仕事の生産性を高める方法はあるのか。ビジネスコンサルタントのマーク・ザオ・サンダーズ氏は「緊急性・重要度によって順位づけしたリストを作成すれば、どのタスクから進めるか迷うことがない。
結果、ひとつの課題だけに集中することができる」という――。
※本稿は、マーク・ザオ・サンダーズ著、池村千秋訳『世界のエリートが実践している超生産的時間術 「タイムボクシング」で時間あたりの成果を倍増させる』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
■ありきたりな「ToDoリスト」を最適化せよ
これまで途方もない数の人たちが「やるべきことリスト」を活用してきたことを考えれば当然のことだが、「やるべきことリスト」に関する最大公約数的な考え方と定番の活用法は、取り立てて目新しいものではない。
私はそうした方法論を説いた数多くの文章を土台に、タイムボクシングのいくつかの要素を念頭に置いて、誰もが「やるべきことリスト」をもっと上手に作成できるように手助けをしたいと思っている。この種のリストは、見落とされがちだが、非常に重要なものだからだ。
■2、3時間で終わるものをリストアップする
課題をマネジメント可能な単位に分割する。どれくらいのサイズの課題がマネジメント可能かは人それぞれだろうが、大方の見方によれば、課題は最大でも半日以内で片がつくものにすべきだ。できれば、2、3時間以内で終わることが好ましい。
一方、なかにはごく短時間で終わる課題もある。たとえば、進捗確認の電子メールを送信したり、帰宅途中にミルクを買ったりといったものがそうだ。
いずれにせよ、「やるべきことリスト」を作成した次の段階、つまりタイムボックスを設定する段階で、課題をさらに細かく分割したり、逆に複数の課題をひとつにまとめたりすることもできる。いま、この段階で課題の細分化をすべて完了させる必要はない。

「やるべきことリスト」には、課題の内容をある程度詳しく記そう。あとで再びリストを検討する際に、それがどのような課題かを思い出せるくらいの詳しさが必要だ。
たとえば、「瞑想法についてリサーチする」であれば有効な記載と言えるが、単に「リサーチする」だけでは、数時間後や数日後にはあまり役に立たないかもしれない。もっと詳しい情報――推定の所要時間、課題の重要性、緊急性、依存関係、協力者、締め切り、究極の目的、カテゴリーなど――があれば役には立つが、不可欠とまでは言えない。
■「やること」はジャンルに分けず一本化する
自分の「やるべきことリスト」を構成する課題のカテゴリーを把握し、優先順位に沿って、体系化していく。
自分の記憶に頼ってはならない。記憶はときに当てにならない。自分が「やるべきこと」を忘れてしまったと気づいたときの落胆には耐え難いものがある。
複数の「やるべきことリスト」を併用している人もいる。「仕事」「社交」「お金」「自宅のメンテナンス」「家族」「個人」といったテーマごとに、リストをつくるのだ。しかし、ほとんどの人にとって、このようなやり方は生産的でない。複数の場所に保管している複数のリストを見比べて、重要性や緊急性の度合いを比較しなくてはならなくなるからだ。

■「名詞」でなく「動詞」を書き込んでいく
突き詰めて言えば、ひとりひとりの人間は、あくまでも単一の時間軸のなかで生きる単一の存在とみなせる。すべての課題を集約した単一の「やるべきことリスト」があれば十分なはずだ。リストに載せる課題を十分に選別していれば、とりわけそれだけで十分だろう。
まずは動詞から始めよう。動詞は「実行」の言葉だからだ。課題を仕分けして、異なるタイプの課題が混ざらないようにしよう。これは最も重要な作業だが、具体的にどのように実践すべきかについては意見がわかれている。
カル・ニューポートのような論者は、似たような課題をひとまとめにして処理し、休憩時間を取って頭を整理したあと、また別の課題群に取りかかることを勧めている。このアプローチには理にかなっている点もたくさんあるが、緊急性の高い課題への対処が手遅れになりかねないという欠点がある(ほかの多くの課題とひとまとめにする結果、埋もれてしまう)。
■緊急性の度合いによって点数をつける
別のアプローチとしては、緊急性や重要性の度合いによって課題を分類するというものもある(私はこちらの考え方を支持している)。大量の課題の候補から実行すべき課題を選ぶ際に、このアプローチを採用するのであれば、たとえば以下のようなきわめてシンプルな手順を実践すればいい。
・課題の候補をスプレッドシートに記入する。


・それぞれの課題の緊急性・重要性の度合いを数値評価して記す(たとえば1点~10点など)。

・その数値の大きい順に課題を並べ直す。

・リストの上位に位置しているいくつかの超重要課題に集中する(重要性の度合いが小さい課題は、リストの下のほうに並んでいる)。

・これにより安心感を味わえる。途方に暮れるくらい大量の課題、それも重要性の度合いがまちまちだったり、不明だったりする課題の山が、少数の「やるべきこと」に転換したからだ。

