■高齢化率46.9%の集落で生まれたカードゲーム
「サイドメン、セパルティ」
フランス語で「さあ、始めよう」、この言葉でゲームが始まる。
福岡県東部の香春町。春休みの午後、採銅所小学校の跡地にあるコミュニティセンターを訪れると、フリールームに集まった10人の子どもたちが、真剣な表情でカードゲームに興じていた。
よく見ると、ポケモンでも遊戯王でもない。
カードに描かれているのは……おじさん?
60枚のカードを大切そうにジップロックに入れていた小学2年生の女の子が好きなカードは「グラビティマスター」。「技がかっこいい、会ったこともあるよ」と誇らしげに語る。
54枚を集めた中学1年生の男の子は、2023年の秋祭りで初めてカードを見た時の印象をこう振り返る。
「知らない人がたくさん映ってるけど、なんか面白そうだなと思って買ってみたら、もっと欲しくなった。3組買ってその日持って行ったお小遣いがなくなりました」
約1700人が暮らす採銅所(さいどうしょ)地区。
■海外からも観光客が来るように
重機を操る「グラビティマスター」、恥ずかしがり屋の紳士「ハートハイダー」、珈琲を淹れる「バリスタドリッパー」、持続可能な暮らしに取り組む「パーマカルチャーデザイナー」――。
実在する地域のおじさんたちがトレーディングカードになった「サイdo男カード」は、採銅所地域コミュニティ協議会が製作。事務局スタッフが1枚1枚ラミネート加工を施す手作りのカードだ。3枚100円のセットから、ラメ加工の特別なカード1枚を含む6枚入り500円のパックまで用意。2023年11月から3000枚以上が売れ、県外や海外からもカードを求めて客が訪れるようになった。
総務省までもがその取り組みに注目し、全国の行政、コミュニティ研究機関、大手企業の人事部も視察に訪れる。小学校は廃校、病院もコンビニも路線バスもなくなった集落で、なにが起きているのか――。
■きっかけは「挨拶」をめぐるモヤモヤ
「知らない人とは話しちゃだめでしょ?」
子どもたちのこの一言が、すべての始まりだった。
採銅所地域コミュニティ協議会の事務局長・宮原絵理さん(45)。現役バイオリニストである彼女には、PTA会長時代から胸につかえていた思いがあった。
「子どもたちが挨拶をしない」と大人たちから意見が出た。
一方で親として、宮原さん自身にも覚えがあった。子どもの安全を考えれば当然の教えだ。
「同じ地域に住む大人たちも『知らない人』なんだ……」
どこか腑に落ちないものを感じながらも、時は流れた。
■ボランティア嫌いのボランティア
実は宮原さん自身、かつては地域づくりも、ボランティアも「大嫌い」だったと語る。
「年長者が威張っているような場が苦手で……地域のことも知らないし、地域の人とも関わらなくていいと思っていました」
家でピアノを教えていた母の影響で5歳からバイオリンを始め、音楽一筋の人生を歩んできた。
「宿題や勉強ができる時間がすごく嬉しかった。小学校では友だちと遊んだこともない。テレビも観たいし、漫画も読みたい。でもバイオリンを弾く音が消えると、母が定規を持って追いかけてくるから……足で漫画をめくりながら練習をしていました」と苦笑する彼女にとって、地域は無関係な存在だった。
転機となったのは、子どもが通う小学校のPTA会長を引き受けたこと。
この時期、香春町では、村上さんを中心に「20年後も住み続けたい地域をつくる」をテーマにワークショップが開催され、住民たちが地域の未来について議論を始めていた。従来の役職者や世帯主中心ではなく、「やりたい」という意欲を持った個人が参加できる場を目指していた。
■「地域づくりのメンバーがおじさんばかりではいけない」
小学校の廃校やインフラの撤退が続く採銅所地区では、「自分たちの手で地域をなんとかしなければ」という気運が高まり、2022年4月、住民主体のまちづくりを目指して採銅所地域コミュニティ協議会が発足。宮原さんは、その事務局長に就任した。
「ここに20年も30年先も住むだろうと考えた時に、地域づくりのメンバーがおじさんばかりではいけない。子育て世代がメンバーにいなくちゃと考えるようになったんです」
