5月8日と9日に、天皇、皇后両陛下の長女、愛子さまが、大阪・関西万博を視察された。神道学者で皇室研究家の高森明勅さんは「敬宮殿下(愛子さま)のご発言、ご表情、しぐさ、立ち居振る舞いの優美さは、飛び抜けており、ご公務を通じて存在感がますます大きくなっている」という――。

■ご公務で広く伝わる愛子さまの輝きと存在感
天皇、皇后両陛下のご長女、敬宮(としのみや)(愛子内親王)殿下の輝きと存在感が、近ごろますます大きくなっている。これは、殿下がご公務などで人々の前にお姿を現されるたびに、等身大で自然体の敬宮殿下の魅力が、より広く伝わるためだろう。
敬宮殿下が、まさにそのお名前とご称号の通りに、多くの国民から愛され、敬われるのは、ことさら飾ろうとせず、ありのままでありながら、内面からにじみ出る誠実さ、お優しさ、ご聡明な品格の高さが、人々の心を打つからにほかならないだろう。
■万博の会場で起きた「愛子さまフィーバー」
先ごろの関西万博へのお成りの際は、図らずも「愛子さまフィーバー」が起きた。
敬宮殿下は5月8日・9日の両日にわたって、万博をご訪問になった。初日に純白のスーツ姿でお出ましになった敬宮殿下を一目見ようと、大勢の人たちが集まった。
大屋根リングで説明を受けられる殿下のお姿は、地上からはるかに遠く、小さくしか見えない。それでも驚くほど多くの人が詰めかけ、スマートフォンを片手に持って、下から熱心に見上げていた。
この時には、人気パビリオン前の長い行列も、人々が敬宮殿下の方に移動したために、並んでいる人が少なくなったという話も耳にした。
今回の万博へのお出ましでの敬宮殿下のなさりようから、人々が殿下に敬愛の気持ちを寄せる理由の一端が、見えてくる。
■「楽しみにしてまいりました」のメッセージ
敬宮殿下はわずか2日間の万博ご視察の間にも、キラキラ輝くような「ご発言」を多く残しておられる。
大阪に着かれて最初に、出迎えた吉村洋文・大阪府知事に会われた時のおことばは、「楽しみにしてまいりました」というもの。
“期待して心待ちにする”という意味のこの言い回しは、皇族のご発言としては極めて率直であり、新鮮なご発言として受け止めた人も多かったのではないだろうか。
一方、迎える側としてこれほど嬉しいメッセージは、ほかにちょっと思い浮かばない。
これは、もちろん殿下のご本心に違いない。だが、一般に地位や立場が高いと、えてして体裁を重んじるために、本心をそのまま表現するのを控える傾向がある。
しかし殿下は、令和の皇室で“唯一の皇女”という高い地位にあられながら、取り澄ましてお高くとまることなく、ご自身のお気持ちを素直に口にされた。
そのことで、最初に最高のメッセージを伝えられたことになる。
■夢は「世界平和」
より強いインパクトを残したのは、2日目にシンガポール館を訪れられた時のこと。自分の夢をタッチパネルに描くコーナーで、漢字4文字で「世界平和」と書かれた。
このニュースに触れて、「え、世界平和⁉」と驚いた人がいたのではないか。23歳の若者が“あなたの夢は何ですか?”と問われて、この言葉を選ぶということは、普通、想像しにくい。23歳でなくて、何歳でもそれは同じだろう。
スケールが大きすぎて実感が湧かない。

しかし、殿下は別に人を驚かそうとか、背伸びをしてカッコいい言葉を書いてやろうとか、お考えだったわけではない。「夢がかないますように」とおっしゃっていた通り、それがご本心なのだ。
しかも、それは急な思いつきではなく、以前からの願いだった。ただちに思い浮かぶのは、学習院女子中等科の修学旅行で初めて広島を訪れられた時のご感想を、「世界の平和を願って」と題した文章にまとめられていた事実だ。
そこには、次のような一文があった。
《空が青いのは当たり前ではない。毎日何不自由なく生活できること、争いなく安心して暮らせることも、当たり前だと思ってはいけない。なぜなら、(先の大戦の)戦時中の人々は、それが当たり前にできなかったのだから。日常の生活の一つひとつ、他の人からの親切の一つひとつに感謝し、他の人を思いやるところから「平和」は始まるのではないだろうか》(『学習院女子中等科卒業記念文集』平成29年[2017年])
このような感覚を持ち続けておられる殿下にとって、「世界平和」は日頃の実感からかけ離れた妄想でも何でもない。ご本人にとって地続きの切実な願いにほかならない。
この時のシンガポール館での出来事は、その事実を改めて私たちに伝えてくれた。
それにしても、何と気高い精神の持ち主でいらっしゃることか。

