健康を保つためにはどんなことに気を付けたらいいか。心臓血管外科医の渡邊剛さんは「生活習慣病を招く食事習慣を見直したほうがいい。
まずは“4つの白い粉”の取り過ぎをやめることから始めてほしい」という――。(第4回)
※本稿は、渡邊剛(著)、坂本昌也(監修)『世界一の心臓血管外科医が教える 善玉血液のつくり方』(あさ出版)の一部を再編集したものです。
■まず食生活の改善から始めたほうがいい
ボロボロ血管にならないための結論は、善玉血液をつくることです。その方法として、まずおすすめするのが食事の改善です。
生活習慣病の予防としてよく推奨されるのは食事と運動ですが、健康のためとはいえ運動習慣がない人がいきなり運動を始めるのは、かなりハードルが高いチャレンジです。ほとんど運動しない私でも、「善玉血液になるから明日からジョギングしましょう」といわれても、とても実行できる自信がありません。ウォーキングでさえ無理ではないかと思っています。
善玉血液をつくるために、誰でもすぐに取り組めるのは食事だと思います。食事なら、やろうと思えば次の食事から変えることができます。
また、食事の改善をおすすめするのは、血液は食事によって変わるからです。要は、悪玉血液にならないような食べ方を覚えて実践すればいいのです。
そして、大切なのは、それを習慣化することです。
健康診断の結果が悪かった人が、ずっと悪玉血液だったわけではなく、善玉血液が流れていたこともあるはずです。逆に健康診断の結果が良かった人も、悪玉血液が流れたことがないという人はほとんどいないはずです。
血液の数値が悪いからといって、落ち込む必要はどこにもないのです。
■血管をボロボロにする「4つの白い粉」
また、最初に食事の改善をおすすめするのは、取りかかりやすいからだけでなく、動脈硬化の危険因子の多くを遠ざけられるからでもあります。
動脈硬化の主な危険因子は高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満、喫煙です。喫煙を除けば、すべて食事によって引き起こされる病気で、食事を改めることで予防することができます。つまり、食事を変えて血管の中を善玉血液が流れるようにすれば、血管がボロボロにならないだけでなく、生活習慣病を予防することにもなるのです。
私が血管をボロボロにする食べ物として注意を促しているのが、「4つの白い粉」です。4つの白い粉とは、砂糖、小麦粉、塩、プロテイン。まずはこれらの摂り過ぎに注意して、食事の改善に努めましょう。
では、ひとつずつ解説していくことにします。最初は砂糖です。

