※本稿は、北宏志『教え方の一流、二流、三流』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■「お手隙で」「なるべく早く」では後回しにつながる
メール対応
三流は、「お手隙で」、
二流は、「なるべく早く」、
一流は、どう依頼するよう教える?
朝はまずメールチェックから始めるという人も多いでしょう。
特に、社会人になりたての部下を持つ場合、メール対応の正解を教える必要があります。
「お手隙で」と依頼してしまうと、相手はどの状況が“手がすいている”のか判断ができず、後回しになってしまうでしょう。
だからと言って、すべてのメールへの対応を「なるべく早く」と依頼するのも問題です。何度もお伝えしている通り、業務には期限や、重要度、緊急度といった指標があるもの。メールの対応と一言で言っても、本当に“今すぐ”が必要なものと、そうではないものがあるはずです。
後者のように、今すぐではなくてよいものの、対応してほしいメールは、どのように依頼するのがいいのでしょうか。
後回しになり、返信を忘れるといったことを減らすためにも、時間的制限を設けることをおすすめします。
特に、社会人になりたての新入社員や若手社員に対しては、依頼時に制限を設ける習慣がついているか確認することが必要です。
では、どのような制限が適しているのでしょうか。
明確かつシンプルな制限が、「今日の終業時間までに」です。
時間的な余裕を持たせ、相手側にタイミングのコントロールを任せることができるという点も、この制限の利点の1つでしょう。
■メール相手への心象をよくするメリットも
また、「お手隙で」や「なるべく早く」のような主観に頼る制限ではないというところもポイントです。
“手がすいている”かどうかの感覚は、人それぞれ。
手元の業務がすべて片付いたらと考える人と、ある業務に取り組んでいる時間のリフレッシュにと考える人では、実際にメールに対応できる時間に大きな差が生まれます。
また、「なるべく早く」の“早く”が当日中の人もいれば、もしかすると、1週間以内なら“早い”と捉える人もいるかもしれません。
これも、メール対応への時間が大きく変わってきますね。
しかし、「今日の終業時間までに」であれば、改めて認識のすり合わせをしなくても、同じ時間を想像することができるわけです。この依頼のやり方を、ぜひ教えてみてください。
この「今日の終業時間までに」という基準は、「返信期限の基準」としても部下に教えられます。翌営業日に持ち越さないことで、対応漏れを防ぐ、メール相手への心象をよくするといったメリットも伝えてみてください。
Mastery of Teaching
一流は、「今日の終業時間までに」を基準にする
確実に認識が揃う言い方で伝える
■残業時間の把握よりも大切な「部下の時間管理」とは
時間軸の把握
三流は、定刻で来ているか確認し、
二流は、残業時間を把握しており、
一流は、何を知っている?
部下育成をするうえで、部下の時間軸を把握しておくことも大切です。
仕事において、遅刻をしないのは当たり前のこと。
定刻で会議に参加しているのか、遅刻していないかは把握しておくことが必要です。
もちろん、会議に決められた時間に参加することは当然ですが、部下がその会議のため、他の業務を止めてしまっては本末転倒。
業務負担が多くないか、うまく進んでいない業務がないかを確認するには、どれくらい残業しているのかという時間軸も見ておく必要があります。
遅刻をしていないか、どれくらい残業しているか。
会社における時間軸の把握としては、この2つが大きな指標になると言えるでしょう。
では、一流はさらに何を知っているのでしょうか。
残業については、繁忙期や緊急事態が起こることも考えると、ある程度はやむを得ないものであると考えることもできます。
しかし、本当に重要なのは、週単位や月単位でどれくらい残業しているのか、つまり残業時間がどれくらいあるのかではありません。
「そもそも今日、部下が残業可能なのかどうか、可能だとしたら何時までなのか」なのです。
以前、知人からこんな話を聞きました。
知人の職場では残業をするのが当たり前という風習が広まっていて、定時には帰りづらい雰囲気だったそうです。
■一流の上司は、部下の「帰宅希望時間」を把握する
メンバーにもそれぞれ用事があります。定時に帰らなければいけない日には、朝から「今日は19時から約束があるので」とか「今日はどうしても参加しなければいけない会があって」などと、本人曰く「言い訳がましく」部署のメンバーに声をかけていました。
しかしある時、全社でスケジュール管理をするためのWeb上のカレンダーが導入されたことにより、それぞれのメンバーが残業できない日には「スケジュールあり」と記載するようになったそうです。
これを見た他のメンバーは、そのことを一目で把握できるため、業務の調整が進みました。現在では多くの人が残業をしなくても、業務が円滑に回るようになったと知人は話しています。
大切なことは、本人にも他者にも気を遣わせることなく、希望の時間に帰宅できること。
つまり、一流の上司は、部下の「帰宅希望時間」を把握しているのです。
その日の仕事が円滑に進むだけでなく、部下に無理な仕事を任せることも減り、結果として、お互いの関係もよくなっていきます。
ぜひ、あなたの職場でも部下の「帰宅希望時間」を把握できる仕組みをつくってみてください。
Mastery of Teaching
一流は、部下の帰宅希望時間を知っている
今日は何時に帰る予定なのか、把握できる仕組みをつくる
■心地よい会話のためには「相手のペースに合わせて話を進める」
教え方のペース
三流は、自分のペースで進め、
二流は、相手の顔色を窺い、
一流は、どうする?
