■なぜイトーヨーカ堂を売却したのか
日本の小売業界はいま、かつてないほどの地殻変動に直面している。
セブン&アイ・ホールディングスは、祖業であるイトーヨーカ堂を手放した。ロフトや赤ちゃん本舗などを含む中間持株会社ヨークHDをベインキャピタルに約8100億円で売却し、自らは35%を再出資する形で、百貨店・GMS(総合スーパー)から撤退したのである。半世紀以上にわたり総合小売の看板を背負ってきたセブン&アイが、その看板を自ら降ろした瞬間だった。グループ再編はこれで完了し、セブン&アイは事業の軸足をコンビニ事業に全面的に集中させる。
ベイン傘下に移ったイトーヨーカ堂は今後、従来のGMS業態から食品スーパー・ドラッグストア事業に経営資源を集中させる方針を打ち出しており、衣料品や住関連商品の部門は別会社に移管して「食」に特化する。総合スーパーから業態転換し、収益性向上を図るこの戦略は、「何でも屋」から「専門特化型」への象徴的な舵切りと言える。
同じ時期、株式市場では異変が起きていた。長年セブン&アイを下回っていたイオンの時価総額が逆転し、流通業の「王者交代」が現実となったのだ。セブン&アイは「高利益×低回転」のモデルで高収益を維持してきたが、重い資産構造と国内成長余地の限界が市場に見透かされた形でもある。
■小売業界は「戦国時代」に突入
トップ交代を許したセブン&アイに対し、イオンは総合スーパーから食品スーパー・金融・ヘルス&ウェルネスまで幅広い事業を持ち、潜在成長性への期待感が高まったことも要因だろう。
さらに、ディスカウントの雄パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH、旧ドン・キホーテHD)が、国内事業規模でイオンリテールを抜き去ったことも話題となった。ドンキを中心としたディスカウントストア事業と、アピタなど総合スーパー事業を合わせた売上高は、2025年6月期で1兆9000億円台となり、イオン主要子会社のイオンリテール(2025年2月期1兆8777億円)を逆転したのだ。かつては「安売りの異端児」と見られていた存在が、ついに総合小売の牙城を崩しつつある。
いま日本の小売で起きているのは単なる「順位の入れ替え」ではない。総合業態から専門特化型へ、規模の覇者から構造の勝者へと主役が移る大転換期である。表面的な売り上げや店舗数ではなく、ROA(総資産利益率)という「利益の厚み×資産の軽さ」を映す指標が、各社の真の実力を映し出し、勝敗を決しつつあるのだ。
セブン&アイは「祖業切り捨て」という決断で高収益モデルを徹底し、イオンは重い資産の軽量化と事業ポートフォリオ再編に活路を探る。ドン・キホーテのPPIHは中利益×中回転のバランスで拡張を続けている。小売業界は今まさに「戦国時代」に突入しており、ROAを制した者こそが次の覇者となるだろう。
■企業の「真の実力」を測る指標
筆者が考える小売業界の真の実力を測る指標、それがROA(Return on Assets=総資産利益率)である。ROAは「営業利益÷総資産」で計算され、企業が保有する資産をどれだけ効率的に使って利益を生み出しているかを示す(※ROAは通常、純利益を用いることが多いが、本稿では各社の実力を示す観点から営業利益を用いている)。
小売業は資産集約的な産業である。店舗、在庫、物流センター、そして場合によっては金融・不動産まで抱える。だからこそ、資産の持ち方がそのまま効率性を左右し、利益率の厚みと組み合わせてROAが決まる。言い換えれば、ROAとは「利益の厚み」と「資産の軽さ」を同時に映す鏡なのである。
ROAは数式で表すと、ROA=営業利益率×総資産回転率となる。ここで営業利益率は「売上高に対してどれだけ利益を残せるか」、総資産回転率は「資産をどれだけ効率的に売り上げに変えているか」を示す指標だ。
