日本人の9割以上が使っているメッセージアプリがLINEだ。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「年配になるほど、LINEでビジネスのやり取りを行ったり、スタンプを送ったりするのは、失礼という感覚の人が増える傾向にある。
特に、謝罪などネガティブなやりとりには注意してほしい」という――。
※本稿は、高橋暁子『若者はLINEに「。」をつけない 大人のためのSNS講義』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。
■30~40代と50代とで許容度に差
円滑なコミュニケーションには、顔文字、絵文字、スタンプが有効なことはわかりました。では、ビジネスでLINEを使う時、上司や先輩にスタンプを送っても問題ないのでしょうか。
ビジネス版LINE「LINE WORKS」を提供するワークスモバイルジャパン(現LINE WORKS)の30~50代のビジネスパーソンを対象とした、「新入社員から上司への社内チャットにおけるスタンプ利用に関する意識調査」(2020年8月)を見てみましょう。
新入社員から上司への「スタンプ」の使用に関して意見を聞いたところ、「積極的に使ってよい」が23.1%、「使ってよい」が32.1%、「どちらでもない」が26.1%、「使ってよいと思わない」が13.1%、「全く使ってよいと思わない」が5.6%となりました。「使ってよい」派が計55.2%、「使ってよいと思わない」派が計18.7%となりました。
年代別に見ると、30代は59.9%、40代は61.4%が「使ってよい」派でした。一方、50代は「使ってよい」派の割合が下がり、「使ってよいと思わない」派の割合が高くなっていました。LINEやスタンプ等は比較的新しいツールです。若ければ若いほどこのようなコミュニケーションに寛容であり、年配になればなるほど不寛容になる傾向にあります。
■「すみませんでした」スタンプは否定派が多い
続いて、ビジネスで発生するさまざまなコミュニケーションシーン別に、新入社員のスタンプ利用に関する調査をしました。

上司が新入社員に対し業務指示を行った後、新入社員から「了解しました!」スタンプが送られてきた場合にどう感じるか聞いたところ、「良いと思う」派は46.3%、「悪いと思う」派は28.9%となりました。
上司が新入社員の相談に乗った後、新入社員から「ありがとうございました!」スタンプが送られてきた場合、「良いと思う」派は50.2%、「悪いと思う」派は27.1%でした。
新入社員のミスを指摘した際に、新入社員から「すみませんでした」のスタンプが送られてきた場合、「悪いと思う」派が48.7%、「良いと思う」派が33.5%と、割合が逆転していました。
■謝罪・反省の気持ちが伝わりづらい
LINEやスタンプは、非常にカジュアルなコミュニケーションツールです。年配になるほど、LINEでビジネスのやり取りを行ったり、スタンプを送ったりするのは、失礼という感覚の人が増える傾向にあります。
ただしこれはあくまで傾向であり、上の年代でも気にしない人もいれば、若い人でも気にする人もいます。業界や所属企業の文化なども影響しているでしょう。
目下の人、若い人から送る場合は、相手が気にする可能性を考えて、対面もしくはビジネスの公式ツールであるメール等でやり取りするほうが無難です。上司や先輩からLINEを使ってきた場合は合わせてLINEを使い、相手が頻繁にスタンプを使うのであれば、様子を見てひかえめなスタンプから始めるといいかもしれません。
また、全体にポジティブなやり取りでは許容されることが多い一方、謝罪などネガティブなやり取りでは許容されない割合が高くなります。スタンプ等の謝罪では、相手に反省の気持ちが伝わりづらく、腹を立てられてしまうリスクもあります。
「欠席」「遅刻」などの連絡、「謝罪」などのコミュニケーションは、スムーズなやり取りと誠意を伝えるため、通話またはメール等のビジネス公式ツールを使うといいでしょう。

