性犯罪の加害者は成人だけではない。未成年でも罪を犯す可能性はある。
西川口榎本クリニック副院長で精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんは「子供が性犯罪で逮捕された親は自責の念に駆られ、地域や学校で噂が広まってコミュニティから排除されてしまうことも少なくない」という――。
※本稿は、斉藤章佳『』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
■「家族だから」という理由で社会的制裁
お宅の息子さんが逮捕されました。そんな警察からの一本の電話で、家族の人生は一変します。
当然ながら、罪を犯した当人は裁かれ、罪を贖(あがな)うべきです。しかし、親と子、夫と妻といった家族のメンバーはそれぞれまったく別個の、独立した人格を持った人間です。個人主義の考えが根づいている欧米に対して、日本では加害者とその家族が同一視される傾向があります。
そこでは、なんの罪もない家族や親類まで同罪とみなされ、社会的制裁の矢面(やおもて)に立たされてしまいます。
「疑わしきは罰せず」という言葉がありますが、現実には裁判で無罪になったり、不起訴で終わったりしても、「逮捕された」「事件を起こした」という一点で家族に対する周囲の目は変わります。学校や職場で嫌がらせに遭ったり、転校や転職、転居を余儀なくされたり、婚約破棄されたりすることも少なくありません。
■未成年の子供が性犯罪に手を染める
また、メディアの過熱報道やSNSでのバッシングを受け、最悪の場合、自ら命を絶ってしまう加害者家族もいます。
私たちは誰もが、予期せぬ形で加害者家族になる可能性を持っています。
自ら罪を犯していないにもかかわらず、差別や偏見を受け、理不尽な苦悩を抱えなくてはならない加害者の家族は、ある意味で被害者ともいえます。
欧米では加害者家族はhidden victims(隠れた被害者)とも呼ばれ、支援の対象とみなされていますが、日本ではその存在すら可視化されず、加害者家族への支援体制は十分に整っているとはいえません。
また、いざというときに誰に相談すればよいのか、どこに助けを求めればよいのか、どのような本や情報が参考になるのかといった当事者たちが求める情報は、あまりにも不足しているのが現状です。
ここからは、実際に私が関わってきた加害者とその家族についてのエピソードをご紹介します。当事者のプライバシー保護のため、個人が特定できる情報は変更しています。なお具体的な性加害の描写も出てきますので、ご注意ください。
ケース①息子が女子生徒の着替えを盗撮
体育の授業中、16歳の男子高校生Aがスマホで女子生徒の着替えの様子を盗撮し、それを仲のいい同級生とのLINEグループで共有するという事件が起きた。
両親が問いただすと、Aは当初「みんなでふざけ合っていただけ」と事の重大さを理解していなかった。日頃から真面目で成績も優秀、サッカー部では主力選手として活躍する模範的な生徒だった彼が、なぜこのような加害行為に及んだのか、両親も理解できずにいた。
事態が発覚したのは、被害に遭った女子生徒のひとりが心身の不調を訴え、保健室に駆け込んだことがきっかけだった。学校が調査を始めたときには、すでに画像は学年全体に拡散され、被害女子生徒は精神的なショックから登校できない状態に追い込まれていた。
AがLINEグループに投稿した画像は、さらにSNSを通じて拡散。
ネット上の「まとめサイト」にも転載されるようになった。
■逮捕された息子、複数の損害賠償請求
学校からの一報を受けたAの両親は、まるで悪夢を見ているかのような思いだった。
「うちの子に限って……嘘であってほしい」という思いは、警察からの呼び出しで打ち砕かれた。
被害生徒の保護者が被害届を出したことにより、Aは逮捕された。その後の捜査で、Aは過去半年にわたり、同様の盗撮行為を繰り返していたことが判明。複数の被害者の画像がインターネット上で拡散され、被害は予想を超える規模に膨れ上がっていた。
家庭裁判所での審判を待つ間、複数の被害者から損害賠償を求められ、家族は総額で数百万円の被害弁済に直面することとなった。両親は「なぜ息子がこのような盗撮行為に及んだのか」という自責の念に苛(さいな)まれる日々を送っている。
父親は仕事も手につかず休職を余儀なくされ、母親は近所の目が怖くて外出もままならない状況に追い込まれた。Aと同じエリアの中学校に通う妹は、学校内で噂になっていじめに遭い、転校を検討せざるをえない状況となった。
■未成年者の盗撮が急増しているワケ
子どもが未成年の場合でも、性犯罪の加害者家族になる可能性はあります。とくに近年深刻なのが未成年者による盗撮行為です。
なかには「悪ふざけしただけでしょ」という反応を示す親もいますが、盗撮はれっきとした性犯罪です。
2023年7月には、性的な撮影行為を取り締まる「性的姿態等撮影罪(撮影罪)」が新設され、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科せられることになりました。
私のもとにも、中高生の性問題行動として盗撮行為の相談が年々増えています。警察庁の統計によると、2023年7月~2024年11月に起きた中学生同士の盗撮行為のうち撮影罪で検挙されたのは83人にのぼり、うち38人は学校内での盗撮行為でした。
また、高校生同士の盗撮行為のうち撮影罪で検挙されたのは316人にのぼり、うち112人は学校内で盗撮をしていました。
