子どものやる気を育てるにはどうすればいいのか。児童精神科医の宮口幸治さんと、小学校教諭の田中繁富さんの共著『「頑張れない」子をどう導くか 社会につながる学びのための見通し、目的、使命感』(ちくま新書)より、一部を紹介する――。

■「だから言ったじゃない」はなぜダメなのか
大人は子どもの失敗が怖いものです。「失敗を恐れずチャレンジしよう」と声かけしたりすることもありますが、これはいってみれば大勢に向けた建前の言葉かけであって、大人の本心は目の前の子や自分の子どもが失敗するのを見るのはとても辛いことだと感じます。
そんな中、大人の言うことを聞かず、無茶をするように見える子どもたちもいます。例えば、一輪車の練習をやっている子どもたちを見るとヒヤヒヤします。そして大人は心配してつい「転んだらどうするの!」「危ないからやめなさい!」と声をかけることがあるでしょう。
成功体験をもたせようと思うがあまり、子どもを失敗させたら駄目だと考え、事前に無茶をするなと伝えるのです。でも子どもはなかなか言うことを聞きません。そしてついに転倒して怪我をしてしまった場合、大人としては歯がゆくなったり苛立ちを感じたりして何か一言、言いたくなってしまいます。
「ほら、だから言った通りでしょう」
と言ったりすることもあるでしょう。でもこれは結果的に失敗した子どもに対して「あなたには無理なんだよ」とダメ出しをしているのと同じです。これが子どもの見通しを奪い、気持ちをさらに沈ませる原因になることがあります。
■失敗の後のダメ出しは傷口に塩を塗るのと同じ
こういった場合、一番つらいのは失敗した子ども自身です。
子どもは無茶した後でも失敗した自分をいたわってほしいという気持ちがあります。にもかかわらず失敗の後にダメ出しをされると、逆にそこで傷口に塩を塗られ、傷ついてしまうのです。
そういった子どもを前にした場合、まずは一呼吸おいて心の中で「つらいのは子ども」とつぶやきましょう。そして、失敗した子どもにねぎらいの言葉をかけ、悔しい気持ちに共感してあげます。その後、今回の失敗は自分にとってどうだったか、子ども自身の声を聞いてみましょう。自分から反省して「もうしない」と言うかもしれませんし、「もう一回やってみる」と言うかもしれません。
もしもう一回やるとすれば、次はどこに気をつけるかなどを聞いてみるといいでしょう。例えば、「頑張っていたけど痛かったね。泣かなかったのは偉かったよ」「転ばないためにはどうしたらいいかな?」など、過去の失敗に向き合わせるのではなく、これから先のことを一緒に考えていくといいでしょう。そうすることで子どもは見通しがもてるようになります。
もちろん、明らかに無謀なことや危険なことは事前にやめさせる必要があります。その場合は、「○○したら駄目」と行為を否定するのではなく、「△△しなさい」と適切な行動をするよう肯定文で促しましょう。

例えば、「一輪車に乗るのは駄目」ではなく、「自転車に乗れるようになってから一輪車にチャレンジしなさい」などです。子どもが失敗したときには、一緒に今後のことを考え、子どもの気持ちに寄り添うことが、次の挑戦への意欲を育むために大切なのです。
■大人は「コツコツやりなさい」と言える立場か
大人が子どもに継続して勉強することの重要性を伝えるとき、つい「毎日コツコツ勉強しなさい」と言ってしまうことがあります。子どもには毎日コツコツ勉強して、積み重ねをしてほしいという思いがあるためでしょう。
しかし、「コツコツ勉強する」という言葉を聞くと、おそらく子どもは修行僧のようなつらい苦行のイメージを思い浮かべるのではないでしょうか。勉強が苦手な子どもはたいていコツコツ勉強するのが苦手です。「苦手なことを克服するために苦手なことをしなさい」と言っているのがまさに「毎日コツコツ勉強しなさい」という言葉かけなのです。コツコツ勉強することのイメージがもてないのに、先の見通しがもてるわけがありません。
しかも厄介なことに、ほとんどの大人は子どもの頃から毎日コツコツ勉強した経験は少ないはずです。私もそうでした。一方で子どもにはコツコツ勉強してほしいという気持ちから、子どものペースや能力を見ずに「こうするべきだ」という考え方を押しつけてしまい、子どもの見通しを奪い、やる気を失わせてしまうのです。
■まずは「できた」経験を増やしてあげる
コツコツやるというのが悪いわけではありません。
地道に努力を重ねる、といった意味ではとても大切なことです。
ただ、「コツコツやる」のはいいとしても、「コツコツしなさい」といった言葉かけがよくないのです。努力できない子どもに「もっと努力しなさい!」と言うよりも、努力できるような動機づけをどうすればいいかを考えるほうが効果的なのです。そういった意味で、コツコツやるのが苦手な子どもにとっては、とにかく「できた」という見通し体験を優先させたほうがいいでしょう。
勉強は、必ずしも基礎を学んでからでないと解けない問題や基礎的なことが土台になっている問題ばかりではありません。例えば算数の「図形」の面積は公式が分かれば答えを出すことができますので、もし掛け算や割り算が苦手でも、とりあえず電卓を使えば面積の問題は解けます。すぐに「できた」という体験を持たせることは可能です。
学ぶ順番にこだわりコツコツと計算の練習をさせるなど、先に基礎的なことを求める必要はないのです。まずは「できた」という体験を増やし、少しでも学習への不安を減らし見通しをもたせてあげましょう。コツコツやるのはその後からでもいいのです。
■「分からない自分=ダメな自分」と思い込ませない
子どもが分かるまで丁寧に教えてあげたい、という熱心な先生がおられます。子どもが「分かる」と、先生自身も、子どもがその先の見通しをもてると感じるのでしょう。
もちろん勉強が「分からない」よりも「分かる」ほうがいいのは当たり前ですが、ときに「分かること」に強くこだわり過ぎると、それが逆に子どもの見通しややる気を奪ってしまうこともあります。
「分かること=よいこと」を強調されると、子どもは分かることへのプレッシャーを感じて、逆に「分からないこと」への恐怖心が出てきます。「分からない自分=駄目な自分」と繋がってしまうことがあるからです。
先生も分からせるために子どもの能力や個性、ペースを見なかったり、レベルを下げすぎたり、必要なことでも省略してしまうことがあります。そうすると子どもが分からないことに対し「考えてみる力」、「分かろうとする力」が次第に弱くなります。
一方で勉強はどんどん難しいことに進んでいき、いつか必ず分からないことが出てきます。そこで「分からないこと」に遭遇すると、見通しがもてなくなりプレッシャーや恐怖心からやる気をなくしてしまうのです。
そこで、代わりに「分からないことは駄目なことではない」と伝えてあげましょう。
■「宿題したの?」と口うるさく言うほどやる気を削ぐ
親が子どもに「宿題したの?」と確認する場面は日常的によくあります。特に、子どもの成績が悪いにもかかわらず、勉強もせずにYouTubeなどの動画やゲームに夢中になっていると、親は「またゲームばかりやっていて、勉強はどうするの?」と思うのは当然です。親としても子どもの先行きが見えず焦りと不安が増すばかりです。
また親からすると、今、自分がしっかり言わないと子どもは何もやらないのでは、と口うるさいとは思いつつも、つい「宿題は?」と言ってしまうのです。

