※本稿は、松生恒夫『あなたの腸で長生きできますか?』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■精密検査は「安心のための検査」だと思って受診を
腸の健康を守るためには、定期的な健康診断に加え、腸の不調について相談できる医師や医療機関を持っておくことも大事です。本稿ではこの点について、アドバイスをさせていただきたいと思います。
みなさんは積極的に健康診断(以下、健診)を受けていますか?
会社に勤務している場合は年に1回の職場の健診が義務づけられています。退職した人、自営業の人などは地方自治体で実施している特定健診を受けることができます。
健診で腸の病気を調べる検査としては、「便潜血検査」が知られています。
大腸がんを発見する目的で行なわれるもので、専用の容器にごく少量の便を入れて提出し、便の中に血液が混じっていないかを調べます。
消化器にできたがんやポリープから出血が起こると便の中に血液が混じります。出血が大量の場合は排便時にわかりますが、微量の場合は気づくことができません。便潜血検査ではこうした目に見えない、ごくわずかな血液を検出することができます。
便潜血検査で血液が混じると「陽性」となり、精密検査(主に大腸内視鏡検査)をすすめられます。しかし、精密検査を受けずに放置している人が多いことが問題視されています。
日本消化器がん検診学会によると、2020年度の「全国集計」(大腸がん検診実態調査の全国集計)では地域や職場、人間ドックなどで便潜血検査を受けた全国499万2358人のうち、「陽性」となったのは29万3505人です。
ところがこのうち実際に精密検査(主に大腸内視鏡検査)を受けた人は16万5580人で、6割にも満たなかったのです。
なお、精密検査を受けた16万5580人のうち、大腸がんが見つかった人は5760人(約3.4%)です。便潜血検査が陽性と出てもがんが見つからない人のほうが圧倒的に多いこともわかります。
しかし「だから精密検査は受けない」とは思ってほしくありません。「安心のための検査」だと思って受けてほしいのです(※1)。
※1 https://www.jsgcs.or.jp/publication/publication/index〈日本消化器がん検診学会HP〉
■アメリカの大腸がん減少に貢献した大腸内視鏡検査
大腸内視鏡検査で発見できる大腸の病気には、大腸がんや大腸ポリープがあります。
大腸ポリープの中には大腸がんになりやすいものもあるので、見つけたら切除をします。これが大腸がん予防となります。
また、大腸がんは早期であれば大腸内視鏡により切除ができます。
アメリカで大腸がんの死亡数が大きく減った理由は、食生活の改善ともう一つ、大腸内視鏡検査の受診を勧奨した結果であるといわれています。
ほかにも潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患、高齢者に多い腸の病気の代表である、虚血性大腸炎や大腸憩室(けいしつ)も見つけることができます。
虚血性大腸炎は大腸に血液を送る動脈の血流がとどこおり、大腸の粘膜に血液が不足することで大腸に炎症が生じ、血便や腹痛が起こる病気です。便秘になりがちな高齢女性に多いことがわかっています。
大腸憩室は大腸の壁の一部が、外側に袋状にへこんだ状態です。慢性的な便秘などによる腸管の内圧の上昇が原因とされていますが、加齢も大きな原因となります。サイズは1cm程度のものが多く、加齢とともに数が増えやすいことがわかっています。
大腸憩室があっても無症状ですが、憩室部分の血管から出血して「大腸憩室出血」を起こすと、痛みがないのにいきなり大量の下血が起こることがあります。
また、大腸憩室の中で細菌が繁殖して大腸憩室炎を起こすと、腹痛や発熱、吐き気、嘔吐などの症状を起こしたり、大腸憩室に穴があいたりした場合は緊急手術になることがあります。
このようなことを避けるためにも、大腸内視鏡検査で憩室の状態を経過観察しておくことは大事なのです。
一方、検査で「異常が認められない」ことで鑑別診断がつく病気もあります。
長く下痢や便秘が続くと、悪い病気ではないかと不安になりますが、大腸内視鏡検査で過敏性腸症候群とわかり、安心する人も多いです。
この病気は心理的ストレスも影響するため、検査結果をきっかけに症状が改善することもあるのです。
■腸の動きが悪くなる「大腸メラノーシス」
長年、便秘が続いていることを心配して大腸内視鏡検査を受ける患者さんの中には「大腸メラノーシス(大腸黒皮症)」が発見されるケースが少なくありません。これは、便秘で長年、下剤を使っていることによる色素沈着です。
