※本稿は、釜本莉奈『選ばれ続ける人だけが知っている言いかえの作法』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。
■どんな相手でも“本音を引き出すつもり”で
仕事をしていると、「なんで言った通りに動いてくれないんだろう?」「早く確認してほしいのに、なかなか見てもらえない」とイライラすること、ありますよね。どうすれば、あなたが普段の業務でイライラに支配されず、かつ相手を動かすことができるのか……そのために必要なのが「きく力」です。
きく力を鍛えると、部下の指導をする時、上司に意見を伝えたい時のコミュニケーションが一気にスムーズになります。
「きく」には3つの種類があります
・聞く(hear):ただ耳に入る
・聴く(listen):意識して注意深くきく【共感・あいづち】
・訊く(inquire):相手の意図を深掘りして尋ねる【質問・確認】
このうち、「聴く」と「訊く」を意識して取り入れていきます。ポイントは、相手の本音を引き出すつもりで、きくこと。苦手だなと感じる相手でも、本音で話をしてもらうと、案外誤解に気が付くこともあるものです。
本稿では、相手の本音をうまく引き出すことで、あなた自身の感情をコントロールする言いかえをみていきます。
■「遠慮しないで」より「気になっていることは何?」
× 言いたいことを、はっきり言ってください
○ 今、一番気になっていることは何ですか?
相手のイライラや焦りを感じると、人は警戒モードに入るので、余計に話を切り出しにくくなります。そこで更に、「何でもいいから正直に言ってよ」「遠慮しなくていいから」と言葉を重ねてしまうことがありますが、これは完全に逆効果です。
ここで、イソップ童話の「北風と太陽」を思い出してみてください。
次に太陽が旅人を暖かく照らすと、旅人は自ら上着を脱ぎ、太陽が勝利するというあのお話です。力ずくで相手を動かそうとするよりも、穏やかなアプローチが効果的であるという教訓は、本音を引き出したい時にも大活躍します。
「何でもいい」「遠慮しないで」という言葉は、受け手にとっては「正解が見えなくて怖い言葉」でもあります。まるで北風のように強くて冷たい風を、相手に吹きかけているようなもの。風が強くなればなるほど、本音を引き出すことは叶いません。
■“相手の不安”を代弁すると緊張がほどける
北風と太陽の絵本を子どもと読んでいて、まさにコミュニケーションの本質を捉えているなぁと感動しました。
「自分の気持ちをぶつけるのではなく、相手の考えをきく」というスタンスが相手に安心感を与え、警戒心を解くカギになります。
そして、相手の気持ちを引き出したい時にもう一つ大切なのが「空気感」です。私たちも、緊張感のある空間だと本音を言い出しにくいですよね。「こんなこと、言っていいのかな」とモヤモヤしてしまいます。
気持ちは相手に伝播します。だから私は急いでいる時こそ、それが相手に伝わりすぎないように、話すスピードを落ち着け、ゆっくり丁寧に相手に向き合うことを意識しています。
そうすると不思議なもので、自分自身の気持ちも落ち着いてきます。相手がもし不安そうな表情をしていたら、「こんなこと言っていいのかなって悩んじゃいますよね」と不安を代弁することも、とても大切です。緊張がほどけ、相手と自然体で話ができるようになります。
■「否定の質問」は避ける
× このやり方、もう古くないですか?
