■総合スーパーの衣料品が苦戦中
イトーヨーカドー、イオンといった総合スーパーマーケットの衣料品部門の苦戦が目立ちます。
総合スーパーマーケットは多くの人にとって必要不可欠な流通インフラの一つとなっています。衣食住という言葉のなかで、スーパーが利用されているのは圧倒的に「食」に関することでしょう。次いで日用品などの「住」でしょうか。
ところが、残念ながら「衣」をスーパーに期待しているという人はあまり多くありません。このスーパー各社の「衣」の苦戦はそう簡単に克服できないのではないかと思われます。
■イオン、ヨーカドーの「刷新」も不発…
イトーヨーカドーは2024年から、肌着・靴下・パジャマなどの実用品を除き、カジュアル衣料品をアダストリアの「FOUND GOOD」(ファウンドグッド)ブランドで賄うと発表しました。カジュアル衣料品平場の苦戦が続き、ついに外注に切り替えることで損失を防ぎたいと考えたのでしょう。イトーヨーカドーは元来衣料品が強く、長らく看板商品でした。
イトーヨーカドーと並ぶ最大手のイオンも24年3月、PB「トップバリュ」の中から衣料品を子会社の「トップバリュコレクション」にすべて移管して、新ブランド「TVC」の25年2月期売上高を「前期比7倍に伸ばす」と発表しました。
25年2月期のトップバリュコレクションの決算は非公表であるため売上高はわかりませんが、官報の決算公告によると純損失43億3828万円に沈んでいます。
しかも24年2月期の純損失11億2835万円に比べて、赤字幅は逆に拡大している有様です。仮に売上高が7倍になっていたと仮定しても、赤字幅を32億円も拡大させているのなら、ビジネスとしては失敗しているとしか言えません。
■同じく低調の平和堂、イズミ
イオン、イトーヨーカドーに比べると規模的には小さいですが、滋賀を拠点に関西・北陸・中部に店舗を展開している老舗総合スーパーの平和堂も衣料品に関しては伸び悩んでいます。
25年2月期決算の中で、単体の各分野別の売上高の増減が発表されている資料によると、全部門合計の売上高は前年比5.2%増(既存店昨対は3.7%増)と全店売上高も既存店売上高も伸びています。
食品、衣料品、住居関連の各部門別に見ると、食品は全店売上高が前年比6.5%増、住関連品は1.9%増と伸びていますが、衣料品だけは全店売上高が前年比1.1%減とわずかながら前年割れに終わっています。いかに衣料品が苦戦しているかがわかります。
一方、中国・四国・九州に強いイズミ(関西拠点のイズミヤとは別)は、イトーヨーカドーに先駆けて、衣料品でアダストリアとの共同開発ブランド「SHUCA」(シュカ)を発表しましたが、これも既存の衣料品平場では集客が難しくなっているからだと考えられます。
町田繁樹社長は「衣料品は当社の創業事業だから、他社のように止めるという選択肢はない」と抱負を述べていたので、これから何らかの新政策が発表されるかもしれません。しかし、このような声明を発表するということは「イズミも衣料品をやめるのではないか」と懸念している取引先や自社従業員を安心させる必要に迫られているためだとも考えられますので、好調ではないのでしょう。
■「過去の栄光」にすがりついている
アダストリアに丸投げしてしまったイトーヨーカドーは除いて、赤字幅拡大とはいえトップバリュコレクションにテコ入れをしたイオンにしろ、新社長自らが声明を発表したイズミにしろ、衣料品強化を目指す総合スーパーが少なくないことはなぜなのでしょうか?