例えばセブン‐イレブンは高付加価値惣菜やPB(プライベートブランド)、ATM・決済など非物販収益で営業利益率は極めて高いが、会計上の資産が膨らみ回転率は低い。イオンは食品スーパー事業で在庫回転が速く回転率は高いが、値引きや廃棄で利益率は薄い。ユニクロやワークマンはSPAやPBモデルで厚利を確保する一方、大量在庫や固定資産投下で回転率が重くなる。つまり各社のROAは、「利益率」と「回転率」のかけ算のバランスで決まるのだ。
■売り上げ1円あたりの利益を厚くする仕組み
では、営業利益率と総資産回転率を具体的にどう高めればよいのか。
【営業利益率を高める12項目】
1.高付加価値商品の拡充(惣菜、健康志向食品など粗利の厚い商品)
2.プライベートブランドの強化(中間マージン排除、自社価格決定権)
3.非物販収益の拡大(リテールメディア、決済・金融、会員収入)
4.フランチャイズモデル活用(本部は低コストでロイヤルティ収入)
5.規模の経済による原価低減(一括調達、共同仕入れ)
6.サプライチェーン高度化(需要予測、自動補充で廃棄・値引きを削減)
7.販管費の最適化(セルフレジ、省エネ、省人化で経費率を改善)
8.差別化とブランド力向上(値引きに頼らず売れる仕組みづくり)
9.在庫ロス・廃棄の削減(需要予測精度向上でムダをなくす)
10.SPAモデル=製造小売の推進(ユニクロやワークマン型の中間マージン内製化)
11.会員化とLTV最大化(顧客IDによるCRM、リピート率・単価の引き上げ)
12.労働効率・人件費構造の改善(人時売上高最大化、作業標準化、省人化投資)
これらはすべて「売り上げ1円あたりの利益を厚くする仕組み」である。セブン‐イレブンが非物販収益で厚利を実現し、ワークマンがPB×FCで高利益率を叩き出しているのは、このフレームの応用例だ。
■資産を小さくし、同じ資産で売り上げを大きくする
【総資産回転率を高める12項目】
1.在庫回転の加速(需要予測精度向上で在庫日数を短縮)
2.商品ミックスの最適化(高回転カテゴリの比重増)
3.小型フォーマット展開(投下資本が小さく回転率が高い)
4.坪効率の最大化(売場面積あたり売上高を引き上げる)
5.不動産のオフバランス化(REIT・リースバックで固定資産を圧縮)
6.金融資産の効率化(債権の証券化・売却で資産を軽くする)
7.事業ポートフォリオの軽量化(低効率事業の縮小・撤退)
8.フランチャイズ展開(店舗資産・在庫を加盟店に持たせる)
9.マーケットプレイス・EC活用(在庫を持たず手数料収益を得る)
10.不採算店舗の整理・転換(遊休資産を減らし効率を改善)
11.店舗資産構造の見直し(自社保有からテナント化・賃借活用へ)
12.サプライチェーン効率改善(共同配送・クロスドッキングで物流資産を圧縮)
これらは「分母=資産を小さくし、また同じ資産で売り上げを大きくする」取り組みである。イオンがREITでモール資産をオフバランス化し、ドン・キホーテが圧縮陳列と24時間営業で坪効率を高め、ウォルマートが自動補充で在庫日数を極小化するのは典型例だ。
ROAという指標は、企業の真の実力を浮き彫りにする。売上規模や時価総額だけでは見えない「強さ」と「弱さ」を、営業利益率の12項目と総資産回転率の12項目に分解することで可視化できる。そして小売戦国時代において、どの企業が次の覇者となるかを見抜く鍵は、この24の要因をどれだけ磨き上げられるかにかかっているのである。
■セブン&アイ:「高利益×低回転」モデルの強さと限界
さて、ここからは小売戦国時代の主要プレーヤーであるセブン&アイ、イオン、そしてPPIH(ドン・キホーテ)について、それぞれ分析していきたい。
まず最有力プレーヤーのひとつが、セブン&アイ・ホールディングスである。その中核であるセブン‐イレブン・ジャパンは、世界でも稀に見る超高収益のコンビニモデルを築き上げてきた。営業利益率は26%を超え、一般的な小売業の常識からすれば桁違いの水準にある。
なぜセブン‐イレブンはここまで高い利益率を誇れるのか。その背景には、「営業利益率」を押し上げる要因が揃っている。