未成年者である子どもが刑事事件の加害者となった場合、14歳以上であれば逮捕されます。少年事件の場合、成人のように起訴されて刑罰が下されるわけではなく、その処分は家庭裁判所の審判に委ねられます。
■犯罪の認識が薄いデジタルネイティブ世代
こども家庭庁のデータによれば、小学生(10歳以上)で46.2%、中学生82%、高校生は97.6%がスマホからインターネットを利用しています。幼い頃からデジタル機器が身近にあり、「デジタルネイティブ」「SNSネイティブ」の彼らにとっては、画像や動画を共有することは日常的なコミュニケーションの一部です。
しかし、その行為が他者の人権を著しく侵害する可能性があるという認識がまだまだ追いついていないのも現実です。
また、とくに男子生徒の場合、女性をまるでモノのように扱うことで、ホモソーシャル(男性優位を前提とした男性同士の結びつき)な仲間内の絆を深めていくなど、「有害な男らしさ」に過剰適応した結果として性加害行為に至ることもあります。
子育てをするなかでは、親が予想すらしない出来事が往々にして起こるものです。
しかし、未成年の子どもが性問題行動を起こした……と知った親の精神的なダメージは計り知れません。
「自分の育て方が悪かったのではないか」と自責の念に駆られたり、実名報道こそされないものの地域や学校で噂されたり、コミュニティから排除されてしまうことも少なくありません。また、きょうだいがいる場合には、その影響も深刻です。さらに被害者への高額な被害弁済に加え、休職や退職、転居費用など、家族の経済的基盤そのものが大きく揺らぐことになります。
ケース②小6娘が妊娠、相手は中2兄だった
「お母さん。今月、生理が来ないんだけど……」
夫と離婚し、ひとり親として子育てをしているB子はある日、小学6年生の娘からそう打ち明けられた。慌てて産婦人科に連れて行くと、なんと娘は妊娠8週目だった。聞くと、自分が仕事で家を空けている間、中学2年生の兄としばしば性行為を繰り返していたというのだ。
B子は葛藤しながらも、児童相談所に通報することを決めた。その結果、息子は一時保護ののち、鑑別所に送致され、家庭裁判所による審判で少年院での処遇が決定された。娘はB子との生活を続けることになったものの、母としてふたりの子どもの将来に深い苦悩を抱えている。
■きょうだい間での性加害は決して少なくない
家庭内での性暴力で特徴的なのは、「加害者と被害者が同じ家族の中に存在する」という現実です。
このケースのように兄が妹に性加害を行った場合、その親であるB子さんは加害者家族であると同時に、被害者家族にもなります。
「きょうだいで性行為なんてありえない!」と驚いた方もいるでしょう。たしかにそれも無理のない話かもしれません。
というのも、家庭内での性暴力は、なかなかその実態が明らかになりません。こども家庭庁のデータでは、2023年度の児童虐待の相談件数のうち、性的虐待は2473件でしたが、そこにはきょうだいや祖父、おじなどからの性暴力は含まれません。児童虐待防止法で、「児童虐待」が子どもを監護する保護者によるものと定義されているからです。
性的虐待の実態を調査した神奈川県中央児童相談所のデータによれば、きょうだい間の性暴力は全体の17%でした。加害者でもっとも多いのは実父(36%)そして養父・継父・内夫(23%)で、実兄(12%)、祖父(6%)と続きます。
このケースの場合、息子による加害行為は暴力的なものではなかったとされ、娘にも性的な好奇心があったことが後日、明らかになりました。娘は現在も兄との同居を強く望んでいると話していることから、B子さんは子どもたちの心情を理解し、今後どのように家庭内で性教育を行っていくのか、児童相談所と相談しながら前に進んでいくといいます。

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斉藤 章佳(さいとう・あきよし)

精神保健福祉士・社会福祉士

西川口榎本クリニック副院長。1979年生まれ。
大学卒業後、アジア最大規模と言われる依存症回復施設の榎本クリニックでソーシャルワーカーとして、長年にわたってアルコール依存症をはじめギャンブル・薬物・性犯罪・DV・窃盗症などさまざまな依存症問題に携わる。専門は加害者臨床で現在まで3000名以上の性犯罪者の治療に関わり、性犯罪加害者の家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。主な著書に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』(ともにイースト・プレス)、『「小児性愛」という病 それは、愛ではない』(ブックマン社)、『しくじらない飲み方 酒に逃げずに生きるには』(集英社)、『セックス依存症』、『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(ともに幻冬舎新書)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、監修に漫画『セックス依存症になりました。』(津島隆太・作、集英社)がある。

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(精神保健福祉士・社会福祉士 斉藤 章佳)
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