※本稿は、渡邊剛(著)、坂本昌也(監修)『世界一の心臓血管外科医が教える 善玉血液のつくり方』(あさ出版)の一部を再編集したものです。
■汚い血液が血管をボロボロにしてしまう
血管がボロボロになる前に食い止めるには、血管の中を流れるものに目を向けることです。つまり血液です。
心臓から送り出される血液は、1分間で約5リットルといいます。1時間で300リットル、1日に換算すると7200リットルも送り出されていることになります。運動しているときは1分間で20~25リットル送り出されるといわれているので、運動習慣がある人はさらに大量の血液が流れているということになります。
これだけの量の血液が血管の中を流れているのですから、血管に影響を及ぼさないわけがありません。同じ血管でも、汚い血液が流れれば早くボロボロになるし、きれいな血液が流れれば、血管そのものの加齢による劣化は止められなくても、内側から始まる劣化は食い止めることができます。
きれいな血液なら、少なくとも劣化のスピードを遅らせられるということです。本稿では、この血管をボロボロにする汚い血液を「悪玉血液」、劣化を遅らせるきれいな血液を「善玉血液」として話を進めていくことにします。
■そもそも「血液」はどんな成分で出来ているのか
そもそも、血液とはどういう成分で構成されているかご存じですか。
血液は、大きく「血漿(けっしょう)」といわれる液体成分と、「血球」といわれる固体成分にわかれます。血漿は血液の約55%を占め、そのほとんどは水(約9割)で、そのほかに食事で摂った栄養、内分泌腺という器官から分泌されるホルモン、排出するために回収される老廃物などが含まれます。
血球は血液の約45%を占め、そのほとんどは酸素を運ぶ役割を担っているヘモグロビンが含まれる赤血球で、残りは細菌やウイルスなどの病原菌の攻撃から私たちの体を守る免疫システムの主役である白血球、出血を止める血小板が含まれます。
私たちが毎日元気に活動し、健康に生きていられるのは、血漿と血球で構成された血液が血管を通って体の隅々までしっかり届けられているからです。裏を返せば、血管にトラブルが発生して狭くなったり、詰まったり、破れたりして完全にストップすると、たちまち動けなくなるということです。
■「悪玉血液」がさまざまな健康トラブルを引き起こす
この血管のトラブルの元凶となるのが、「悪玉血液」です。
悪玉血液には、血管にダメージを与え、動脈硬化を進行させる成分がたくさん含まれています。一方、「善玉血液」には、体のあらゆる組織が必要とする成分で構成されています。
悪玉血液が流れるのか、善玉血液が流れるのか。あなたの血管の未来は、どちらが流れるかにかかっているといっても過言ではありません。加齢とともに衰えてくる血管の中を、悪玉血液が流れ続けると、やがて血管がボロボロになり、取り返しのつかない事態を招くことになります。
あなたの血管の中には、悪玉血液、善玉血液、どちらが流れていると思いますか。
健康診断の結果が気になるようになるのは、ちょっと太り始めたり、疲れやすくなったり、回復に時間がかかるようになったりする30代後半~40代くらいからではないでしょうか。その年代になると、会社の同僚や友人との会話の中でも、「中性脂肪が……」「コレステロールが……」「尿酸値が……」「血糖値が……」などと、健康診断の結果がネタとして登場することも多くなります。
このようについつい話してしまうのは、同世代の共通の話題になりやすいからです。
■老化が体に表れやすい40~50代
それまで病院へかかったこともない人が、いくつかの項目で基準値(健康な人の平均値)を超えるようになるのはよくあることです。あなたも気になっている項目があるのではないでしょうか。
もしかすると、なんとかしなければいけないと焦っている人もいるかもしれません。私も、50代後半から中性脂肪やコレステロールの数値が高くなり、ヘモグロビンA1cが6%台近くになりました。
ヘモグロビンA1cとは、血液中に含まれる糖化ヘモグロビン(赤血球内のヘモグロビンがブドウ糖とくっついたもの)の割合で、6%を超えると糖尿病のリスクが高くなります。自分の顔を見て太ってきていることを実感することもありましたし、友人から「お腹が少し出てきたね」と指摘されたこともありました。
子どもの頃は好きなだけコーラを飲んでも、お菓子を食べても変わらなかった中性脂肪の数値が高くなるのですから、老化とは怖いものです。
多かれ少なかれ、若い頃と同じようにはいかなくなるのが、40~50代です。言葉が正しいかどうかわかりませんが、「成人病らしい体になった」ということでしょうか。
■食習慣や運動習慣が血液の良し悪しに影響する
健康診断の大きな目的のひとつは、成人病の予防です。
成人病は現在では生活習慣病と呼ばれるようになりましたが、糖尿病や脂質異常症、高血圧、それからボロボロ血管で発症する狭心症や心筋梗塞、脳卒中など、食習慣、運動習慣、休養などの生活習慣が発症や進行につながる病気です。
この生活習慣病を未然に防ぐために気をつけておきたい指標が、健康診断の検査項目ということです。つまり、健康診断の結果から悪玉血液が流れているということなら、生活習慣病を発症するリスクも高くなっているということです。
逆に、善玉血液が流れていれば、血管がボロボロになることもなければ、生活習慣病を発症するリスクも低いということです。悪玉血液を善玉血液に変えると、健康な血管を維持するだけでなく、生活習慣病の予防にもなるのです。検査結果を見て笑い話にできるのは、今のうちだけだと思ってください。
それでは、具体的にどんな血液が、悪玉血液なのでしょうか。悪玉血液の特徴は、粘り気のあるドロドロした血液です。
また、ドロドロした血液は内膜にダメージを与え、血小板を刺激して血栓(血のかたまり)がつくられやすくなります。
■脱水状態が続くと血液はドロドロに
血液がドロドロになる要因はいくつかありますが、ひとつは脱水です。
