※本稿は、戸田久実『すごいフィードバック~心が動き、行動が変わる~』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■メンタルが弱い人へのフィードバック
メンタルが弱い人に対して、フィードバックをしなければいけないときは、必要以上に気を遣った言い方はしないことがポイントです。
直してほしいところがある場合、率直に言われたほうが気にならないものです。
【NG例】
「Hさんは、いつもがんばってくれて、こんなことも助かっているよ。でも、こういうところも気をつけたほうがよくて…別に責めているわけではないけれど…できればお願いできるかな」
【OK例】
「今後、こういうふうに直してもらえるかな」
いかがでしょうか?
長々と言うと、伝えたいことが伝わらず、受け手にとってストレスになることもあるのです。
メンタルの弱い人に限らず、フィードバックをするときは、声のトーンも重要です。必要以上に大きい声で言ったり、怒鳴ったり、強い語調になったりしないよう意識してください。
■質問タイムをつくっておく
メンタルが弱い人の場合、質問をすることにも気を遣ってひとりで抱え込みやすいクセがあるので、日頃から声がけしておくことも重要です。
【OK例】
「Iさん、今回こういうことがあったけれど、今後はこうしようか。もし、困ったことやわからないことがあったら、遠慮なく聞いてね。
「どうかな、これできそう?」
このように伝えていても、新入社員のなかには、「何か困ったことがあったらと言われても…」と躊躇する人もいます。
そういったタイプの人には、時間を指定して提案しておくのもおすすめです。
【OK例】
「困ったらサポートするよ。ここが困っている、ここはできないということがあったら言ってね。この時間だったら、相談に乗れるから」
「いつも朝一番や午前中のこの時間だったら、話を聞けるから言ってね」
メンタルが弱い人に対しては、相手が相談しやすい環境を日頃からつくっておきましょう。
■ポジティブなフィードバックを受け止められない人も
自己肯定感が低い人は、ポジティブなフィードバックを素直に受けとめられない傾向があります。そのため、相手をほめても、
「たまたまです。わたしなんて、たいしたことありませんから…」
「そんなことないです」
と、過度な謙遜や否定をして他者からのフィードバックを受け入れられない人もいます。
こういった場合、相手が自分のよいところを認識できるよう、その人の具体的な行動を挙げると、伝わりやすく、受け取られやすくなります。
【OK例】
「この資料のまとめ方は、文章量も多すぎずシンプルだけど、メリハリがあって見やすくて助かりました。Bさんに頼んでよかったです」
「さっきの会議での××という提案は新たな視点だったので、今後の商品開発のヒントになりましたよ」
誰かと比べるのではなく、仕事の成果を具体的な内容で伝えるようにしましょう。
■ほめ言葉がプレッシャーになることも…
自己肯定感を高めてもらおうとして無理にポジティブフィードバックをしようとすると、不自然になり、かえって相手が身構えてしまうこともあるので注意が必要です。
なんでも言えばいいというわけではありません。
相手の様子を見ながら小さな変化にも気づけるようになることが理想的です。
たとえば、次のようなフレーズでもいいでしょう。
「この間お客様への応対をしていたとき、お客様に対するお願いごとをわかりやすく具体的に伝えていたのが印象的だったよ」
また、人によっては、ほめ言葉がプレッシャーになってしまうこともあります。
とくに、ポジションパワーがある人から「次も期待しているよ」と言われると、責任が重くのしかかってくるように感じるケースは多々あるのです。
実際に、
「役員から『よくこの契約をとれたね、次も期待しているよ』と言われたことが、とてもプレッシャーになっている」
と、20代後半の方から心情を吐露されたことがあります。
■相手と丁寧に関わる
私自身も、講師として成長を感じた人と、こんなやりとりをしたことがありました。
戸田「Oさんの講座は、本当によくなったね。インストラクション技術が上がっているから、次もがんばってね」
Oさん「(また次もこんなふうにできないと、戸田さんをがっかりさせてしまうかもしれない…)」
このとき、わたしはよかれと思って伝えていたので、プラスの言葉であってもプレッシャーになる人もいるのだと痛感しました。
一方で、「次も期待しているよ」と言われると、「嬉しい! 次もがんばろう」と原動力になる人もいます。相手に合わせて言葉を選ぶことが大切です。
フィードバックは、お互いがよりよくなるための手段のひとつです。
自己肯定感が低い人の場合、受け入れてもらえるのに時間がかかるかもしれませんが、相手の受け取り方も知ったうえで丁寧に関わると、相手が少しずつ自分を肯定できるようになっていくこともあります。
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戸田 久実(とだ・くみ)
アドット・コミュニケーション代表
日本アンガーマネジメント協会理事。立教大学文学部卒業後、服部セイコー(現 セイコーホールディングス株式会社)にて営業、その後音楽業界企業にて社長秘書を経て2008年にアドット・コミュニケーションを設立。研修講師として民間企業、官公庁の研修・講演の講師の仕事を歴任する。著書に『アンガーマネジメント 怒らない伝え方』など。
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(アドット・コミュニケーション代表 戸田 久実)