生成系AIは仕事のどんな場面で活用できるのか。麗澤大学工学部教授の宗健さんは「授業の文字起こしと要約づくりから英語メールの作成、壁打ち相手まで、様々な場面で生成系AIを活用している。
手作業との差は明らかで、特に有料版のメリットは大きいと感じる」という――。
■日本での生成系AIの利用率はわずか9%
総務省が2024年7月に発表した「令和6年版情報通信白書」では、世界中で急激に利用が進んでいる生成系AIの各国の利用状況が記載されている。
もととなった調査は、総務省がNTTデータ経営研究所に委託して行った「デジタルテクノロジーの高度化とその活用に関する調査研究」で、主要国の利用率は、1位の中国が56.3%、2位の米国が46.3%、3位の英国が39.8%、4位のドイツが34.6%なのに対して、日本はわずか9.1%の利用に留まっている。
日本での生成系AIを使わない理由としては、「使い方が分からない」41.2%、「自分の生活には必要ない」39.9%が飛び抜けて多かった。
■仕事における利用意向も大きく異なる
「仕事において今後生成AIが担う役割」に対する回答も以下のように日本は利用意向が極端に低くなっている。
・「単純・非効率な仕事を生成系AIに任せる」日本19.4%、米国38.5%、中国48.8%
・「専門的なスキルや知識の不足を補ってくれる」日本14.5%、米国25.6%、中国39.2%
・「AI導入を前提とした新たなスキルを身につけなければならない」日本15.0%、米国27.3%、中国35.6%

これだけ、生成系AIの利用状況が違うと、日本がさらに世界から取り残されていく可能性があると心配せざるを得ない。

補注:ただし、この調査の回答者属性を確認すると、回答者数は日本が1030名、米国、中国、ドイツ、イギリス各国が520名と非常に少ない。回答者が都市中心部(市区におけるビジネス・商業集積エリア)に居住している割合は、日本19.9%、米国42.1%、中国75.8%、ドイツ30.8%、イギリス32.9%となっており、その比率は国によって大きく違う。年齢は20歳代から60歳代以上の5区分に均等に割り当てられているが、性別・職業・学歴・年収等の詳細は報告書には記載されていない。こうした回答者属性の違いを考慮すれば、日本の生成系AIの利用率が9%というのはもっと高い可能性がある。こうした調査結果を用いて論評するときには、原本にあたりその調査結果に含まれるバイアス(調査では必ずバイアスが含まれる)がどの程度なのかを評価する必要がある。
■文字起こし、要約、英語メール作成、壁打ち相手まで…
筆者は大学でプログラミングやプロジェクトマネジメントといった科目を担当し、ゼミも運営していて様々な場面で生成系AIを使う。


例えば以下のような使い方がある。
・授業録画システム(麗澤大学工学部では工学部校舎での全ての講義が自動的に録画され、学生も教員も後で自由に見返すことができる)から、動画ファイルをダウンロードして、その動画ファイルから音声データを分離し、その音声データを文字起こしして、文字起こしデータを要約する、という一連の作業のやり方を生成系AIに教えてもらう。
・講義内容に応じた小テストを生成系AIに作ってもらう。
・講義に対する感想文(レスポンスシート)の内容を要約してもらう。
・プログラミングの授業で、学生に生成系AIでコードを書かせて実行させ、そのコードの内容を説明することでプログラミングを理解させる。
・自分の研究のためのローデータを処理するためのプログラムを生成系AIに書かせる。
・学園祭の模擬店の店名を生成系AIに考えてもらい、ロゴ画像を作ってもらう。
・学園祭でカレー屋をやるための、やることリストを生成系AIに作ってもらう。
・欠席の多い学生に対する対応策を考える時に、生成系AIに壁打ち相手になってもらう。
・英語メールを作ってもらう。
・シンポジウム配信のために使用するビデオカメラや映像スイッチャーの使い方を生成系AIに教えてもらう。

