■2億稼いだ投資家の賢者が暗黙の了解でやっていること
個人投資の世界で「ザ・平均」を具体的に数字で表しますと、年率5%の複利運用を目指すということになります。「たった5%?」と思う人もいるでしょう。でもガッカリするのは早計です。「5%」がどれだけの力を持つのかわかりやすく説明します。
毎月1日に(一定の間隔)、3万円を(一定の額)、30年間(長期間)、積立投資するとします。これを年率5%で複利運用した場合、いくらになるか。
投資額(元本)は、月3万円×12カ月×30年=1080万円です。
年率5%で30年間にわたって複利運用した場合、評価額は2496万円となります。投資額の約2.3倍になりました。これが、投資が持つ力です。
これを、毎月6万円の積立投資とすれば、投資額は2160万円、評価額は4993万円(2.3倍)になります。毎月9万円の積立投資とすれば、投資額は3240万円、評価額は7490万円(2.3倍)になります。
毎月9万円は大変に感じるかもしれませんが、もし賞与で25万円×年2回=50万円分を投資に回せるなら、月々の負担は4万8333円ですみます。分解して考えるとハードルが下がるのではないでしょうか。
■世界経済は大きくなっていく
しかし、年率5%での複利運用が本当に可能なのか。そんな都合良く成長するものか。そう思われる方もおられると思います。もちろん、長期で投資しているとマイナスになる年もあります。投資で絶対に毎年儲かるということはありません。ですが、長期的にはお金が増える可能性が高いです。
ここで、安心材料として、金融庁発のエビデンスを2つご紹介しましょう。
金融庁がNISAの解説資料で、「国内外の株式・債券に長期・積立・分散投資をした場合、20年継続(1989年以降のデータ)すると勝率がほぼ100%になる」というデータを掲載しています。
また、つみたてNISAの解説資料で、「国内外の株式に長期・積立・分散投資した場合、20年継続(2001年1月~2020年12月)すると勝率がほぼ100%になる」というデータを掲載しています。
これらから分かるように、長期投資、世界分散投資、積立投資の組み合わせによって負けない投資になるということです。
さらに、株価が上がるメカニズムも紹介します。
世界の人口が増加しています→人口が増えた分だけ、必要とするモノやサービスの量が増えます(需要増加)→供給を増やせる企業は売上高が上がります→企業の利益が増えます→株価は上がります。
または……。
人間は便利なモノや新しいモノを追求し続けます→イノベーションが起きます→新しい需要が生まれます(需要創造)→そこに供給できる企業は売上高が上がります→企業の利益が増えます→株価は上がります。
株価は原則として、長期では企業価値(どれだけ稼ぐ力があるか、稼ぎが伸びるか)にリンクしていきます。理由もなく上下するわけではありません。つまり、売上高を伸ばして、利益も伸ばせる企業に投資すれば、私たち投資家は儲けることができるということになります。
■「正しい投資信託」を選ぶ
ところが、問題がないわけではありません。
上記のような会社を見つけることは簡単ではないのです。そこで、投資信託の登場となります。成長する可能性が高い企業を集めた投資信託がありますので、その「正しい投資信託」さえ見つけることができれば、「ザ・平均」は誰でも取れるに違いありません。投資歴26年の私でも、今日明日から投資を始める入門者の方でも、ほぼ等しく平均点が取れるのです。
年率5%で複利運用のポテンシャルの高い「正しい投資信託」について解説します。投資信託は約6000銘柄ありますが、どれでも年率5%の複利運用が狙えるわけではありません。成績が悪い投資信託、手数料が高い投資信託、人気のない投資信託などがあります。
本稿では、約6000銘柄から、「正しい投資信託」として、3つの投資信託を挙げます。逆にいえば、その「3つの投資信託」さえ把握していれば、投資で失敗する可能性を極力排除できます。「3つの投資信託」とはどの銘柄なのか、1つずつご紹介しましょう。
(1)S&P500インデックス……米国企業にフォーカスし、そのうちエース級の500社のみを投資対象とします。これまで、米国企業が世界を牽引してきましたが、これからも変わらず続くと考える人向けとなります。
(2)MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(オルカン)……(1)S&P500と人気を2分しています。先進国23カ国、新興国24カ国の企業2600社ほどを投資対象とします。世界に分散投資したい、米国以外の先進国の企業にも可能性を感じる、新興国の企業の台頭があると考える人向けとなります。
(3)MSCIコクサイ・インデックス……先進国(日本を除く)の企業1200社ほどを投資対象とします。
以上、(1)S&P500インデックス、(2)MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス、(3)MSCIコクサイ・インデックスに連動して運用を目指す投資信託商品であれば、過去の成績から年率5%の複利運用のポテンシャルが高いです。
ここまで読まれたら、投資で「ザ・平均」を取る知識を得たも同然です。あとは、証券口座を開設して(NISA口座も同時開設)、「3つの投資信託」のいずれかを選択して、積立投資を継続する設定さえすれば、もう何もすることがありません。自動化、仕組み化の完成です。年月とともに資産は増えていくことでしょう。
整理するとこうなります。
(1)「3つの投資信託」を学ぶ→投資本を1冊読むだけでOK(拙著なら簡単に理解できます)
(2)証券口座(NISA口座も同時に)を開設する→ネットでOK
(3)「3つの投資信託」のいずれかに積立投資する設定をする→ネットでポチるだけ
■本当にそれだけでいい?
