■実家用の軽自動車をわざわざ買ったワケ
筆者は山口県下関市にある実家へ2カ月に1、2回のペースで、それぞれ7~10日間ほど帰省している。昨年8月、実家用として軽自動車を購入した。2005年11月登録のスズキアルトで、価格は52.7万円(車両本体価格44.9万円+諸費用7.8万円)だった。走行距離は3万6700キロ。旧ビッグモーター(現WECARS)下関店で購入した。
アルトを買うときに少し迷ったのは、まさに、今回のテーマである「カーシェアかマイカーか」であった。実家の車がなくなって5年。下関では必要な時だけカーシェアやレンタカーを使っていたが、タイムズの最寄ステーションは実家から約2km。ここは1台だけなので予約で埋まっている時は4km先の下関駅近辺のステーション(合計10台)で予約する。徒歩圏内ではないので不便ではある。
極力費用を抑えるために、通常の買い物や外食の移動には午後6時~翌朝9時の「ナイトパック」を利用することが多かった。
■きっかけはカーシェアの「ペナルティ」
カーシェアをやめてマイカー購入を決意したきっかけは、昨年6月に起こった「寝坊」によるペナルティである。しかも、短期間に2回続けてやってしまった。
タイムズカーのナイトパックは前日午後6時~翌朝9時までは一律料金で、それを過ぎると通常料金(15分220円)となる。ある時、朝10時半頃にタイムズカーからの電話で目が覚めたことがあった。朝9時以降の連絡なしの延長は、ペナルティとして料金が2倍になる。無断延長2時間となると1時間880円×2時間×2倍で3520円! ナイトパックの料金を大幅に超える。
立て続けにこのようなことがあり、精神的なダメージも大きかった。こんなこともあって「カーシェアやレンタカーではなく、いつでも自由に使える実家用の車を買おう!」と決めたのである。
■バス・電車・レンタカーよりマイカーが便利
この決断は「買ってよかった!」の一言に尽きる。特に良かったのは山口宇部空港との往復だ。山口宇部空港~下関間はかつて片道1200円で利用できるシャトルバスがあったのだが、この数年で急激に値上がりし、今は片道3000円に。
空港の近くには歩いて行ける無人駅(JR宇部線 草江駅)があり990円で下関駅まで行けるが、本数が少なく駅までの移動もまあまあ不便だ。
一方、空港には無料で何日でも置いておける広い駐車場がある。マイカーで宇部空港に向かい、車を置いて飛行機で羽田へ、実家に帰る時にはまた宇部空港の駐車場に置いていたマイカーで下関まで行く……。これがもっともストレスなく効率よく実家を往復する方法である。
レンタカーを借りる時は宇部空港で借りて宇部空港で返却、ということをしていたが、近年はインバウンドのレンタカー利用者が激増したこともあってか、直前の予約がとりづらく、価格もおよそ1.5倍以上と大幅に上がってしまった。
■1年間のマイカー費用は23万8820円
では、購入してからの1年間でアルトにどれくらいのお金がかかったのか?
前提として2024年8月~2025年7月までに約5000kmを走行している。あくまでも概算として計算してみた。
①ガソリン代:約6万円
②駐車料金:9万6000円(月8000円×12カ月)
③軽自動車税:1万700円
④車検:0円
※ユーザー車検で通したので整備費用なし
・印紙代:1200円
・重量税:6600円
・自賠責保険:1万7540円(24カ月分)
・山口運輸支局までの往復高速料金:4260円(2130円×2)
⑤自動車保険:4万2520円
合計23万8820円
では、これがカーシェア&レンタカーだったらどうだろうか?
年に8回、帰省する前提で試算すると、次のような結果になった。
①利用料金:4万円(平均月5000円×8回)
※2024年の利用実績から計算。このほか年に3~4回、数日間レンタカーを借りることもあり、1回2万円×3=6万円
②ガソリン代:0円
※利用料金に含まれているため
③駐車料金:4万円(有料駐車場で24時間1000円×5日×8回)
※マンションの来客用駐車場や無料駐車場を利用するケースもあるため、5日で計算
④軽自動車税:0円
⑤車検:0円
⑥ステーションまでの移動:1万2000円(平均1500円×8回)
※タクシーやバスを利用。1回の帰省で3往復程度、1回平均500円
⑦タイムズ会費:1万560円(月880円×12カ月)
※ただし、カーシェア利用料に充当されるので実際には880円×4カ月分=3520円
合計15万5520円
■圧倒的にコスパが良いのはカーシェア
筆者は土地的な条件からマイカーのほうが便利と判断したが、コスパだけを考えれば圧倒的にカーシェアのほうが良い。
国内のカーシェア車両数は約8.4万台、ステーションも3万1235カ所に拡大した。全カーシェアサービスの会員数を合計すると560万人を超える(交通エコロジー・モビリティ財団の2025年3月調査)。市場が年々大きくなっているのは、このコスパの良さが大きな理由なのだろう。
ある試算によると、20歳から70歳まで50年間マイカー(1500~2000ccの小型車)を所有した場合の生涯総支出は、約4050万円に達するという。軽自動車なら約2000万円、高級車では5000万円~1億円程度になる。家を買うか、それ以上の金額をマイカーに使うことになる。
■日常使いするならどちらがおトク?
