※本稿は、グレッグ・マキューン『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■「これだけは」ということだけを実行する
エッセンシャル思考の人は、そうでない人よりも多くの選択肢を検討する。
逆説的だが、それが事実だ。
非エッセンシャル思考の人はあらゆる話に反応し、何でもとりあえずやってみる。
だから多くのことに手を出すが、すべて中途半端な結果しか得られない。
それに対してエッセンシャル思考の人は、何かに手を出す前に、幅広い選択肢を慎重に検討する。そして「これだけは」ということだけを実行する。行動を起こす数は少ないが、やると決めたことについては最高の結果を出す。
■5つの必要なこと
本当に重要なものごとを見極めるために必要なことは5つ。
じっくりと考える余裕、情報を集める時間、遊び心、十分な睡眠、そして何を選ぶかという厳密な基準だ。
非エッセンシャル思考の人は、これら5つをとるに足りないものだと考える。あればいいという程度の贅沢品、あるいは無能の証拠。
「もちろん考える時間があればいいと思うけれど、あいにく仕事が忙しくてね」
「この会社に入ったからには、睡眠不足は覚悟してください」
「遊び心なんてふざけたことを言ってないで、さっさと働けよ!」
忙しく動きまわることを有能さの証だと思っている人は、考えたり眠ったりする時間をなるべく減らそうとする。しかし本当は、立ち止まる時間こそが、生産性を高めるための特効薬だ。立ち止まる時間は無駄な寄り道ではなく、前に進むための最短コースを教えてくれるのである。
エッセンシャル思考の人は、なるべく時間をかけて調査・検討し、意見を交わし、じっくりと考える。そうすることで初めて、本当に重要なものを見極めることが可能になるのだ。
■落ち着いて考えるための時間を確保する
フランク・オブライエン、起業家。彼の創業したマーケティング会社「カンバセーション」は、ビジネス誌『インク』の選ぶ「アメリカでもっとも急成長をとげた民間企業」にランクインした優良企業だ。同社は慌ただしい世の中に対抗し、おもしろい取り組みをおこなっている。
月に一度、オブライエンは50名の社員全員を会議室に集め、丸一日の集中セッションを実施する。電話は禁止。
なぜそんなことをするのかというと、落ちついて考える時間が必要だからだ。つねに電話を待っていたら、まともにものが考えられない。ときどき窓口を閉ざして、何が本当に重要なのかを検討しなくてはならない。オブライエンはこう述べている。
「ひと息ついて、まわりを見渡し、考える時間が必要なんです。それがなければ、イノベーションも成長も不可能です」
さらに彼は、このセッションが仕事の質のバロメーターになると語る。
「もしも『忙しすぎてセッションに出られない』と言う人がいたら、それは無駄な仕事が多すぎるんです。
忙しすぎて考える時間もないなら、それは仕事が多すぎる。シンプルな理屈だ。
多数の瑣末なことのなかから少数の重要なことを見分けるためには、誰にも邪魔されない時間が不可欠だ。ただし、この忙しい世の中で、そんな余裕が自然に生まれるわけがない。あえて時間をとらなければ、誰も考える余裕など与えてくれない。
■調査と検討に時間をかける
ある企業でマネジャーをつとめていた男性は、あと5年早く辞めるべきだったのに、と後悔していた。業務があまりに忙しすぎて、その会社にいるべきかどうかを考える余裕がなかったのだ。そのせいで、貴重な時間をずいぶん無駄にしてしまった。
また、ある国際的なIT企業の副社長は、週に35時間もミーティングをしていると嘆いていた。あまりにミーティングばかりしているので、まともにものを考える時間がない。自分のキャリアも企業の展望も見えないまま、目の前の瑣末な問題に追われ、いつ果てるともしれないプレゼンや議論にどんどん時間を奪われていく。
何事も、まず選択肢を調べないことには、本質を見極めることはできない。
非エッセンシャル思考の人は、とにかく目の前のことに反応する。聞いたばかりのチャンスに飛びつき、読んだばかりのメールに返信する。だがエッセンシャル思考の人は、すぐに飛びついたりしない。調査と検討にたっぷり時間をかけることを選ぶ。
