若者が定着する会社とそうでない会社は何が違うのか。キャリアコンサルタントの上田晶美さんは「彼らは、実力主義、高年収、働き方の自由を条件に挙げる。
だが、それらが揃わなくとも若者が定着する会社はある」という――。(第3回)
※本稿は、上田晶美『若者が去っていく職場』(草思社)の一部を再編集したものです。
■なぜ若者は外資系企業に行きたがるのか
今、若者たちが最も入りたい、人気の業界を次にまとめてみます。新卒だけでなく、若者たちが3年以内に転職していく魅力の業界はどこなのでしょうか?
私はこう分析しています。
1位外資系

2位コンサルティングファーム

3位IT系
私のところに来る転職相談者たちが最も多く志望する業界です。はっきり言って、これらの業界には若者たちが生き生きと働ける条件が整っています。一つずつ見ていきましょう。
1位外資系
外資系は、転職先としてどの年代の方々にも好まれます。なぜなら年齢のハードルがなく、男女の分け隔てもない。ダイバーシティがあり、実力主義、実績主義の会社が多いからです。
ある相談者Gさんは30代前半でしたが、年収の低さに悩んで、転職を希望して相談に来られました。中堅の飲料メーカーの営業で10年勤務したけれど、あまり評価されないことも不満の一つでした。
学生時代に好きだった英語を学び直して、TOEICのスコアを上げ、外資系化粧品メーカーに転職したところ、年収が100万円アップしました。
結婚前だった彼は「これで結婚できます」と喜んで、結婚相手の女性を連れて挨拶に来てくれました。本人の実力がきちんと評価され、年収が上がる。英語が嫌いでなければ、考えたいところです。
■転職者でないと参入は難しい
2位コンサルティングファーム
新卒の就職でも人気だけれど難関の業界です。東大や京大などの最難関校の学生でないとなかなか相手にされません。そもそも新卒の採用は少ない業界です。ですので、力をつけてから転職していきたいという希望があります。それも良いことだと思います。
なぜならコンサルタントはプロとはいえ、相談する側にとって新入社員のような人にあれこれ経営について指図されるというのは、心理的に抵抗を持つ人も多いからです。ですから、少し経験を積んでから転職するのがいい業界に違いありません。
最近相談に来ていた2人の女性が立て続けにコンサル業界に転職しました。
一人は流通業界からの転職。もう一人はメーカーの企画からの転身です。新卒では難しくても転職では実力を認められた例だと思います。
3位IT系
IT企業も新卒で入りたい人気の業界ですが、途中で参画もできます。ただし、やはり若い転職者でないと参入は難しいと思われます。他業界で働いてみて、やっぱりITが大事と思えるならば、転職先としては良い選択です。何より成長産業だからです。
AI、クラウド、DX推進、次から次へと新技術が出てきて、あくなき成長を見込めるからです。職種もさまざまで、エンジニア(プログラマー・システム開発・インフラ)、Webマーケティング(SEO・SNS運用・広告運用)、デザイナー(UI/UXデザイン・Webデザイン)など多岐にわたります。
途中からのエンジニア転向は難しいかもしれないですが、その他にも活躍できる職種があるのも魅力です。プログラミングスクール・資格取得などの支援もあります。働き方について、フルリモート・フレックスなど、柔軟なことも若者にとって大きな魅力です。

■若者が集まる職場の特徴
ここまで読まれた方は、実際に若者に人気の業界、働き方の条件などはわかった、でも、だからといって若者の人気を集めるために、急にフリーアドレスやリモートワークを導入するのは難しいと感じている人も多いでしょう。
もしかすると、もう若者に来てもらうのは無理なのかと絶望した気持ちになっているかもしれません。誤解しないでください。わたしがこれまで述べてきたのは、あくまで現在若者に人気の働き方、職種を紹介したまでです。
若者は、たとえ人気の業界や理想の働き方の会社に転職したからといって、そこで定年退職までずっと働くわけではありません。前章で述べた通り、キャリア観がすでに全く違うのです。数年後にまた良い転職先に出会ったら辞めていく。そうしてキャリアアップをしていくのが今の若者たちの仕事スタイルなのです。
ですから、若者が会社に入ってくれたら、迎える側としては、こうした若者の価値観を尊重し、その違いを理解することが何より大事です。
■子育てから得た教訓
うまく若者をマネジメントしている職場の事例を紹介します。ここに登場する職場は、決して有名企業ではありません。でも、若者のやる気をうまく引き出し、定着させるのに成功している事例です。

