※本稿は、上田晶美『若者が去っていく職場』(草思社)の一部を再編集したものです。
■日本の職場で起きている「下剋上」
職場で圧倒的に優位な地位を占めるようになったと思われる若者たち。この年功序列の日本社会にあって、下剋上ともいえる若者の優位性はいまだかつてない現象のように思われます。
それもそのはず、これは日本にとって、有史以来のできごとなのです! 本稿では、強気な若者社員がいかに出現したのか、その背景を探っていきます。
かなりさかのぼりますが、日本列島に形成された大和民族は氷河期などを経て、縄文時代1万年の中で火をあやつり、狩猟をし、土器を作り、農耕を始め、そのために村を作って集団生活をして着々と繁栄、人口を増やしてきました。やがて物々交換は貨幣経済へと発展し、古代文明は飛鳥・奈良・平安・鎌倉・室町と引き継がれ、江戸時代という大繁栄時代を経て、近代文明へと発展します。食料確保にも成功し、着々と人口を増やして、明治、大正、昭和、平成、令和と進んできました。
そして、ついに2005(平成17)年に初めての人口減少を記録します。「歴史的に見た日本の人口と家族」(第三特別調査室縄田康光)には次のように書かれています。
平成17年国勢調査によると、17年10月1日現在の我が国の人口は1億2776万人であり、16年10月1日時点での推計人口1億2778万人を約2万人下回った。平時における人口減少は統計開始以来初めてであり、少子高齢化の趨勢が今後当分続くことを考えると、我が国の人口は歴史的な減少局面に入ったと言える。
■少子高齢化の最も悩ましい部分
有史以来のこの2000年あまりの国の成り立ちの中で、初めて経験する人口減少です。つまり昨今の強気な若者の登場は、この人口減少、そして少子高齢化社会に起因しているものが理由の第一と思われます。
少子高齢化は何十年も前から言われていることであり、これについては無策できた日本の政治の在り方が問われる事態です。少子高齢化の最も悩ましい部分がここにきて顕著になってきた。それが労働力不足です。
団塊の世代が完全にリタイアした後、働き手が急激に減ってきており、労働力不足倒産が相次いでいます。
大企業に関しては、倒産せずとも、組織構造の中で世代ごとの大きな軋みがあり、混乱が起こっています。近年、そんな悲鳴をあちこちの企業で耳にするようになりました。出生人口だけを見てもここ数年、急激な人口減少を感じます。
この減少傾向は簡単に止められるものではないことは、誰にとっても自明の理です。この現実の中で、平和に幸福に私たち国民が生きていくためにはどうしたら良いのでしょうか?
■いびつな人口動態
もう少し年齢別に労働人口の構成を細かく見てみましょう(図表1)。
1980年には最大勢力が「25~34歳」だったのに対して2017年には「45~54歳」が最大人数の層になっています。
こう考えると、若手の比率が高かった時代には若手の勢力が大きかったようにも思えますが、日本の会社という組織において、そうはならない構造があります。人数が多いからといって、会社において、若手が権力を握るということはないのです。
日本の縦社会の構図、組織のピラミッドは、大勢いるからといって権力を持てるわけではなく、あくまでも権限があるのは部課長などの管理職であり、そこからの指示を受けて上位下達となり若手が動くという仕組みです。
よく働く若手が多かった時代は年長者も楽ができたかもしれませんが、体力のある働き盛りの若手が少なくなり、くたびれ加減の年代が増えてきた現在では、そのピラミッドがギクシャクすることが増えてきたと考えられます。
■プレイングマネジャーという損な役回り
1980年代は上司は若手に指示していれば、動いてくれる人はたくさんいたということでしょう。ところが、次第に指示を出す上位層ばかりが増えていき、実際に動く人は減ってしまっているのが人口動態から見た構図です。
「25歳~34歳」の若手層は、1990年以降は20%を切っていき、途中やや増えることもありますが、17.4%まで減っています。「35~44歳」のミドル層も24.7%から22.3%まで減ってきています。若手だけではなく、ミドル層の減少も大きくなっているのです。
44歳までの構成を合計すると、1980年には62.6%だったところが、2010年には合わせて51.5%と全体の約半分となり、2015年には49.3%と半数以下となりました。
マネジメントする立場のはずのミドル層は、これまでとは違い、マネジメントしながら自ら動く、プレイングマネジャーとならざるを得ない人が増えてきたというのが現状だと思います。
プレイングマネジャーと言えば聞こえはいいですが、単に仕事の負担が増えるだけという現場も少なくありません。
■氷河期世代の叫び
実際、ある自動車販売会社のマネジャーは、こう言います。
「部下に教える余裕なんてありません。まずは自分の売り上げ達成もしながら、加えて、部下の分まで背負わされる計算です。だからこそ、部下にノウハウを伝えれば、私が楽になれるとわかってはいるのですが、その余裕がないし、教えてもライバルを育てるだけと思っている同僚マネジャーもいます。
私自身は上司に育ててもらった恩を感じており、例えば営業のアポイントの取り方からクロージング、またクレームの対応にいたるまで、上司のそばについて習いました。本当は部下一人ひとりに対しても丁寧にフォローしたいんですが、そんな余裕はなく、ある程度教えたら、あとは一人で営業に行って自分で学んでもらうしかありません」
つまり若手の減少は、その若手の立場を弱くするのではなく、逆の市場原理で希少性となり、むしろ強くなり、大切にされているのです。言うならば、むしろ弱くなり、苦しんでいるのは間に挟まれた40代ということでしょう。
営業もしつつ、帰ってから自分の数字だけでなく、部下の分もまとめて進捗を確認し、計画を立て、目標管理していかなくてはならないのです。これでは部下とのコミュニケーションもおろそかになりがちでも仕方がありません。
■シニア層と若手の狭間
図表2はある流通企業の正社員数の年代別構成です(2024年9月)。本社東京、約20店舗。
図を見れば一目瞭然ですが、バブル期に大量入社した団塊ジュニア世代社員50代がボリュームゾーンとなっています。60代が少ないのは、すでに正社員ではなくシニア社員として再雇用となっており、正社員からは外されているからです。
この会社の人事の課題はシニア予備軍のモチベーションアップと、ミドル層の負担の軽減、若手の定着促進のようです。100年企業に多く見られる手厚い福利厚生のためもあってか、平均勤続年数は20年以上(全国平均は約10年)。
しかし、ミドル層はシニア層の重しと若手の少なさの狭間で苦労しているのではないでしょうか?
次に女性の就労について考えていきましょう。ふたたび図表1を見てください。日本全国の労働人口比率の推移を見ると、「45~54歳」は過去20年間であまり変化はありません。21.4%から22.7%というほぼ変わらない水準です。
そこで大幅に増えているのが「55~65歳以上」まで。なんと、合計すると16.1%から29.5%まで増加しているのです。
「労働市場全体としては労働人口の減少を女性と65歳以上のシニア層が参加して支えている」と、この統計では分析しています。労働人口は何とか減らさずに補ってきていても、構成はかなり様変わりしています。
女性の労働人口の変遷を見てみると、かなりの増加がわかります(図表3)。過去9年間ではなんと340万人の増加が認められます。
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上田 晶美(うえだ・あけみ)
ハナマルキャリア総合研究所代表取締役
日本初のキャリアコンサルタント。企業研修の実施、女性のキャリア、学生の就活を応援し、これまで約2万人にアドバイス。メディア出演多数。著書に『ちょっと待ったその就活!~就活前に考えておきたい「大学生のキャリアデザイン」』ほか。
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(ハナマルキャリア総合研究所代表取締役 上田 晶美)