部下が指示に対して反抗的な態度を示したとき、上司はどう対応するといいか。人材育成コンサルタントの北宏志さんは「部下に『これ、私の仕事ですか』といわれて、上司がびびってオドオドした態度をとっていれば、相手はつけあがる一方だ。
放置すると波風は立たないかもしれないが、チーム全体の士気に関わる。業務時間内にしっかりと対話することが大切だ」という――。
※本稿は、北宏志『教え方の一流、二流、三流』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■とりあえず出た所勝負では、伝えたいことが伝わらない
全体への話し方①

三流は、勢いで話し、

二流は、台本にそって話し、

一流は、どう話す?
チーム全体に対し、話をするシーンを想像してみてください。
大人数の前でつい勢いづいてしまう気持ちも分かりますが、何の準備もせず、とりあえず出た所勝負では、伝えたいことが伝わらないことがあります。
本来伝えるべきことを伝え忘れたり、言わなくてもよいことをつい口走ってしまったり……。あまりよい結果は生まれなそうですよね。
伝えるべきことを明確にできるという点では、事前に台本を用意するやり方もあります。
この方法のいい所は、台本をまとめる際、自分の言いたいことを整理できるところです。伝え忘れの可能性も減るので、よい発信方法だと言えるでしょう。
ただ、よほど話すのが上手な人である場合を除き、台本を読み上げるような話し方は、聞く側にとって、あまり心に響かないというリスクがあります。
学生のころ、教科書を読み上げる先生の声を子守歌に、うたた寝をした経験を持つ人も多いのではないでしょうか。

かく言う私にもその経験があります。いろいろなことをつらつらと話されても、結局何の話だったのか、あまり印象に残らないのです。
では、どのように話せば、全体に対してしっかりとしたメッセージを発することができるのでしょうか。
■話す前に「自分が聞く側だったら」という視点を持つ
それは、ポイントを1つだけに絞って話すやり方です。
今回伝えたいことはこれと決め、そのことについてだけ集中的に話をしましょう。
この方法であれば、聞く側も1つのトピックに集中することができ、よりしっかりと話の内容をインプットすることができます。
自分が話を聞く側の立場だったころを思い出すというのも、大切なポイントです。
聞く側の立場に立って考えれば、特に上司の話は簡潔で分かりやすいのが一番。
長々と話されるよりも、短く、内容がはっきりした話の方が、好まれるのは当然ですね。
チーム全体に対し話をするシーンではまず、自分が聞く側だったらという目線を持って、発信方法を考えましょう。
この時、さらに意識したいのは、話し始めに、まず何について話すのかを明確に示すことです。
「今日は○○について、話をします」と聞く側にトピックを提示しておくことで、話す側、聞く側双方が冒頭から共通認識を持って、話を進めることができます。

そして、話の最後には、もう一度、「○○についての話でした」と強調するといいでしょう。
Mastery of Teaching

一流は、ポイントを1つだけに絞って話す

「話し始め」と「話の最後」にトピックを示す
■全体にメッセージでも、一人ひとりの目を見ながら話す
全体への話し方②

三流は、下を向きながら話し、

二流は、1人の目を見ながら話し、

一流は、どう話す?
自信なさげに下を向きながら話す人の話は、誰も聞いてくれません。
きちんと前を向いて話をするのは、最低限のマナーです。
大勢を前に話をする時、あなたはどこを見ながら話していますか。
「真んなかくらいに座っている人を見ながら話すと、全体に向かって話しているように見える」という方法を聞いたことがあります。たしかに、中央の1人の目を見ながら話すと、なんとなく全体を見ているような話し方になるのかもしれません。
しかし、それで伝えたいメッセージが全員に届いているのか、響いているのかは少々疑問です。
かつて教員をしていたころ、私は先輩からこのように教わりました。
「必ず生徒一人ひとりの目を見ながら、話しなさい」と。
学校の授業は1人から大勢への発信の典型的なかたちですが、ただ単に発信をするだけでは、生徒たちに内容をしっかりと伝えることはできません。
全体に向けてのメッセージであれ、内容がその場にいる一人ひとりに伝わらなければ、意味がないのです。
なんとなく全体にメッセージを伝えるのではなく、一人ひとりに向けた発信であることを理解してもらうためには、やはりその場にいるみんなの目を見ながら話すことが大切です。