まず、①惣菜やスイーツを中心とした高付加価値商品と、②プライベートブランド「セブンプレミアム」が厚い粗利を稼ぎ出す。さらに、③ATM手数料や電子マネー「nanaco」に代表される非物販収益が、追加コストを伴わずに利益を積み上げている。そして何より大きいのが④フランチャイズモデルだ。本部はロイヤルティ収入を中心に得るため、低リスクで安定的に高収益を確保できる。また、⑧長年培ったブランド力も値下げ競争を避け、価格優位を維持する力となっている。これらによりセブン‐イレブンの営業利益率は群を抜いて高い。
■「コンビニ集中型企業」として第二の成長局面へ
しかし、「資産効率」の面では課題がある。フランチャイズモデルでは、本部は全売り上げを計上しない一方、IFRS16会計基準により店舗賃貸契約が「使用権資産」として計上されるため、資産が膨らんで見える。
この「高利益×低回転」構造をどう乗り越えるか。打ち手は大きく三つある。
第一に、会員化とリテールメディアの連動である。個客IDと購買データを活用し、パーソナライズされた販促や会員限定サービスでLTV(顧客生涯価値)を引き上げる。第二に、省人化投資による労働効率の改善。セルフレジやAI発注システムの導入で人時生産性を最大化し、利益をさらに厚くできる。第三に、店舗契約や資産構造の最適化。自社保有から賃借への転換や、契約期間の見直しを進めることで「分母」を軽くし、見かけ上の回転率を改善できる。
祖業のイトーヨーカ堂を売却し、グループ再編を完了させたセブン&アイはいま、まさに「コンビニ集中型企業」として第二の成長局面に入った。圧倒的な利益率を維持しつつ、資産の軽量化と会員基盤の深化を進められるか。
■イオン:「低利益×低回転」の苦悩と挑戦
日本最大の流通グループであるイオン。その規模は国内トップであり、ショッピングモールやGMS(総合スーパー)、SM(食品スーパー)、ドラッグストア、金融事業などあらゆる業態を傘下に抱えている。しかし、規模の大きさにもかかわらず同社のROAはわずか1.7%と低水準にとどまる。営業利益率は2.3%と極めて薄く、総資産回転率も0.73にとどまり、利益の薄さが全体の収益性を大きく押し下げている。
特にGMS事業は「超低利益×高回転」の象徴である。営業利益率0.46%という数字は、頻繁な値引きや大量廃棄によって粗利が削られている現実を如実に表している。一方で総資産回転率は2.38と高く、食品・日用品を中心に在庫が速く動く「回転の速さ」自体は持っている。しかし、この高回転がそのままROAに結びついていないのは、薄利構造と重い資産に起因する。
「営業利益率」を高める12項目の観点でみると、イオンの弱点は明らかだ。①高付加価値商品や②PB(プライベートブランド)の厚みが不足し、値引き依存の粗利構造から脱せていない。⑨在庫ロス削減も進んでおらず、賞味期限切れや売れ残りによる廃棄ロスが収益を圧迫する。③非物販収益もグループ内の銀行・保険など金融事業に頼る構造で、逆に連結ROAを希釈してしまっている。
強みとしては⑤規模の経済や⑥サプライチェーン効率化が挙げられ、共同配送やクロスドック物流など効率化策は導入済みだ。しかし、肝心の粗利改善がなければ営業利益率は上がらない。
■ウォルマートが示した「新たな勝ち筋」
「総資産回転率」の12項目では、①在庫回転の速さと②高回転カテゴリの大きさで強みを持つが、⑤不動産(巨大モール)、⑥金融子会社、⑦重厚なポートフォリオが分母を膨らませている。イオンはすでに⑤モール資産をREITに売却してリースバックする施策や、⑥金融債権の証券化も始めているが、それでも資産の重さは依然としてROAを押し下げ続けている。
とはいえ、GMSモデル自体が必ずしも時代遅れというわけではない。アメリカのウォルマートは一見イオンと同様に巨大なGMS業態を展開しているが、徹底した戦略で高い収益性と効率性を両立している。
