課長に昇進したら残業代は出なくなるのか。「管理職だから仕方ない」と諦めるしかないのか。
弁護士の横山佳枝さんは「労働基準法上の『管理監督者』に該当しなければ、役職が課長でも部長でも残業代を請求できる。名ばかり管理職かどうかは役職名ではなく、労働の実態によって判断される3つの基準がある」という――。
※本稿は、横山佳枝『ブラック就業規則』(東洋館出版社)の一部を再編集したものです。
■「課長になったら残業代はゼロ」は本当か
勤務先の就業規則では、課長職以上は「管理監督者」とされ、残業代は支給されないと定められています。しかし、課長とはいっても、部署によっては、部下もおらず、業務内容や権限も以前と変わらず、何をするにも上司の決裁を仰ぐ必要がある場合もあります。そのような場合であっても、残業代が支払われないことに問題はないのでしょうか。
労働基準法上、“監督若しくは管理の地位にある者”(いわゆる“管理監督者”)には、労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されないことから、会社は残業代(時間外労働や休日労働に関する割増賃金)を支払う義務を負いません。この管理監督者は、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者を指し、役職名ではなく、労働の実態とそれに相応しい待遇を受けているかどうかにより判断されます。
裁判例では、出退勤の自由がなく、部下の人事考課に関与しない銀行の支店長代理が管理監督者にあたらないと判断されるなど、管理監督者の範囲は限定的に解されています。
そのため、課長職の就任前後で業務内容や権限に変化がないのであれば、管理監督者にあたらないと考えられ、会社に残業代を請求できる可能性が高いといえます。
■労働基準法が定める割増賃金の支払義務
労働基準法第37条では、以下の通り、時間外労働、休日労働、深夜労働における割増賃金の支払義務を定めています。同条に違反した場合には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される場合があります。

・時間外労働 1日8時間、1週40時間を超えた場合には25%以上の割増賃金の支払義務(なお、1カ月60時間を超えた場合には50%)

・休日労働 毎週少なくとも1日の休日(法定休日)を与えなければならず、休日労働をさせた場合には35%以上の割増賃金支払義務

・深夜労働 午後10時から午前5時までの間に労働させた場合には25%以上の割増賃金支払義務

例外的に、労働基準法第41条2号により、“監督若しくは管理の地位にある者”(いわゆる“管理監督者”)には、時間外労働、休日労働に関する割増賃金の定めが適用されません(ただし、深夜労働の割増賃金は発生します)。
■「管理監督者」を見抜く3つの判断基準
管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にある者を指し、役職名にとらわれず、労働の実態により判断されます。会社内で、管理職とされていたとしても、管理監督者に該当するとは限りません。
労働基準法上の管理監督者とは、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」とされています(昭和63年3月14日基発150号)。裁判例では、主に以下の3点により判断されています。
① 経営者と一体的な立場にあるといえるだけの職務や権限がある

少なくとも担当する事業部門について統括的な立場にあることや、部下の査定などの一定の人事権を有していること
② 出社、退社、勤務時間について自主的に決定できる

遅刻・早退の場合にも賃金カットされず、勤務時間に裁量があること
③ その地位と権限に相応しい賃金・手当等が支給されている

残業代相当額を含む基本給の増額や、役職手当などの支給を受けていること

実際は上記の3点すべてを満たす場合は少なく、“管理監督者”にあたらないとして、会社に残業代の支払が命じられることはよくあります。
■スポーツクラブ支店長の残業代請求が認められた例
コナミスポーツクラブ事件(東京高裁平成30年11月22日)では、スポーツクラブの支店長(降格後はマネージャー)であった従業員が、管理監督者に該当しないとして、残業代の支払を請求した事案です。裁判所は、上記3点について、以下の通り判断し、管理監督者該当性を否定し、会社に残業代の支払を命じました。
① 経営者と一体的な立場にあるといえるだけの職務や権限がある:否定

プログラムの変更・新規導入、販売促進活動、設備の修繕等、備品の購入には、運営事業部の上長の承認が必要
② 出社、退社、勤務時間について自主的に決定できる:否定

各月の労働時間が一定の時間数に収まるよう、勤務計画の作成が義務づけられるなど、労働時間が管理されていた
③ その地位と権限に相応しい賃金・手当等が支給されている:否定

非管理職の最上級の基本給との差はわずかであり、それを下回る可能性もあった

■賃金の消滅時効に留意
管理監督者に該当しない可能性がある場合には、本来支払われるべき残業代を会社に請求することを検討しましょう。その場合、賃金の消滅時効に留意する必要があります。
2020年3月31日までに発生した残業代請求権についての消滅時効期間は、賃金支払日から2年間でしたが、2020年4月1日以降に発生した残業代請求権についての消滅時効期間は、賃金支払日から3年間です(将来的には5年となる見通しです)。

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横山 佳枝(よこやま・よしえ)

弁護士法人杉山真一&パートナーズ法律事務所 弁護士(日本・ニューヨーク州)

2018年から東京都労働局紛争調整委員。
著書として、『ハラスメントの事件対応の手引き』、『明日、相談を受けても大丈夫!ハラスメント事件の基本と実務』(ともに共著、日本加除出版)、『法律はあなたの味方 お仕事六法 正社員ver.』(あさ出版)

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(弁護士法人杉山真一&パートナーズ法律事務所 弁護士(日本・ニューヨーク州) 横山 佳枝)
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