■「1人何秒ずつ見る」というルールで繰り返し練習する
もちろん、話をするのが苦手な方もいらっしゃるでしょう。
大勢に対し、堂々と話ができるようにするには、一にも二にも訓練です。繰り返し練習し、みんなの目を見ることを意識しながら話をする習慣をつけることに尽きます。
いきなり数十人、数百人というのはハードルが高いので、まずは2~3人、次は5人程度と、少しずつ規模を大きくするといいでしょう。
この訓練を実際にやってみると、2~3人が話し相手のシーンであっても、一人ひとりの目をきちんと見て話すのは意外に難しいということが分かるかと思います。
最初は意図的に、1人何秒ずつ見るというルールを設定し、話をするというのも1つの手でしょう。
慣れてきたら、ルールがなくても、自然に全員の目を見ることができるようになります。
注意点としては、目を見ることに集中し過ぎて、肝心の話の内容がいまいち、とならないようにすること。
先にお伝えしたように、ポイントを1つに絞って話すのと合わせて、何度か練習をしてから、本番を迎えるようにしてみてください。
Mastery of Teaching

一流は、一人ひとりの目を見ながら話す

最初は意図的にルールを決めてもOK
■アイデアが部下からドンドン出てくる方法
アイデアの出し方

三流は、放任し、

二流は、とりあえずアイデアを求め、

一流は、どうする?
今の時代、新たなアイデアを求められる機会が増えています。
新製品や新サービスのアイデア、業務効率改善のアイデア、組織変革のアイデア……数えればきりがないほどのアイデアが、事業成長を加速させます。
しかし残念ながら、上司が「きっと何か考えてくれているだろうから、任せておこう」という考えで放任していては、部下発の新たなアイデアはなかなか生まれません。

私の知人の会社には「何か新しいアイデアはありませんか」「アイデア募集しています」と週に一度の会議でアナウンスする課長がいらっしゃるそうです。
知人は食傷気味に「アイデアは出せと言って出てくるものではない」と話していました。
もちろん上司という立場で部下にアイデアを求めることは必要です。ただ、そのやり方にはもう少し工夫が必要なのではないでしょうか。
では、どのような環境なら、部下たちは新たなアイデアを思いつくのでしょうか。
大前提として、どんな話も気を遣わずにできる場が必要です。
新たなアイデアというのは、時に突拍子もない話から生まれることもあります。
「こんなことを言うと、怒られるのではないか」とか「(部下という立場で)こんな話をするのはふさわしくないのではないか」などと考えなければいけない場では、アイデア出しをすることも難しいでしょう。
■1人で考えていても、アイデアはかたちになりづらい
どんな話でも気を遣わずにできるという状態を、専門用語では心理的安全性が担保されているといいます。
上司の役目はまず、「アイデアを出してください」と言う前に、アイデアが出せる状態をつくることから始まるのです。
もちろん、「この時間はどんな発言でも構わないし、会社のことや立場のことは一旦脇に置いて考えよう」と言葉で伝えることも有用ですが、普段から心理的安全性が確保されている関係性を築いておくことも重要です。
例えば、日々の1 on 1のなかでささいなことを言いやすい環境をつくることで、「この人には何を話しても大丈夫」だと思える関係性をつくっておくことが、その第一歩になるでしょう。

さて、心理的安全性が担保された状態があれば、アイデアは続々と出てくる……というわけではありません。
そこにはもう1つ、必要なものがあります。
それが、上司と部下が一緒にブレストをすること。
1人で考えていても、アイデアはかたちになりづらいものです。
目線の違う人同士が議論をし、アイデアの種をたくさん集め、最終的に1つの大きなアイデアにしていくプロセスが大切なのです。
Mastery of Teaching

