成果を上げている営業部の上司は、部下をどのようにマネジメントしているのか。人材育成のプロである田島ヒロミ氏は「成果を上げているチームの上司は、部下が『今日何件の客先を訪問したのか』ではなく、別のことを確認している」という――。

※本稿は、田島ヒロミ『昭和型のマネジメントは本当にもう通用しないのか』(すばる舎)の一部を再編集したものです。
■「根性・精神・質より量」昭和の営業
目標という言葉に一番敏感なのは、今も昔も営業部です。特に会社全体の数字に直結する営業部のマネジメントは、どのようにすれば最大の成果を発揮できるのでしょうか。
昭和の営業部
昭和時代の営業所は、壁に大きな棒グラフが貼られて、営業社員一人ひとりの成績が一目瞭然になっている会社も多くありました。そのため、営業成績がよい人は社内で堂々としており、逆に成績が振るわない人は、いたたまれない気持ちで小さくなってしまいます。
私が当時勤めていた営業所は、始業前に全員で社歌を歌い、所長の朝礼後、大きなアタッシュケースに資料をいそいそと詰め込み、顧客のところに一斉に出かけて行きました。
夕方に営業所に戻ってくると、すぐに所長への活動結果の報告です。今日の成果が出ていれば、みんなの前でほめられて気分が上がります。ただ、結果が出ていないと、大きな声で叱責を受けて、「もう一度訪問してこい!」と言われる光景も日常茶飯事でした。
指導方法は、根性論・精神論で、とにかく量をこなすことにフォーカスされていました。昭和時代を映すテレビドラマでよく見かける風景です。もしかしたら、令和の時代でもこのような会社が残っているかもしれません。

■数字のプレッシャーがより大きい令和
令和の営業部
令和の時代においても、営業部門は会社の売上を直接つくる“最前線”であり、常に数字で評価される宿命を負っていることに変わりはありません。
むしろIT化が進んでおり、リアルタイムで業績の進捗が把握できるようになっているので、数字のプレッシャーが大きくなっていると言えます。
また顧客側も情報の入手が容易になり、昭和流の量で押し切る営業スタイルでは通用しなくなっています。営業社員は、多種類で複雑な商品を理解する力、顧客のニーズを引き出して課題解決につなげる提案力、デジタル化への対応力が求められています。
このような状況において、マネジャーは短期的な数字のプレッシャーと長期的な部下育成のプレッシャーにさらされています。特に成果が出ない部下への対応が、昭和よりもはるかに難しくなっており、悩んでいるという声が多く聞かれます。
今の時代は、成果の出せていない部下をどのようにしてマネジメントしていくのがいいのでしょうか。私が入社1年目で生命保険の営業をしていた頃の失敗話を例にしてお伝えします。
■生命保険営業マン時代に犯した失敗
入社1年目で顧客獲得のアプローチ方法もまだ身についていなかった私は、最初は親しい友人のところを訪問して、加入のお願いをしていました。しかし友人を回りつくすと、もう行き先が見つかりません。
所長からは「行き先は無限大だ! タバコは自動販売機で買うな。タバコ屋で買え。
何度も通って親しくなってタバコ屋も見込み客にするんだ!」と指導されました。人見知りの私には、かなりハードルの高いことでした。
なかなか成果を出せない私は、何とか活動だけはアピールしたいと考え、大量の生命保険のチラシに名刺をクリップして、アタッシュケースに詰め込み、飛び込み営業することにしました。ただ、日中はほとんど不在の家庭が多く、ピンポンを鳴らして誰も出てこないと正直少しホッとして、チラシと名刺を郵便ポストに入れて帰ることを繰り返しました。
その日の夕方に営業所に戻ると、すぐに所長との面談です。
所長:「今日はどうだった?」

私:「はい、30件訪問しました!」

所長:「すごいじゃないか! それで契約はもらえたのか?」

私:「いえ、もらえませんでした」

所長:「そうか……。それでお客様とは、どんなやりとりをしたんだ?」

私:「 お客様とは会えませんでした。たくさん訪問したのですが、不在だったのでチラシと名刺をポストに入れてきました」
所長の顔が曇りました。
■営業チラシを配る「真の目的」とは
しばらく沈黙の後、所長が険しい顔でこう言いました。
所長:「 お前は自宅の郵便ポストに銀行や不動産などのチラシが入っていたらどうする? 喜んでじっくり読んだりするか?」

