株主優待を目当てに投資をしている人も多いだろう。ファイナンシャルプランナーの藤原久敏さんは「銘柄選びの際に優待利回りを参考にする人も多いと思うが、思わぬ落とし穴に陥る可能性がある。
株主優待に期待して投資するなら注意すべき点がある」という――。
■優待リターンはどうやって計算する?
株式優待とは、会社が株主に対して、自社商品や買物券、お食事券などを贈る制度です。全上場企業の約4割にあたる1500社以上が実施しており、株主優待目当ての投資家も少なくありません。
そんな株主優待のリターンですが、預金金利や配当利回りではあり得ないくらいに高いものもあって、5%以上、中には10%を超えるような銘柄も決して珍しくはありません。しかし、そんな高リターンのウラには、株主優待ならではのカラクリや落とし穴もあるのです。
まず、はじめに確認しておきたいのが、株主優待のリターンは、一般には、「優待利回り」で表示されることです。優待利回りは、以下の算式で計算されます。
株主優待の金銭価値÷投資額×100
たとえば、株主優待の金銭価値が5000円で、その優待を得るのに必要な投資額が10万円であれば、この場合、優待利回りは5%となります。
■自社商品を定価で計算するのは間違っている⁉
まず、高優待利回り1つ目のカラクリは、「株主優待の金銭価値」です。株主優待が買物券やお食事券であれば、優待利回りの算式における「株主優待の金銭価値」は、その額面金額がそのまま金銭価値となるので分かりやすいです。
しかし問題は、株主優待が自社商品の場合です。この場合、基本的には、その定価(希望小売価格)が、「株主優待の金銭価値」として計算されます。

ただ、一般的には、どんなものでも、定価で買う人は少ないですよね。スーパーやドラッグストア、家電量販店などでは、通常、ほとんどのものは定価より安く買えるのではないでしょうか。
そして、多くの場合はポイントもつくわけですが、それも加味すれば、さらに定価よりも安く買えますよね。ネットショッピングでよくおこなわれている、ポイントアップキャンペーンなどをうまく活用すれば、実質、定価の半額程度で買えることも珍しくはありません。
その場合、自社商品である株主優待の「実質的な」金銭価値は、その定価の半額となります。となると、その「実質的な」優待利回りは、表示上の優待利回りの半分となるわけです。
■優待利回り40%のカラクリとは
たとえば、北の達人コーポレーションの株主優待のメインは、定価5000円程度の美容品ですが、その株価は非常に低く、優待獲得に必要な投資額は1.3万円程度です。そしてこの場合、そのメインの自社商品優待だけで優待利回りは、なんと40%にも迫ります。
ただ、その株主優待と同じ商品は、ネットで定価よりも(さすがに半額とはいいませんが)若干安く購入できます。ポイントをうまく絡めれば、実質2割程度の割引も十分見込めるでしょう。
表示上の優待利回り40%弱というのは、あくまでも定価で買ったときの(株主優待の金銭価値を定価で計算した)数字ですから、定価よりも安く買うことで、実質的な優待利回りはそれよりも下がることとなります。
それでも相当高いリターンではありますが、少なくとも、表示上の優待利回り40%弱をそのまま、真に受けることはないようにしたいものですね。

■カタログ優待の注意点とは
また、カタログ優待においても、この「株主優待の金銭価値」のカラクリが当てはまることが多いです。なぜなら、カタログに掲載されている商品価格は、基本的には定価ベースだからです。
しかも、相場よりもお高めに設定されている場合が多いので、そこは気を付けなければいけません。
たとえば、ライザップの株主優待は、パンフレット掲載の商品の中から1万ポイント相当分選べるというものなど(※1)ですが、その必要投資額は10万円以下です(400株の場合)。

※1 ポイント以外にも「chocoZAP半額1年(2名)」「特別優待券5000円分」がある。
これは1ポイント=1円と計算すれば、その優待利回りは10%超と、かなりの高リターンとなります。
ただ、その商品ラインナップは健康サプリメント(1000ポイント)、タオルセット(2000ポイント)、洗顔料(4000ポイント)などと、かなり割高な設定となっています。同じようなものを普通に買えば、その半額程度だろうと思わざるを得ません。
ですので、やはり表示上の優待利回り10%超をそのまま真に受けるのではなく、実質的には、その半分の5%程度だろうと解釈するべきでしょう。
■割引優待は、「持ち出し」が発生する
そして、高優待利回り2つ目のカラクリは、「割引優待」のケースです。
たとえば、ヤマダホールディングスの株主優待は、年間1500円分の優待券(500円×3枚)で、その優待利回りは約3.4%とまずまずの高リターンです。しかし、その優待券が使えるのは、買上金額1000円ごとに1枚(500円分)だけ。