砂糖が含まれている食べ物をあげてください、といわれてすぐに思い浮かぶのが、ケーキやアイスクリーム、大福やどら焼きなどの甘いお菓子やスイーツです。甘いものではありませんが、砂糖はケチャップやドレッシング、みりんなどの調味料にも含まれています。
■「食後高血糖」で血管も臓器もダメージを受ける
砂糖は糖質100%で、糖質そのもの。糖質は、悪玉血液でだぶついている栄養素のひとつです。しかも砂糖が危ないのは、消化吸収が速いことです。
糖質には単糖類、単糖類が2つ結合した二糖類、単糖類が多数結合した多糖類があり、結合が少ないほど素早く分解され吸収されます。砂糖の主成分であるショ糖(スクロース)は、ブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)が結合した二糖類。体内に入ってくるとすぐに分解され、ブドウ糖は小腸から吸収されます。
吸収が速いと問題なのは、血糖値が急上昇するからです。血糖値とは血液中に含まれるブドウ糖の濃度のことですが、食後に血糖値が急上昇し、食後2時間が過ぎても血糖値が高い状態のことを「食後高血糖」といいます。食後高血糖は肥満や糖尿病につながるだけでなく、血管をボロボロにする一因になります。
糖尿病につながるのは、食後高血糖がすい臓を疲弊させるからです。
血糖値が急上昇すると、すい臓はブドウ糖を細胞に取り込むために働くインスリンというホルモンを慌てて大量に分泌します。何度もくり返していると、すい臓はどんどん疲れてきます。
■肥満につながる「血糖値スパイク」
日本人の糖尿病の約95%を占めるといわれる2型糖尿病は、インスリンの分泌量が足りなくなったり、きちんと働かなかったりすることが原因ですが、元をたどれば、すい臓の機能低下です。
食後高血糖は糖尿病を発症する10年くらい前から始まっているといわれています。空腹時血糖値やヘモグロビンA1cなどの血糖値関連の健康診断の結果にあらわれるようになるのは、ずいぶん経ってからなのです。
肥満につながるのは、血糖値が急上昇すると、すぐにお腹が空くからです。血糖値は急上昇すると、反動で急降下します。この現象を「血糖値スパイク」といいます。血糖値スパイクが起きると急激な飢餓感に襲われ、空腹に耐えられなくなります。余計にエネルギーを摂れば、脂肪が蓄積されるだけです。血管にダメージを与えるのは、血糖値の乱高下で「活性酸素」が増えるからです。
活性酸素は、もともとは細菌やウイルスなどを撃退してくれる強い味方ですが、必要以上に増えると、一転して自分の細胞や遺伝子を攻撃するようになります。
それが「酸化ストレス」という現象です。活性酸素に傷つけられた血管は、動脈硬化が少しずつ進行することになります。私たちは、砂糖が入ったおいしいものを食べて喜んでいる裏側で、自分の血管をボロボロにしているのです。
■「糖質の吸収速度」に問題がある
2つ目の白い粉は、小麦粉です。
小麦粉も、私たちはよく食べています。小麦粉を材料にしている食べ物を並べてみると、パン類、それからパスタやうどん、ラーメンなどの麺類、ケーキやシュークリーム、カステラなどのお菓子類。揚げ物や天ぷらにも使われますし、カレーのルーのとろみも小麦粉です。朝食がパン派の人は、1日3食、小麦粉を食べているかもしれません。
小麦粉には、強力粉や薄力粉といった精製小麦粉と、外皮(がいひ)(ふすま)や胚芽(はいが)が含まれる全粒粉がありますが、危ないのは精製小麦粉です。白い小麦粉といったほうがわかりやすいかもしれません。
白い小麦粉が危ないのは、砂糖と同じように糖質の吸収が速いからです。小麦粉の主成分は炭水化物で、炭水化物は糖質と食物繊維で構成されています。
食物繊維は糖質の吸収をゆるやかにするため一緒に摂るといいのですが、白い小麦粉は、その食物繊維が多く含まれる外皮や胚芽をわざわざ取り除いているのです。
これは、白米と玄米の関係でも同じです。糖質の吸収が速いと血糖値が急上昇しやすくなり、砂糖と同じように肥満や糖尿病、動脈硬化につながります。また、白い小麦粉は加工度の高い加工食品としても知られています。
もともとは自然にある食べ物でも、加工されればされるほど、人の体には栄養としてうまく取り入れにくい食品になってしまいます。主食として食べることがある小麦粉は一度に大量の糖質を摂ってしまうことがあるため、砂糖以上に注意が必要かもしれません。
■ラーメン1杯で摂取基準量を越えてしまう
3つ目の白い粉は、塩です。
塩味があるとおいしさが増すだけに、食事に塩は欠かせません。料理をするときに調味料として塩をよく使う人は多いと思います。しかし、塩も血管には危ない食べ物です。塩が血管をボロボロにするのは、塩そのものが血管に悪さをするのではなく、塩の主成分であるナトリウム(塩分)を摂り過ぎると血圧が上がり、血管が高血圧にさらされてダメージを受けるからです。
塩には「体にいい塩と悪い塩がある」といっている人もいるようですが、どの塩であっても主成分がナトリウム(塩分)であることに変わりはなく、血管に与える影響は同じです。
塩を摂ると血圧が上がるのは、体に備わっている血中ナトリウム濃度を一定に保とうとする仕組みが働くからです。
血液中のナトリウムが増え過ぎると、濃度を薄めるために血管のまわりにある水分を血管の中に引き込み、血液の量が増えます。血管の中を流れている血液の量が多くなれば、それだけ血管の壁にかかる圧力は高くなるということです。
ただでさえ塩分を摂り過ぎているのが日本人です。日本高血圧学会高血圧治療ガイドラインで推奨されている塩分量は、1日6g未満。しかし、日本人の平均摂取量は約10g。ちなみに、ラーメンには1杯7gほどの塩が入っています。すでに1日の摂取基準量を超えてしまっているのです。
たとえ“うす味”と書いてあるようなメニューや商品でも、大量に食べることで、その分塩分もたくさん摂っていることになるので注意してください。血管を守るためにも、意識して塩分を控えるようにしましょう。
■プロテインと腎臓の意外な関係性
4つ目の白い粉は、プロテインです。
プロテインと聞いてすぐに思い浮かぶのは、スポーツジムで筋力トレーニングに励んでいるマッチョな人たちかもしれません。しかし最近は、子ども、女性も気軽に摂れるサプリとして利用する人が増えてきています。
プロテインとはたんぱく質のことで、パウダー状になっているプロテインは原料からたんぱく質だけを抽出し、粉末化したものです。たんぱく質を効率よく摂るには適したサプリということはできるでしょう。
プロテインが危ないのは、腎臓の機能が低下する可能性があるからです。プロテインと腎臓の関係を整理すると次のようになります。
①プロテインを摂ると分解されてアミノ酸になる。余ったアミノ酸が肝臓で分解されるとアンモニアが発生する

