Z世代の親子はどのような関係を築いているか。博報堂生活総合研究所の調査によると、就職活動の現場にも、Z世代親子の「近い心理的距離」の影響が表れている。
『』(光文社新書)から、その実態を紹介する――。
■父親と母親のどちらを尊敬しているか
本稿では父親と母親について見ていきます。本書『』では、ここまで母親の存在感の大きさに触れ、「それで、父親の存在感はいったいどうしたんだ?」と思われている方も少なくないでしょう。「本気でけんかをする相手」の値が10.4%→15.9%に上がっている結果を救いに感じるほど、データ上の存在感がないので仕方がありません。
たとえば1994年には「父親」が46.4%でトップ回答だった「尊敬する点が一番多い相手」は誰かという設問も、悲しいかな、2024年には33.8%に減少。母親は43.0%まで上昇し、順位が逆転しています。特に娘からは母親が過半数の支持を集めており、父親は大きく引き離されている状況です。
唯一、父親がトップの座を保っている設問をピックアップすると、息子からの「尊敬する点が一番多い相手」。父親が42.1%、母親が33.3%と、父親がはっきりと引き離し、威厳を保っているかのように見えます。
ただ、残念ながら「父親と母親のどちらを尊敬しているか」という1対1で父と母が対決する質問になると、結果は逆転。息子からの支持でさえも、同性である父親が46.2%、母親が52.1%と、母親が上回っています(「尊敬する点が一番多い相手」では父母以外の回答をした人が、父と母どちらかを選ぶこの質問では父親よりも母親に多く票を入れたというわけです)。
■イクメンに育てられたコアZ世代
なんとも哀愁のただようデータばかりになってしまいましたが、これらの結果は決して「今の父親が以前よりダメになった」と示しているわけではありません。
実際、30年前と比べて大きな変化が見られない項目も多く、むしろ一定の存在感を保っているとも評価できます。
「父親の存在感が低下した」のではなく、もともと控えめで、その傾向が現在も続いている。かつ、母親の存在感が著しく高まっている。これが、より正確な見方でしょう。
社会的な背景を見てみると、「イクメン」という言葉が登場したのは2010年頃。このころから、育児に積極的に関わる父親の存在が注目され始めました。2010年に6歳だった子どもは現在20歳前後ですから、今のコアZ世代たちは「イクメンに育てられた第一世代」ともいえるでしょう。
とはいえ、2010年は「イクメン」という言葉が広まり始めたばかりであり、実際に父親の育児関与が社会全体に定着していたわけではありません。母親と比べると、まだまだ父親の関与は相対的にかなり少なかったはずです。幼少期からの子どもへのコミットメントの弱さが、あらゆる調査で母親に水をあけられていることの要因になっていると考えられます。
しかし、現在の子育て世代を見ると、父親の育児への関わり方は確実に濃くなってきています。今後は、子どもとの関係性がより深く築かれる父親が増える可能性も高いでしょう。
そうした変化が、次世代の若者たちにどのような影響を与えていくのか。これから注視していきたいポイントです。
■「どうしよう?」から始まる父親とのチャット
現状ではまだまだ母親に比べ影の薄い父親ではありますが、子どもと疎遠だったり仲が悪かったりするわけではありません。むしろ、友好的で近しい関係を築いている様子が見られます。
チャットアプリのやりとりを分析してみると、父親と母親ではコミュニケーションのスタイルが違うようです。母親が「共感」のコミュニケーションだとしたら、父親のコミュニケーションは「課題解決型」。就職活動のための塾に通いたいという大学生の子どもの相談に対して、父親がネット上の口コミを淡々といくつか貼り付け、「こういう意見もあるから、冷静に考えた方がいい」とアドバイスしたり、子どもからの「スマホの新しいケースがほしい」という相談に対して、「ネットで数千円のブランド品は偽物の可能性もあるから、確認した方がいい」と具体的な注意を促す父親もいました。
そのほかにも、「どうしよう?」と子どもが相談するところから始まる課題解決型のやりとりは、父親とのチャットで頻出していました。雑談や恋愛相談などのライトな相談、逆に心身に関する深い悩みについては積極的には父親を巻き込まない傾向がある一方で、「すぐに具体的な答えがほしいときには父親に聞く」という距離感で接しているようです。
■「メンター・パパ」であるZ世代の父親