■「家族でよく話し合っています」
さらに見逃してはならないメッセージがある。それはやはり2日目に視察された「食を通じて命を考える」をテーマにしたパビリオン「EARTH MART」でのご発言だ。
「フードロスには心が痛みますし、一方で食糧が足りない地域もあり、このことをどうにか解決できないか、ということをよく家族で話し合っているんです」「『いただきます』という言葉が改めて大切だと思いました」
これらのご発言を通して、敬宮殿下お一人だけでなく、天皇、皇后両陛下を含む天皇ご一家の関心事として、「食べ物を粗末にしてはならないこと」と「“食”への感謝の大切さ」が伝わる。
敬宮殿下のご発言が大きく報道されたことで、このパビリオンに足を運んでいない多くの人たちにも、重要なメッセージが浸透する結果になった。
■「トリアージ」について重ねて質問
敬宮殿下が発される“言葉の力”は強い。それは平素から言葉を大切にし、特別な場面ではさらに言葉を練り上げておられるからだろう。
5月3日に開催された「第23回世界災害救急医学会」の開会式に臨席された時に、約600人の研究者や医療従事者を前に、来賓として初めて公式なご挨拶をされた。この時の「おことば」の内容の水準の高さに驚く人が多かった。
「災害医療の現場では、限られた資源と厳しい時間の制約の中で、一人でも多くの命を救うための難しい判断が求められます。

そして、急性期医療の提供にとどまらず、高齢者や障害者、外国人、妊産婦や乳幼児など、特にサポートを必要とする方々への支援体制の確立や、被災者の心のケアを含む健康維持のための中長期的な支援も不可欠です。

全ての人の尊厳が守られ、適切な医療や保健サービスを受けられる体制の構築は、非常に重要であると考えます」
専門的な知見を踏まえたご配慮の周到さが、抜きん出ている。
殿下は事前に御所において、災害医療センター病院長の大友康裕氏などから初めて単独で、ご進講を受けておられる(4月23日)。
これはご挨拶に向けて、万全の準備のためだった。
殿下は、令和5年(2023年)10月2日に両陛下とご一緒に日本赤十字本社を訪れ、開催中だった関東大震災100年企画展をご覧になったことがある。その時、解説にあたった職員に対して、ご自身から「トリアージ」について話題にされ、重ねて質問されるほど、この方面について前々から深いご関心をお寄せだった。
トリアージとは、災害が発生するなどして多数の傷病者が出た時に、それぞれの緊急度や重症度に応じて治療の優先順位を決定すること。綺麗ごとだけでは済まない救急医療の難しさを示すテーマだ。殿下の問題意識の真剣さがよく分かる光景だった。
■愛子さまは傘を持ち替えられた
敬宮殿下の魅力は、もちろんご発言だけではない。ご表情、しぐさ、立ち居振る舞いの優美さが、ご両親の天皇、皇后両陛下は別格として、皇室の中でも飛び抜けておられる。
今回のお出ましでも、大阪に着かれて吉村府知事の出迎えを受けられる場面で、殿下が穏やかに微笑まれるご様子が映し出された時に、それを拝見した人の多くが、自然と笑顔になっていたのではないだろうか。
2日目、殿下はさわやかな薄いブルーのパンツスーツをお召しだった。天気はあいにくの雨。しかし、雨だからこそ敬宮殿下のお人柄の素晴らしさが見えた場面もあった。