つまり、その優待券は割引券ということですね。そして、そんな割引優待を使うには、必ず「持ち出し」が発生することになります。
また、ヴィレッジヴァンガードコーポレーションの株主優待は、年間1万円の買物券(1000円×10枚)で、その優待利回りは10%近くにもなります(長期保有はさらにアップ)。しかし、こちらも買上金額2000円ごと1枚(1000円分)だけ使えるという割引優待なので、やはり、優待利用時には「持ち出し」が発生するのです。
株主優待の醍醐味として、「タダで」買物やお食事ができることを重視している人にとっては、このように「持ち出し」が発生する割引優待は残念なところです。ただ、高優待利回りには、そんな割引優待も少なくはないのです。
割引優待を実施する会社にしてみれば、優待を使ってもらうことで売上アップにつながるからこそ、それだけ高い優待利回りが可能となるカラクリなのです。
■割引優待には2つのパターンがある
割引優待には、前述のヤマダやヴィレッジのように「○○円割引」ではなく、「○○%割引」といったパターンもあります。
たとえば、ゼビオホールディングス(10~20%割引券)や愛眼(30%割引券)などがありますが、これは高額な買物をすれば、相当な金額が割り引かれます。その場合、相当な高優待利回りとなるわけです。
しかし、これは逆に言えば、高優待利回りを得るには、高額な買物をしないといけないということなのです。ちなみに、イオン(3%キャッシュバック)や高島屋(10%割引)は、1回使い切りの優待券ではなく、カード形式です。

会計時にカードを提示することで、何度でも、保有株数に応じた上限額まで、割引優待を受けることができます。ですので、1会計で高額なものを買わなくても、累計で、高額な割引を受けることができるので使い勝手が良く、人気の優待銘柄でもあります。
いずれも割引対象となる買上金額には上限がありますが、その上限まで目一杯使ったときの優待利回りは、イオンは約14%、高島屋は約28%(※2)と、かなりのリターンとなります。
しかし、そんな高優待利回りを享受するには、イオンで年間200万円、高島屋で年間30万円もの買い上げが必要となります。これは誰もが払える金額ではなく、すなわち、そんな高優待利回りを享受できるのは、ごく一部の人だということですね。

※2 本稿においては、イオンと高島屋の優待内容は、それぞれ「100株保有時」の場合。
割引優待における高い優待利回りは、それだけの支払い(持ち出し)があってこその利回りであることを、しっかり意識したいところです。
■必要のない株主優待の利回りは0%
そして高優待利回り3つ目のカラクリ、というか落とし穴は、「必要のない株主優待」です。これは優待投資において、多くの人が陥りがちな心理的な落とし穴で、私自身もしっかり経験しております。
その優待利回りがどれだけ高くても、その優待内容が自分にとって必要のないもの(使わないもの、欲しくはないもの)であれば、すなわち、その株主優待の金銭価値が自分にとって0円であれば、自分にとっての優待利回りは0%となります。
しかし、表示上の優待利回りのあまりの高さに目を奪われ、その株主優待が自分にとって必要か否かを深く考えず、とりあえず購入してしまうことは少なくないのです。
ちなみに、前述の北の達人コーポレーションですが、私は、そのあまりにも高い優待利回りに目を奪われて購入しましたが、よくよく考えてみれば、その株主優待の美容品にはまったく興味がないことに気付きました。