②アンモニアは有害物質なので肝臓で尿素に変換される

③尿素は腎臓でろ過され、尿として排出される
実はこの流れは、プロテインだけでなく、肉や魚などたんぱく質を含む食べ物を食べたときも同じです。プロテインと肉や魚などとの違いは、たんぱく質が消化吸収されるスピードです。圧倒的に速いのが、粉末状に加工されているプロテインです。
■過剰な摂取によって腎臓病リスクが高まる
このようなプロテインに注意したほうがいいのは、短時間でのろ過作業によって腎臓に負担がかかるからなのです。
しかも、プロテインは手軽なだけに、必要以上に摂ってしまうこともよくあります。2010年に発表された海外の研究によると、健康な人に高たんぱく質食と正常たんぱく質食を食べ続けてもらったところ、高たんぱく質食のほうが腎臓の機能に負担がかかったという報告があります。
このように、プロテインの過剰な摂取によって腎機能のリスクを高めることがわかっています。年齢、性別問わず気軽に取り入れられるサプリだからこそ、摂り過ぎていないか、本当に必要な栄養なのかどうかを見直す機会にしてください。
腎臓は、何らかの腎障害が数カ月以上持続する「慢性腎臓病(CKD)」と診断されると、元に戻ることはありません。しかも、腎臓は「沈黙の臓器」といわれるだけに、CKDの初期症状はほとんどなく、静かに進行しています。
さらに、心筋梗塞や狭心症などといった心血管疾患が合併することが多く、症状がないまま徐々に腎機能が低下していき、気づいた頃にはすでに透析や腎移植が必要になっている場合もあります。
■たんぱく質はプロテイン以外からでも十分摂れる
腎臓の機能の状態がわかる健康診断の代表的な指標は、血液検査の「eGFR(推算糸球体ろ過量)」です。正常値は90mL/分/1.73m2以上。加齢とともに低下してくる数値なので、気をつけてチェックするようにしてください。
60mL/分/1.73m2未満が続く場合は、CKDの可能性があります。腎臓の機能が低下すると、血管にもよくありません。というのは、血液中の余分な塩分(ナトリウム)と水分を十分に排出できなくなると血圧が上がり、血圧が上がると腎臓の血管がダメージを受けて、さらに腎機能が低下するという悪循環をくり返すことになるからです。
たんぱく質はプロテインで摂らなくても、肉や魚、卵や乳製品などで摂れる栄養素です。そのほうが、たんぱく質以外の栄養も摂れます。プロテインは、どうしてもたんぱく質が摂れなかったときに利用するのが賢い選択なのです。

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渡邊 剛(わたなべ・ごう)

心臓血管外科医

1958年、東京都生まれ。心臓血管外科医、ロボット外科医(da Vinci Pilot)、医学博士。日本ロボット外科学会理事長、日伯研究者協会副会長。麻布学園高等学校卒業後、医師を志す。金沢大学医学部卒業後、金沢大学第一外科に入局する。海外で活躍する心臓外科医になりたいという夢を叶えるためドイツ学術交流会(DAAD)奨学生としてドイツHannover医科大学に留学。金沢大学心肺・総合外科教授、国際医療福祉大学三田病院客員教授などを経て、2014年にニューハート・ワタナベ国際病院を開院。著書に『医者になる人に知っておいてほしいこと』(PHP新書)『世界一の心臓血管外科医が教える 善玉血液のつくり方』(あさ出版)などがある。

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坂本 昌也(さかもと・まさや)

国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 部長

国際医療福祉大学 医学部教授。国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科部長。東京都出身。東京慈恵会医科大学医学部卒。東京大学・千葉大学大学院時代より、糖尿病、心臓病、特に高血圧に関する基礎から臨床研究に渡るまで多くの研究論文を発表。日本糖尿病学会認定指導医・糖尿病専門医、日本内分泌学会認定指導医・内分泌代謝専門医、日本高血圧学会認定指導医・高血圧専門医、日本内科学会認定指導医・総合内科専門医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本医師会認定産業医、厚生労働省指定オンライン診療研修、臨床研究協議会プログラム責任者養成講習会を修了。現在も研究を続けながら若手医師や医学部生の指導も担当している。

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(心臓血管外科医 渡邊 剛、国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 部長 坂本 昌也)
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