しかし、協議会発足当初、廃校跡地に設立されたコミュニティセンターは閑古鳥が鳴いていた。土曜の朝市以外は人の気配もなく、電話も鳴らない。ネットもつながっていなければ、ホームページもない。
「ひとりでは、なにもできない」
誘われる側だった宮原さんが、今度は提案する側に。地域の人に足を運んでもらいたいと、インスタグラムのアカウントを開設すると、コミュニティセンターの様子やイベント告知を始めた。
自身がそうであったように、「めんどくさい」イメージがある地域づくりを「楽しい」イメージに変えていこうと、協議会の女性5人で「サイdoレンジャー」を結成。強みを活かしたユニークなキャラクターを設定し、地域イベントやSNSに登場すると、ローカルのテレビ番組に取り上げられ、SNSにもコメントが寄せられるようになった。11月に開いた地域の祭りには、500人ほどが足を運ぶようになっていた。
「元々誰かに言われてやらされることが嫌いでした。だから、やらされるんじゃなくて、一緒に取り組む関係作りが大事だと気付いていきました」
■「地域の先輩」に抱いた尊敬の念
協議会の活動を続けるうち、宮原さんにある思いが芽生えていく。
草刈りから防犯カメラの設置、防災イベントまで、地域のおじさんたちが経験や専門知識を活かして協力してくれた。音楽しかやってこなかった自分にはできないことを、当たり前のようにこなす人たちへの尊敬の念が生まれていった。
2023年8月、協議会設立から1年半が経った頃、転機が訪れる。
町の秋祭りで協議会の取り組みを紹介するブースを出すことになった。「チラシではなく、もっと面白いものはないか」と考えていた宮原さんの脳裏に、あの言葉がよぎった。
「知らない人とは話しちゃだめでしょ?」
「私自身も協議会の活動をするようになって初めて、地域の人たちの経験や能力を知りました。みんなが何かのプロフェッショナルで、リスペクトの気持ちが生まれたんです。
こうして「サイdo男カード」のアイデアが生まれた。
■そっけない反応
宮原さんは、すぐさま動いた。
6つの部会で「サイdo男カードとして売り出したらダメですか?」とプレゼンを実施。最初の反応は「それしてなんになると?」とそっけないものだった。
それでも諦めず、「お米といえば相川さんですよね! トレカみたいにカッコよくするから」と一人ひとりに話しかけ、写真を撮って回った。トレカが何かよくわからないまま「いいよ」と答える人もいれば、断られることもあった。それでもなんとか12人の了承を得た。
撮影した写真を無料アプリでイラスト風に加工し、リスペクトを込めてキャッチーな名前をつけた。この発想の背景には、宮原さんのバイオリニストとしての経験があった。
「敷居が高いクラシックが嫌いでした。もっと音楽って身近なものなんじゃないかなと」
音楽と絵を組み合わせたり、モーツァルトに扮してわらいを交えた演奏をしたり。
こうして12種類の「サイdo男カード」が誕生した。
■カードゲームへのリニューアル
11月の秋祭りで3枚1セット100円で売り出すと、用意した100枚が即完売。
子どもたちはその場でキャラクター同士の対戦を始めた。この光景を見た宮原さんは、「これは遊べるようにせんといかん」とゲーム化を決意。
ポケモンカードなどを研究し、スタッフと協力してゲームルールを作成。対戦できるようHPや得意技も追加した。ただし、実在する人物のカードで遊ぶため、一般的なカードゲームで用いられる「墓地」「死んだ」という言葉は使わない。代わりに旧小学校の保健室名「ゆずルーム」で「休憩」と表現することにした。
翌年1月には本格的なトレーディングカードゲームに進化。2月にはコミュニティセンター内にある駄菓子屋「さいまる」で、価格据え置きの3枚100円で販売を開始した。
カードの遊び方の普及にも務めた。地域の子どもたちで立ち上げたキッズユーチュー部で動画を撮影し、YouTubeにアップ。子どもから子どもへ、さらに大人やお年寄りにも広がっていった。ふたり用のカードゲームは、知らない子ども同士でも一緒に遊べる「つながり」も生みだした。
カードの人気は、地域を超えて広がっていく。
■ヒーローになったおじさんたち