このような場合は、患者さんに大腸メラノーシスの原因について説明し、その部分で腸の動きが悪くなっていることを知ってもらいます。そして、便秘を下剤のみに頼らず、根本的に治していくことの大切さをお話しするのです。
一方、前項で触れた「過敏性腸症候群」の場合は腸の神経が敏感になっているため、大腸内視鏡を挿入したときのわずかな刺激にも腸が反応し、動くことがあります。このように腸の粘膜の状態や色、その動きから得られる情報はとても多いのです。
■今すぐ大腸内視鏡検査を受けたほうがいい人
専門医としての立場から、一つでもあてはまれば大腸内視鏡検査を受けたほうがいい人は次の項目に該当する場合です。
①40歳以上
②よく便秘になる。ここ最近、便秘が続く
③最近、下痢が多い
④下痢と便秘を繰り返す
⑤ときどき、お腹が痛む
⑥よくお腹が張る感じがする
⑦血便が出る。
⑧便潜血検査で陽性が1回以上出た
⑨健康診断で貧血といわれた
⑩血縁者(三親等以内)に大腸がんの人がいる
■腸の健康度をセルフチェック
②の便秘についてですが、自分は該当するのかどうか判断がつかない場合、次に紹介する【排便力セルフチェック】でチェックをしてみてください。
これは、クリニックでも使用しているチェックリストです。
〈排便回数〉〈便の形状〉〈生活習慣〉の3種類のいずれか一つをチェックしていただければOKです。
【排便力セルフチェック】
あてはまる項目にチェックをつけましょう。
〈排便回数〉
① □ 1日4回以上
② □ 1日3回(毎食後ごと)
③ □ 1日1~2回
④ □ 2日に1回
⑤ □ 2~3日に1回
⑥ □ 1週間に1~2回
⑦ □ 1週間に1回あるかないか
※⑥、⑦は便秘傾向といえます。
〈便の形状(ブリストル便形状尺度による)〉
① □ 排便困難をともなう、うさぎのフンのような便
② □ 硬い便が集合したソーセージ状の便
③ □ 表面にひび割れがあるソーセージ状の便
④ □ 表面がなめらかで、やわらかいソーセージ状またはヘビ状の便
⑤ □ やわらかく、小さな塊が連なったような排便が容易な便
⑥ □ ふわふわとした泥状の便
⑦ □ 固形物を含まない水のような便
※①、②は便秘傾向といえます。
〈生活習慣〉
□ 朝食を抜くことが多い
□ 基本的に少食のほうだ
□ 魚より、肉を好んで食べる
□ 野菜やきのこ、海藻、果実はあまり食べない
□ 食後、お腹の下部分がぽっこり出る
□ 水分をあまりとらない
□ 午後9時以降に夕食をとることが多い
□ ダイエット中である(または、最近ダイエットをした)
□ 外食が多い
□ 便秘気味のときに下剤を使うことがある
□ あまり運動はしない
□ メタボリックシンドロームと診断された
□ 昼間寝て夜中に起きているなど、不規則な生活を送っている
□ ストレスがたまっているのを感じる
□ 睡眠時間は1日6時間未満が多い
※チェックをつけた項目を一つ1点として計算します。
5点以下=軽い便秘症の可能性有り
6~9点=中等度の便秘症の可能性有り
10点以上=生活習慣に問題があり、慢性便秘症や肥満傾向の可能性大
■40歳を境に急増する
大腸内視鏡検査を受けたほうがいい人として先に「40歳以上」を挙げました。これについて、「なぜ40歳以上なの?」と疑問を持つ人もいるでしょう。
じつは大腸がんや大腸ポリープは40歳を境に急増するのです。私が以前、勤務していた松島クリニック(現・松島病院大腸肛門病センター)は、大腸内視鏡検査で全国的に知られているクリニックです。
そこでのデータでは2001年~2008年に大腸内視鏡を受けた人のうち40代では早期がん、進行がん、合わせて約3%の人に大腸がんが見つかりました。
40代で100人に3人というのは、かなり多い数といえるでしょう。このため、40代になったら一度は大腸内視鏡検査を受けてほしいのです。
なお、検査で異常がない場合、見落としの可能性を考えて、2年後にもう1回検査を受けることをすすめます。そこで問題がなければ、「3年に1回程度」の間隔でいいでしょう。
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松生 恒夫(まついけ・つねお)
松生クリニック院長
1955年生まれ。東京慈恵会医科大学卒業後、同大学第三病院、松島病院大腸肛門病センターなどを経て開業。医学博士。便秘外来を設け、5万件以上の大腸内視鏡検査をおこなってきた第一人者。著書に『血糖値は「腸」で下がる』(青春新書インテリジェンス)、『「腸寿」で老いを防ぐ』(平凡社新書)など多数。
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(松生クリニック院長 松生 恒夫)