以上のことをすれば、負けにくいラクな投資ができます。とはいえ、S&P500、オルカン、MSCIコクサイ一辺倒、本当にそれでいいのでしょうか?
実は気を付けなければいけない落とし穴もあります。
・お金が増えるスピードが速くありません。
・お金を積み立ててあとの運用はお任せする方式なので、長期間にわたって積立投資を続けたとしても投資家としての力量(腕)は基本的には上がりません。
・日本企業の比率が低いです(S&P500とMSCIコクサイだとゼロ)。
・「オール・カントリー」、「コクサイ」というネーミングから世界分散した構成を想像しますが、実際は、米国比率が非常に高いです(善し悪しを言っているのではなく、その理解が必要です)
こういった落とし穴(注意点)があります。
もっとも、自分は若くて十分年月があるし、ゆっくりお金が増えれば良いし、投資の力(腕)をまったく上げなくてもいいという方は「3つの投資信託」だけで問題ありません。
■コア・サテライト戦略
それら落とし穴を埋める方法として、投資の世界で「コア・サテライト戦略」と呼ばれる定番の手法を紹介しましょう。
コア・サテライト戦略とは、投資先をコア(中核)とサテライト(衛星)に分けた投資戦略です。
コア投資は「守りの投資」で、長期では安定的に運用が期待できる投資先を選びます。つまり、上述の「3つの投資信託」はこれに含まれます。
対して、サテライト投資は「攻めの投資」で、コアよりリスクを取ることで、コアより高いリターンを求める投資先を選びます。
コア投資で「ザ・平均」をとって、サテライト投資で「+α」を狙い、全体では平均の上を狙うということになります。コアとサテライトのバランスは、一般的にはコアが全体の70%以上、サテライトを30%以下にするのが良いとされています。初心者ほどコアの比率を高くして、徐々にサテライトに挑戦するのが理想だと思います。
サテライト投資としては、個別株、なかでも日本株が有力な選択肢となります。
米国株も選択肢となります。米国企業は株主還元の意識が高いことが評価できます。大手テック企業は、株価の上昇力が高く魅力的です。
または、サテライト投資でも、投資信託を使うこともできます。よりリスクを取った分だけ年率5%を超える運用を目指せる銘柄を選びます。
■おすすめできない商品
おすすめできない商品にも触れておきます。コア投資として「3つの投資信託」をおすすめしましたが、投資信託なら何でもいいわけではありません。次のような投資信託には近寄らないことが失敗を遠ざけるコツだと思います。
・手数料が高い投資信託……0コンマ以下の手数料でも、パフォーマンスに影響します。例えばS&P500に連動する投資信託は多くありますが、手数料が安い投資信託を選びましょう。
・純資産総額が小さい投資信託……繰り上げ償還になるリスクがあります。純資産総額は50億円以上あったほうがいいでしょう。かつ、増加傾向であることが必要です。
・レバレッジ型投資信託……相場が好調の時はお金が増える速度が速いですが、不調の時は減る速度も速いです。長期投資には向いていないとされています。
・毎月分配型投資信託……複利効果が落ちるため、お金が増える速度が下がります。
まとめ
まずは、証券口座(同時にNISA口座)を開設して、「3つの投資信託」から1つを選択し、積立投資の設定をします。これで、コア投資が、自動化・仕組み化で完成となり、何もすることがなくなります。
コア投資で成功経験を積んでいきながら、サテライト投資の準備をしましょう。投資信託にするのか、日本株にするのか、米国株にするのか……ひと通り経験して、自分にあったものを選ぶのもいいでしょう。いきなり大きなお金を動かさずに、少額から始めてください。
コア・サテライト戦略で70:30の資産配分を目指しましょう。もしくは、自分に適性を感じたら、個別株メインでリスクを取った投資をするのも選択肢になります。
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桶井 道(おけい・どん)
投資家(投資歴20数年)・物書き(著書6冊)
2020年に47歳で資産1億円+年間配当(手取り・以下同)120万円とともに25年間勤務した会社を退職して自由になる。それから4年で資産1.8億円+年間配当250万円まで成長させる。投資先は世界各国の高配当株、増配株、ETF、リート、投資信託など幅広く100銘柄以上持つ。現在は、両親の介護・見守りをしつつ、単行本や連載などを通じて投資に関する情報を発信している。著書に、『月20万円の不労所得を手に入れる! おけいどん式ほったらかし米国ETF入門』(宝島社)、『お得な使い方を全然わかっていない投資初心者ですが、NISAって結局どうすればいいのか教えてください!』(すばる舎)、『資産1.8億円+年間配当金(手取り)240万円を実現! おけいどん式「高配当株・増配株」ぐうたら投資大全』(PHP研究所)、『普通の人のための投資 いちばん手軽で怖くない「ゆとり投資」入門』(東洋経済新報社)、『時をかける貯金ゼロおじさん 35年前に戻った僕が投資でゆっくり「億り人」になる話』(KADOKAWA)などがある。(プロフィールイラスト=西田ヒロコ)
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(投資家(投資歴20数年)・物書き(著書6冊) 桶井 道)