しかし、このような声かけは、いっそう子どものやる気を削いでしまうことも少なくありません。想像してみてください。
もし我々も毎日家族から「ダイエットしなさい」と言われ続けるといかがでしょうか。それで心を入れ替え「そうか。では頑張ってダイエットしよう」となることはあるでしょうか。「そんなことは自分が一番よく分かっている。放っておいてほしい」と思うのが当然でしょう。にもかかわらず家族がダイエットについて言い続けると、家族の関係は殺伐としたものになるかもしれません。
これは子どもに「宿題は?」「勉強しなさい」と言い続けるのと根本的には変わりません。特に、そろそろ宿題しようと思ったときに「宿題やったの?」と言われると、出鼻を挫かれ「そんなこと分かっているよ。放っておいて」と言い返したくなりますし、そこでもし宿題をやってしまうと結果的に親の指示に従ったことになります。
親のほうも、「宿題したの?」と言った時に子どもが宿題をすると、効果があったと勘違いし、その後も「宿題したの?」を繰り返してしまいます。
しかし、子どもにやる気がない時は言ってもやらないので、親は混乱して、もっと強く言わなければと思い「宿題したの?」と言い続けてしまい悪循環に陥ります。
■ほめられたいからこそ宿題をやらなくなる
「でも、この子は私が言わないと絶対自分で宿題しないんです」とおっしゃる親もおられます。しかし常にそう言い続けることで子どもが自らやるチャンスや見通しを奪っていることもありますので要注意です。
もし子どもが言われる前に宿題をして親からほめてもらおうという気持ちになっている時に「宿題したの?」と言われて宿題をしてしまうと、ほめられる機会を失います。普段、親からあまりほめてもらっていない子どもは、ほめられたい気持ちが強いほど、かたくなに宿題を拒否することもあります。
子どもがテレビや動画を見ていて「またか」と思っても、まず学校での様子などを聞いてあげるとよいでしょう。子どもはすぐに「宿題」のことを言われないことに安心します。それから必要に応じてせいぜい「宿題で分からないことがあったら見てあげるよ」と伝えるくらいにして、子どもが自主的に行動するための手助けをしてあげるつもりでいるのがよいでしょう。
ただこれには子どもの観察も必要で、時間がかかっても勉強に向かえた時はしっかり認めてあげ、時には一緒に計画を立ててあげるなど、大人の忍耐力も試されるところです。

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宮口 幸治(みやぐち・こうじ)

立命館大学教授

児童精神科医・医学博士。立命館大学総合心理学部・大学院人間科学研究科教授。一般社団法人「日本COG-TR学会」代表理事。臨床心理士。児童精神科医として精神科病院や医療少年院、女子少年院などに勤務し、2016年より立命館大学教授に就任。著書に『ケーキの切れない非行少年たち』『どうしても頑張れない人たち』『歪んだ幸せを求める人たち』(以上新潮新書)、『コグトレ みる・きく・想像するための認知機能強化トレーニング』(三輪書店)ほか多数。

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田中 繁富(たなか・しげとみ)

小学校教諭

小学校教諭。鹿児島県出身。著書に『NGから学ぶ 本気の伝え方』(明石書店)など。

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(立命館大学教授 宮口 幸治、小学校教諭 田中 繁富)
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