■手作業との差は明らか
一般的にも、例えば、町内会やサークルの会員リストがExcelで管理されていて、姓名がスペースで区切られているものを、姓名で分離したい場合などに使える。
ExcelのVBA機能をオンにして、何度か生成系AIと対話すれば、全くのプログラミング未経験者でもプログラムを書けるようになっている(このやり方は本連載の17回目で簡単に説明している)。
やってみれば簡単に実感できるが、手作業との差は歴然としており、処理時間も心理的負担も劇的に減少する。
しかも、生成系AIはプロンプトと呼ばれる指示文を日本語で入力するだけなので、WordやExcelのように操作方法を覚える必要がほとんどない。
もちろん、正確な回答を得るためのプロンプトを書けるようになるには、正しい日本語の運用能力とある程度の経験が必要だが、そんなに難しく考える必要もない。
■無料版と有料版は全然違う
主な生成系AIには、ChatGPT、Gemini、Claude、Copilotなどがある。
ChatGPT、Gemini、Claudeは、基本的にはWEBベースのサービスで、無料版と有料版に分かれている。ChatGPTは有料版がさらに月20ドルのもの(Plus)と200ドルのもの(Pro)に分かれているが、実際使ってみると全然違うことが分かる。
例えば、文章を要約する場合、無料版では容量の制限があり、要約の満足度もイマイチだ。それが、月額20ドルのPlusでは「すごく使えるな」となり、月額200ドルのProでは「これはもう敵わないな」という感じになる。
Microsoft 365 Copilotはウェブでも使えるが、MicrosoftのOffice365とシームレスに使えることが特徴だ。
どの生成系AIをメインで使えばいいかは、職種や仕事の内容によって変わるため、一概にこれだという結論は出せないが、有料版のほうがメリットは大きい。
問題は、その費用を誰が出すか、だ。

■月額数千円のコストはすぐに取り戻せる
生成系AIの利用料金を所属している組織が負担してくれる場合はそうすればいいが、組織では負担してくれない場合にどうすべきか。
結論としては、個人で負担することも考えるべきだろう。
その大きな理由の一つは、個人で負担した月額数千円のコストは、すぐに取り戻せるからだ。
生成系AIは、仕事の様々な部分に適用可能で、例えば、会議などの音声データを文字起こしし、それを要約することなど数分で可能だ。
特に文字起こしは、生成系AIが出てくるまでは、かなりのコストを支払って外注するものだった。そのため会議の議事録作成などは、個人がメモをとり、それをまとめるといった手順を踏む必要があった。
しかも、メモをもとに議事録を作成するのに数時間かかることも珍しくなく、ストレスも大きかった。それが月額数千円を払うことであっという間に終わるのだから利用しない手はない。
仕事のためのコストであり、本来は自分が払うものではない、という意識もあり、月額数千円を個人で負担することへの心理的抵抗感は強いとは思うが、飲み会1回程度の費用で大きくストレスが減少するのだ。
しかも、解約はすぐにできるのだから、だまされたと思って一度体験してみることをオススメする。
筆者は、月額200ドルのChatGPT Proを使っているが、最初からProを使う必要はもちろんない。Plusを使ってみて、さらに専門的な仕事に使いたいと思ったときに考えれば良い。

■生成系AIの利用が組織で禁止されている場合
とはいえ、組織によっては生成系AIの利用が禁じられている場合もある。その場合は、少なくとも組織から支給されたパソコンで生成系AIを利用することは避けるべきだ。
生成系AIを使うことにリスクを感じる組織は多く、リスクとして考えられることには以下のようなものがある。
・ハルシネーションリスク。生成系AIの回答が間違っているリスク。
・著作権・知的財産権侵害のリスク。ウェブ上に公開されている情報をもとにしているが、生成系AIが著作権上認められていない情報源の内容を表示する場合がある。
・生成系AIに入力した情報が漏洩してしまうリスク。例えば取締役会の発言録を入力して要約させた場合、その内容が他者への回答に含まれてしまうリスクがある。

