※1 厚生労働省「紅麹を含む健康食品関係」
※2 大阪市「食中毒詳報 食中毒発生の探知」
※本稿は、畝山智香子『サプリメントの不都合な真実』(筑摩書房)の一部を再編集したものです。
■病気の人の摂取を想定していない健康食品
そもそも、健康食品は病気の人が使うことを想定していません。そのため、持病のある人が使用した場合の安全性や、他の医薬品との相互作用などは基本的に考えられていないのです。しかし実際には、ほかの薬を使用していたり、本人が気づかないだけで肝機能や腎機能に何らかの問題がある人が健康食品を使っていたりすることがよくあります。
高齢者なら、何らかの機能低下はあるのが普通でしょう。紅麹製品は「コレステロールが気になる方に」と宣伝されていました。コレステロール濃度は自分で知ることはできませんから、健康診断や医師の診察を受けたりして、自分はコレステロールが高めであると知った人たちが対象なのでしょう。
そういう人たちが、コレステロール濃度が高めだけれどもその他はまったく問題なく健康だと言い切れるでしょうか。実際、小林製薬の紅麹製品で健康被害を被った人たちの中には、持病があった人も含まれることが報道されています。
■持病のある人は使わないよう周知すべき
小林製薬は届出の中で「疾病に罹患している場合は医師に、医薬品を服用している場合は医師、薬剤師に相談してください」と記載しているので、健常者が使用することを想定しているようですが、この表示だけでは伝わらないでしょう。事実、健康被害を訴える人に基礎疾患のある人が多いのは、この点が伝わっていなかったためです。
また、たくさんのメディアで商品をコマーシャルしていたのだから、その中で持病のある人は決して使わないようにといった注意喚起が、大きくなされるべきでした。日々膨大な量の健康食品の宣伝・広告を目にしますが、「病気治療中の人は使わないように」と警告をしているものは見たことがありません。
また、コレステロールが少し高い場合の第一の選択肢は食生活の改善です。にもかかわらず、もし医師に食生活を見直してみましょうと勧められたときに、いわゆる健康食品を使うことを選択したらどうなるでしょうか。
■医療による効果的な治療を妨げるリスク
患者は、健康食品を摂ることで食生活の改善をしたと考え、医師も患者が食事の内容を見直したのだと思うでしょう。それからしばらくしてやはり薬物治療が必要になったとき、医師はおそらく低用量から様子をみながら医薬品の投与を始めるでしょう。
でも実はすでに医薬品に相当するものを使用していたとしたら、安全で効果的な治療の妨げになる可能性があるのではないでしょうか。例えば薬の効きが悪いとか、副作用が強く出てしまうといった形で、健康食品ではない、正当な治療に使われた医薬品の有害事象として報告されるかもしれません。
健康食品の使用を医師に黙っている患者さんは、けっこう多いことが報告されています。健康食品を使っていると医師に話せば、たいていの場合、使用をやめるように言われます。そのため、黙っておきたい気持ちはわからないでもないですが、きちんと話して疑問があれば解消したほうがいいでしょう。
■「製薬会社だから信頼していたのに」との声
一般的に「製薬会社」といった場合、日本製薬工業協会加盟70社(2024年7月時点)を連想すると思います。これは、新薬を開発できる会社です。
次に、ジェネリック医薬品メーカーが加盟する日本ジェネリック製薬協会というものがあります。ジェネリック医薬品は新薬(先発医薬品)の特許期間が過ぎてから、同じ有効成分を使って品質、効き目、安全性を証明して厚生労働大臣の承認を受け、国の基準、法律に基づいて製造・販売されている薬のことです。ここまでが、医師が処方する薬を作っているメーカーです。
そして小林製薬はそのどちらでもなく、日本OTC医薬品協会に加盟しているようです(2024年10月に一定期間、会員資格の停止処分が報告されています)。OTCとは“Over The Counter”の略で、医師の処方なしに薬局のカウンター越しで一般の人が購入できる薬のことを指します。OTC医薬品にはいろいろなものがあって、薬剤師の資格のある人に説明してもらわないと買えないものから、普通の商品のように棚に陳列されていて手に取って選べるものまであります。たとえば、小林製薬の販売しているかゆみ止めや筋肉痛の塗り薬などがOTC医薬品です。
■研究開発費より宣伝費が多いという事実
したがって、今まで治療法のなかった病気を治すために日々研究を重ねている、というような「製薬会社」をイメージされると、それとはかなりかけ離れていると思います。
実際に会社の報告書を見ても、研究開発費よりも広告宣伝費のほうが多く計上されており、研究ではなく広告宣伝のほうに力を入れていることがわかります。
実のところ、企業の規模や業種だけでは、製品が安全かどうかはわかりません。大手製薬企業傘下であっても、食品部門は小さいかもしれません。また、薬と食品は別物なので食品企業のほうが食品には詳しい場合もあるでしょう。そして医薬品のような効果効能、例えば「がんに効く」などと謳った商品を、製薬会社ではない会社から購入することは絶対にしないでください。
■マスメディアの広告掲載にも責任がある
マスメディアは事故が起こると企業や国の責任を追及します。しかし、そもそもいわゆる健康食品産業の拡大で利益を得ていた業界の一つが、メディア自身であることを忘れてはならないと思います。現在、新聞・雑誌の広告費のかなりの部分を健康食品が占めているそうです。
テレビや新聞・雑誌で、いわゆる健康食品の、消費者を欺くような広告を掲載したことがない媒体がどれほどあるのでしょうか。健康食品が原因で健康被害が出た場合、その健康食品の広告宣伝費を受け取って、ミスリードする内容のコマーシャルを流していたメディアには一切責任がないのでしょうか。
医師が使う処方薬は、一般消費者への宣伝は禁止されています。そのため、モナコリンK(ロバスタチン)よりいい薬が開発されていることを消費者は知らされることがない一方で、誤解を招くような健康食品の宣伝には大きな広告スペースが使われています。
■ある程度は予想できた紅麹サプリの危険性
紅麹サプリメントに関する周辺情報を知っていれば、このような医薬品成分を含むサプリメントはリスクが高く、何か手違いがあれば簡単に健康被害につながってしまうということが予想できると思います。
私自身は、機能性表示食品による健康被害は遅かれ早かれ発覚するだろうとは考えていましたが、ここまで大規模かつ深刻な被害を起こすことまでは予想できませんでした。もともとリスクが高いものに極めて毒性の強い物質が混入し、健康被害が出てからも対応が遅いという、いくつもの不運が重なったためと考えられます。
このような事故は二度と起こしてはならないものです。どうしてこんなことが起こってしまうのか、被害者にならないためにどうすればいいのか、そして健康食品との賢いつきあい方はあるのかを知ることは重要です。
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畝山 智香子(うねやま・ちかこ)
薬学博士、国立医薬品食品衛生研究所客員研究員
宮城県生まれ。東北大学大学院薬学研究科博士課程前期課程修了。薬学博士。専門は薬理学・生化学。現在は国立医薬品食品衛生研究所客員研究員。著書『食品添加物はなぜ嫌われるのか』『ほんとうの「食の安全」を考える』(化学同人)、『「健康食品」のことがよくわかる本』『「安全な食べ物」ってなんだろう』(日本評論社)など。
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(薬学博士、国立医薬品食品衛生研究所客員研究員 畝山 智香子)