成果を出すチーム作りのコツは何か。エグゼクティブ・コーチの林健太郎さんは「スーパースター揃いでも、お互いがチームの成功や目標達成のために力を合わせられる能力(ポジティビティー)がないと、成果が出づらい。
こうしたチームのポジティビティーを上げるには、中長期的投資として業務に関係ない話をすることだ」という――。
※本稿は、林健太郎『チームが「まとまるリーダー」と「バラバラのリーダー」の習慣』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■夫婦間で「とっさの助け合い」ができているか
チームがまとまるリーダーは「ポジティビティー」を醸成し、

バラバラのリーダーは「生産性」のみ追求する。
私の「リーダー育成」活動の中で、「いいチームに欠かせない要素とは何か」は最大の関心事の1つです。
7年前、エスノグラファーとして活躍する友人・神谷俊さんに、とある調査を依頼したことがありました。そのテーマは、「仲のよい夫婦とそうでない夫婦の、コミュニケーションパターンの違い」。
エスノグラファーとは、特定の現場に入り、そこに属する人々の行動を観察・分析する仕事です。神谷さんは知人夫婦4組を訪れ、一定期間滞在することに。
調査後の報告は、意外なものでした。「会話パターン」には、仲よし夫婦も、そうではない夫婦にも特に違いはなかったのだそう。
しかし、仲よし夫婦には必ず「即興的相補性」があったという報告を受けました。
即興とはご存じの通り「とっさに」の意。
相補とは、助け合うことです。
たとえばお子さんが泣き出したとき、「今手が離せないから、あなたお願い!」と言われて夫が快く応じるケースもあれば、「え、いきなり言われても」と戸惑うケースも。その違いは、夫婦関係の良好度と明らかに相関していたそうです。
さて、どうでしょう。皆さんのチームには即興的相補性、ありますか?
「自分は悪くありません。彼がチームの足を引っ張ってるんです」「なんで私が彼女をカバーしなきゃいけないの」なんて言葉が飛び交っているなら、かなりバラバラです。
■いいチームを形成する2つの要素
ちなみに「相補」には2つの要素があります。
1つは、相手のやっていることを肩代わりして実行する「能力」や「知識」。
たとえば、ゴミ捨てであれば、燃えるゴミは何曜日か知っていることだったり、集積場がどこかわかっていること。そして、もう1つの要素が「それをやりたいか」という要素です。能力や知識があっても、「その気」がなければ相補できないわけです。
なんとなく、皆さんの生活の中でも、そんな経験、思い当たりますよね?
即興的相補性について少し別の角度から、フレームワークを使って考えてみましょう。

いいチームを形成する要素は、「生産性」と「ポジティビティー」の2軸で考えるとわかりやすいと言われています。簡単にこの2つの要素を解説していきましょう。
生産性については、リーダーは常に意識するでしょう。しかし、同等にポジティビティーも重要だと知っていましたか? それを示すのが、図表1です。
ポジティビティーとは、お互いがチームの成功や目標達成のために力を合わせられる能力のことで、日本語では「ともに働ける能力」と定義しています。
縦軸が生産性。「個」として仕事ができる能力です。横軸がポジティビティー。「チームとともに」働ける能力です。
■仲の悪いスーパースターぞろいのチームを開花させるには
①は、両方が高い理想のチーム。③は両方が低いバラバラのチームです。
④は、いわゆる仲よしクラブ。
「結果なんか出なくても、楽しければいいじゃん!」という雰囲気のチームです。楽しいのは何よりですが、仕事の上では少々難アリです。
②も考え物です。こちらは「スーパースターぞろいだけれど、メンバー同士の仲は険悪なスポーツチーム」のようなもの。これはこれで、成果が出づらくなります。
自分の成績がよければいい、チームの成果はどうでもいい。個々のメンバーが「部分最適」だけを追求し、「全体最適」を考えないチームになってしまうのです。
とはいえこのチーム、ポジティビティーさえ上がれば、爆発的に開花しそうでもあります。それには、どうすればいいのか。次はその方法をお話ししましょう。
個々の能力育成だけでなく、

