだ」
「すぐに、ちょっとやる」と、何らかの結果が出ます。そこで終わりにせずに、また「すぐに」、連携したり応援してくれた人に御礼とフィードバックをするのです。
「言ったことをすぐに実践して、まめに報告してくれる」相手のことを、気に入らない人はいません。人の紹介や、ケースの共有など、どんどんしてくれるようになり、自分にしかできない仕事につながるリソースを、どんどん蓄積していけるようになります。
※2:ベストセラー『1分で話せ』の著者でもあります。

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秋元 祥治(あきもと・しょうじ)

武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授、OKa-Biz チーフコーディネーター

NPO法人G-net理事(創業者)。1979年生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。在学中の2001年、起業家的人材育成と地方創生をテーマにG-netを創業(現在理事)。2013年、33歳で「売上アップ」に焦点を当てた愛知県岡崎市の公的産業支援機関「オカビズ」センター長に就任。2021年からチーフコーディネーター。オカビズは開設12年で累計約2万9000件・4400社の来訪相談の対応を行う。2021年には武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の立ち上げに携わり、現在教授。内閣府「地域活性化伝道師」・総務省「地域力創造アドバイザー」等、公職も多数。著作に『20代に伝えたい50のこと』(ダイヤモンド社)がある。

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(武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授、OKa-Biz チーフコーディネーター 秋元 祥治)
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