2週間まとまった有給休暇を申請したら、会社は拒否できるのか。日本人の有給消化率は世界でワースト2位にとどまる。
弁護士の横山佳枝さんは「会社が有給取得の時季を変更できるのは『事業の正常な運営を妨げる場合』に限られる。単に人手不足や繁忙期というだけでは拒否できない」という――。
※本稿は、横山佳枝『ブラック就業規則』(東洋館出版社)の一部を再編集したものです。
■「2週間は長すぎる。1週間にしろ」と言われたら
旅行に行こうと思い、2週間の有給休暇を申請しましたが、上司から「2週間は長すぎる。1週間にしろ」といわれました。確かに、就業規則には、「労働者が請求した時季に年次有給休暇を取得させることが事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季に取得させることがある」とされています。このような会社の指示に従わなければならないのでしょうか。
会社は、労働者の請求する時季に年次有給休暇(年休)を与えなければなりません。ただし、請求された時季に年休を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、会社は、取得日の変更を求めることができます(いわゆる「時季変更権」の行使)。
時季変更権の行使に際して、会社は、できる限り従業員が希望する年休を取得できるよう配慮する必要があり、何ら調整もせず、一律に有給休暇の取得期間を短期にするよう命じることは許されないと考えられます。
■年休はパートでも正社員でも、要件を満たせば必ず発生する
労働基準法では、6カ月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者には、法所定の日数の年休を与えなければならないとされています。
年休は、労働者の心身の疲労を回復させ、休息をとる権利を確保させることを目的とするものであり、業種、業態を問わず、正社員かパートなどの区別なく、上記の要件を満たした場合に当然に発生します。
週の所定労働日数が5日以上または週の所定労働時間が30時間以上の場合、勤続6カ月で10日、1年6カ月で11日、2年6カ月で12日、3年6カ月で14日、4年6カ月で16日、5年6カ月で18日、6年6カ月で20日の年次有給休暇が付与されます。
■「時季指定権」と「時季変更権」の関係
労働者は、年休の発生要件を満たした場合、年休を取得する時期を特定することができ、これを「時季指定権の行使」といいます(「時季」には、季節の指定と具体的な時期の指定の2つの意味が含まれます)。これに対し、会社は、労働者が請求した時季に年休を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季に変更することができ、これを「時季変更権」といいます。
なお、平成30年の働き方改革関連法による労働基準法改正により、法定の年休付与日数が10日間以上である労働者に対し、その日数のうち5日間について、年休が付与される基準日から1年以内に、労働者ごとにその時季を指定して付与することが新たに義務づけられました。
時季変更権の要件である「事業の正常な運営を妨げる場合」については、労働者が指定した時季に年休を付与することにより、業務上の支障が生じるおそれがあることが必要です。常に人手不足の状態にあるために、代替要員を確保できないという場合には、年休取得により「事業の正常な運営を妨げる場合」にあたらず、時季変更権の行使は認められません。
また、時季変更権の行使に際しては、単に業務上の支障が生じるおそれがあるというだけでは不十分であり、人員配置の調整や代替要員の確保など、会社が状況に応じた配慮を行っているかどうかも考慮されます。労働者が長期休暇を希望する場合には、休暇期間中の代替要員の確保など、業務上の支障が生じるおそれが高くなりますので、事前に会社と調整する必要があります。事前に調整することなく、長期休暇の取得を申請した場合には、業務上の支障が生じるかどうかの判断について、会社に一定の裁量が認められる場合があります。
■「恒常的な人員不足は拒否の理由にならない」
時事通信社事件(最高裁平成4年6月23日)は、新聞社の専門記者が約4週間の年休取得を指定したのに対し、会社が後半の2週間について時季変更権の行使をした事案です。裁判所は、会社と事前の調整を経ることなく、長期かつ連続の年休を指定した場合には、会社は、時季変更権の行使における業務上の支障が生じるかどうかの判断に際し、一定の裁量を有するとしました。
その上で、専門的知識を有する代替要員を確保することが困難であること等から、休暇の後半部分に時季変更権を行使することは適法と判断しました。
東海旅客鉄道事件(東京高裁令和6年2月28日)は、JR東海の従業員(新幹線の乗務員)が会社に対し、事前に申請していた年休について、勤務日の5日前に会社が時季変更権を行使したことが労働契約に反するとして、損害賠償を求めた事案です。
裁判所は、新幹線の運行という業務が社会的に重要であり、代替人員の補充が困難であることや臨時列車の運行の対応の必要性などの理由により、会社が勤務日の5日前に時季変更権を行使したことについて、事業の正常な運営を妨げる事由の存否を判断するのに必要な合理的期間を超えてされたものということはできないと判断しました。
また、裁判所は、使用者が恒常的に人員不足であり、代替要員の確保が困難な状況にある場合には、使用者による時季変更権の行使は許されないとの一般論を示しましたが、本件では、恒常的な人員不足の状態にはないとして、時季変更権の行使を認めました。
■日本人の取得率はワースト2位、2年で消える権利
2022年に大手総合旅行会社であるエクスペディアが実施した「有給休暇の国際比較調査」によると、2022年の日本で働く人の年休の取得率は60%(20日間のうち12日間)であり、世界各地域と比較するとワースト2位でした。また、ヨーロッパでは、2週間から1カ月程度の年休(いわゆるバカンス)をまとめて取得する傾向があるのに対し、日本では、月に1回程度に分割して取得する傾向があります。
日本では、業務上の都合や他の従業員への配慮により、長期の休暇取得をためらいがちですが、本来、年休制度とは、労働者が心身をリフレッシュすることを目的とするものですので、細切れで取得してもその目的を十分に果たせないことになります。長期休暇に際し、会社に時季変更権の裁量を認める上記の最高裁判例(時事通信社事件)の考え方が現在妥当するかどうか疑問があり、ワークライフバランスの観点を重視し、労働者の年休取得の権利をできる限り尊重することが望ましいと考えます。
なお、年休の時効は2年であり、2年を超えて消化できていない年休はゼロになってしまいますので、未消化の年休が多い人は注意が必要です。

----------

横山 佳枝(よこやま・よしえ)

弁護士法人杉山真一&パートナーズ法律事務所 弁護士(日本・ニューヨーク州)

2018年から東京都労働局紛争調整委員。著書として、『ハラスメントの事件対応の手引き』、『明日、相談を受けても大丈夫!ハラスメント事件の基本と実務』(ともに共著、日本加除出版)、『法律はあなたの味方 お仕事六法 正社員ver.』(あさ出版)

----------

(弁護士法人杉山真一&パートナーズ法律事務所 弁護士(日本・ニューヨーク州) 横山 佳枝)
編集部おすすめ