特に問題なのは、3点目の情報漏洩リスクで、これが大きな理由となって利用を禁止している場合がある。2024年5月21日の日経新聞の記事によれば、「サイバーセキュリティー上の懸念から生成AIの利用を一部制限している企業や組織は54%に上り、2023年末の世界調査の32%を上回った」とのことだ。
ChatGPTの設定でも、「設定>データコントロール>すべての人のためにモデルを改善する」をオフにすると、入力された内容のセキュリティは保たれるはずだが、不安に思う人はいるようだ。

■個人のパソコンで「一般的な内容」の助けを求める
また、リスクではないが、生成系AIの回答はウェブ上に公開されている情報をもとに作成しているので、ウェブ上にない情報に関しては回答に含まれない可能性がある。これはいわゆる暗黙知であることが多い。
では、どうすればいいのか。一つの答えは個人パソコンからの利用だ。
業務用パソコンからの情報の持ち出し(USBメモリでの持ち出し、個人メールアドレスへの送信など)はもちろん厳禁だが、個人の記憶の範疇で、情報漏洩にならないような一般的な内容について生成系AIの助けを求めることのリスクは比較的小さい。
例えば、イベントの企画を任された場合に、イベントの内容によってどんなことを準備しなければならないかを生成系AIに個人のパソコンから問い合わせることは、そういった知識を持つ友人に電話で話を聞くことと大差ない。
■仕事と仕事以外の境界が曖昧な時代が来た
生成系AIを使うかどうか、生成系AIの利用料金を個人負担すべきかどうか、など、以前では考えられなかったようなことに悩まなければならない時代になっている。
2000年よりも前のパソコンすら普及していなかった時代には、そんなことを考える必要もなく、ボールペンから定規まで会社が支給していたものだけで仕事ができた。
2000年以降はインターネットが普及し始めたが、会社がネットの利用やメールの利用を制限することはほとんどなかった。
しかし、いまでは生成系AIを使える組織と使えない組織があり、生成系AIに限らず、様々な仕事に必要なコストを組織が全て負担してくれるとは限らない時代になった。
要は、仕事と仕事以外の境界が曖昧な時代が来たわけだ。
だとすれば、個人の側も、ここまでが仕事、ここからは仕事といったように線を引くのではなく、今必要かどうか、自分にとって必要があるかどうか、将来に繋がるかどうかといった観点で、自分のために自分のお金を使う、と考えた方が、これからの時代に適応できていくだろう。

行っておいたほうが良いと思う展示会の数千円の参加費、業界内の勉強会のあとに開かれる数千円の懇親会費、作業効率を劇的に上げる2万円程度の拡張モニター、知識だけではなく教養のための本の購入費、月額数千円の生成系AIの利用料金などを会社が負担してくれないからといって何もしなかった人と、自分のために必要だと判断して自己負担した人の数年後、10年後を考えれば、どちらがより成果を出せる人材になっている可能性が高いかは自明だろう。
月額数千円が自分の将来を左右する時代になったとも言えるのだ。

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宗 健(そう・たけし)

麗澤大学工学部教授

博士(社会工学・筑波大学)・ITストラテジスト。1965年北九州市生まれ。九州工業大学機械工学科卒業後、リクルート入社。通信事業のエンジニア・マネジャ、ISIZE住宅情報・FoRent.jp編集長等を経て、リクルートフォレントインシュアを設立し代表取締役社長に就任。リクルート住まい研究所長、大東建託賃貸未来研究所長・AI-DXラボ所長を経て、23年4月より麗澤大学教授、AI・ビジネス研究センター長。専門分野は都市計画・組織マネジメント・システム開発。

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(麗澤大学工学部教授 宗 健)
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