■LINEの中の人「万能スタンプはない」
雑誌やウェブなどの企画で、「これさえ送っておけば問題ないスタンプはありますか? 教えてください」と頼まれることがあります。
あなたは、そんなスタンプがあると思いますか? あるとしたらどんなスタンプでしょうか。
昔、LINE社(現LINEヤフー社)の方に聞いたことがあります。
LINE社では、日本全国を回って情報リテラシー講演を行っています。その際にさまざまなLINEスタンプを持って回り、どのスタンプなら誰からも受け入れられるのかを調べたそうです。
結果、「そんなスタンプはなかったんです」とその方はおっしゃいました。「どのスタンプも、『嫌みに感じる』など、ネガティブに感じる人がいました」。
つまり、先ほどの質問の答えは「そんなスタンプはない」ということになります。なぜこんなことが起きるのでしょうか。
■「大笑いスタンプ」の意味は1つじゃない
情報リテラシーの講演で、さまざまな笑顔のスタンプを用意して、聞いている生徒たちに「どんな意味だと思う?」と聞いたことがあります。
笑顔といっても、くすくすと笑っているもの、微笑みながら涙を浮かべ“グッド”ポーズをしているもの、こちらを指さして大笑いしているもの、イヒヒとほくそ笑んでいるもの、手を組み合わせて眼をキラキラさせているものなど、いろいろな表情をしています。
それぞれ自分なら、ちょっと面白い時に送るか、とても面白い時に送るか、意地悪な気持ちの時に送るかを聞いてみました。

すると、くすくすと笑っているもの以外は、意見が割れてしまったのです。「とても面白い時に送る」と「意地悪な気持ちの時に送る」と半々になったスタンプもありました。スタンプでは表情を伝えられますが、どちらともとれる表情があります。それで意見が割れてしまったのです。
■「すごく面白かった」と伝えたかったのに…
「とても面白い時に送る」に手を挙げた人たちも、「意地悪な気持ちの時に送る」に手を挙げた人たちも、どちらも驚いた顔をしていました。まさかそんな正反対の意味で使う人がいるとは思わず、感覚の違いに驚いたようでした。
「まさか同じスタンプでもこんなに違う意味で使う人がいるなんて驚きました。過去に自分も失敗していたかもと心配になりました」と言っていた人もいたくらいです。
このように、自分が送る時にも意見が分かれるということは、受け取った時のとらえ方も意見が分かれるということです。
すごく面白かったと受け取られれば問題はありませんが、「意地悪な気持ちや嫌みで送ったのでは」ととらえられてしまった場合、トラブルになる可能性が大きいというわけです。
あなたは過去に、送られてきたスタンプを見て「どんな意味だろう」と悩んだことはないでしょうか。
私は過去にあるスタンプを受け取った時、ネガティブなものが突然送られてきたと感じてドキッとしたことがあります。
自分が気づかず何か気に障さわることをしてしまったのか……。
■トラブル回避のつもりが逆効果になることも
ところがその後にまったく普通のメッセージが送られてきて、やり取りは問題なく続きました。
どうやら自分が感じたのとはまったく違う意味でそのスタンプが送られてきたらしいこと、ネガティブな意味は込められていなかったらしいことに気づき、驚いたことがあります。
考えてみれば当たり前のことです。人によって言葉に対する感じ方が異なるように、スタンプに対するとらえ方も異なっているので、相手の気持ちは前後の文脈などから推測するしかありません。
スタンプはやり取りを和らげ、トラブルを減らすことは確かです。しかし、完全に防げるわけではありません。送ったスタンプによっては、逆にトラブルになることさえあり得るのです。
■ビジネスで活躍する敬語・丁寧スタンプ
上司やクライアントには、特に良い印象を持ってもらいたいはずです。
SNSでもがんばりたくなりますが、あくまでメインは仕事で、SNSは関係やコミュニケーションを補完するためのものです。
投稿が多すぎたり返信が早すぎたりなど、あまりSNSに力を入れすぎると、「本業のほうが疎(おろそ)かになっていないか」と逆に心配される可能性もあります。
また、業務時間外にSNSを利用するのは、社内規程に違反する可能性があるので注意してください。
規程によっては、ランチタイムにSNSに投稿しただけで処罰対象になる企業などもあります。自社の規程については、入社後すぐに調べて把握しておきましょう。
前述のように使い方が難しいスタンプですが、誤解やトラブルを減らすことはできます。
たとえば、敬語・丁寧スタンプというものがあります。
「お心遣いありがとうございます」「うまくいくよう祈ってます」「お忙しいところ恐れ入ります」など、スタンプに敬語や丁寧語のメッセージが載ったものです。
メッセージ通りに受け取ってもらいやすいうえに、堅苦しさを和らげてくれる効果がありそうです。
敬語・丁寧スタンプのほか、ビジネスで使えるスタンプなどもあります。スタンプショップで「ビジネス」「敬語」などで検索すると、たくさん見つかるはずです。好感度の高そうな絵柄の敬語・ビジネススタンプを一つくらい用意しておくと、便利に使えるのではないでしょうか。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)

成蹊大学客員教授

ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。
著書に『若者はLINEに「。」をつけない 大人のためのSNS講義』(講談社+α文庫)ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。

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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)
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