■「ゼロ回答」が続いた日テレの記者会見
タレント・国分太一さんのコンプライアンス違反に関して、6月20日、日本テレビは記者会見を開催した。会見には福田博之社長1人が登壇し、自ら説明を行ったのだが、国分さんがどのような行為を行ったのかという説明は一切なかった。
記者からの質問に対しても、「プライバシー保護のため」「答えられません」といった返答を繰り返すばかりで、実質的な「ゼロ回答」がなされるだけだった。
記者からの怒号も飛んだが、会見は1時間半で終了。終了後も「記者会見を開く意味があったのか?」という批判が巻き起こる結果となった。
筆者自身、国分さんの報道が出た直後から、複数のテレビ局から出演依頼を受けたのだが、何も新しい情報が出てこなかったため、大半がキャンセルになってしまった。テレビ局に限らず、報道機関の多くは「肩透かしを食らった」と感じたに違いない。
どうして、日本テレビはこのような記者会見を開いたのだろうか? この記者会見はやる意味がなかったのだろうか? 会見後の有識者の発言や各メディアの報道も踏まえて考えてみたい。
■日テレが記者会見で明らかにしたこと
日本テレビの発表と記者会見でわかったことは、主に下記の通りだ。
● 国分さんが複数のコンプライアンス違反に当たる行為を行った
● 上記の行為により、国分さんは同局の番組「ザ!鉄腕!DASH‼」を降板になること
● 国分さんは反省をしており、降板も受け入れていること
● 国分さんの行為は刑事事件になるような事案ではなく、日テレは国分さんに対して訴訟を起こす意向はないこと
● 日本テレビ側に不適切な行為はなく、社員の処分もないこと
被害者がいるのかいないのかさえ明らかになることはなかった。記者会見の前に日本テレビは臨時取締役会を開催し、国分さんの降板の承認を得たという。
臨時取締役会まで開催し、社長自らが記者会見まで行う必要はあったのだろうか? 「この程度の事案であれば、ニュースリリースを出せばよいのではないか」という批判も出ていたが、そう言われるのも無理からぬことのように思える。
■日テレの会見はフジの二の舞を避けるため
メディアや有識者の意見を見ていても、今回の記者会見には否定的な論調が目立っている。擁護的な意見も見られはするが、「条件付きの擁護」といったところだ。
記者会見の後に、国分さんが日本テレビの番組関係者に対してパワハラ、セクハラ行為を行ったのでは――という報道が出ていた。
筆者自身、国分さんの行為は、セクハラかパワハラ、おそらくはセクハラだろう――と考えていた。事後の報道を見て、答え合わせができた気分だった。
日本テレビ側としては、フジテレビ・中居氏の問題が深刻な事態に発展したことを踏まえて、リスク回避のための手を打ったと考えられる。
記者会見が金曜日に行われた点を見ても、日本テレビの意図が垣間見える。できるだけ報道されたくない記者会見は、金曜日に行われることが多い。そのまま週末に突入すると、ニュース番組も減っていく。特に、ビジネス関連のニュースは週末には減る傾向がある。「記者会見は不可避だが、大事(おおごと)にはしたくない」というのが、日本テレビの本音だったように思える。
■日本テレビが抱えていたジレンマ
下手をすると、国分さんの事例も「フジテレビの類似案件」として見なされかねない。そうなると、「日本テレビにも非があったのでは?」という疑惑は当然生じてくることになる。
だから、日本テレビは大事を取って社長会見という形を取ったのだろう。一方で、セクハラ事案であったとすると、「プライバシーへの配慮から何も言えない」という事情も理解はできる。
中居さんとフジテレビ元社員の女性とのトラブルにおいては、中居さんのファンを中心に、女性側が激しいバッシングを受けている。
日本テレビ側が、「ハラスメント事案である」ということを表明して、メディアやSNSで当事者が特定され、批判にさらされる可能性は十分に考えられる。そうなると、そのきっかけを作った日本テレビも批判される可能性はある。
いずれにしても、メディアは後追い取材をして、何が起きたかはある程度は明らかにされていくだろう。
日本テレビは批判を回避するために、具体的に何が起きたのかは一切語らなかったのだと考えられる。
「プライバシーに配慮しながら、もっと具体的な内容まで踏み込むことはできたはずだ」という批判もあるのだが、踏み込んで語ってしまうと、それが呼び水となってプライバシーが暴かれていく可能性は十分ありえる。
