■登場順と評価の意外な関係
皆さんは、これまでの人生の中で、参加者を順番に評価し、最終的な勝者を決める大会やコンテストに参加したことはあるでしょうか。
英語のスピーチコンテスト、弁論大会、ピアノやバイオリンのコンテストなどが当てはまりますが、自分の番が来るのをドキドキしながら待ったのではないかと思います。
この順番ですが、多くの場合、名前の五十音順やくじ等で決めることが多く、その人の能力とは関係ないルールで決定されます。このため、順番と最終的な結果は関係ないと思われがちです。
しかし、この想定は間違っています。
実はこれまでの心理学や経済学の研究から、大会やコンテストの順番がその評価に関連することが指摘されているのです。
海外の研究では、エリザベート王妃国際音楽コンクール、ユーロビジョン・ソング・コンテスト、アイススケートの大会を題材に順番が評価に及ぼす影響が検証されています。面白い題材として、アメリカのアイドルオーディション番組の「アメリカン・アイドル」もあります(*1)。
これらの研究はいずれも順番と評価の関係を明らかにしているのですが、日本の例を用いた大変興味深い研究が今年発表されました。
その題材はなんと、NHKの「爆笑オンエアバトル」です。
1999年から2014年まで放送され、若手芸人にとって「勝てばテレビ出演!」という夢の舞台。
公平なシステムかと思いきや、どうやら「順番」が勝敗に影響を与えていたのです。
■1番目の人はいい評価になりやすい
分析を行ったのは、龍谷大学の新居理有准教授と大阪公立大学の岡澤亮介准教授です(*2)。彼らは478回のコンテスト、4774組の芸人たちのデータを解析しました。
その結果、「最初に登場する芸人が圧倒的に有利」という衝撃的な事実を明らかにしたのです。なんと、1番目の芸人は他の順番の芸人より約9%も得票率が高く、トップ5入りする確率も約15%アップしていました。これは単なる偶然ではありません。
新居教授らは、最後に登場するほうが印象に残って有利であるという可能性も分析しています。しかし、このデータではあまり当てはまらず、最後の出演者はわずかに有利な程度でした。
■背景に「キャリブレーション効果」
「爆笑オンエアバトル」から明らかにされたこの興味深い結果の背景には、どのようなメカニズムがあるのでしょうか。
新居教授らは、この現象を「キャリブレーション効果」で説明しています。
キャリブレーション効果とは、審査をする人が最初のパフォーマンスを評価するときに基準を作るため一番最初に出てくる人ほど「標準的な評価」を得やすくなるというものです。
特に、「爆笑オンエアバトル」では審査員が「面白いと思ったら投票」というシステムを採用しているため、最初の出演者には「とりあえず投票しておこう」という心理が働く可能性があります。実際、審査員が投票する割合は平均60%と高くなっていました。
あとでじっくり誰が良かったかを判断するのではなく、その場で投票するかどうかを決めなければならないため、基準となる最初の人は投票されやすいというわけです。
■「キャリブレーション効果」の妥当性も検証
新居教授らは、キャリブレーション効果の妥当性を確認するために、2つの追加分析も行っています。
1つ目は、コンテストが1日に2回開催される場合、2回目のコンテストでは評価がどのように変化したのかを検証しました。「爆笑オンエアバトル」は1日に2回開催された時もあり、観客も1回目と同じ人がいる場合もありました。この場合、1回目のコンテストで評価基準を学んでおり、2回目では評価が厳しめになる可能性があります。
実際、2回目では最初の芸人の方が有利になる効果が弱くなっていました。
2つ目は実施期間別の分析です。番組が続くにつれて、過去の勝者の傾向が明らかになり、審査する観客の目も肥えていきます。
この点を実際に検証すると、番組が開始されて間もない1999~2005年のコンテストでは、1番目の出演者の評価がより高い傾向があったのですが、2006年以降では、その影響が減少していることが確認されました。
番組が広く認知され、審査員が過去の放送から学習できるようになると、最初に登場する有利さが薄れるというわけです。
■ただし、注意点あり
新居教授らは、今回の分析結果について1点注意すべき点があるとも指摘しています。
今回題材とした「爆笑オンエアバトル」では10組の参加者のうち、半分の5組が勝者となる構造となっており、競争倍率は比較的低めです。このため、最初に登場し、基準となる評価を得ることが有利となりやすい部分がありました。
しかし、もし大勢の参加者のうち勝者をただ一人決める競走倍率がかなり高い場合、必ずしも最初に出ることがプラスに働かないことも考えられます。実際、海外の研究では競走倍率がかなり高いと、最初の順番のプラスの効果がみられず、むしろ最後のほうほど順位が高くなると指摘されています(*3)。
例えば、ユーロビジョン・ソング・コンテストにおける順序効果を検証した研究では、