○ 私も最近知ったのですが、こんな方法も出てきているみたいです
「きく=質問」のイメージがありますが、実は質問しなくても相手に気付いてもらうことはできます。質問には効果的な質問と、そうでない質問があります。
相手を否定する質問は、あなたの印象を下げ(嫌な人になる)、相手のやる気を奪い、対立を生むきっかけになります。
「古い」という言葉は、アイデア自体のことを言っているとは分かっていても、人によっては、まるで、自分自身が時代遅れで考えが凝り固まっていると言われたように感じてしまいます。言葉が本来の意味以上の力を持つことを象徴していますよね。
一番残念なのは、この発言が相手をジャッジしてしまっているように聞こえてしまう点。私は、ニュース原稿を書いたり、スタジオでコメントを言う際、自分が「ジャッジしない」ということを心掛けていました。
前者の言い方も、後者の言い方も、結果的に提示するアイデアは同じはずなのに、受け手の印象は全く違ったものになります。「あの人、言っていることは正しいかもしれないけど、なんか嫌な感じだよね」と。相手を判断するのではなく、相手に判断をゆだねる。こうした一つひとつの言葉の積み重ねで関係性が築かれていきます。
■“満足度が上がる”ゴールを共有する
ただ、ゆだねるとはいえ、話が進まないのでは困ってしまいますよね。
そこでおススメなのが、判断のきっかけになる材料を渡すこと。しっくりこないと感じた時には、その感情をまずは自分の中で受け止め、自分が提案できる価値は何かを探すようにしています。
そして、新しい選択肢が持つ可能性やメリットを整理した上で提案します。
素敵なアイデアであればあるほど、気持ちは高ぶりますが、そんな時こそ強く主張しないことで、相手の理解が得られやすくなります。そのための方法は、あなたのアイデアによってどんな未来が期待できるかを共有することです。
「この案、すごくいいですよ!」という提案は熱量の高さは伝わる一方で、相手には具体的な魅力がイマイチ伝わりません。
これを「この案だと、お客様に実際に体験していただけるので、満足度が一段と上がりそうですよね」のようにゴールを共有する言葉に置きかえると、一気に相手の関心度も高められるようになります。
■“言われた通りにやった”場合は「もう一度確認させて」
「こうしてって言ったよね?(昨日と違うことを言っている)」
× 昨日と仰っていることが、違いませんか?
○ もう一度、確認させてもらえますか?
言われた通りにやったのに、次の日相手に確認したら、全然違うことを言われた。誰しも一度は経験があるのではないでしょうか?
まさに理不尽の極み。まるで、こちらが間違っているかのように言われると心外ですよね。理不尽さにイライラしますが、相手の感情に巻き込まれると、こちらが擦り減ってしまいます。
視点を「未来」に変えてイライラを終わらせましょう。
私たち自身も、「あの時はこう考えていたけど、今考えたらありえないよね」と感じることってありますよね。相手の中でも同じことが起こっているかもしれません。
もしくは、これがいいなと思って言ったけれど、実際に仕上がってきたものを見てみたら、「なんか違うな」と感じた可能性もあります。
■相手を理解しない、解釈するだけでいい
だからこそ、こういったシーンで大切なのは、相手の発言の真意を掴みゴールを再確認すること。
感情の起伏が激しくなっている相手は、視野が狭くなっています。「過去」の話をすると、さらに感情が高ぶってしまうことも。そんな相手には、少し先にある「得たい未来(結果)」を共有するきき方がおススメです。
職場には様々なタイプの方がいるので、中には合わない人も出てきます。そんな時に相手を理解しようとすればするほど、理解できないことに苦しんでモヤモヤします。その場合は、相手を理解するのではなく、解釈しましょう。
・ 理解しようとする→なんでこんなに理不尽なんだろう(理解できない)
・ 解釈しようとする→考えが変わったのかもしれないな・急いでいるのかもしれないな(じゃあ、こうしようか)
相手に歩み寄る姿勢はとても大切ですが、それによってあなたの負担が必要以上に大きくなってしまうと感じる時にはお守りとして使ってみてください。意識が別の方向に向いて、モヤモヤが軽減しますよ。
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釜本 莉奈(かまもと・りな)
研修講師、アナウンサー
奈良県宇陀市出身。元NHKキャスター/奈良テレビ放送アナウンサー・記者。放送局でアナウンサーとして伝える力を磨く。主に報道を担当。経営者・政治家・各分野の第一線で活躍する人など3000人以上への取材をする中で、選ばれ続ける人の言葉には法則があることを発見。この気付きをもとに「人・組織の魅力を言語化する専門家」として企業・大学で2500人の育成を担当。
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(研修講師、アナウンサー 釜本 莉奈)

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