以前、ある量販店向けの卸売りアパレルメーカーの元部長が「70年代後半からバブル崩壊くらいまでスーパー各社は衣料品が利益の稼ぎ頭だった。その過去の栄光があるから捨てたくないと感じている」と話していました。
今でこそ「スーパー=食品」のイメージが定着していますが、バブル崩壊までは総合スーパーで洋服を買うというイメージを持っていた消費者は少なからずいたということになります。
■ダイエーに追従してニチイ、ジャスコなどが登場
洋服が工業製品として量産化されたのは戦後のことです。日本では60年代くらいから既製服ビジネスが始まりました。その当時の洋服の主な販売チャネルは、個人経営の専門店か百貨店でした。
その後、エブリデイロープライスを謳った総合スーパーという業態がアメリカから日本に輸入され「主婦の店ダイエー」が国内ではその第1号店だとされています。ダイエーの躍進によって追随者も多く現れ、ニチイ(のちのマイカル)、ジャスコ(現イオン)、イトーヨーカドー、平和堂、イズミ、ユニーなどが続々と登場しました。成功分野が生まれると続々と追随者が現れるのは今も昔も変わりません。
専門店や百貨店は比較的高価格の洋服を販売していました。いくら戦後復興を果たしたとはいえ、国民全員が高い洋服だけを買うことなんて不可能ですから、低価格品を求める声は生まれます。ダイエーを始めとする総合スーパーは専門店、百貨店に比べて低価格の衣料品を提供するようになりました。
当然ながら、そこに納める量販店向けアパレルメーカーもこの後続々と生まれます。美濃屋、小泉アパレル、岐阜武、水甚、サンラリーグループなどは今でも残る有力量販店向けアパレルメーカーです。
■「ダサかった」が安いので満足できた
所得が高くて洋服に興味のある人は百貨店やブティックで洋服を買いましたが、所得が低く洋服に興味のなかった人は、自然と総合スーパーの洋服を買うようになりました。ちょうどその層に向けた洋服売場として価格的にもマッチしたといえます。
70年生まれの筆者も、90年代前半までジャスコやイズミヤで買った服を着て暮らしていました。個人的には、価格的には安くて助かった反面、当時のDCブランド群や専門店向けブランドと比べると、使用している生地もシルエット、色・柄の彩色も何もかもが、今思えば「ダサかった」ことを覚えています。当時洋服に興味がなかったので、値段を重視してそれで満足していました。
百貨店・専門店向けの高額品と、総合スーパーの値ごろ品しかなかったというのがバブル崩壊までの衣料品売り場の構図で、例外は「わけあって、安い。」をキャッチフレーズに高額化するDCブランドに反発する形で生まれた無印良品くらいだったでしょう。無印良品同様の受け皿になっていたのが、ジーンズ専門店チェーンだったといえます。
■スーパー向け衣料品にオシャレなものは少なかった
バブル崩壊前後になると、メンズスーツの量販専門店である青山、AOKI、はるやまあたりが全国出店し、オープン時には長蛇の列ができるほどの支持を受けました。「価格破壊」がある種の流行語にもなりました。そして98年にユニクロのフリース大ブームが起きました。
ユニクロブームが起きるまで低価格帯衣料品のマス層から支持されていたのが総合スーパー各社の衣料品売り場だったわけですが、では当時のマス層は総合スーパー各社の衣料品を「カッコイイ」と思って買っていたのでしょうか。
22歳ごろまでジャスコ、イズミヤの服だけを着て過ごしていた自分自身の心情を振り返ってみると、決してカッコイイとは思っていませんでした。
大学を卒業する少し前に、知人からリーバイスの501ジーンズの中古品を3000円の格安で譲り受けたことがあります。それまでのジャスコの2900円ジーンズと比べると、デニム生地そのものの触感や色合いも異なりましたし、シルエットも異なっていました。格段に501の方がカッコよかったのです。さすがに定価7900円(当時)だけのことはあると、感心してしまいました。
この当時のスーパー向けの衣料品の多くはすべてではありませんが、使用素材もパターンもシルエットもディテールも大きく異なっていたのです。トレンドの情報源は同じですが、当時のブランド品とスーパー向け衣料品とでは「見た目」がまったく違っていたのです。ですから当時のスーパー向け衣料品のほとんどは「カッコイイ」ものではありませんでした。
■ユニクロが「ダサい」を払拭できたワケ