2024年に入り、地元テレビや新聞に「サイdo男カード」が取り上げられるようになると、関東や大手企業からの視察が入るようになった。
4月には総務省のYouTube公式チャンネルで、住民主導による地域づくりの成功事例として紹介された。12月、地元人気バラエティ番組に登場すると、全国から取材依頼が殺到。県外、そして海外からも人が訪れるようになった。
外からの注目が、内側の意識を変えていった。
「また変なの作って……」
当初、冷ややかだった地域の人たちも、メディア取材が増えるにつれ変化していった。「自分のカードが欲しい」とおじさんたちが買いに来るようになり、「カードになってもいい」というおじさんも現れた。
「最初は恥ずかしがっていたおじさんたちも、取材を受けるうちに地域のことを語るようになりました。今では彼ら自身が、採銅所の語り部のような存在になってくれています」と村上さんは語る。
実際に、サイdo男たちは何を感じているのか。本人たちに話を聞いた。
前述の「グラビティマスター」福島浩之さん(68)は、JRを退職後、香春町で臨時職員や教育委員会の仕事を経て、コミュニティ協議会の役員を務める。カードができてから子どもたちに声をかけられることが増えたという。
「おいちゃん!」と手を振られ、サインを求められることも。「照れくさくてサインは一度きりだけど、子どもたちとの交流は増えましたね」と頬を上げる。
■カードになった人たちの本音
「ハートハイダー」松井明さん(74)は、企業で経理として勤め上げ、耕作放棄地となっていた土地を協議会に提供した。
里山部会で農作物を育て、シェア農園を運営している。サイdo男になったことで、「町を歩くと子どもたちが『こんにちは』と声をかけてくれるようになった。子どもたちに顔を知られているという安心感があるから会話が生まれる」とほほ笑む。
「バリスタドリッパー」川野藤則さん(65)は、税務署で勤め上げ、採銅所に帰ってきた。コミュニティセンター内で開くカフェのマスターでもあり、米作りワークショップや古民家宿の運営など、移住促進にも力を入れている。
「カードをきっかけに、全国的に採銅所を知ってもらえるのは嬉しい。下関や北九州などの都市にも通える長閑なこの町は、実はすごく暮らしやすい」と誇らしげに語る。
最後までカードになることを拒んでいたという三村信也さん(36)は、「バナナプランター」や「パーマカルチャーデザイナー」など6つの顔を持つ。地域おこし協力隊として活動した後、農業に取り組みながら起業を目指している。「なんだかんだで恥ずかしいじゃないですか……」とぽつりぽつりと胸の内を話してくれた。
「でも、協議会での取り組みが密になっていくと、恥ずかしいとか言ってる場合じゃないなって吹っ切れて(笑)。もう、面白くやってくれたらいいですね」とにこやかに心境の変化を語る。
■「町に人がいればなんとかできる」
開始時に12種類だった「サイdo男カード」は、30種類まで増加。さらに「サイdoレンジャー」や「採銅所メンマ」などの特産品をカードにしたアイテムカードを加えると、全55種類に達した(2025年5月時点)。
女性のカードについても尋ねてみると、「女性だけの新たな秘策を練っている」とのこと。
コミュニティセンターのボランティアに参加する子どもは倍以上に増えたという。その理由を聞くと「ヒーローに会えるから」。防災イベントなどで実際に活動する姿が子どもたちの憧れになっている。
世代を超えたつながりは、地域ぐるみでの子どもたちの見守りにもつながっている。
「『知らない人とは話しちゃだめ』と閉ざすのではなく、知り合うことでオープンにする。ひとりではできないからやらないのではなく、できる人たちに助けてもらってみんなでやればいい」と宮原さん。
さらに「サイdo男カード」は大人同士の繋がりも生み出した。
地域で停電が発生した際には、電気系の技術を持つ「プラズマコンダクター」が修理に駆けつけた。防災訓練となれば「ファイヤーウォール」や「codeオペレーター」が表に立つ。
「誰が何をできる人なのかを知っているからこそ、お願いすることができるんです。お店がなくなっても、町に人がいればなんとかできるかもしれません」と宮原さんは笑みを浮かべる。
