お客様や目上の人を配慮する際に、知っておくべきマナーは何か。ANAの元CAで研修講師の三上ナナエさんは「基本的に、出入り口に近い席がいろいろと気を遣って動きやすいため『下座』である。
ただ、調度品が飾られていたりする場合など、例外もある」という――。
※本稿は、三上ナナエ『一生使える「敬語&ビジネスマナー」』(大和出版)の一部を再編集したものです。
■お茶を正しく出せるのも、仕事の1つ
最近では、お茶出しはペットボトルの会社がほとんどですが、場合によっては器を使うこともあるでしょう。
どちらでも、所作を整えてスムーズに進めなければなりません。
まず、ペッドボトルでお出しする際の注意点をみていきましょう。
常温も用意しておくと喜ばれる
持ち帰ることができるペットボトルは、喜ばれる傾向です。
特に女性は、常温で飲みたい方も多くいるので、冷えたものと常温のもの、どちらがよいか伺うと喜ばれるでしょう。また、冷えているペットボトルには、コースターをひいておくとテーブルが濡れません。
ペットボトルはコップとセットで
基本的には、ラッパ飲みさせないためにコップをお出しします。
ガラスのグラスがもちろんいいですが、紙コップでも問題はありません。
その際、ペットボトルに紙コップをかぶせると、手で触ったところに紙コップの内部が触れるので気になる方もいるでしょう。
そこで、紙コップはペットボトルの横に添えてお出しします。

紙コップに埃が入るのが気になるのであれば、紙コップを2重にしてペットボトルにかぶせます。
■器を使ったお茶出しの極意
お盆の上に、お茶を入れたお茶碗と茶托を別々に置いて運びます。
茶托にお茶碗を乗せた状態で運ぶと、こぼれた水滴で茶托が濡れるからです。
あわせて、お茶碗の底をふくフキンも持っていきます(お盆を持っている下の指に挟むといいでしょう)。お盆は胸の高さの位置をキープすると、お辞儀をした際にバランスを崩しにくいです。
①片手でお盆を持ちながら、もう一方の手でドアを3回ノックして、「失礼いたします」と声をかけてから入室。ドアは静かに閉める。
②サイドテーブルにお盆を置いて、お茶を出す用意を始める。
サイドテーブルがない場合は、「こちらに失礼します」とつぶやき、テーブルの端(下座である入り口側)で用意する。
③お盆の上で、茶托にお茶碗を乗せる。お茶碗の底に水滴が付いていることがあるため、拭いてから乗せる。
④お出しする順番はお客様から先に、上座の順。

お客様の右後ろから右側に、「どうぞ」と言葉を添えて両手でお出しする。
部屋の状況によってそれが難しいときは「こちらに失礼いたします」「こちらから失礼します」など、話の邪魔をしないように、小さな声で補足する。
⑤お盆を脇に挟み「失礼いたします」と一礼して、速やかに退出。
■美味しいものは記憶に残りやすい
ある気心の知れたお取引先に行くと、とても美味しいお茶が出ます。
「いつも美味しいです」とお礼を伝えると、「実はお茶を淹れてくれるAさんが、いつもひと手間かけて淹れてくれるので、とても喜ばれることが多いんですよ」と教えてくれました。Aさんにお話を伺うと「子どもの頃から家でやっている通りなので、あまり意識していなかったです」とのこと。
ビジネスでは、お茶を出すこと自体が歓迎を伝えること。
ホテルのラウンジとは違うので、そこまで質は追求しなくてもいいかも知れませんが、お茶が美味しいと、それだけで記憶に残るから不思議なものです。
POINT

たかがお茶出し、されどお茶出し。

丁寧さが伝わると相手の印象にも残る
■「席次」を頭に入れて、スムーズな案内を
座る順番や座る場所のことを「席次」と言います。
ビジネスにおいて、席次にはいくつかの決まりごとがあるため、それを頭に入れておかないとなりません。
なぜ覚える必要があるのか、それはお客様や目上の人を配慮する際に、欠かせないマナーだからです。