世間には「共感せずに解決法ばかり提示する男性は女性からけむたがられる」といった言説もありますが、子どもたちにとって父親は、今すぐ信頼できる答えがほしいときに頼れる存在のようです。一方で、子どもが自分でも悩みの輪郭がつかめていないような課題の相談相手としては母親の方が求められる機会が多いのかもしれません。
もちろん、すべての父子がこうした関係にとどまるわけではありません。
実家を離れて京都に住むMさん(20歳・女性)は、高校の卒業祝いで父親にあるロックバンドのライブに連れていってもらい、そこから一緒にライブに通うようになったといいます。バンドTシャツをお揃いで買うなど、「お父さんと一緒」を楽しんでいます。
また、チャットアプリ上のやりとりを分析すると、ギャンブルやタバコなど、母親にはやや話しにくいような話題についても、父親とはやりとりする姿が見られました。決して父親と子どもに距離があったり不仲だったりするわけではなく、共通の話題さえあれば父親とも変わらず心を開いてコミュニケーションできるということです。
生じた課題に答えを授けて解決するという点ではチューターのようでもある父親も、子どもが頼りにしている存在であることは間違いありません。母親とは役割が違うだけで子どもは父親を慕(した)っており、十分に「メンター・パパ」である――Z世代の幸せ度に貢献しているといっていいでしょう。
■「オヤカク」が増加する就職活動の現場業
このように、Z世代が父親とも母親とも心理的距離が近いことの影響は、就職活動の現場にも表れています。
その一つが、ここ数年話題になっている「オヤカク(親確)」の増加です。これは、企業が内定を出す前後に保護者に対して「お子様に就職して頂きたいのですが……」と内定の了承を取るというもの。内定辞退や入社後のトラブルを防ぐための打ち手として取り入れる企業が増えており、マイナビの「2023年度 就職活動に対する保護者の意識調査」によれば「オヤカクを受けた」と答えた保護者は、2018年から2024年の間に17.7%→52.4%にまで増加しています。わずか数年で、過半数が経験する行為となっているのです。
オヤカクの方法は、面談時に確認されたケース、電話連絡、署名・捺印を求める書類の提出など多様です。
実はこうした親へのアプローチは1980年代末のバブル期にも見られ、売り手市場のなかで企業が人材の囲い込みに苦心していた様子が記録にも残っています。近年再びこの動きが強まっている背景には、若者の人口減による売り手市場があることは間違いありません。
■入社式へ招待されるZ世代の親たち
また、実施している企業はまだそこまで多くないとはいえ、就活時に企業が保護者に対して開く説明会(オリエンテーション)、「オヤオリ」も増えているといわれています。前述のマイナビの調査によれば、内定式や入社式への招待の連絡が来た親も、2割近くいるようです。入社式に新入社員の保護者を招待している食品会社では、入社式で新入社員が大切な誰かへ今の思いや気持ちを伝える時間も設けられています。
その様子を取材したテレビ報道では、「お父さん、お母さんへ。今まで育ててくれてありがとう」「お母さんの夢の二世帯住宅を建てることを忘れません。絶対叶(かな)えます」といった結婚式さながらのスピーチを新入社員の皆さんがしている様子が放送されました。ちなみにこの企業では入社式後に親を対象とした工場見学も行い、会社を知ってもらう工夫を重ねているそうです。
マイナビの「2024年卒内定者意識調査」では、学生の61.9%が内定の意志決定の際、「父親・母親」に助言や意見を聞いたというデータがあります。これは「学校内の友人(2位で23.9%)」「就職関連の学校職員」「教授」などほかの相談相手を大きく引き離しており、親の影響力が際立つ数字です。

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博報堂生活総合研究所(はくほうどうせいかつそうごうけんきゅうじょ)

広告会社博報堂の企業哲学「生活者発想」を具現化するために、1981 年に設立されたシンクタンク。
人間を単なる消費者ではなく「生活する主体」として捉え、その意識と行動を継続的に研究している。1992 年からの長期時系列調査「生活定点」のほか、さまざまなテーマで独自の調査を行い、生活者視点に立った提言活動を展開。本書は、若者研究チーム(酒井崇匡、髙橋真、伊藤耕太、佐藤るみこ、加藤あおい)による調査・分析をもとに構成されている。

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(博報堂生活総合研究所)
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