アメリカ生まれの会員制スーパー「コストコ」。日本国内には37店舗あるが、アメリカにはない独自の食品が並び、米メディアや外国人客から羨む声が上がっている。
外国人は日本のコストコをどう見ているのか――。
■「アメリカのコストコより快適だった」
良い品を安く手に入れられるとして、日本でも大人気のコストコ。1976年、アメリカ・サンディエゴで飛行機の格納庫を改装し、「プライスクラブ」の名前で誕生した。コストコの名での最初のストアは、1983年のシアトルで誕生。現在は世界8カ国に展開しており、日本国内でも札幌から沖縄まで37店舗を構える。
アメリカ風の合理的なショッピングスタイルに目が行きがちだが、実は発祥の地であるアメリカにおいて、日本のコストコのユニークな商品が評価されている。また、日本名物の商品がアメリカのコストコでも販売され大人気となることも珍しくない。アメリカ文化を日本に伝えるだけでなく、日本の繊細な味わいを広めるうえでも一役買っている。
ペンシルベニア州で大手保険会社のソフトウェアエンジニアとして働くリチャード・トゥルオンさんは、日本のコストコを訪れた体験を米ビジネス・インサイダーの記事で振り返っている。2016年からコストコの会員だというトゥルオンさんは、念願の日本旅行の際、京都のコストコに立ち寄った。
「日本での買い物体験はアメリカより快適だった」と言うトゥルオンさん。「アメリカの店内はもっと混沌としているけど、日本のお客さんは礼儀正しくて落ち着いている」という。

さて、日本のコストコを訪れた海外客が真っ先に驚くのは、やはり寿司だ。アメリカなら高級レストランや専門店でしか食べられない本格的な寿司が、まさかコストコで、しかも驚きの価格で買えるなんて、と驚きが広がっている。
寿司コーナーには、小さめのサーモンとサバのパックと、48個入りの大きな盛り合わせの2種類があった。大きい方は「本当にお買い得だった」とトゥルオンさん。
■4000円以下の寿司48貫パックに「信じられない」の声
詳細な商品名は説明がないが、おそらく現在販売されている「寿司ファミリー盛48貫」(3698円)かそれに近いものだろう。マグロ、イカ、ブリ、エビ、サーモン、タコ、ホタテ、ネギトロ巻きに玉子と、人気のネタがそろい踏み。家族4人で食べて4000円を切る価格設定も嬉しい。
日本のコストコの寿司の品質は、2023年にも海外ネット掲示板のレディットで話題になった。米フードメディアのデイリー・ミールはこの投稿を取りあげ、「この盛り合わせは、同チェーンの米国店舗で販売されているものよりも、はるかに優れているようだ」とし、値段設定についても「アメリカではにわかに信じがたい話だ」としている。
アメリカのコストコでも最近、店舗によってはカークランドブランドを冠した寿司売り場をオープンさせている。寿司パックも海外で販売されているが、値段は日本よりも割高だ。
オーストラリアでは前述の寿司パックと類似した商品がある。
内容量は同じ48貫で、イカがイクラに変更されているなど若干のグレードアップがみられる。価格は79.99豪ドル(約7519円)で、日本の価格の2倍強といったところだ。価格差を考えると、日本のコストコでの価格がずいぶんと得に感じられる。
■外国人客が驚くフードコート
寿司だけではなく、日本のコストコ店内に設けられたフードコートも、海外からの旅行客を虜にしている。特に注目を浴びているのが、エビカツバーガーだ。日本の「カツ」とアメリカのバーガーが出会った、斬新なメニューだと感じられるのだろう。
ふっくらしたバンズの間には、サクサクの衣に包まれたプリプリのエビがたっぷり。米デイリー・ミールは、このエビカツバーガーが「私たち(アメリカ人)の食欲をそそっている」と伝えている。
記事では、「見るからに美味しそう」「ふわふわの黄金色のバンズを前に、普通のバンズが恥をかくほど」と表現している。シャキシャキのレタスとピリ辛のコールスローが絶妙にマッチするこの逸品。780円で販売されていたが、現在は惜しくも販売終了となっている。
だが、フードコートにはもう一つ、アメリカ人が羨む商品がある。
人気のチキンベイクを日本流にアレンジしたものだが、実は韓国料理の要素を取り入れているところがミソだ。
■「アメリカのコストコでも売ってほしい」
米フードメディアのフーディーは、アメリカのコストコでも売ってほしい商品として、このジャンボプルコギベイクをチョイス。パリパリの薄焼き生地にかじりつけば、ぎっしりと詰まった牛肉が中から顔を覗かせる。
レディットユーザーは、「少し甘めだけど、玉ねぎが入っていて味わい深い」との感想。また、スウェーデンのコストコではメキシカンチキンベイクが販売されているが、それよりも「断然プルコギベイクの方が美味しかった」という声もあるようだ。
価格は昨年200円上がり880円となったものの、具材がぐっと増量された。アメリカでは韓国風バーベキューソースのない、鶏肉を使ったチキンベイクが2.99ドル(約433円)で販売されている。
こちらのシンプル版は値段の差があるが、フーディーは「ボリュームアップと増量された牛肉を考えれば納得の価格」だとしている。チーズと甘みのあるビーフの絶妙なコンビネーションを、カリカリの生地とともにぜひ頬張りたい。
■アメリカよりもアメリカン
日本のコストコのフードコートは、アメリカンスナックの種類も豊富だ。
米デイリー・ミールは「日本のコストコには、あなたがきっとうらやむフードコートがある」という見出しの記事を掲載。札幌のコストコで見つけたという、マカロニ&チーズバイトを紹介している。