もし上司の席にあなたが座っていたら、「ビジネスマナーの基本も知らないなんて……」と思われるでしょう。位置だけでなく、考え方も一緒に押さえておくと、覚えやすくなります。
まず、席次の考え方を押さえましょう。
基本的に、出入り口から遠いほうが「上座(お客様や目上の人が座る席)」になります。
それはなぜか、出入り口は人の出入りが多く、落ち着かない場所でもあるので、「どうぞゆっくりとお過ごしください」という配慮からです。
逆に、出入り口に近い席が「下座(お客様をおもてなしする人が座る席)」です。
入り口付近にいれば、いろいろと気を遣って動きやすいためです。
■椅子の種類や景観で上座の位置が変わることもある
ただ例外もあります。
例えば、調度品が飾られていたり、窓の外の景観がよい場合は、出入り口側に上座を設定していることもあります。
応接室であれば、三人がけのソファーがあるほうが上座になります。なお、椅子の種類にも順番があり、「①長椅子、②一人用肘かけがある椅子、③背もたれのみの椅子、④背もたれのない椅子」の順番で上座になります。
また、プロジェクターがある場合は、画面を見やすい位置が上座です。

席次に関して社内の取り決めがあれば、確認しておきましょう。
■エレベーターやタクシーにも席次はある
エレベーターにも基本の席次はありますが、こだわりすぎると乗り込むのに時間がかかるので、ポイントを押さえましょう。
まず、「空間には先にお客様が入る」という考え方があるので、「乗り込む際に中に人がいれば(操作している人がいれば)目上の方が先に乗る」と覚えます。
乗り込む際に人が誰もいなければ、安全を優先して先に入ります。「お先に失礼します」と会釈をしながら入り、「開」ボタンを押して迎え入れます。
タクシーの場合は、安全な席と言われる「運転席の真後ろ」が上座になります。若手社員は、道案内をしたり、精算をしたりするので助手席に乗ります。
ただ乗り込む際に、奥まで移動するのが大変な場合もあるでしょう。
以前、スカートを履いて手荷物も多かったときに、ある取引先の方が「三上さん、奥まで乗り込むのが大変だと思うので、私が先に乗りますね」と配慮してくださったことがありました。
席次という考え方では間違っているかもしれませんが、その細やかな配慮には、それ以上の気持ちのこもったマナーを感じました。
私自身も手前に乗ることができて、とても助かったのを覚えています。
■どんな場面でも配慮の一面を
会食や飲み会でも、「上座は出入り口から遠い座席」という考え方は変わりません。

下座では、注文などお店の人とコミュニケーションを取ります。
ただ、しつらえによっては、少しわかりづらいときもあります。
大事な食事会は、事前に写真で見たり、お店に出向いて確認しておくと安心です。
もしくは当日、スタッフの方に「こちらお客様でございます。ご案内をお願いいたします」とひと声かけ、お店の方に上座に案内してもらうのも1つです。
POINT

基本は「出入り口から一番遠い席が上座」と覚えておこう

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三上 ナナエ(みかみ・ななえ)

元CA・人材教育講師

新卒でOA機器販売会社に入社し、販売戦略の仕事に携わる。その後、ANAに客室乗務員として入社。チーフパーサー、グループリーダー、OJTインストラクター、客室部門方針策定メンバーを経験。ANA退社後は、研修講師として活動。著書に『仕事も人間関係もうまくいく「気遣い」のキホン』『マンガでわかる!仕事も人間関係もうまくいく「気遣い」のキホン』『気遣いできる人は知っている! 会話のキホン』(以上すばる舎)、『ビジネストラブル脱出フレーズ80』(学研プラス)、『仕事の成果って、「報・連・相」で決まるんです。』(大和出版)などがある。

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(元CA・人材教育講師 三上 ナナエ)
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