人と話をする際、話を進めるペースについて、意識をしているでしょうか。
実は、一流は、意図的にペースをコントロールしています。
人の話を聞いている時、「まだ理解が追い付いていないな」とか「これはどういう意味だろう」とふと、考え込んでしまう時はありませんか。
気心の知れた相手であれば、話を遮ることもできますが、部下が上司に対して「ちょっと待ってください」と声を上げるのは、なかなか難しいでしょう。
話をする側は頭のなかで整理ができているので、つい自分のペースで話を進めがちです。
重要なのは、相手のペースに合わせて話すこと。これに異論はないでしょう。
では、一流と二流を分けるのは何なのか。それは、なぜ相手のペースに合わせているのかという点です。
“こう話すと相手はどう思うかな”とか“相手は今、何を考えているのか”と相手を探るために、ペースを配分するのでは、まだ二流だと言わざるを得ません。
では、一流は何のために、相手のペースに合わせて話を進めるのでしょうか。
上司と部下のコミュニケーションにおいて、お互いが心地よく会話を進めることができ、共通の理解ができる状態をつくり出すことは、やがて信頼につながります。
■「また話したい」相手になる道が開ける方法
「何の話をしているのかよく分からないけど、まぁ聞いておこう」と部下に感じさせてしまうような自分本位のペースでは意味がないことは言わずもがなですね。
上司が「部下はどう思っているんだろうか」とオドオドと部下の出方を探るようなコミュニケーションをしている段階でも、お互いに信頼できているとは言い難いでしょう。
上司と部下は“上下”関係ではありません。
対等な人と人との関係を築くためには、丁寧なコミュニケーションが欠かせません。
では、相手のペースに合わせて話すにはどのような点に気を付けるべきか。
それは、相手の様子をよく観察することに尽きます。
表情や手の動きなど、相手が発するさまざまなシグナルをしっかりと見て、理解ができているのか、納得できているのかを確認してみてください。
もしも首をかしげていれば、もう一度内容をかみ砕いて丁寧に説明をするといったことができるでしょう。
つねに相手のことを考え、良好な関係性を築きたいという思いを言葉で発信していくことこそが、信頼を得るための第一歩となるのです。
そのためのペースであること。これをつねに念頭に置いたコミュニケーションをとることを心がけることで、「また話したい」相手になる道が開けるでしょう。
Mastery of Teaching
一流は、信頼を得るために、相手のペースに合わせて話す
意図的にペース配分をする
■「たぶん~だと思うよ」は信用を失う
会話中の語尾
三流は、「たぶん~だと思うよ」と言い、
二流は、「そうですよね」と同意し、
一流は、どうする?
あなたは、会話をする際、語尾に気を付けていますか。
ささいなことに思えるかもしれませんが、この「語尾」によって、教えている時の印象は大きく変わります。
会話が積み重なるころには、語尾は、その人の在り方を示すものにもなり得るのです。
部下から、何かを聞かれるシーンは多いでしょう。
「この書類はこれで合っていますか」という実務上の確認から、「こういう考え方で進めて問題ないですか」というような業務の決定事項まで、上司である人はさまざまな物事に回答をする必要があります。
その際、「たぶん~だと思うよ」といった曖昧な表現ばかりで回答していれば、部下は「この人は何も決めてくれないな」「責任を取りたくないのかな」といったネガティブな印象を持ちかねません。
かと言って、「そうですよね」と言葉の上だけで同意すればよいというものでもありません。
上司が、適当な相づちを打ってばかりいては、これもまた、“判断のできない上司”というレッテルを貼られてしまいます。
一流の場合、意識的に語尾をはっきりとさせています。
できる限り、「~です」と言い切るのです。
自分が主張すべき、あるいは決断すべきことに対し、責任を持つという意味でも、きちんと言い切ることを意識してみてください。
■部下の納得を引き出すところまでが上司の仕事
では、上司であるあなたと、部下の意見が異なる時はどうすべきでしょうか。
まず、部下が納得するまで対話をすることをおすすめします。
曖昧な回答ではなく、適当な同意でもなく、正しいものを明確に伝える。
そのうえで、部下の納得を引き出すところまでが、上司と部下のコミュニケーションなのです。
上司と部下、それはあくまでも組織における役割です。人と人として、対等で心地よい関係性を築くためには、お互いに信頼できる存在にならなければなりません。
そのためのコミュニケーションは、一つひとつは小さなものであっても、日々の積み重ねにより、その人を示す指標の1つになるのです。
「語尾までいちいち考えて話さなければいけないのか」とも思うかもしれません。
ですが、小さなことだからこそ、積み重なった時の効果は大きいです。ぜひ改めて、相手の立場に立った丁寧なコミュニケーションを心がけましょう。
Mastery of Teaching
一流は、「~です」と言い切り、相手が納得するまで対話する
ささいなことで、ネガティブな印象をつくらない
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北 宏志(きた・こうじ)
人材育成コンサルタント
ポールスターコミュニケーションズ 代表取締役。大学卒業後、立命館大学に関係する中高一貫校で社会科教諭として勤務。その後、「ララちゃんランドセル」を製造・販売する(株)羅羅屋に転職。中国での駐在中は経営幹部として部下80名を束ね、中国国内の売上を3年間で9.7倍に拡大させ黒字化させる。
日本とアジアの架け橋となり、教育をより良くしていきたいという思いから、日本に帰国後、人材育成コンサルタントとして独立。新入・若手社員の研修を中心に全国35都道府県で1,000回以上の登壇実績を持ち、これまでの受講生は25,000名を超える。
著書に、『新しい教え方の教科書 Z 世代の部下を持ったら読む本』(ぱる出版)、『ビビリの人生が変わる逆転の仕事術』(三才ブックス)がある。
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(人材育成コンサルタント 北 宏志)