一流は、心理的安全性を担保して、一緒にブレストする

アイデアを出していくまでのプロセスを大切にする
■言いたいように言わせておく上司は舐められる
反抗的な部下

三流は、びびってオドオドし、

二流は、受け流し、

一流は、どうする?
どのような職場にも、1人や2人、反抗的な人がいます。
「なんでこんなことをしないといけないんですか」「これ、私の仕事ですか」なんていう発言をされたことがあるという上司の方も多いでしょう。
そんな人に対し、上司がびびってオドオドした態度をとっていれば、相手はつけあがる一方です。
「まぁ、そういう態度の部下もたまにはいるだろう」と半ばあきらめモード、言いたいように言わせておいて放置するという上司もいるでしょう。
このやり方の場合、波風は立たないかもしれません。しかし、その様子を見ている他の部下は、上司のことをどう思うでしょうか。
「なんだ、ああいう態度でも許されるなら、一生懸命やっているこっちがバカみたいだ」と思ってしまっては、チーム全体の士気に関わります。

部下が反抗的な態度をとるのには、何かしら理由があるはずです。
子どもの反抗期のように「なんだかムカつく」みたいなことはあまりなく、例えば、上司に不信感があるとか、仕事のやりがいが見いだせないとか、何かしらの理由やきっかけがあるのです。
反抗的な態度をやめさせるためにはまず、しっかりと対話をし、その理由を理解するところから始めましょう。
■1 on 1の対話を設けて時間をかけて解決する
この時、全員がいる前や、チームメンバーの前で対話をするのは控えましょう。
1 on 1の時間など、2人だけで話ができる場を使い、丁寧な話し合いを心がけてください。また、気楽に話せた方がいいだろうと、飲みに誘って話を聞こうとする方が時々いらっしゃいますが、これは逆効果です。
仕事に関わる大切な話であることを認識し、業務時間内の正式なミーティングとして実施してください。
部下が反抗的な態度をとる理由が判明したら、それを解決するステップに進みます。
例えば、過去の上司の発言が引っかかっているという場合、上司側がその発言の意図を伝え、誤解があれば、解消するといった具合です。
その場ですぐ解決できるものではない場合は、時間をかけて対話を続ける、あるいは周りの人に改善策を提案し、解決をサポートしてもらうという方法もあります。
何よりも大切なのは、上司側の解決したいという気持ちがあることが伝わること。ここで解決を放置しては、部下の反抗的な態度が変わることはありません。
反抗的な態度の理由が解決した後、ようやく、上司は部下と適切な関係性で会話ができるようになるでしょう。
良好な関係性を維持できれば、業務での指示・教育もスムーズに行えるようになります。
Mastery of Teaching

一流は、相手を理解できるよう対話する

こちらの気持ちを相手に伝える

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北 宏志(きた・こうじ)

人材育成コンサルタント

ポールスターコミュニケーションズ 代表取締役。大学卒業後、立命館大学に関係する中高一貫校で社会科教諭として勤務。その後、「ララちゃんランドセル」を製造・販売する(株)羅羅屋に転職。中国での駐在中は経営幹部として部下80名を束ね、中国国内の売上を3年間で9.7倍に拡大させ黒字化させる。
日本とアジアの架け橋となり、教育をより良くしていきたいという思いから、日本に帰国後、人材育成コンサルタントとして独立。新入・若手社員の研修を中心に全国35都道府県で1,000回以上の登壇実績を持ち、これまでの受講生は25,000名を超える。
著書に、『新しい教え方の教科書 Z 世代の部下を持ったら読む本』(ぱる出版)、『ビビリの人生が変わる逆転の仕事術』(三才ブックス)がある。

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(人材育成コンサルタント 北 宏志)
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