その象徴が、リテールメディア(広告)収入だ。ウォルマートは膨大な購買データと店舗網を活用して広告ビジネスを急成長させ、2024年のグローバル広告収益は約6000億円に達している。この金額は日本の広告企業である電通や博報堂に匹敵する規模であり、GMSでもデータ活用次第でここまで稼げることを示した(詳しくは〈電通・博報堂が牛耳る今の状況はおかしい…広告で5000億円以上を稼ぐ「世界最強スーパー」が日本に突きつける現実 小売発のメディアは世界の常識になっている〉参照)。またウォルマートは、広大なスーパーセンター内の各売場を小型店さながらに管理・最適化し、在庫や人員配置の無駄を徹底的に排除している。
一方、日本のGMSはこうした取り組みを十分に行ってこなかった。デフレ下の長い停滞期に人件費削減で正社員を現場から減らし、きめ細かな売場管理や商品力強化が疎かになった歴史がある。その結果、「何でも揃うが買いたいものがない」店になりがちで、衣料・住居など各分野で専門特化したカテゴリーキラーの台頭を許し、GMSの魅力そのものが薄れてしまったのだ。
■「まいばすけっと」急成長のワケ
では、イオンが次のステージへ進むには何が必要か。
第一に、食品特化と高付加価値化である。惣菜や即食、健康志向のPB商品を強化し、単価と粗利率を押し上げること。第二に、GMSの専門店化と店舗構造改革。衣料・住居関連の不採算売場を大胆に縮小し、食品・ドラッグ・専門店テナントを導入することで収益性を底上げする。第三に、資産の軽量化。モールをテナント化し、REIT活用で固定資産を圧縮することで、分母を軽くしなければならない。第四に、労働効率の改善。巨大店舗ゆえに人件費と光熱費が重い構造を、セルフレジや省エネ投資で吸収する必要がある。
加えて、イオンが加速させている小型店舗フォーマットの展開にも注目する必要がある。首都圏で急増中の小型食品スーパー「まいばすけっと」だ。24時間営業をやめ、品揃えを徹底標準化し、低価格の日用品に特化した。この業態は、一見地味でワクワク感に欠ける店である。しかし、この「究極の引き算」戦略によって「まいばすけっと」は都心に1200店超という日本最大級のチェーンに成長しており、都市生活者の日常需要を囲い込むとともに、資産効率の向上にも大きく寄与している。
イオンは「低利益×低回転」のモデルから抜け出せるのか。スケールの大きさだけでは勝ち残れない時代において、利益率の厚みと資産の軽さを同時に追求できるかどうかが、次世代の覇者となれるかを決するだろう。
■ドン・キホーテ(PPIH):「中利益×中回転」の拡張力
日本の小売業界で近年最も存在感を増しているのが、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH、旧ドン・キホーテHD)である。最新の「ROAマップ」によれば、PPIHの数値は営業利益率7.22%、総資産回転率1.49、ROA10.74%という構造を示している。これは小売業の中でも「中利益×中回転」の典型であり、収益性と効率性をバランスよく確保するモデルだといえる。
この数値を支えるのは、ディスカウント業態ならではの卓越したオペレーションである。圧縮陳列と長時間営業による④坪効率の高さ、そして大量仕入れ商品を徹底的に売り切る①在庫回転の速さが総資産回転率を押し上げる。来店頻度の高さも相まって、効率よく売り上げを稼ぐ仕組みが根付いている。また、近年では自社PB「情熱価格」を軸に②プライベートブランド強化を進め、粗利率を押し上げている点も見逃せない。これらの積み重ねが「中利益」を安定的に確保する基盤となっている。
「営業利益率」の12要因で見れば、PPIHは②PB強化、⑤調達力(規模の経済)、⑧差別化とブランド力に強みを持つ。独特の“アミューズメント型”店舗体験が来店動機となり、単なる安売りだけに頼らず収益を確保できる。また、観光需要の回復やインバウンド(訪日外国人)客層の取り込みも追い風となり、客単価の上昇と売上拡大が利益を後押ししている。
■セブン&アイ、イオンとは違う「第三のモデル」