マイカーは購入費に加えて維持費もかかるが、カーシェアも長距離・長時間利用するほど料金が高くなる仕組みだ。日常的に車を運転する人にとっては、どちらがお得なのかカーシェアの専門家に聞いてみた。
「カーシェアマニア」こと朝倉明夫氏は、2008年に九州から首都圏に引っ越したのを機会にマイカーを手放しており、現在は主にタイムズとカレコ、たまにオリックスを使っているそうだ。
朝倉氏のカーシェア利用状況を見てみると、タイムズカーだけで月平均走行距離は約476km、平均利用金額は約8269円だった。
朝倉氏が実体験と各種調査から導き出した結論を先に書いておこう。
・損益分岐点は「月20時間/500km」
・6時間以内の短時間利用だけならばカーシェアがお得
■ポイントは「1km20円の距離料金」
まず、参考になるのは三菱UFJ銀行の試算だ。首都圏近郊でコンパクトカーを月に合計約22時間、260km程度利用する場合、2年間のトータルコストはマイカー購入・所有で約218万円、カーシェア利用で約63万円との結果が出ている。
マイカーは新車購入費(約150万円)と、駐車場(月2万円)やガソリン代・保険料等を含めた維持費(約70万円)の総額で218万円という計算だ。対するカーシェアは、15分220円・1km20円の料金設定で、月あたり2時間×平日8回+8時間×休日1回、毎月2万6320円、2年間で約63万円となる。
「カーシェアでは、6時間以内の利用であれば距離料金がかからないので、短時間だけで計算するとカーシェアが必ず有利になります。ただし、実際は利用時間が6時間以上になることもあるので、距離料金の影響を考慮して比較すべきでしょう。
距離料金がかかってもなおカーシェアがお得になる“上限ライン”を計算してみると、月20時間・500kmが目安になります。このラインを超えるようであればマイカーを検討する段階だと考えます」(朝倉氏)
タイムズの場合、距離料金は「1km20円」で算出される。たとえば、6時間以内の利用だけで500km走っても距離料金は無料だが、6時間以上の利用だけで500km走ると20円/km×500km=1万円もかかるのだ。これでは、マイカーのガソリン代よりも高くつく。
つまり、損益分岐点のポイントはカーシェアの距離料金であり、いかに6時間を超えないように利用するかが重要ということだ。
■駐車場が安い場所ならマイカーが割安
「タイムズでは利用ポイントに応じて30~60分の無料チケットが還元されます。
カーシェアなら必要な時だけ利用回数を調節できるので、コストを柔軟にコントロールできます。一方でマイカー側も、駐車場代を大幅に節約できる地方在住者などでは、走行距離や頻度によってマイカー所有のほうが割安になるケースもあるでしょう」(朝倉氏)
地域性といえば、ストレスなく使うためにはカーシェアステーションの数がポイントになる。都市部には数多く存在するが地方都市では少なく、「借りに行く」までの移動が困難な場合も多々ある。
近年は地方自治体やNPOが主導するコミュニティ・カーシェアリングの動きも出てきており、住民有志で車を共同所有・管理し、高齢者の送迎や買い物支援に役立てる仕組みも各地で試行されているが、日本列島を網羅できるまでには相当な時間がかかりそうだ。
■「スマホで完結」がハードルになる人も
マイカーを手放して17年の朝倉氏はこう話す。
「金銭的にはかなり負担が軽くなりました。また、車に関する手続き(車検や修理など)にストレスを感じることもなくなりました。以前所有していたのは古い車だったため故障やメンテナンスが多く、駐車場代も毎月振り込みが必要など、細々とした用事でそのたびに支払いが発生するのが負担でした。
カーシェアは『毎回の貸し出し手続きが面倒』という声もありますが、レンタカーのような書類対応はなくシステム化されており、慣れれば短時間で完了します。私にとっては所有していたころの月々の雑務よりも、慣れた今のカーシェアのほうがずっと負担が軽いです」
カーシェアは、予約・決済から無人ステーションでの車両受け渡し、ドア施錠・解錠までスマホアプリによる各種操作が必須となる。
■マイカーでしか味わえない楽しみもある
「カーシェア利用者の多くは若年層で、新サービスへの抵抗感が少ない層です。一方、従来からのマイカー文化に慣れ親しんだ人々、特に65歳以上の高齢世代はITリテラシー以前に所有意識が強く、見ず知らずの人と同じ車を共有することに心理的抵抗を感じることもあるでしょう。
車内に私物、例えばゴルフバッグやベビーカーなどを積みっぱなしにできない不便さも指摘されます。しかしこれらはシステムやサービスの工夫で徐々に解消されつつあります。予約状況の見える化や複数ステーションの相互利用提携により、予約の取りやすさも向上しています」(朝倉氏)
マイカーを手放して、カーシェア利用に振り切るべきかどうか――。正解は利用状況によって一人ひとり異なるだろう。ステーションがすぐ近くにあり、必要なときだけと割り切って運転するのならば、カーシェアはおおいにアリで、かなりのお金が浮くことだろう。
しかし、趣味性の高い「旧車」を息子と合わせて4台所有し、30年以上、いつでも使える車がある生活の便利さや、オーナー同士の趣味的な交流の楽しさなどにどっぷり浸っている筆者には、マイカーをやめるという選択肢は選べなさそうだ。
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加藤 久美子(かとう・くみこ)
自動車生活ジャーナリスト
山口県下関市生まれ。大学時代は神奈川トヨタのディーラーで納車引き取りのバイトに明け暮れ、卒業後は日刊自動車新聞社に入社。95年よりフリー。2000年に自らの妊娠をきっかけに「妊婦のシートベルト着用を推進する会」を立ち上げ、この活動がきっかけで2008年11月「交通の方法に関する教則」(国家公安委員会告示)においてシートベルト教則が改訂された。育児雑誌や自動車メディア、TVのニュース番組などでチャイルドシートに関わる正しい情報を発信し続けている。「クルマで悲しい目にあった人の声を伝えたい」という思いから、盗難・詐欺・横領・交通事故など物騒なテーマの執筆が近年は急増中。現在の愛車は27万km走行、1998年登録のアルファ・ロメオ916スパイダー。
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(自動車生活ジャーナリスト 加藤 久美子)