今いる業界や働く条件を変えずとも、若者が喜んで働いていける場を作ることが可能であるということを理解していただければと思っています。それでは、若者をうまくマネジメントできている職場の工夫の実例を見ていきましょう。
「部下が失敗しそうでもあえて口出しせずに、それも経験だから、どう学ぶかまで見ています」とニコニコといたずらっぽい笑顔で話すのは、雑誌編集会社のディレクターのOさん(40代)です。
ご自身の子育てから教訓を得たそうです。
「私はママと同じじゃないの。同じにはできない!」
娘さんに言われたこの一言から変わったと言います。
「こたえましたねー。この一撃で目が覚めました。こちらは良かれと思って言ったり、やったりしていることが、すべてうっとうしいんだと。何も良い効果は生まないと。ガツンと教えてくれました。こちらは、自分と同じにしてほしいわけじゃないのに、手助けすること自体が、同じようにしなさいと言われているように思われるんですね。
自分のサイボーグを生産しようと思っているかのように。
アドバイスというのは、確かに自分の価値観を押しつけているかもしれないわけですよ」
■ホウレンソウはないものと思っている
「それ以来、仕事で関わる若者たちとの関係性も見直すようになり、距離感の取り方がうまくなりました。手遅れにならなくてよかった。娘に感謝ですね。
若者たちとチームを組んで一つのものを作り上げる、ゴールに向かってそれぞれが頑張るというのが仕事のスタイルです。部分的にパーツパーツを受け持って、ある日ガッチャンコとパズルが組み上がる。おー、できたー! 想像以上のものがー! キラキラ☆☆! というのが私の仕事の醍醐味です。最後は私が仕上げる係です。
はじめに『何かわからなかったら、聞いてねー』とだけ言っておいて、放牧です。あまりあれこれ聞かないようにします。ホウレンソウでしょ? なんて思っているとイライラしてくるから、ないものと思っています。中間点の打ち合わせだけは決めておいて。

上司は引っ張っていくというより、ヨッコイショと下から押し上げる感じかな。とにかく彼らを信じて、裏切られることも覚悟しつつ、最後は自分がまとめるから大丈夫と腹をくくって。あれこれ言うより、そのほうが断然うまくいきます。
『ほらー、失敗したねー』と思いながらも、手出しせず、彼らが自分で学んで成長してくれるのを首を長くして待つのが大事です」
部下を見守る姿勢はまるでお母さんのようです。上司の価値観を押しつけないこと。若者と働く上ではとても大事なポイントです。
■イメージはゆるい部活
ある小さなIT企業の課長(40代)は自分の課を「ゆるい部活」と語ってくれました。
ゆるい部活……そのココロは?
「特に大会で優勝を目指すような強い部活ではない。つまりスパルタとは程遠いゆるいクラブですね。自主性に任せて、みんながトゲトゲしてこないようにだけ、見守っています。
うちの会社は女性が多いんですよ。課の中も半数以上が20代の女子で。セクハラにならないかと怖くてうっかり踏み込めないですよ。つねに全員に平等に接するように気をつけていて、遠巻きにしている感じです。男だけで飲みに行くなんてご法度ですよ。連れ立って昼ご飯にも行かないようにしています。あまり個別に入り込むと、ハラスメントとか、ジェンダーとかなんとかうるさいことにならないとも限らないので。
ただし、普段はゆるいけれど、やるときはやります。『今度の案件は絶対取るぞ!』となるとぐっと加速して団結します。
この前、そんな全員で狙っていた案件が取れたときは、「ルフィ海賊団か?」というくらいに雄たけびを上げましたよ。さすがにその場で祝杯をあげました。急遽会議室をとって。当日『飲みに行くぞ!』っていうのは無理なので、『飲み物買ってきて!』と頼んで30分後に会議室に集合で、15分ほど。16時までには解散して、短時間勤務の者は帰り、他の者は仕事に戻り、また次の仕事に向かって各自それぞれの仕事にもぐります」
■ポンコツ扱いでちょうどいい
「私はむしろポンコツ扱いです。
この前は、出張の予定が間違っていて、部下に『しっかり確認お願いしますね』と言われて、『あ、ごめんごめん』なんて頭かいて謝りながら働いている感じ。ボクのキャラもあるかと思いますが、ちょっとポンコツに見せているのがちょうどよいのかな? と。
仕事を振るときも『どうかな?』とお伺いを立てて、まずはお願いして様子を見ます。『これ、頼みたいんだけど、どのくらいでできるかな? 半日考えてみてくれない?』という感じです。Aさんが無理そうなら、次にBさん、その次にCさん、と順番に頼んでみて、結局誰もできないなら、またAさんに戻り『やっぱり誰もいないんだよ。できるのはAさんだけなんだよ。どうかな?』と頼み込む。想定内です。最初から『はい、やります!』なんて言う人はいませんからね。
ただ、自分の業績を計算している人は、それでいくらの売り上げが立つから、目標をクリアできる、と計算して少し無理でもやってくれることはあります。半年に一度の査定面談のときに、堂々と達成率を報告できますからね。または『これまで○○業界の担当が多かったから、今度はこの△△業界を担当してみるのはどうかな? 力がつくと思うよ』というふうに提案します。
自分の売り上げの数字だけじゃ納得できない人が多いから、自分の技量を養うためにという方向でニンジンをぶら下げます」
若者社員たちにとって、数字達成だけでなく、自分の成長をちゃんと見てくれているという納得感が大切なようです。

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上田 晶美(うえだ・あけみ)

ハナマルキャリア総合研究所代表取締役

日本初のキャリアコンサルタント。企業研修の実施、女性のキャリア、学生の就活を応援し、これまで約2万人にアドバイス。メディア出演多数。著書に『ちょっと待ったその就活!~就活前に考えておきたい「大学生のキャリアデザイン」』ほか。

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(ハナマルキャリア総合研究所代表取締役 上田 晶美)
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