※本稿は、東山一悟『投資で2億稼いだ社畜のぼくが15歳の娘に伝えたい29の真実』(JTBパブリッシング)の一部を再編集したものです。
■普通の人が「億り人」になれる時代
目標資産額は人によるといっても、目安が欲しいかもしれない。
その一つの目安が資産1億円だ。金融資産から借金額を引いた純金融資産が対象になり、野村総研の定義では富裕層にあたる。「億り人」だ。
これは、2008年の映画『おくりびと』にちなんでいる。日本映画としては初めて、アメリカのアカデミー賞外国語作品賞を受賞している。ぼくは2億円あるから「2億り人」といってもいい。
では億り人とはどういう人たちなのか。
ぱっと思いつくのは地主や大企業の幹部、医師や弁護士といった華やかな職業のエリートだろう。
でも、最近はぼくのようにごく普通のサラリーマンが地道に積立投資をしてきて、その果実を享受するケースも増えてきたという。
ぼくを含め堅実におカネを増やした億り人には、意外と地味な生活をしている人が多い。
■贅沢をしないサラリーマン「億り人」
富裕層というと都心のタワマンに住んで、高級ブランドに身を包み、ポルシェやフェラーリなど高級外車を乗りまわし、高級レストランでワイングラスを片手に贅沢三昧といったイメージがあるのではないか。
しかし、必ずしもそうではない。
野村証券で長年個人投資家の相談に乗り、定年退職後は経済コラムニストとして活躍した大江英樹さんは『となりの億り人 サラリーマンでも「資産1億円」』(朝日新書)という本を出している。大江さんは温厚かつ非常にクレバーな人で、ぼくも何度も会って教えられることが多かったのだけれど、残念ながら2024年1月に亡くなってしまった。今こそ大江さんの新著が期待されるのに残念でならない。
『となりの億り人』によると、大江さんがこれまで相談に乗った3万人の経験や、本のために取材した4人のサラリーマンの億り人を見ると、そういった贅沢はしておらず、端的にいうと「ユニクロを着て、ヴィッツに乗り、普通のマンションに暮らす」そうだ。
なぜなら、贅沢をすれば支出に際限がなくなるからだ。
■億万長者になるために必要な要素
もともとサラリーマンで普通の生活をしていた人たちは、資産が1億円になったからといって生活水準をほとんど変えない。必要なもの、関心のあるものには思い切っておカネを費やすけれど、無駄なおカネは使わない。教育費や寄付など他人のためにおカネを使うことも多いという。
これはアメリカでも一緒。金持ちになりたいなら必読といえるのが、富裕層の実証的な研究を大々的に行ったニューヨーク州立大学教授のトマス・J・スタンリー氏の『となりの億万長者 成功を生む7つの法則』(ウィリアム・D・ダンコと共著、斎藤聖美訳・早川書房)の一連のシリーズ。
大江さんの本のタイトルの元ネタになっているのだけれど、贅沢三昧に見えるアメリカでも、資産100万ドル以上の億万長者は質素な暮らしをしていることが多い。銀行員と並ぶと、銀行員の方がはるかにリッチに見えるそうだ。
『となりの億万長者』は「なぜ、オレは金持ちじゃないんだ?」と悩む人のために1万人以上の億万長者を調査した。その結果、億万長者の特徴として次の七つを挙げている。
1 収入よりはるかに低い支出で生活する
2 資産形成のために、時間、エネルギー、金を効率よく配分している
3 お金の心配をしないですむことのほうが、世間体を取り繕うよりもずっと大切だと考える
4 社会人となった後、親からの経済的な援助を受けていない
5 子供たちは、経済的に自立している
6 ビジネス・チャンスをつかむのが上手だ
7 (本人の適性と)ぴったりの職業を選んでいる
■見かけエリートは億万長者になれない
ちなみにぼくは1、2、3、4が当てはまるけど、5、6は違う。7については出世はしなかったが、メディア企業に勤務して資産運用についての知識を得ることができたという点では合っているともいえる。だから、七つの特徴すべてに当てはまらなくても億り人になれるけれど、とりわけ、1~3は重要だと考える。
『となりの億万長者』では、アメリカの億万長者の多くがごく普通の町に住み、小さな工場やチェーンストアを経営している自営業者で、はたから見れば億万長者とは気づかれないと述べている。半数の人が399ドル(約6万円)以上のスーツを買ったことがない。4割が中古車を買っている。
一方、弁護士や医者、銀行員などの高収入の一見エリートに見える人たちは、生活水準を自分と同レベルの同僚や友人と合わせるため、高級住宅街に住み、ファッションや自動車におカネをかけてしまい、資産がたまらない。スタンリー氏は「高収入と富は違う」という。
そして、スタンリーの法則と呼べるものを導き出した。
■資産2400万円でもお金持ち
これは年収×年齢×10分の1を期待資産額とするものだ。そして、期待資産額の2倍以上あれば「蓄財優等生」、半分以下だったら「蓄財劣等生」と呼ぶ。億万長者でなくても、蓄財優等生だったらお金持ちと見なした。ただし、定期的な収入がある人が対象で、無職の人には当てはまらない。