雨の中でも多くの人たちが殿下をお迎えしようと集まっていた。殿下はそのことに気づかれると、それまで右手に傘、左手にバッグと手袋をお持ちになっていたのに、即座に傘を持ち替えられ、左手だけで傘とバッグと手袋を器用にお持ちになって、空いた右手を振って人々に優しくお応えになられた。
その切り替えの流れがじつに淀みなく、自然で美しかったご様子から、敬宮殿下のつねに人々を思いやられるお人柄をうかがうことができた。
■一瞬で見せたさりげない思いやり
あるいは、殿下が屋外から屋内に入られる際に、それまで差しておられた傘を受け取る係の職員が手を差し伸ばした場面。殿下は相手が受け取りやすいように、ご自分の手の位置をスッと上にずらして、それまで握っておられた傘の取っ手の部分から、渡そうとされた。
ご移動の途中なのに、しっかりと相手の顔をご覧になり、受け取ってもらうことへの感謝を示すように一度、喜ぶご表情をされた上で、さらに笑顔で軽く頭を下げられる所作をなさった。これは普段から、よほど「他の人からの親切の一つひとつに感謝」する心の持ち方を積み重ねておられないと、瞬間的にはできないことだ。
だから殿下にとっては、傘の受け渡しという日常のささいな所作も、「世界平和」にそのままつながっているのだろう。
昨年10月中旬に初の地方での単独ご公務として佐賀県で開催された国民スポーツ大会にお出ましになった時も、殿下を出迎えた人たちに“笑顔の連鎖”が生まれた。
さらに今年4月下旬に行われた春の園遊会でも、敬宮殿下と接する招待者たちの笑顔が印象的だった。
敬宮殿下の所作、立ち居振る舞いは、マナー教室などに通って普通に努力してできるレベルではない。平素の心の持ち方、その基礎から違っている。

これは、皇室という「聖域」でお生まれになり、しかも皇室のど真ん中、聖域中の聖域というべき天皇、皇后両陛下のもとで、その薫陶を受けながら育ってこられたという事実が、決定的な意味を持っている。
■愛子さまは「直系」の9代目にあたる
皇室の系図を振り返ると、天皇陛下は江戸時代、18世紀の第119代・光格天皇以来の直系で、この血筋は8代にわたって受け継がれている。敬宮殿下はその9代目にあたる。
過去に15世紀から17世紀にかけて、第102代・後花園天皇から即位直前に崩御された誠仁(さねひと)親王をはさんで女性天皇だった第109代・明正天皇まで、直系の天皇が8代続いたことがあった。史実性が確かなケースでは、これが最も長く直系が受け継がれた例になる。
天皇陛下はそれと同じ8代目の位置におられる。しかもご両親にあたる上皇、上皇后両陛下が、皇子は親元から離れて育てられる皇室の古くからのしきたりを変更され、天皇陛下は「親子同居」という成育環境の中でお育ちになった。
その天皇陛下によって、敬宮殿下も親子同居で育てられた。敬宮殿下が身にまとっておられる独特な“オーラ”は、こうした直系の血筋と恵まれた成育環境を背景として、さらにご自身の心がけとたゆまぬ修養があってこそ、はじめてあり得えたものだろう。
■すでに「象徴」に近い存在感
そのような敬宮殿下が現におられる。にもかかわらず、ただ「女性だから」というだけの理由で、あらかじめ皇位継承のラインから除外される旧時代的な“男系男子”限定ルールが、今もうっかりそのまま維持されている。
このルールは単に時代錯誤なだけでない。少子化が進む一方で、人権意識もそれなりに発達した現代において、女性を男系維持の道具扱いする側室制度と“セット”でなければ持続可能性を期待できないという、構造的な欠陥を抱えている。
そのアナクロニズムな欠陥ルールを前提として、傍系による皇位継承を既定の事実のように見なすのは、とんだ思い違いだ。
さらに政治の世界では、80年近くも前に皇族の身分を離れ、すでに親より前の代から一般国民になっている男子を、法的な養子縁組の手続きだけで皇室に迎え入れ、その子孫には皇位継承の資格まで与えるという、まったく前例も正統性もない制度作りが、画策されている。
しかし、天皇という地位が「国民統合の象徴」であり、その地位が「国民の総意」に基づくべきものであれば、直系継承を願う多くの国民の気持ちを無視することは、許されないはずだ。
敬宮殿下は、天皇、皇后両陛下のお気持ちを皇室のどなたよりもまっすぐに受け継がれることで、法律の改正に先がけて、すでに実態としては「国民統合の象徴」に近い存在感を示されつつある。

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高森 明勅(たかもり・あきのり)

神道学者、皇室研究者

1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録

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(神道学者、皇室研究者 高森 明勅)
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