アメリカで人気のマカロニ&チーズ(通称マッケンチーズ)に着想を得たこのスナックは、ゆでたマカロニを濃厚なチーズソースで味付けし、一口サイズにしてサクッと揚げたお手軽なフード。広い店内を歩き回り小腹が空いた後でつい、つまみたくなる。
大阪・和泉市の別の店舗で買ってみたという海外のレディットユーザーは、「とろーりチーズがたっぷりで、外はカリッと最高」との感想。デイリー・ミールは、「一口版のマカロニ&チーズに求めるものが全部詰まってる」と太鼓判を押す。
同記事はまた、日本のコストコのフードコートには、チキンマッシュルームスープ(450円)や、チキンスティック&ポテトのバケツセット(980円)など、アメリカ人が大好きそうなメニューが豊富に揃うと紹介。アメリカ生まれのコストコだが、かえって日本の方がアメリカンなメニューが充実しているという。
カナダの旅行系コンテンツクリエイターであるダニエルさんとマリアムさんは日本のコストコのフードコートを訪れ、「日本人が想像する、アメリカ人が食べていそうなもの」が勢揃いしていると分析。本場よりも意図的にアメリカナイズされているようだ。
■見慣れた店だから味わえる、新鮮な感覚
デザートも見逃せない。特に人気なのが、日本が誇る酪農王国・北海道の名を冠した北海道ソフトクリーム(300円)だ。透明なカップに底までぎっしりとソフトクリームが詰め込まれており、控えめな甘さと濃厚なミルクの風味で飽きさせない。
ダニエルさんとマリアムさんは、日本のコストコのフードコートでさまざまなメニューを試した。
北海道ソフトクリームを一口食べたマリアムさんは目を丸くしたまま言葉を失い、ソフトを指さしながら「うんうん」と首を振って満足げだ。
フードコート以外の売り場にも、海外を驚かせる商品が並ぶ。リーダーズ・ダイジェスト誌は、「日本でしか見られないコストコ商品」を特集。ふりかけるだけで完成するタラコパスタの素や、自宅内で「バーベキュー」風の焼き肉を楽しめる卓上コンロ、1キロの特大サイズのキユーピーマヨネーズなどを紹介している。
日本人が海外を訪れると、地元の市場やスーパーでさえ新鮮な感覚をもたらしてくれる。同じように、日本のスーパーで普通に見られる商品でも、海外の人々には心躍る新発見となるのだろう。
■海外コストコで人気の日本産A5和牛
ここまで日本のコストコの商品を見てきたが、実は逆パターンもある。日本が誇る高級食材が、アメリカのコストコにも並び始めた。
米フード・健康メディアのイート・ディス・ノット・ザットによると、最近アメリカ各地のコストコに日本産A5ランクの和牛が入荷して話題になっているという。イート・ディスは、コストコで売られているのは「まさに極上品」と報じている。
値段は1ポンドあたり59.99ドルから89.99ドル(100グラムあたり約1913円から2869円)。ブランドや部位にもよるが、日本であればA5ランク和牛の国内価格は100グラム2000円前後から入手でき、私たちの感覚では一般的な価格と言える。

