「仕事ができる人」と「できない人」は何が違うのか。『仕事で伝えることになったら読む本』(アルク)を書いた濱田秀彦さんは「上司への報告のやり方が全然違う。
仕事ができない人と思われないために、『3つの話法』を参考にしてほしい」という――。(第1回)
■部下の状況が把握しにくくなっている
忙しい日々の仕事の中で、わざわざ報告しているのに、上司から「もっとマメに報告をしてくれ」と言われる。任されていない感じもしますし、上司の要望に応えれば手間が増える。悩むところです。
そもそも、どうして上司はそんなに報告を求めるのでしょうか。それは、パソコンとスマホのせいです。パソコンもスマホもなかった時代、上司は部下の動きを見ていれば、状況が把握できました。部下の机を見れば、何の書類を作っているかわかりますし、ときどき固定電話を取れば、誰から何の用件でかかってきたのかを把握できました。
しかし、今は部下を見ていても状況は把握できません。部下はパソコンに向かって黙々と仕事をしている。たまにスマホを見て、何やら返信している。いったい何をやっているのかわからない。
これはマネジメントにとって致命的な問題です。
頼みの綱は部下が自主的に報告をしてくれること。上司も結構必死なのです。だからと言って、こちらは報告にばかり時間をかけるわけにはいきません。そこで、本稿では、短い時間で上司が納得するような報告をする方法を提示します。
■「報告はサービス」と割り切る
そもそも、報告とはなんでしょう。「報告は面倒な義務」だと思っていたら、あなたの報告はよくなりません。報告の本質は「仕事の発注者に対する情報提供サービス」です。上司や顧客という発注者(クライアント)に向けた「サービス」と割り切るのがお勧めです。なぜなら、そう考えると発注者を起点に「何を求めているのか」「どんなタイミングでどう話せば満足度が上がるのか」と発想することができるからです。
発注者である上司の満足度が上がれば、あなたにも大きなメリットが生まれます。評価が高まるのです。
上司が人事考課をする際、思い出すのはあなたの報告シーン。どんな成果をあげたのか、きちんと伝わっていれば成果の考課点にプラスの影響が出ます。それだけではありません。簡潔に話せていれば、能力考課のコミュニケーションのスコアが上がります。
極論すれば、報告は上司や顧客に対するプレゼンでもあるのです。手間をかけず、効果はマックス。そんな報告をするための方法を本章で身につけていきましょう。
■報告の「NG例」と「OK例」
まずは、良い報告のイメージ作りのために、悪い例、良い例を比べてみましょう。これは、管理部門で自社のウェブサイトの維持管理をしている担当者が、上司(課長)にサイト改訂の報告をしている場面です。
【NG例】
課長。ウェブサイトの改訂の件なのですが、各部門とも重要性を理解していないと思われまして、私が催促しているにもかかわらず、営業、開発、物流部門から改訂原稿があがってきていません。また、サイト改訂プロジェクトメンバーは、デザイン選定に自信がないようで、決定を先送りしており、そちらも決まっていません。

そのため、外注のシステム会社が作業に着手できず、期末のサイトリニューアルは1カ月ほど、遅れてしまいそうなのですが……。
【OK例】
課長。ウェブサイト改訂の件ですが、結論から申しますと、期末のサイトリニューアルは、1カ月ほど遅れる見通しです。原因をひとことで言うと、当社の準備の遅れです。そのため、外注のシステム会社が作業に着手できません。
遅れている作業は2つあります。原稿の準備と、デザインの決定です。原稿準備は3部門。営業、開発、物流部門です。私は、重要性が理解されていないのだと考えています。デザインに関しては、サイト改訂プロジェクトメンバーが決定を先送りしています。私は、メンバーがデザイン選定に自信がないためだと見ています。