①後半のパフォーマンスのほうが審査員の記憶に残りやすく、結果として高評価につながる可能性がある
②審査員は、前に見たパフォーマンスを基準にして次のパフォーマンスを評価する傾向があり、最初の出番の人ほどその後の基準となる点数となりやすい。ここでもし後の出番で、基準と比較して良い部分があると、評価が甘くなる可能性がある
③長時間にわたる審査では、審査員の集中力が変動することが多いため、前半は慎重に評価していても、後半になると疲労や飽きが影響し、評価が甘くなる可能性がある
と指摘し、後半の順位のほうが高くなることを明らかにしました。これらの要因はプレゼンや就職面接といった場合にも影響するかもしれません。
■順番を戦略的に選ぶことで結果をよくすることができる
評価は実力だけで決まる――私たちはそう信じたいし、そうであってほしいと願っています。
でも実際には、どんな順番で登場するかという“偶然”が結果を左右してしまうこともあるのです。
とはいえ、これは決して「ズルをしよう」という話ではありません。むしろ、「評価は思っているよりも不完全で、いろんな要因に左右される」という現実を知っておくことが、私たちの武器になるのです。
プレゼンの順番を選べるとき、面接のタイミングを指定できるとき、ちょっとした工夫が結果につながるかもしれません。審査の形式に応じて順番も戦略的に選ぶことが重要だと言えるのではないでしょうか。
〈参考文献〉
(*1)エリザベート王妃国際音楽コンクール: Flôres, J.R.G., Ginsburgh, V.A., 1996. The Queen Elisabeth musical competition: How fair is the final ranking? J. R. Stat. Soc.: Ser. D (Statistician) 45 (1), 97–104.
ユーロビジョン・ソング・コンテスト:Bruine de Bruin, W., 2005. Save the last dance for me: Unwanted serial position effects in jury evaluations. Acta Psychol. 118 (3), 245–260.
アイススケート大会:Bruine de Bruin, W., 2006. Save the last dance II: Unwanted serial position effects in figure skating judgments. Acta Psychol. 123 (3), 299–311.
アメリカン・アイドル:Page, L., Page, K., 2010. Last shall be first: A field study of biases in sequential performance evaluation on the Idol series. J. Econ. Behav. Organ. 73 (2), 186–198.
(*2)Arai, R., Okazawa, R., 2025. Is it advantageous to be first? Evidence from a TV comedy program, J. Econ. Behav. Organ. 234, 107009.
(*3)①Wilson, V.E., 1977. Objectivity and effect of order of appearance in judging of synchronized swimming meets. Percept. Mot. Skills 44 (1), 295–298.
②Bian, J., Greenberg, J., Li, J., Wang, Y., 2022. Good to go first? Position effects in expert evaluation of early-stage ventures. Manag. Sci. 68 (1), 300–315.
③ Haan, M., Dijkstra, S., Dijkstra, P. 2005. Expert judgment versus public opinion–evidence from the Eurovision Song Contest. Journal of Cultural Economics, 29, 59–78.
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佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授
1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。
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(拓殖大学政経学部教授 佐藤 一磨)