・重要性の乏しい無数の課題には、それなりの対応をする。消去してしまうなり、将来のいずれかの時点で再検討する予定を立てるなりするのだ(再検討すれば、そのときには重要だと判断される場合もあるかもしれない)。
どのアプローチが自分にとって理にかなっているかを考えよう。いずれにせよ、課題を分類して優先順位を判断することを忘れてはならない。確信をもって課題の順位づけができなければ、いつまでも「ああでもない、こうでもない」と考え続け、リストの全体を眺めては、もっとほかの課題を優先させるべきだったのではないかと考える羽目になる。
その点、順位づけしたリストを作成すれば、不安に苛まれながら課題を選択するという重荷から解放される。一度にひとつの課題だけに取り組むことの恩恵に浴せるのだ。

■いらないタスクは容赦なく捨てていく
課題をふるいにかける作業は、手加減せずにおこなうことが重要だ。しかも、そうした選別作業は定期的におこなう必要がある(課題を選別する作業そのものも、タイムボックスを設定する対象になりうる。定期的にその予定を入れるといい)。
「やるべきことリスト」から削除した項目(取り消し線を引いてもいいし、リストから消去してもいい)をゴミ箱に捨てるのは、プロセスの一環として健全なことだ。
ネット上では、出来合いの「やるべきことリスト」もたくさん公開されている。あなたにとって役に立つものもあるかもしれない。テーマは、旅行、キャンプ、興味深い会話、買い物、自宅の清掃、引っ越し、面接の準備、自宅の防犯、自宅のリフォーム、「死ぬまでにやっておきたいこと」……など、さまざまだ。
よいアイデアが見つかれば、そのリストを拝借しよう。それらのリストは、ほかの人に有効だったものだからだ。あるいは、生成AIに指示して、自分のためのリストを作成させてもいいかもしれない。
■「グーグル・ドキュメント」がおすすめ
デジタル形式で「やるべきことリスト」をつくり、クラウドに保存するのが最善の方法だと、私は考えている。リストへのリンクを張ったり、リストをほかの人と共有したり、コピー・アンド・ペーストしたり、バックアップを作成したりすることが格段に容易になる(こうした利点の多くは、デジタル・カレンダーの利点と共通する)。

あなたは、いつでもどこでもリストに素早くアクセスしたいはずだ。アイデアを思いついたのに、リストに記入するまでの間に忘れてしまうような事態は、避けなくてはならない。そこで、円滑な活用を妨げる要素は最小限に減らすべきなのだ。
私個人は、自分が作成するあらゆるメモの類いと「やるべきことリスト」に関して、「グーグル・ドキュメント」を利用している。休暇明けなど、大量の課題が山積みになっていて途方に暮れそうになったときは、先ほど説明したように、「やるべきことリスト」の内容をスプレッドシートに記し、ひとつひとつの課題の価値を判断し、課題を分類して、重要性の高い課題のタイムボックスを設定することにしている。
■人生を変える「やるべきことリスト」作成法
「やるべきことリスト」に記されている課題の多くは、ありきたりの内容だ。ここまで挙げてきた例の大半も、ごく平凡な課題と言っていいだろう。しかし、「やるべきことリスト」にそのような課題ばかりを載せていては、自分の人生の可能性を狭めてしまう。
人生の大きな夢は、現実感がなく、達成不可能に思える場合もあるだろうが、それを「やるべきことリスト」に記して、タイムボックスをいくつか注意深く設定すれば、もしかすると達成できるかもしれない。
新しい外国語を学びたい、キャリアを転換したい、社会運動をおこないたい、周囲の人たちにもっと親切に接したい……あなたの夢がなんであろうと、最初の一歩として実践できる小さな行動があるはずだ。そうした行動は、(差し当たりは)「やるべきことリスト」に書くのがいいかもしれない。
■過度に複雑なリストにするのはNG
「やるべきことリスト」は、あなたを助けるためのものであって、あなたを邪魔するためのものではない。
深く考えすぎたり、過度に複雑なものにしたりすることは、避けるべきだ。
ありとあらゆる細かい情報を記そうとしたり、一部の生産性のカリスマたちが提唱する手法に従い、人為的な枠をはめようとしたりすると(たとえば、大きな課題を1日に最低でもX件片づけるとか、リスト上の課題の数は最大でY件までにするとか)、挫折してしまう可能性が高い。
最も重要なのは、自分の「やるべきことリスト」に記される課題の源泉を把握し、なんらかの基準によりリストの内容を分類して優先順位を判断し、そして言うまでもなく、重要性の高い課題を実行するためのタイムボックスを設定することだ。

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マーク・ザオ・サンダーズ
ビジネスコンサルタント

ラーニング・テクノロジー企業filtered.comのCEO兼共同設立者。アルゴリズム、学習、生産性について定期的に執筆しており、その記事はScientific American、Harvard Business Review、MITのSloan Management ReviewやFilteredのブログで公開。これまでにタイムボックスを提唱するビジネス記事を複数執筆しており、2018年に執筆したハーバード・ビジネス・レビューの記事はTikTokで話題に。

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(ビジネスコンサルタント マーク・ザオ・サンダーズ)
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