粉末スープに水やお湯を注ぐときに、推奨している量より少なめに入れるとドロッとしたスープになるように、血液の水分量が少なくなると、粘り気が増します。脱水気味かどうかがわかる健康診断の指標が、血液検査の「ヘマトクリット」「血清ナトリウム」「血清尿素窒素(BUN)」「血清クレアチニン」です。
それぞれの指標を簡単に解説すると、「ヘマトクリット」は血液中に占める赤血球の割合で、脱水状態になると数値が高くなります。基準値は、男性が40~50%、女性が35~45%です。「血清ナトリウム」は血液中のナトリウムイオンの濃度で、体液が不足すると高くなり、水分が過剰なときは低くなります。基準値は、135~145mEq/L(ミリエクイバレント・パー・リットル)です。
「血清尿素窒素(BUN)」は血液中の尿素窒素の濃度で、脱水気味になると数値が高くなります。尿素窒素は血液中の老廃物のひとつで、腎機能が低下すると尿としてうまく排出されずに血液中に蓄積されます。
■栄養の摂りすぎで血液はドロドロになる
「血清クレアチニン」は血液中のクレアチニンの濃度で、脱水気味になると数値が高くなります。クレアチニンもBUNと同じように血液中の老廃物のひとつで、腎機能が低下すると血液中に蓄積されます。
基準値は、男性が0.7~1.2mg/dL、女性が0.5~1.0mg/dLです。ヘマトクリットとBUNが高くなっているときは、特に脱水の可能性が高いといわれています。健康診断の結果が手元にある人は、自分の数値と見比べてみてください。図表2の4つの指標が基準値を超えている人は、粘り気のある悪玉血液が流れている可能性があります。
血液がドロドロになる要因のもうひとつは、栄養の摂り過ぎです。先ほどの粉末スープの話にたとえると、サラサラのスープに、さらに粉末スープを入れるようなものです。当然ですが、粘り気のあるドロッとしたスープになります。
私たちの体には、食事を摂ると、胃や腸で消化吸収され、血管から臓器へ速やかに吸収されるシステムが備っています。しかし、必要以上に摂ると、臓器に吸収されることなく、血液中に滞ることになります。
■栄養の摂りすぎがわかる血液検査の「4つの指標」
栄養素のだぶつきがわかる指標が、血液検査の「LDLコレステロール」「中性脂肪」「血糖値」「ヘモグロビンA1c」です。それぞれの指標を簡単に解説すると、「LDLコレステロール」とは血液中に含まれるLDLコレステロールの濃度のことで、悪玉血液になると数値が高くなります。基準値は、60~119mg/dLです。
LDLコレステロールは、余ると血管の内膜にダメージを与えるだけでなく、プラークをつくる材料になるため、悪玉コレステロールとも呼ばれています。
「中性脂肪」は血液中に含まれる脂質の濃度のことで、悪玉血液になると数値が高くなります。基準値は、30~149mg/dLです。中性脂肪は筋肉や肝臓の大切なエネルギー源ですが、だぶついて余ると、やがて体脂肪として蓄積されます。
「血糖値」と「ヘモグロビンA1c」は、ブドウ糖のだぶつきがわかる数値で、血糖値は血液中に含まれるブドウ糖の濃度、ヘモグロビンA1cは先ほど紹介したように血液中に含まれる糖化ヘモグロビンの濃度です。いずれも、悪玉血液になると数値が高くなります。基準値は、血糖値(空腹時血糖)が70~99mg/dL、ヘモグロビンA1cが4.6~6.2%です。
指標を見るとわかりますが、だぶついているのは、コレステロールや中性脂肪が含まれる脂質と、ブドウ糖の元となる糖質です。この2つの栄養素は、たんぱく質と並んで私たちの体にとって大切なエネルギー源ですが、摂り過ぎると体に悪い影響を与える栄養素です。
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渡邊 剛(わたなべ・ごう)
心臓血管外科医
1958年、東京都生まれ。心臓血管外科医、ロボット外科医(da Vinci Pilot)、医学博士。日本ロボット外科学会理事長、日伯研究者協会副会長。麻布学園高等学校卒業後、医師を志す。金沢大学医学部卒業後、金沢大学第一外科に入局する。海外で活躍する心臓外科医になりたいという夢を叶えるためドイツ学術交流会(DAAD)奨学生としてドイツHannover医科大学に留学。金沢大学心肺・総合外科教授、国際医療福祉大学三田病院客員教授などを経て、2014年にニューハート・ワタナベ国際病院を開院。著書に『医者になる人に知っておいてほしいこと』(PHP新書)『世界一の心臓血管外科医が教える 善玉血液のつくり方』(あさ出版)などがある。
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坂本 昌也(さかもと・まさや)
国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 部長
国際医療福祉大学 医学部教授。国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科部長。東京都出身。東京慈恵会医科大学医学部卒。東京大学・千葉大学大学院時代より、糖尿病、心臓病、特に高血圧に関する基礎から臨床研究に渡るまで多くの研究論文を発表。日本糖尿病学会認定指導医・糖尿病専門医、日本内分泌学会認定指導医・内分泌代謝専門医、日本高血圧学会認定指導医・高血圧専門医、日本内科学会認定指導医・総合内科専門医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本医師会認定産業医、厚生労働省指定オンライン診療研修、臨床研究協議会プログラム責任者養成講習会を修了。現在も研究を続けながら若手医師や医学部生の指導も担当している。
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(心臓血管外科医 渡邊 剛、国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 部長 坂本 昌也)