子どもを勉強好きにするためにはどうすればいいか。児童精神科医の宮口幸治さんと、小学校教諭の田中繁富さんの共著『「頑張れない」子をどう導くか 社会につながる学びのための見通し、目的、使命感』(ちくま新書)より、一部を紹介する――。

■「授業で手を挙げない=勉強嫌い」と決めつけていないか
大人は、勉強が苦手な子を見ると、きっと勉強が好きではないのだろうなと感じてしまいます。「好きこそものの上手なれ」という言葉があるように、好きでないから成績が伸びないのだ、だから子どもが勉強を好きになればできるようになるはずだ、と思い込みます。
そして、“やればできる”といった達成感をもたせてあげれば勉強も好きになるだろうと考え、あの手この手を使って、達成感を持たせようとします。
授業中に大勢の子どもが競って手を挙げ、いかにもみんな勉強が楽しいと思わせている写真をたまに見かけます。こんな子どもたち、実際にはいないのでは、と思いながら、一方で「そうであってほしい」という教師たちの理想も感じます。
授業参観でも、授業中に積極的に手を挙げる子は勉強が好きで成績もいい。挙げない子は勉強があまり好きでなく成績もよくないのだろう。私たち大人はそんな思いで子どもたちを見てしまっているかもしれません。
■子どもにとって何より怖いのは孤立すること
果たして子どもたちの側はどうなのでしょう。子どもが勉強よりも嫌なこと、怖いことの一つに“孤立”があります。勉強の苦手な子どもでも学校で椅子に座っているのは、一緒に勉強している友だちがそばにいる、先生に構ってほしい、といった理由があるからと考えられます。
勉強が苦手な子どもにとって勉強は決して楽なことではありません。
しかしそばで誰かが一緒に取り組んでくれれば、楽しんで取り組めたり、勉強自体は好きだったりする場合もあるのです。おそらく「勉強が苦手=勉強嫌い」は正しくないと感じます。一方で、勉強ができる子でも、見守られているという安心感がなければ勉強に集中できず勉強嫌いになることもあります。
勉強が嫌いよりは好きなほうがいいに決まっています。ですので特に小学校低学年のうちは、一緒に勉強を見てあげたほうがよいでしょう。
時間的にずっと見守ることが難しい場合は、やり終えたら目を通してあげて声かけをしたり、「よくできました」とサインを書いたりするだけでもいいでしょう。リビングなど、自分の学習机以外で勉強をしたがる場合は、特に安心感を求めていると考えられます。そのような場合には、リビングのテーブルや食卓など、一人にならないような場所で勉強させてあげましょう。
■「友達の家では勉強を見てくれるのに…」が寂しさになる
中学生以上になると親から勉強を教えてもらうことはあまり求めていません。勉強はどんどん難しくなってきます。そういった困難なことに取り組んでいることを励ましてもらったり、しんどい気持ちに寄り添ってくれたりすることを望んでいます。たとえそばにいなくても、そういう状況であることを理解してあげましょう。