■地域づくりは「人づくり」
「町づくりの前に人づくり。人とのつながりを築いていくことが大切」と宮原さんは語る。
一方で、人とのつながりを築いていくのは一筋縄ではいかない。
2023年に事務局スタッフとなった西宇洋恵さん(36)も、当初は地域との関わりを避けていたひとりだ。子育てを機に採銅所に越してきた西宇さんと宮原さんの出会いは、子どもの小学校の入学式。
「初めて声をかけられた時、正直『なんだこのおばさん』って思ったんです」と西宇さんは振り返る。
「宮原さんから『声をかけたい』オーラがすごく出ていて、それを感じつつも無視していたんですが(笑)、子どものラジオ体操について行くたびに誘われるので、掃除の手伝いから始めて……気づけば事務局スタッフになっていました」と宮原さんを見て、笑う。そこには、「子育てしている同世代に、協議会に加わって欲しい」との宮原さんの思いがあった。
誘われる立場だった西宇さんが、やがて提案する側に変わっていく。地域のひとの声をきっかけに「コミュニティセンター内に駄菓子屋を作りたい」と宮原さんに提案。「やってみたら」のひと声で、オープンさせた。
■一番の理解者
宮原さん自身も、人との関係構築で学びを得た経験がある。
協議会が立ち上がった年の出来事。ある男性の「俺、別にやりたくないもん」という投げやりな態度に腹が立った宮原さんは、「みんな一生懸命やっているのに!」と気持ちをぶつけると、思わず涙があふれた。
「伝えたことは間違っていない。でも、伝え方が間違っていた……」
その夜反省し、翌日素直に謝ると、相手も謝ってくれた。そこから、一気に関係が変わった。
その時のサイdo男「スパイシーストロングメンマン」奥田龍也さん(73)は、「一般社団法人さいどうしょ」の代表として、メンマの製作販売やシェアカー運営事業を手がけ、今では宮原さんの一番の理解者となっている。
「嫌いな人は世の中にいるけれど、ここでは嫌い嫌いって言ってたら本当にひとりになるから。西宇さんにどれだけ避けられても、私は好きだからいいんです。本当は私のこと好きなんでしょって(笑)」
■カードは地域のつながりの結晶
宮原さんは続ける。
「大人になって喧嘩することってめったにないですが、ここでは本音で話し合えます。『そんな言い方をされたら私は傷つく』とか、思いを伝えることで関係が深まるんです」
「最初は人付き合いが苦手だった」と振り返る西宇さんも、今では本音でぶつかり涙を流すほどの関係に。「宮原さんは避けられても喧嘩してでも忖度抜きで思ったことを言うタイプです。私も負けず嫌いなんで」とニコリと笑う。
「絵理ちゃんは、子どもの頃から熱が出てもバイオリンの練習を休んだことがないくらい厳しい鍛錬を重ねてきた人です。アーティストとして全力で生きてきた分、コミュニケーションは得意ではなかったと思う。でも、そのひたむきさと情熱で地域づくりに向き合ってくれて、今では地域のハブになってくれています。カードばかりが注目されがちですが、いろんな活動の延長線上に『サイdo男カード』があるんです。カードにつながる地域の人の思いや取り組みも知ってほしいですね」と村上さんは語る。
■3年間でコミュニティセンター来館者数が3倍に、町長もカードに
協議会設立から3年。驚くべき変化は、地域住民の参加意欲だ。
設立時に宮原さんひとりだった協議会の事務局は3人に、ボランティア部会員は15人から45人へと3倍に増加。さらに単発でボランティアに参加するひとは100人を超えた。
「ひとがひとを連れてきてくれるんです」と宮原さん。
夏休みのキッズキャンプを見れば、その熱量がわかる。参加する子ども21人に対し、ボランティアスタッフは64人。子どもひとりに、3人の大人がつくことになる。70人以上が参加する防災フェスも、48人のボランティアが運営を支える。
夏休みのラジオ体操には、21日間で延べ223人が参加。子どもから高齢者まで世代を超えた地域のひとがコミュニティセンターに集まる光景は、まさに「サイdo男カード」が目指した姿だ。