私:「いえ……、たぶん読まずに捨てると思います……」

所長:「 普通そうだよな。顧客にとって関心がないチラシはそのままゴミ箱行きだ。つまりお前は、人様のポストにゴミを配っていることになるよな。
そもそもお前がチラシを配った目的は何だ?」
そう問われて、ようやく気づきました。私は営業活動をするためではなく、所長に叱られないためにチラシを配っていたのです。私は所長に謝りました。すると、
「わかったのならもういい。営業成績は良い商品をつくり、お客様のニーズに合った適切な販売活動をした結果、お客様にどれだけ喜んで選んでもらったのかを測るモノサシだ。お客様に喜ばれない営業活動は何の意味もない。仕事の目的を取り違えてはいけない」
それ以来、私は心を入れ替えました。苦手ながらも逃げずにお客様に会う回数を増やして、保険の良さをていねいに説明して回ることにしました。相変わらず「契約してほしい」とは言えませんでしたが、熱心に説明しているうちに保険に入ってもよい、と言ってくれる方が徐々に増えていきました。
所長との対話を通じて、改めて仕事をするうえで常に目的や本質を考える大切さを体感させられた出来事でした。
■成果が出ない要因を部下に気づかせる方法
部下が成果を出せずに悩んでいたら、マネジャーはその原因に寄り添い、本人自身に気づかせることが重要です。この“自分で気づく”ことこそが、本人にとっての成長に不可欠です。
先ほど私の事例で出した昭和の所長の口調はやや乱暴ですが、令和の営業マネジャーにも求められる対話ではないでしょうか。
みなさん、もしくはみなさんの会社の営業マネジャーは、部下とどのようなコミュニケーションを取っているのでしょうか。
ここで、ある営業マネジャーの好事例をご紹介します。そのマネジャーの営業所は常に業績が良く、顧客満足度もトップクラスでした。そこで本社の営業部門がその秘訣を調べるために営業所を訪問しました。
ところが、そのマネジャーにインタビューをしたり営業所を観察したりしても、特別なことをしている様子は見当たりません。そこで、部下にあたる営業担当者にインタビューをしたところ、こんな話が聞けました。
これまでのマネジャーは会社に戻って報告するとき、「君は今日、何件訪問したのか? 何件契約が取れたか?」と数字ばかりを聞いてきましたが、今のマネジャーは、「お客様はどんな様子だった? 何か変わったことはあったか?」と聞いてくるそうです。
■「顧客に寄り添う営業」ができるように
毎日マネジャーからお客様のことを聞かれるので、営業担当者もじっくり観察するようになり、ちょっとした変化にも気づくようになりました。
また、マネジャーにお客様のことを話しているうちに、ニーズに合った商品を自然と提案できるようになり、いつの間にか顧客に寄り添える営業ができるようになったようです。
つまり、この営業マネジャーは問う主体を「部下」から「お客様」に変えたことで、部下に真の顧客視点を植えつけました。これが好業績の秘訣となっています。

ほかにも、このマネジャーは営業目標の浸透について工夫をしているようです。上位組織(経営陣)から下りてくる年間の営業目標値については、なぜその金額なのかという意味を徹底的に考えるそうです。
会社の方針・営業所の実力・環境変化などを踏まえて、ストーリー仕立てで目標値を意味づけし、何度も部下に説明しているそうです。そこまでやってはじめて、部下が目標について腹落ちをして、達成しようというモチベーションが高まるそうです。
■部下との対話を変えれば成果も変わる
ほかにも、このような事例を紹介します。
事例:某製薬会社の営業マネジャーの取り組み

ミーティングで好事例を共有しあう仕組みを取り入れている。

そこでは単に共有するだけでなく、今の好事例のキーとなる行動は何か? それを自分の顧客に応用するには具体的にどう行動すればいいか? などを一人ひとり考えさせて、相互アドバイスを行っている。

組織として学び合う仕組みづくりをした結果、個人の業績向上につながっている。
いつの時代においても、マネジャーは部下との対話を工夫することで、一人ひとりの業績も変わり、それが組織の成果として現れるということですね。

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田島 ヒロミ(たじま・ひろみ)

組織開発・人財育成コンサルタント

早稲田大学法学部を卒業後、生命保険会社に入社。営業・経理・事務システム企画・資産運用・コールセンター設立など、多様な業務に携わり、昭和流のマネジメントを部下としても管理職としても経験する。40代半ばには外資系生命保険会社へマネジャーとして転職。
新商品開発や企業合併プロジェクトに参画し、ジョブ型人事制度のもとでマネジメントを実践する。50代で、組織開発・人財育成の経営コンサルティング会社へ転職。これまでコンサルタント・講師・コーチとして、100社以上、管理職には8000人以上、延べ2万人を超える人材育成・組織開発に携わり、現場に根差した実践的な支援を続けている。

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(組織開発・人財育成コンサルタント 田島 ヒロミ)
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