※本稿は、ジェームズ・パードウ著、中島早苗訳『エッセンシャル版 ウォーレン・バフェット』(サンマーク出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
■バフェットがハイテク株を買わない理由
バフェットの世界では、注目を集めるような派手な事業が投資の成功例になったケースはほとんどない。ロケットやレーザー関連の企業は少なく、煉瓦メーカー、塗料メーカー、カーペットメーカー、家具メーカー、下着メーカーの株を買ってきた。そういう企業の株が好きなのだ。
なぜなら、理解しやすく、事業が安定していて、キャッシュフローが予見できるからだ。そうした企業は人目を引くものではなく、魅力たっぷりなものでもない。質実剛健で、歳月が経ってもあまり変化しない──そういう企業が毎年着実に収益と売上高を伸ばしていくのだ。
バフェットは、ファイバースコープやコンピュータソフト、バイオテクノロジーといった最先端技術を喧伝しているニューエコノミー企業の株をもっていない。そういう新しい技術の場合、技術開発費用を出した投資家に儲けが入ることはめったにない、とバフェットは言う。たとえばラジオやテレビは確かにみんなの生活を変えたが、開発費用を出した投資家が報われることはなかったとバフェットは指摘する。
■セクシーな転校生より近所の女の子
ダンスパーティーに行くとしたら、どんなタイプの女の子と行くだろうか。
最近外国から引越してきた、だれもが魅力的だと思ってはいるが、本当はだれもその子のことを知らないような女の子と行くだろうか。
バフェットは近所の女の子と行くように、と言う。
うっとりするほど素晴らしい成長見通しを示すセクシーなニュービジネスに惑わされてはいけない。セクシーな見かけに惑わされると、正確な長期判断ができなくなる。魅力たっぷりのニュービジネスは、しばらくは華々しい成功を収めるかもしれないが、こける可能性も大きいのだ。
では、煉瓦、塗料、カーペット、家具をつくっている、いわゆる「近所の女の子」タイプの企業はどうだろう。こうした業種の製品は時代に取り残される心配がほとんどない。この先一〇〇年でも生きつづけるだろう。しかも、バフェットはそのなかから半永久的に競争優位と安定した収益力を保ちそうな企業を選ぶ。
三〇年のタイムスパンで考えろとバフェットは言う。三年ではなく、三〇年順調に成長してこそ優良企業と言えるのだ。
■この手の企業には、絶対に手を出さない
イートイズ・ドットコム、サイバーリベイト・ドットコム、コズモ・ドットコム、ペッツ・ドットコム、プラネットリックス・ドットコム、パンデシック・ドットコム──これらの企業の共通点はなんだろう。
オンラインで食料品の宅配事業を展開したウェブバン・ドットコムの時価総額は七五億ドルに達した。すごいことだろうか。確かにすごい。投資妙味はあっただろうか。確かにあった。ただし、うまく逃げきった人にとっては、だ。ウェブバン・ドットコムが倒産したとき、数十億ドルもの株主の富は文字どおり一夜で煙になった。
ハイテクも悪くないかもしれないとバフェットは言う──「ほかの人にとっては」というただし書きつきでだが。バフェットは、その業界のなかで、どこが、どうやって儲けるのかを理解できないところには手を出さない。逆に、長期的に高収益がつづくと確信できる事業を見つけたら、すかさず株を買う。
彼は、理解できないビジネスや、複雑だったり難解だったりして予測ができないものにはおカネを出さないという法則を守っている。
■ウサギ企業でなくカメ企業に投資する
彼の法則はほかにもある。
それは、すぐに楽々とお金持ちになれそうな新事業は疑ってかかる、ということだ。その会社の未来が大きく変わりそうな感じがしたら近づいてはいけない。その会社が、いつ、どのように収益を上げるのかを具体的に予測できないのなら──少なくとも自分が納得できる予測が可能でないのなら──近づいてはいけない。