コミュニティセンターへの来館者数は初年度の3158人から8548人へ、約3倍に増えた。人口1700人の集落で、月700人以上が訪れる計算だ。特に地域外からの来館者の伸びは目を引く。「サイdo男カード」誕生前は月平均38人だったが、誕生後は月平均166人と4倍以上に。年間では初年度の8.7倍までに急増した。
視察は14件、メディア取材16件、講演依頼も4件と注目度も高まっている。テーマは「住民主導の地域づくり」から「世代を超えたつながりをどう生み出すか」まで幅広く、行政だけでなく教育業界からも声がかかる。
採銅所の取り組みに刺激を受け、同じ香春町の2つの地区でも準備会と協議会が立ち上がった。「サイdo男カードの遊び方を伝授してほしい」と町長から依頼があり、町長自身もアイテムカードとして加わった。
香春町役場の村上さんによると、空き家や移住の問い合わせも増加している。帰省中、イベントに参加したひとが「こんなに地元が盛り上がっているなら帰ってもいい」と話し、Uターンを検討する動きも出ている。
これだけの人気なら、さぞ協議会の収益になっているのでは――。そう尋ねてみると、宮原さんは苦笑いを浮かべた。
「いやいや、全然儲からないですよ。カード製作は事務局スタッフの西宇さんが他の仕事をしながら作ってくれていて、人件費もかかっていません。売上は材料費で消えていきます」
■転売ヤーに目をつけられ…
2025年6月に入っても「サイdo男カード」の人気は衰えることなく、自治体からの視察は増加している。一方で、この人気の高まりが、想定外の事態を生んでいた。
――フリマアプリでの転売だ。
「朝日新聞の夕刊までメルカリに出品されるなんて……」。宮原さんは複雑な思いを語る。取り組みを知ってもらえるのは嬉しい。でも、カードが商品として売買されることは本意ではない。この事態を受けて協議会は、6月13日の役員会でカードの販売休止を決めた。
『地域の子どもと大人を繋ぐこと』
『ボランティア活動をかっこいいと思ってもらうこと』
という「サイdo男カード」の本来の目的を再確認し、今後について検討を進めていく。
最後に宮原さんに尋ねた。大嫌いだった地域づくりに、なぜそこまで本気になれるのか――。
「終わりたくないからじゃないでしょうか。ここまで築いてきた人とのつながりが、ゼロになるのが嫌なんです。もともと人付き合いが好きじゃなかったのが、少しずつできるようになってきて。みなさんにいろんなことをしてもらって今がある。楽しいですよね」
■「楽しいことには、人は集まるんですよね」
取材を終えるころ、コミュニティセンター入り口で作業をしているご年配の女性がいた。小学校が廃校になる前は、ボランティアとして読み聞かせをしていたそうだ。今は協議会のボランティアメンバーとして、季節の飾り付けや、空きスペースとなった図書室に地域の人から集めた本を並べ、ブックリサイクルにも取り組んでいる。
「ここが好きなんです。仲間が好きだから。みんな個性や特技を持っていて、それを発揮する機会がある。ひとりでは難しくても、こういう場があれば同年代の友だちを連れてくることができます。『大丈夫よ、ひとりでも』って宮原さんが言ってくれる安心感もありますね」
そう言って、絵が得意な友人が作ってくれたという「入学式」のお知らせを見せてくれた。
「楽しいことには、人は集まるんですよね」
宮原さんは、こちらを見てニコッと笑った。
取材を通して何度も宮原さんの言葉を反芻した。
「知らなければ、ただの人。知っているからこそ、つながりが生まれるんです」
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サオリス・ユーフラテス(さおりす・ゆーふらてす)
インタビュアー・ライター
1979年、佐賀生まれ。製薬会社勤務を経て、2007年より14年半リクルートエージェントに勤めた後、2021年に独立。福岡を拠点に人の人生を深掘りするインタビューや、経営者のアウトプットサポートをメインに活動中。
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(インタビュアー・ライター サオリス・ユーフラテス)