「ともに働ける能力」を育てよう。
■雑談が中長期的投資である理由
チームがまとまるリーダーは雑談でウォームアップし、

バラバラのリーダーはいきなり業務の話をする。

ポジティビティーを育てる極意は、雑談をすることにあります。
「寒いね~!」「エレベーター、やたら混んでたね」「ランチ、どこで食べた?」など、業務に関係のない会話を、リーダーから投げかけていくことが第一歩です。
業務に関係ないことを話すなんて、無駄だと感じますか?
あながち、そうとも言えないのが、チームという単位の面白いところ。
3カ月程度の短期プロジェクトなら、雑談ゼロでも、目的は達成できるでしょう。
しかしそのチームが長期間続けば、必ずどこかの時点でバラバラになります。「この人たちと仕事すると楽しい、役に立ちたい」と思えないからです。
つまり雑談は、中長期的投資です。長く一緒に働くなら、親しみのある関係性を作り、メンバー1人ひとりの「貢献欲求」を育てることが必要なのです。
イメージとしては、育てるというより、「燃料に火をつける」に近いかもしれません。貢献欲求は、人間にもともと備わった欲求(燃料)だからです。
「そんな欲求、私の部下からは全然感じませんけど?」と思うなら、それはたぶん、あなたが水をかけて消火しています。せっかくなら、「消火」ではなく、あなたには「着火」の役割を担ってほしいなと思います。

■雑談1度あたりに「少し温めるだけ」
部下はほかの同僚や後輩に対しても「役に立ちたい」と感じていますが、とりわけリーダーに対しては、その思いを強く抱きます。
なぜなら、リーダーは1番目立つからです。自分に指示を出し、指導し、評価をつける存在だからです。彼らは、リーダーの言動に一喜一憂します。「憂」が続くと「あの人のために働く気になれない!」と、ネガティブ感情に反転することも……。
なお、1回の雑談でいきなり炎は上がりませんし、その必要もありません。
雑談1度あたりでは、「少し温めるだけ」で十分です。
これは運動前のウォームアップと同じ。仕事に向かう準備を整えるプロセスです。
ここでもう1つ、リーダーが見落としやすいポイントをお伝えしましょう。
リーダーと部下との間には、準備状況にギャップがあります。
リーダーは指示や説明を行う立場なので、もともと準備がいい状態です。
通勤中から仕事モードに入り、1日の流れをシミュレートする方も多いでしょう。
対して部下は、始業の1秒前までプライベートモードだったりします。そこへいきなり「あの件、どうなった?」と聞かれても、すぐにはエンジンがかかりません。
寒い部屋で暖房をつけても、温風が出るまでしばらくかかりますよね。そんなイメージで、部下のウォームアップを手伝いましょう。「雨、やんでよかったね」「あの店、朝からすごい行列だったね」といった会話を、1分程度交わせれば十分です。
■仕事の本題に入る前に1分程度の「小話」を
覚えておきたいのは、「すぐに仕事の本題に入らない」ということ。
私は研修講師として登壇することも多いのですが、我々講師も、本題に入る前に1分程度の「小話」をします。
「今日は○○線で来たんですが、ある駅で一気に大勢降りた拍子に1人が転んで、一瞬、将棋倒しみたいになりかけたんです。私も巻き込まれそうになって、焦りました……。さて、こういう場面でいかに自分の心を平静に保つか。それが今日お話しするテーマ、『レジリエンス』です!」という風に。
こうした小話のレパートリーを、日ごろから増やしておきましょう。
おすすめは、芸人さんのように「ネタ帳」を作ることです。
「そんなレベルの高いこと……!」と恐れなくても大丈夫。芸人さんだって、元ネタ自体は特に面白い話ではないはずです。何でもない出来事を脚色して話にしているのです。
まして雑談なら、本当にたわいないネタでOK。テレビやネットで見かけた情報、通勤途中で見かけたもの、小耳にはさんだ話など、少しでも関心を引かれたことをそのつど書き留めておけば、チームを温める準備は万全です。
たわいのない会話で場を温め、

貢献欲求の高いチームを育てよう。

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林 健太郎(はやし・けんたろう)

否定しない専門家/コーチ

2 万人以上を指導したコーチ。リーダー育成家。ナンバーツーエグゼクティブ・コーチ。一般社団法人国際コーチ連盟日本支部(当時)創設者。1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、エグゼクティブ・コーチングの草分け的存在であるアンソニー・クルカス氏との出会いを契機に、プロコーチを目指して海外修行に出る。帰国後、2010年にコーチとして独立。これまでに大手企業などで2万人以上のリーダーに指導してきた。否定しないコミュニケーション術をまとめた『否定しない習慣』(フォレスト出版)が14万部を超えるベストセラーになる。このほか『できる上司は会話が9割』『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか?』『できるリーダーになれる人は、どっち?』(いずれも三笠書房)、『いまを抜け出す「すごい問いかけ」』(青春出版社)など著書多数。

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(否定しない専門家/コーチ 林 健太郎)
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