■誰にも邪魔されない環境が必要
私の知り合いに、優秀なのに注意散漫な会社役員がいる。いつ見てもツイッターとGメールとフェイスブックといくつかのチャットを同時に開いているような人だ。集中するためにインターネットの線を抜いてみても、やはりスマートフォンやら何やらでサイトを見てしまう。
あるとき重大なプロジェクトに追われていた彼は、思いきってインターネットのつながらない安宿に泊まり込むことにした。携帯電話も持たず、まったくのオフライン環境だ。そこで2カ月過ごした結果、いつになく効率的にプロジェクトを終わらせることができた。
そこまでやらなければならないのも考えものだが、彼のやったことは間違っていない。
あのアイザック・ニュートンも、万有引力を論じた主著の執筆に際し、2年間ほとんどひとりきりで引きこもっていたらしい。近代物理学の基礎となる偉大な理論は、その孤立した場所から生まれた。リチャード・S・ウェストフォールによる伝記には、次のように記されている。
「どうやって万有引力の法則を発見したのか、との問いに、ニュートンは『考えつづけていたんだ』と答えた。……考えつづけるといっても、並大抵のレベルではない。彼はそのことだけを、ひたすら考え抜いていた」
■本を読む時間をつくる
マイクロソフト社創業者のビル・ゲイツも、1週間の「考える週」を定期的にとっていたことで知られている。じっくりものを考え、本を読むための時間だ。
私は以前、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の本部で開かれた質疑応答セッションに参加したことがある。そのときゲイツはちょうど「考える週」を終えたばかりだった。このときに知ったのだが、彼は80年代からずっとこの習慣をつづけており、会社が急成長してからも中断することはなかったという。
マイクロソフト社が時代の寵児となり、忙しさのピークにあったときも、ゲイツは年に2回ほど時間をつくって1週間仕事を離れた。
1週間引きこもることが難しければ、日々のなかに小さな「考える週」を差し挟んでみるといい。たとえば私は、1日の始まりの20分間を読書にあてている。ブログや軽い読み物でなく、正統派の古典を読むのだ。以前は目覚めとともにメールをチェックするのが癖だったが、今では落ちついて1日を始められるようになった。
古典は読む者の視野を広げ、時の試練に耐えた本質的な思想に立ち戻らせてくれる。
私のお気に入りは、インスピレーションを与えてくれる思想書だ。禅や儒教、ユダヤ教やキリスト教、道教、イスラム教、モルモン教、ジェームズ・アレン、ガンジー、ヘンリー・デイヴィッド・ソロー、アウレリウス、ウパニシャッド哲学。何を選んでもいい。私たちとはまったく違う時代に書かれ、それでいて現代に通じるような思想を読んでほしい。そういう思想は、私たちの「当たり前」を打ち壊してくれるはずだ。
1日に2時間でも、1年に2週間でも、あるいは毎朝5分でもいい。忙しい日常から離れ、自分だけでいられる時間を確保しよう。
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グレッグ・マキューン(ぐれっぐ・まきゅーん)
THIS Inc. CEO
「少ない時間とエネルギーで最大の成果を出す」というエッセンシャル思考の生き方とリーダーシップを広めるべく、世界中で講演、執筆を行う。また、アップル、グーグル、フェイスブック、ツイッター、リンクトイン、セールスフォース・ドットコム、シマンテックなどの有名企業にコンサルタントとしてアドバイスを与えている。ハーバード・ビジネス・レビューおよびリンクトイン・インフルエンサーの人気ブロガーでもある。スタンフォード大学でDesigning Life, Essentiallyクラスを開講。著書の『エッセンシャル思考』(かんき出版)と共著書『メンバーの才能を開花させる技法』(海と月社)の原書は、ともに米国でベストセラー入りしている。
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(THIS Inc. CEO グレッグ・マキューン)