ユニクロブーム以降、ユニクロ、ジーユー、しまむら、無印良品、ハニーズなどの低価格ブランドに客を奪われた形になっていますが、当時のユニクロもデザインや色合い、シルエットにはスーパー向け衣料品同様に「ダサい」と評価されていました。「ユニバレ」「ユニ被り」と揶揄されたのもこの頃です。
しかし、ユニクロは2004年にファッション化宣言を行い、徐々に実現してきました。ユニクロの評価を決定的に変えた最大のきっかけは2009年の「+J」の発売でしょう。
しまむらもこの頃からイメージが向上しました。それまでは田舎の安物売りというイメージが定着していましたが、2000年代後半から、読者モデルなどから「プチプラブランド」として自発的に発信されることで急速にイメージが向上し始めました。
■イトーヨーカドーの「ミスマッチ」
一方、総合スーパー各社の衣料品売り場はいまだにイメージは向上していません。ユニクロブームが起きる直前とさほど変わっていないのではないかと感じられます。正直なところ、単品で探せば他の低価格ブランドと遜色のない「見た目」をした商品が少なからずあります。しかし、しまむらとは異なり、それをわざわざ探そうとする消費者がほとんどいません。それは低いイメージがこびりついたままだからといえます。
総合スーパー各社も手をこまねいていたわけではありません。例えば、イオンもトップバリュの衣料品を毎月モノ系雑誌にタイアップ広告を出稿し続けていた時期もありました。悲しいことにそれでもあまり話題にならないのです。
イトーヨーカドーが大々的に導入したアダストリアの「ファウンドグッド」も商況は非公開なので詳細はわかりませんが、今年1月24日の日経新聞で、アダストリアの木村治社長が「思っていた数字には届いていない」と語っています。
売り場で商品を見てみると、アダストリアの他のブランドと同じような感じなので悪いとは決して思いませんが、木村社長のインタビュー記事によると「イトーヨーカドーのメイン客層は60~80代で、ファウンドグッドは30~40代を想定していたため、そのズレがある」という旨のコメントがありました。
要するに衣料品売り場には60代未満の消費者があまり来ないというわけです。そしてこの傾向はイトーヨーカドーだけではなく、他の総合スーパーも同じなのではないかと思われます。
■肌着・靴下はユニクロと遜色ないクオリティ
ユニクロの+J発売から16年が経過し、ユニクロについて微に入り報道し続けるマスコミの力も相まって、今の20~30代前半の大衆にはユニクロのイメージは「安いけどそこそこにオシャレ」というイメージしかありません。しまむらについても同様で、しまらーブームから15年以上が経過しています。他の低価格ブランドも同様です。
一方、総合スーパー各社も衣料品のイメージ向上の努力は続けていましたが、残念ながら報道が少ないこともあって2025年現在もさほど好転していません。単品で悪くない商品があるにもかかわらず。
中高年層からするといまだに「ジャスコ」のイメージが強く残っていますし、若者にも「ダサい」売り場という認識がこびりついていて「実用衣料の売り場」となっています。実際に「スーパーの肌着や靴下は重宝している」という声も聴きます。自身も一度イトーヨーカドーでグンゼがOEM生産した靴下を買ったことがありますが、値段の割にかなりの高品質でした。
衣料品を諦めないというイオンやイズミのような総合スーパーは、イメージ向上には今後も長い時間がかかることになるでしょう。もうやり尽くしていると感じているでしょうが、オールドメディア、ウェブ、SNSを駆使して自社の衣料品売り場を発信し続けるほか手は残されていないのではないでしょうか。
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南 充浩(みなみ・みつひろ)
ライター
繊維業界新聞記者として、ジーンズ業界を担当。紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下までを取材してきた。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。
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(ライター 南 充浩)