すなわち、私にとっての優待利回りは0%です。なお、まったく必要ないとはいえ、定価5000円もの商品を捨てるわけにはいかず、毎年、その処理に困っております。
■利回りが高いのにトキメキのない優待
さらに言えば、そんな必要のない株主優待を、「せっかく手にしたのだから、使わないともったいない」と、無理矢理に消費しようとして、時間・労力を費やし、むしろマイナスとなる可能性もあるわけです。
かつて私は、東京テアトルという銘柄を保有していました。その株主優待は、年間8枚もの映画無料鑑賞券。そして、その優待利回りは約15%と非常に高く、私はその優待利回りに目を奪われ、たいして映画好きではないのに、むしろ映画は嫌いなのに、この銘柄を購入したのでした。
ただ、そんな高い優待利回りを手にしたことに満足してしまい、いざ優待券が届いてみても、まったく心はトキメキません。しかし、せっかく手にした優待券は使わないともったいないと、たいして見たくもない映画を見に行きました。
そして案の定、ただただ退屈で苦痛な時間を過ごし、そして、さほど美味しくもないポップコーンを持て余したという苦い記憶があります(株は、猛省とともに売却しました)。
■現金同様に使える金券優待はありがたいが
ただ、その株主優待が自分にとって必要かどうかは、実際にその優待を使ってみないと分からないところもあり、その判断はなかなか難しいものです。そんな中、クオカードや商品券といった金券優待は、「必要のない株主優待」となる心配はありません。
なぜなら、クオカードや商品券はほぼ現金同様ですから、どんな人にとっても必要ですからね。

しかも、ほぼ現金同様である金券優待は、ここまで挙げた「株主優待の金銭価値は定価」「割引優待」といったカラクリ(ごまかし?)は利かないので、その点でも、投資家にとってはありがたいものです。
しかし、金券優待を実施する企業にとっては、その額面金額そのものが費用となるので(自社商品や買物券・食事券であれば、費用となるのは原価相当額で済む)、大きな負担となります。
また、金券優待は自社商品・サービスの売り上げやアピールにもつながらないことも、企業にとっては歓迎すべきことではないでしょう。そんな理由から、金券優待には、高優待利回りはそれほど多くはないのです。
■優待利回りの高い金券優待の落とし穴
もし、高優待利回りの金券優待があったとしても、それは、相当気を付けなければいけません。なぜなら、前述のとおり、金券優待は企業の負担が大きいなどの理由などから、とくに高優待利回りの金券優待は、(企業がその負担に耐え切れずに)廃止となる可能性が高いからです。
株主優待の廃止となれば、投資家の失望により、かなりの確率で株価は下落します。私自身、保有銘柄の株主優待の廃止は何度も経験してきましたが、中でも、金券優待の廃止の割合は群を抜いています。
株主優待が廃止となれば、優待廃止のガッカリ感に加え、株価下落によって損失を被る可能性も高いわけですから、優待目当ての投資では、優待廃止は何より避けたいものです。
となれば、(優待廃止の可能性が高い)高優待利回りの金券優待は避けるのが賢明といえるでしょう。
なお、株主優待を新設するも、一度も実施されることなく廃止されて話題(炎上)となったREVOLUTIONの株主優待も、高利回りの金券優待だったことを、最後に付け加えておきます。
■株主優待の落とし穴を避けるには
それでは、株主優待のカラクリ(落とし穴)を避けるには、どうすればよいのでしょうか? それは、その優待が、自分自身が必ず利用するであろうもの、できることなら今現在、すでに利用しているものかを見極めることです。
そして、無理をせずとも、必ず利用するであろう(すでに利用している)優待のみに絞ることです。
そんなこと、当たり前じゃないかと思われるかもしれませんが、高い優待利回りに惑わされると、これが意外とできていないものなのです。株主優待は一般論ではなく、自分とその優待との関係性を、徹底的にイメージすることが大切なのです。
※本文中の株価・優待利回り等の数字は2025年4月22日現在

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藤原 久敏(ふじわら・ひさとし)

ファイナンシャルプランナー

1977年大阪府大阪狭山市生まれ。大阪市立大学文学部哲学科卒業後、尼崎信用金庫を経て、2001年に藤原ファイナンシャルプランナー事務所開設。現在は、主に資産運用に関する講演・執筆等を精力的にこなす。また、大阪経済法科大学経済学部非常勤講師としてファイナンシャルプランニング講座を担当する。著書に『株、投資信託、FX、仮想通貨… ファイナンシャルプランナーが20年投資を続けてみたらこうなった』(彩図社)など。

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(ファイナンシャルプランナー 藤原 久敏)
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