バフェットは以前、「フォーチュン」誌が投資家向けに大企業一〇〇〇社の業績を評価した記事(一九八八年)を分析して、上位の企業の大半は平凡な事業だと指摘した。まさに、カメ、つまり、面白みのない企業が、ウサギのように魅力たっぷりでセクシーな企業を負かしていたのだ。
ハイテク企業への投資は、アメリカンフットボールで五〇メートル離れたところからボールを投げるクォーターバックのようなものだ。ごくまれには成功してみんなを有頂天にさせることもあるが、たいていの場合、パスは失敗に終わる。
バフェットは三メートル離れたところからボールを抱えてゴールに駆け込み、利益をたっぷり含んだ砂煙をあげるほうを選ぶ。
■投資戦略を向上させる“三つの心構え”
①変化の早い業界の企業を避ける
バフェットの秘訣のひとつは、自分が理解し、予見することができるビジネスモデルを備え、収益の伸びが予想可能な企業の株を買うことにある。最先端のハイテク企業に引き寄せられてはいけない。
②「オールドエコノミー」企業に投資する
バフェットは退屈で平凡な企業が大好きだ。一〇年先でも同じビジネスをしている可能性が高いからだ。五〇年前から生き延びてきた企業を見れば、どの企業が五〇年先まで生きるかを見極めるヒントが得られる。
③優良企業になるには数十年が必要だということを忘れない
長期的視野にたって考えよう。設立から二、三年、ロケットのように急上昇し、ある日突然、石ころのように落下する企業が多すぎる。新しい技術や競争相手が出てきたときに「つぶれる」おそれのある企業を選ばないように気をつけよう。
変化しないものを探そう。将来その企業に変化があるとしても、それは事業の拡大という変化だけだと思われる企業を探すのだ。
■「資産は分散すべき」のウソ
バフェットが「ノアの方舟」式投資と呼ぶ投資スタイルを避けよう。
「これを少し、あれも少し」と買うよりも、投資先を絞って、ひとつひとつの投資対象に注ぎ込む金額を増やすほうがいい。
ほとんどの「専門家」は分散投資を勧める。同時にたくさんの銘柄を抱えていれば、そのうちのどれかが急落してもポートフォリオ全体には響かないというわけだ。ウォーレン・バフェットは多かれ少なかれ、それとは逆の形をとっている。
分散投資、つまり多くの銘柄に振り分ける投資は必ずしも適正な形ではないとバフェットは言う。
バフェットは投資先を絞る戦略を採用している。ごく少数の銘柄に絞り、大量の資金を投入するほうを好む。せっかくこれだと思う株が見つかったのに、なぜ少ししか買わないのだろう。彼はハリウッドの大女優メイ・ウェストの人生哲学に賛同している。いわく、「良いものはいくらあっても良いものよ」。
集中投資の勧め──言い換えれば、分散投資の否定──が、バフェットの投資哲学のもうひとつのカギだ。これはウォール街の常識に逆らうものだが、ここまで読んできたあなたにはもう意外なことではないだろう。
■ノアの方舟投資はしない
ほとんどのブローカーは分散投資を勧める。
「すべての卵をひとつのバスケットに入れないように」とか、「ヘッジ(どれかがだめになったときの予防)が必要だ」とアドバイスする。「ノアの方舟」のように、考えられるすべての企業の株を二株ずつ買わせたいのだ。
だが、バフェットはちがう。投資先は五社から一〇社ぐらいの優良企業に絞り、それらのどれかが割安になったときにできるだけ大量に買うべきだと考える。
上位五社から一〇社の株を買わないで、なぜ二〇番目に良いと思っている企業の株を買うのかとバフェットは問いかける。
バフェットは、投資すべきだという確信をもてる企業があったら、ためらわない。そしてたいてい、巨額の資金を投じる。
コカ・コーラ株に一〇億ドルを投じたのを手初めに、二〇二四年に四億株を保有したし、アメリカン・エキスプレス株を一億五一〇〇万株購入した。中国の石油会社ペトロチャイナに四億八八〇〇万ドルを投じて、二〇億株以上を買い集めた。ちなみに、二〇〇七年にペトロチャイナ株のすべてを売却し、約三五億ドルを得ている(訳注1)。