たいていの子どもには学問の楽しさを味わいたいから勉強するというような動機はありません。叱られたくない、親や先生からほめられたい、友人に負けたくない、といった動機が先にきます。これは中学生になっても同じです。
他の家では勉強が大変な時、親が一緒に取り組んでくれるのに、自分の家では誰も見てくれないといった寂しさや悲しさを感じると、一緒にいてくれる人が欲しくて家から飛び出して友だちに会いに行くこともあるのです。勉強が好きになるためにも孤立させない配慮を心がけましょう。
■「それはつらかったね、だけど…」は話を聞けていない
話を聞いてあげたつもりになっていないか。これはみなさんにもよくあり、「あ、私のことだ」と思い当たるケースも多いかと思います。
たとえば子どもが学校での嫌な出来事を話している場面で、親としては最初に同意して「それは辛かったね」などと共感の言葉を発し、いったんは子どもの気持ちを受け止めるのですが、でもその後すぐに決まって「でもね。それはあなたにも問題があるのでは?」などつい自分の意見を言ってしまうのです。
子どもを支援する上で「子どもの話をよく聞いてあげる」というのはよく言われていることですが、実は、大人は子どもの話を聞いてあげているつもりでも、つい説教したり、叱ったり、自分の考えを押し付けたりしてしまい、本当の意味で聞いてあげていないことも多いのです。
その結果、子どもは聞いてもらって元気をもらうどころか、話したことを後悔し、逆に心を閉ざしてしまうことにもつながります。子どもは意見を求めているのではありません。
子どもは、アドバイスでなく自分の感情を理解し寄り添ってもらえることを欲しているのです。
もちろん子どもの話には自分勝手であったり、未熟な内容に聞こえたりすることが多々あり、大人としてはどうしても「でもね、それは……」と言いたくなる気持ちがあります。しかしそこはあえてその気持ちを抑えて、すぐには自分の考えやアドバイスを伝えないでおきましょう。
■判断せず、なぜ大人に話そうとしたか考えてみる
そもそも子どもが話してくれること自体に意味がありますので、子どもの話の内容が正しいか間違っているかでなく、なぜそのことを大人に話そうとしたのかを考えてみることをお勧めします。ほとんどの場合、アドバイスよりも分かってくれる人がいるということだけで十分なことがお分かりかと思います。
話の後に、もし子どもが「お母さん(お父さん)はどう思う?」と聞いてきた場合に、子どものペースに合わせながら少しずつ親の考えも伝えていけばいいでしょう。
ところで、子どもの話を聞くときに、ただ単に聞いていればいいというわけではないことに注意しましょう。ときどき相槌や頷きを入れる、相手の発言を繰り返してみる、分かりにくいところは少し質問して詳しく聞いてみるなど、「しっかり聞いているよ」というサインを出してあげましょう。
その他、身体の向きを子どもに向ける、視線を合わせる、身を乗り出す、家事などをいったんやめるといった姿勢も、ちゃんと聞いているという大切なサインです。とにかく子どもの話を聞くときは、自分の考えや意見を言ったりしないで、聞くだけで止めて、「安心して聞いてもらえる」と感じさせる環境を作ってあげましょう。
■子どもは「天才なんじゃない⁉」が嬉しくない理由
ある子どもが、苦手な算数のテストでいい点数を取ったとき、親から「実は天才なんじゃない?」と言われることがあります。親からすると最大限のほめ言葉かもしれません。
でも、子どもにすれば、偶然良い点が取れただけだったとしたら、次回も同じように期待されることが、大きな負担になる可能性があります。
過剰にほめすぎると嬉しいというよりも、逆に不安を感じ、次回のテストに対するプレッシャーを強く感じてしまうのです。次に親の期待に応えられなかったときに、失望されるのではないかという不安が、子どもの心に重くのしかかり、勉強に対する意欲を失わせてしまうことがあります。
親は自分の子どものちょっとしたことでも、何か素晴らしい才能があるのではと期待したりします。そこで子どもがテストで少しいい点数を取ると「もっといける!」と思って、つい「天才かも」といったような言葉をかけてほめようとしますが、実はそういった言葉は子どもを評価し子どもに期待しているのです。
しかし、子どもにとっては、そういった評価や期待が今後も求められ、もし次ができなければ親からはとても残念がられると予想できてしまいます。もしその子が親の顔色をうかがいながら生活しなければいけないような性格の子であれば、その不安はいっそう強いものになるでしょう。
■求めているのは評価ではなく気持ちの共有
テストでいい点数を取ることももちろん大切ですが、子どもにとってもっと大切なのは安心して学べる環境があることです。テストの点数で親が一喜一憂するのではなく、子どもが自分の能力に見合った結果を出すことができ、それを適切に認めてもらえる環境が必要でしょう。
「天才かも」という言葉に限らず、大人からの一方的な評価や期待(子どもがいい点数を取ったからほめる、もっとやればできるはずだ、と絶えず頑張らせようとするなど)は子どもを萎縮させてしまいます。
子どもが求めているのは親からの評価以上に、一緒に喜んでくれたり悔しがってくれたりすることです。結果を一緒に分かち合い、いい点数で子どもも嬉しいなら親も嬉しいという気持ちを共有し、よくない点数なら一緒に受けとめる、そういった安心できる場を作っていきましょう。

逆にテストの結果がよくなかったとき、「結果よりもその努力や過程を評価してあげましょう」という指導法もよく聞かれます。ただ、これも場合によっては安心した学びの環境作りには適さないこともあります。評価することで「努力しない子」「努力できない子」は駄目だ、価値がない、というレッテルを貼ることにもなりかねません。
いずれにしても子どもをほめて頑張らせようとすることは、万が一、その意図が叶わないと、子どもを否定することに繫がってしまうのです。

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宮口 幸治(みやぐち・こうじ)

立命館大学教授

児童精神科医・医学博士。立命館大学総合心理学部・大学院人間科学研究科教授。一般社団法人「日本COG-TR学会」代表理事。臨床心理士。児童精神科医として精神科病院や医療少年院、女子少年院などに勤務し、2016年より立命館大学教授に就任。著書に『ケーキの切れない非行少年たち』『どうしても頑張れない人たち』『歪んだ幸せを求める人たち』(以上新潮新書)、『コグトレ みる・きく・想像するための認知機能強化トレーニング』(三輪書店)ほか多数。

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田中 繁富(たなか・しげとみ)

小学校教諭

小学校教諭。鹿児島県出身。
著書に『NGから学ぶ 本気の伝え方』(明石書店)など。

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(立命館大学教授 宮口 幸治、小学校教諭 田中 繁富)
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