一方で、アメリカのふつうの肉屋で買えば、1ポンドあたり120ドル(100グラム約3748円)はするという。海外のレディットユーザーからは、「めちゃくちゃにお得」との声が上がっている。
■アメリカで話題の冷凍たいやき
日本の伝統的なお菓子も、アメリカのコストコで人気を集めている。多くのアメリカ人にとって、コストコで売られているたいやきは、初めての食体験となるだろう。
米フードメディアのデリッシャブリーは、カスタードクリーム入りのたいやきに「アメリカ人が夢中になっている」と報じている。
長崎の久世福商店が製造するたいやきが、12個入りで7.39ドル(約1069円)で売られている。あんこは苦手という海外の人々も多いが、あんをカスタードにしたことで誰もが親しみやすい商品となった。
解凍するだけで「本場の味を手軽に楽しめる」と好評だという。ソーシャルメディアも、「心を掴まれた」「絶対食べるべきアイテム」と話題だ。
幸運のシンボルである鯛に由来する、たいやき。魚の形だが魚は一切使っておらず、かじれば甘みが口いっぱいに広がる。おかずのようでいてお菓子であり、そのギャップが好奇心をくすぐっているようだ。
■日本のお菓子メーカーの技術と品質が生きる
伝統の和菓子だけでなく、よりモダンなスイーツもアメリカのコストコで注目の的となっている。
デリッシュが取り上げるのは、ロッテのアイスクリーム「ガーナ チョコ&クッキーサンド」。日本のスーパーで必ずといっていいほど目にするこの商品は、バニラアイスをチョコとアーモンドでコーティングし、持ち手部分をバタークッキーで挟んだ欲張りな一品だ。
レディットユーザーからは、「とっても美味しい」「小さいけど最高。チョコもアイスもクッキーも全部美味しいけど、個人的にはクッキーの部分が一番好き」との声が聞かれる。12本入りで10.79ドル(約1562円)の価格は、輸入品ながら日本国内の商品(4本入りで税込希望小売価格550円)と同等となっており、お得感がある。
デリッシュは別記事で、北カリフォルニアのコストコ限定で売られている不二家のいちごスポンジケーキを紹介。
18ドル(約2600円)のこのケーキについて、レディットユーザーは「コスパ最高。地元のアジア系ベーカリーの半額以下」と絶賛。南カリフォルニアのユーザーは、「うちの地域にも入荷してほしい」と切望している。
日本のお菓子メーカーの技術と品質が、海を越えてアメリカでも人々の心をがっちりつかんでいるようだ。
■コストコが橋渡しする東西の食文化
買い物に出かけるだけで、ちょっとした海外気分を味わわせてくれるコストコ。
倉庫型の大型店舗に車で乗り付け、カートいっぱいに大容量の品々を詰め込んだら、アメリカンなフードで元気を回復して家路につく。出かけるだけで、ふだんとは違う特別な一日になる特別な場所だ。
その魅力の秘密は安さだけでなく、テーマパーク的な面白さにもあるだろう。たとえ数時間だけでも、まるでアメリカで暮らしているような感覚をもたらしてくれる。
私たちにとってアメリカの「ふつうの暮らし」を垣間見ることができる場所だが、アメリカの人々は逆に、日本のコストコや日本の商品を通じて新しい文化に触れているようだ。
新鮮な寿司から、北海道ソフトクリーム、和牛にたいやきまで。コストコは太平洋を越えて東西の食文化を橋渡しする、意外な一面があるようだ。

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青葉 やまと(あおば・やまと)

フリーライター・翻訳者

1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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