■「集中投資戦略」の奇跡
二〇〇四年にバークシャー・ハサウェイが主に保有していた株の数はわずか一〇銘柄だった。たったの五銘柄だけという年もあった。適切な企業の株を適正な値段で大量に買う「集中投資戦略」が長期的に引き起こす奇跡を、バフェットは繰り返し実現させてきた。
バークシャー・ハサウェイの副会長だった故チャーリー・マンガーも、非分散化戦略の効果を確信していた。
事実、彼はさらに一歩進んで、「米国内で資産のほぼすべてを国内優良企業三社に長期間投じている個人または機関は、確実に資産を増やしている」とまで言っていた。バフェットとバークシャー・ハサウェイの驚異的な成功を説明するキーワードは、「忍耐」と「非分散化」だとマンガーは言った。
証券会社から、保有株を分散化するようにとか、少数の株に資金を投入するのはかなり危険だしポートフォリオのバランスが悪くなる、と言われたら、バフェットの資産が二〇〇六年に四三〇億ドルとなったのは、一企業の株を四七万四九九八株保有していたからだという単純な事実を思い出そう(訳注2)。
そう、バフェット自身はバークシャー・ハサウェイの株しかもっていないのだ。ベン・グレアムの場合は、GEICOの株が彼の資産の大部分を形成していた。「素晴らしい経営者が運営する優良な企業」の株をもつチャンスが訪れたときに、そのチャンスを掴まないのは大きな過ちなのだとマンガーは確信していた。
二七の投資信託、あるいは、二七の各種銘柄に分散投資するのではなく、優良企業の株が割安で買えるチャンスを待ち、チャンスがやってきたらそれに資金を注ぎ込むほうがずっといい。
■「集中投資」を成功させる具体的な3つの方法
①ポートフォリオには一〇銘柄以上組み込まない
専門家がなんと言おうと、分散化すればリターンが標準以下になる可能性が大きくなることを、バフェットは確信している。自分で綿密な調査を行い、少なくとも五年から一〇年もちつづけたいと思う企業を五社から一〇社見つけよう。それから、その企業の株が自分の狙っている値段に下がるのを待ち、そこまで下がったときに思い切りよく大量に買う。そして──ここがおそらく一番肝心な点だが──忍耐強くもちつづけよう。
②買おうとしている株の発行企業がバフェットの基準を満たしているかを確かめる
優れた経営者が率いる、(たとえ面白みがなくても)堅実な優良企業であることが肝心だ。現在の経営者の下でその企業がどんな業績をあげてきたかを調べよう。そういう企業を見つけたらすぐに買いたくなるだろうが、そこでぐっと我慢して、狙った株価になるまで待とう。
③勇気をもつ
バフェットは、彼の大きな投資の多くを、だれもがこわがって動かない不況のときや景気後退期に、勇敢に実行した。せっかく投資対象を絞っても、効果的なタイミングで投資できないと意味がない。
分散投資の逆を行く集中戦略には、投資対象に注意を集中させる効果もある。卵を入れるバスケットの数を少なくしておけば、一時的な衝動や気分で投資決定をするミスがぐんと減る。
(訳注1)バフェットは株価に基づく判断だと説明したが、当時は民族紛争問題でスーダン政府への非難が高まっており、スーダンで石油事業を展開していたペトロチャイナの株の保有を問題視する人々がいた。
(訳注2)バフェットは二〇〇六年に、保有するバークシャー・ハサウェイ株の九九%超を慈善活動に寄付することを誓い、五六・六%を慈善団体のビル&メリンダ・ゲイツ財団などに贈っている。
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ジェームズ・パードウ
弁護士
法律事務所パードウ・アンド・アソシエーツ筆頭弁護士。米国トップクラスの大学のひとつであるペパーダイン大学で法学士の学位を取得。バフェットの信奉者であり、彼に関して最も豊富な知識をもつ研究者の一人。
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(弁護士 ジェームズ・パードウ)