「総資産回転率」の12要因に目を向けると、PPIHは①在庫回転、④坪効率、⑪店舗資産構造の軽さが特徴的だ。自社保有ではなくテナント出店を積極活用し、資産の分母を抑制しながら全国に出店を拡大してきた。また、⑫サプライチェーン効率の面では、グループ内での在庫共有や物流合理化を徹底し、回転率をさらに高めている。
もっとも、今後の課題は海外展開にある。アジアや北米へ積極的に進出しているが、現地では日本型の圧縮陳列や深夜営業がそのまま通用するとは限らない。資産投下が増える中で、⑫サプライチェーン効率を維持しつつ、現地ニーズに合わせた商品ミックス(②PB戦略含む)と業態適応力を高められるかが鍵を握る。
総じてPPIHは、「中利益×中回転」という安定したバランスをベースにしながら、PB強化やインバウンド需要、海外展開を通じて成長を続けている。ROA10%超という水準は小売業として十分に高く、セブン&アイやイオンとは異なる第三のモデルとして存在感を放っている。まさに「稼ぐ力と回す力の両立」で、業界の新たな勢力地図を書き換えつつあるのがPPIHなのである。
■売上規模や店舗数では見えない「差」
ここまで見てきたように、日本の小売業界はまさに戦国時代の様相を呈している。セブン&アイは祖業のイトーヨーカ堂を切り離し、コンビニ事業に集中。イオンは巨大なモールとGMSという重荷を背負いながらも、食品スーパーや金融事業で新たな突破口を模索している。ドン・キホーテを擁するPPIHは「中利益×中回転」というバランスの良いモデルで拡張を続け、海外展開を加速している。
これらをROAというレンズで見ると、企業の「本当の強さと弱さ」が浮かび上がる。セブン&アイは「高利益×低回転」、イオンは「低利益×低回転」、ドン・キホーテのPPIHは「中利益×中回転」。売上規模や店舗数といった外形的な指標では見えにくい構造上の差を、ROAは冷徹に映し出す。
さらに、営業利益率を高める12項目と総資産回転率を高める12項目というフレームで分解すると、各社がどの要因に強みを持ち、どの要因に課題を抱えているかが明確になる。
■ROAが示す「次なる覇者の条件」
セブン&アイは非物販収益やPBで利益率を維持しているが、労働効率や資産の重さが課題だ。イオンは食品の高回転性を持ちながら、粗利率の薄さと不動産の重さに苦しむ。PPIH(ドン・キホーテ)は坪効率と在庫回転で稼ぎながら、海外展開でのサプライチェーン効率が試練となる。
小売の競争はもはや「規模」では決まらない。問われるのは「利益の厚み」と「資産の軽さ」という二つの力を、どれだけバランスよく磨き上げられるかだ。会員化によるLTV最大化、在庫回転の徹底、省人化と人件費効率化、サプライチェーンの合理化──こうした打ち手を積み上げ、ROAを高め続ける企業こそが生き残る。
かつては「大きいこと」が強さの象徴だった。しかしこれからは、「効率的に稼げること」「資産を軽く回せること」こそが勝者の条件となる。とりわけ、何でも揃うだけの店ではなく「ここでしか得られない価値」を提供できる企業が、顧客から選ばれる時代なのだ。小売戦国時代の次なる覇者は、ROAの鏡の中にすでにその姿を現している。
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田中 道昭(たなか・みちあき)
日本工業大学大学院技術経営研究科教授、戦略コンサルタント
専門は企業・産業・技術・金融・経済・国際関係等の戦略分析。日米欧の金融機関にも長年勤務。主な著作に『GAFA×BATH』『2025年のデジタル資本主義』など。シカゴ大学MBA。テレビ東京WBSコメンテーター。テレビ朝日ワイドスクランブル月曜レギュラーコメンテーター。公正取引委員会独禁法懇話会メンバーなども兼務している。
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(日本工業大学大学院技術経営研究科教授、戦略コンサルタント 田中 道昭)