日本テレビは「あちら立てれば、こちらが立たず」という状況に追い込まれており、苦肉の策としてあのような記者会見を開催したと言えるだろう。
■国分氏本人が記者会見を開くべきだった
このたびの記者会見は、日本テレビのリスク回避という点では一定の役割は果たしたとは言えるだろう。
ただ、会見によって副作用も生じてしまっている。記者会見を開くことによって、必要以上にこの事案が世の中の注目を集めてしまったのだ。
当時、SMILE-UP.(旧ジャニーズ事務所)に所属し、Aぇ! groupのメンバーだった、福本大晴さんが、2023年12月にコンプライアンス違反でSMILE-UP.との専属契約が解除されたが、さほど大きくは報道されていないし、「コンプライアンス違反」の内容も明るみにされないままで幕引きされた。
もちろん、国分さんと福本さんでは、キャリアも違えば知名度もまったく違うが、記者会見の開催によって、世間の注目を煽ってしまったところはたしかにあったように思う。
日本テレビの一定のリスク回避はできても、「問題を収束させる」という点においては、逆効果の面もあった。
もっと良いやり方はなかったのだろうか? 筆者が考える最適なやり方としては、国分さん自身、あるいは彼が所属する株式会社TOKIOが十分な説明責任を果たすことだ。
日本テレビがニュースリリースを出し(内容は記者会見の内容と同様で良い)、その直後に国分さんが記者会見を行って、本人の口から説明を果たせば、より良かったように思う。
記者会見や報道を見る限り、本件は日本テレビというよりは国分さんの問題であり、最大の当事者である国分さんが説明責任を果たすことが大原則のはずだ。
■TOKIOの「声明文」への違和感
記者会見終了後の同日、国分さんが所属する株式会社TOKIOは城島茂代表取締役名義で声明文を発表している。後半は国分太一さん自身の謝罪表明文も掲載されているのだが、非常に短く、トラブルの中身については何も説明されていない。
声明文で理解しがたいのは、問い合わせ先として、TOKIOがエージェント契約をしているSTARTO ENTERTAINMENT.社が指定されている点だ。これについては、下記のように説明がされている。
当社は問合せ対応窓口をもっておらず、本件に関するお問い合わせは、当社とグループエージェント契約を締結している株式会社STARTO ENTERTAINMENTに依頼しておりますので、お問合せは窓口まで何卒よろしくお願い申し上げます。
エージェント契約は、仕事を仲介して手数料を徴収するシステムのはずで、管理責任は、STARTO ENTERTAINMENT.社ではなく、株式会社TOKIOが負わなければならないはずだ。
今後、説明責任を果たすべき人や組織がちゃんと説明責任を果たしてくれるのだろうか?
■ジャニーズ問題の「負の遺産」は残り続けている
中居さんに続いて、国分さんも同様と思しきトラブルを起こしている。さらに、田原俊彦さんもラジオ番組で不適切発言を行って問題となっている。
中居さんも、国分さんも、問題が起きる前は、社会貢献や関係者への配慮など、良い評判が形成されていた。なぜこのような行為を行ってしまうのだろうか? 「芸能界の慣行に染まっている」「昭和の感覚からアップデートされていない」という意見もあるのだが、それに留まらないように筆者には思える。
筆者は、その背景には、ジャニー喜多川氏の性加害の残滓が残り続けていると見ている。旧ジャニーズ出身のタレントの多くは、性関連の倫理意識が世の中の常識からズレてしまっているように見える。また、ジャニーズ事務所の崩壊により、タレントのリスクマネジメントが十分にできなくなっているようにも見える。
問題を起こしたタレントに厳しく対処することは大切ではあるが、タレントのケアも平行して行わなければ、また同様の問題が起きると筆者には思えてならない。
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西山 守(にしやま・まもる)
マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。
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(マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授 西山 守)