例えば、飲食店に勤めるあんずさんは30歳で年収が400万円。期待資産額は1200万円なので、2400万円以上あればお金持ち、逆に600万円以下なら劣等生となる。
自動車メーカーの部長をしている真司さんは50歳で年収が1000万円。すると期待資産額は5000万円だから、1億円以上、つまり億り人になっていればお金持ち。2500万円以下なら資産劣等生だ。
興味深いのは2人の資産がともに2400万円だった場合、あんずさんはお金持ちなのに真司さんは資産劣等生になってしまうことだ。それは、年齢、年収をもとに判断しており、それまでの人生でいかに蓄財、資産運用にまじめに向き合ったのかの評価だからである。
あんずさんの資産が2400万円とすると、今と同じような水準で資産を増やし続ければ、時間はたつけれど億り人に到達するだろう。逆に真司さんの資産が今2400万円とすると生活水準を改めるか、宝くじが当たるなど突発的な収入がない限り困難といえる。
■色褪せない億万長者への道
『となりの億万長者』が出版されたのは1996年で、その後、アメリカでは急速に貧富の差が拡大して、ITや金融業界でお金持ちが続出した。また、インフレが長年続いて物価も高騰している。だから、スタンリー氏の研究は古くなっているかもと思ったことがあった。
しかし、スタンリー氏が2015年に亡くなった後、娘のサラ氏が彼の研究を引き継いで2018年に『その後のとなりの億万長者 全米調査からわかった日本人にもできるミリオネアへの道』(藤原玄訳・パンローリング)を出版した。その段階でも、億万長者の多くは、依然として質素で倹約的な生活を送っていた。
ただし、資産3000万ドル(約45億円)以上のスーパーリッチはこの限りでないそうだ。もっとも、億り人になること自体が、97%以上の人に無理なのだからスーパーリッチの世界はまた別物といえる。
■投資の神様バフェット氏の生活スタイル
そのスーパーリッチの中でも倹約家はいる。
アメリカの株式投資で莫大な富を得て、フォーブス誌によると直近の資産は1330億ドル(約20兆円)というからケタ違い。彼は自分の故郷であるネブラスカ州オマハという中西部の人口50万人ほどの地方都市に住んでいる。
好物は投資先でもあるマクドナルドのハンバーガーで、朝食はドライブスルーでいつもハンバーガーを買っている。1958年に3万ドルで建てた家に今も住み続けている。インフレで住宅価格が高騰した2020年でも65万ドル(当時のレートで約7000万円)と、東京でタワマンを買うよりもはるかに安い家だ。
バフェット氏には倹約に関するエピソードが尽きない。
マイクロソフトを創業した、やはり世界有数の資産家のビル・ゲイツ氏と香港に行った際、バフェット氏が食事をごちそうしてくれるといったところ、なんとマクドナルドだったそうである。しかも、支払うときに割引クーポンを使ったそうだ。
一方で、バフェット氏は投資だけでなく、長年、巨額の寄付を行っている。2024年6月には53億ドル(約7950億円)の寄付を行い、累計では570億ドル(約8兆5500億円)に上る。また、遺言では財産の99%を寄付するように命じている。
倹約とメリハリの利いたおカネの使いかた、そして天才的な投資の腕前で世界有数の資産家になった。
■「億り人」も夢じゃない
アメリカは日本より裕福な印象がある。でも、それは日本のメディアなどに登場する人が政治家、企業のトップ、俳優など金持ちだから。
FRB(連邦準備制度理事会、アメリカの金融政策を決定する機関)が2018年に発表した調査によると全米の世帯の4割が、400ドル(約6万円)の急な支出を準備できないと回答した。物価は高騰して家賃も払えない人が続出。2023年のアメリカのホームレス数は約65万人(日本は約2800人)にも上る。だから、億万長者になること自体が大変なのだ。
その点、日本の方がまだ格差は少ないし、物価は値上げが増えているとはいえアメリカほど高騰していない。それに長期投資を手助けする制度が続々と整ってきている。
正しい知識と行動をすれば、アメリカをはじめとする他国よりも、普通の人が億り人になれる可能性は高い。
「金持ちは意外と普通の生活をしている」ので、それを見習うことが資産形成の第一歩だ。
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東山 一悟(とうやま・いちご)
個人投資家
1991年筑波大学卒業後、メディア企業で勤務。20年に戦力外通告を受け同社を退社。投資を続けてきた結果、総資産は2億円を突破。現在は中小メディア企業に勤務しながら、投資に関する情報等を寄稿。
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(個人投資家 東山 一悟)