■1分以内で評価が決まる…報告には「3つの話法」が欠かせない
実際に話すと、NG例は40秒、OK例は50秒ぐらいになり、OK例のほうが時間がかかります。にもかかわらず、OK例のほうが簡潔、明瞭な報告に聞こえるのは、3つの話法を活用しているからです。
3つの話法とは「結論から話す」「全体像から話す」「意見は『私』を主語に話す」というシンプルなものです。
では、「結論から話す」から解説しましょう。この話の結論は、「ウェブサイト改訂が遅れそうだ」ということ。NG例では、結論を最後に話しています。これはアウト。上司でも顧客でもポジションが上がるほどに、結論から聞きたがります。ポジションが上がると、意思決定すべきことが増え、1つ1つの意思決定にかける時間を短縮したくなるからです。意思決定するために最も重要な情報は結論。だから、結論から話して差し上げるわけです。
その結論とは、「5秒しかなかったら話すべき重要事項」のこと。
「課長、報告が」と声をかけた時「すまん。今から会議だからひとことで言ってくれ」と言われたら言うべきことが結論です。5秒以上かかることは、結論としては長すぎます。5秒以内の結論から話すのがポイントです。
■口グセにするといい
次は「全体像から話す」です。原因をひとことで言えば「当社の準備遅れ」です。そして、その要因は「原稿の遅れ」「デザインの未決定」の2つ。この部分を先に伝えます。また、「ひとことでいうと」というセリフも、ポジションの高い相手が喜ぶ言い方。細かい話にタッチするより、概要がつかみたいからです。
最後は「意見は『私』を主語に」です。「原稿の遅れは重要性の理解不足」という部分は、自分の考え。
その部分は、明確に「私はこう思います」と「私」を主語に話します。「思われます」というような言い方は、事実とも意見ともつかない不明瞭な表現ですので、こういう言い方はやめましょう。
なお、NG例序盤の「私が催促しているにもかかわらず」という部分も、やめたほうがよいセリフです。話が冗長になりますし、言い訳にしか聞こえず、逆効果でしかありません。
この3つの話法を自分に定着させるシンプルな方法は口グセにしてしまうことです。「結論から言いますと」「ひとことで言いますと」「○つあります」「私はこう考えています」。すべての報告で、これらのセリフを軸に話をすればよいわけです。
以前に物流関係のクライアント企業の社長から「役員・部長研修」の依頼がありました。社長から「幹部会議参加者の報告が長い。なんとかしてくれ」と頼まれ、研修では、ここで挙げた3つの話法を参加者に強くお勧めしました。研修直後の幹部会議の様子を社長に聞いたところ「だいぶよくなった」とご満悦。効果はすぐに出ます。みなさんもぜひやってみてください。
■仕事のデキる人がやっている“3つの技”
ここまでの内容に加え「仕事ができる」と言われるような、報告のプラス要素を3つ紹介します。それは、「相手が聞きたいことを察する」「次の一手を加える」「相手の好みに合わせる」です。
まずは、「相手が聞きたいことを察する」から。これは、最小限の情報提供で相手の満足度を上げるための方策です。試しにあなたの「察し力テスト」をしてみましょう。
あなたは、自身のパワーポイントスライドのデザインを良くしたいと考え、「スライドデザイン向上セミナー」という1日の公開セミナーへの参加を希望し、上司の承認を得て、費用は会社負担で参加しました。会社負担にするために、上司は申請書類を書き、あなたがいない1日のフォローもしてくれました。あなたは、お礼も兼ねて上司にセミナー参加について報告をする必要があります。
ここで問題です。「セミナー参加の報告」として、上司が聞きたいことは何でしょうか?「報告の基本は5W1Hだから、いつ、どこで、誰が~」と考えた方。それでは、手間がかかりすぎます。
■「WhatとHow」だけでいい
5W1H(あるいは2H)というフレームは、モレをなくすためには有効ですが、報告を冗長にしてしまう可能性がある諸刃の剣でもあります。正解は、
①セミナーで何を学んできたか

②学んだことを、どう仕事に活かしてくれるのか
の2つだけ。相手はそれだけ聞けば満足します。「いつあったのか」「どこであったのか」「誰が講師だったのか」といったことは、聞く必要のないこと、言う必要はありません。察して、絞って、それだけ話す。相手の聞きたいことを察することができれば、報告の手間を大幅に削減することができるわけです。報告する前に、察して絞る、を試してみてください。
2つめのプラス要素は「次の一手を加える」です。特に完了報告の場合、「こうなりました」という結果を伝えて終わることが多いのですが、そこで終わらず「次の一手」まで話すことが、差をつけるポイントです。
例えば、プロジェクトの完了報告をするような場面。結果を伝えて終わるのではなく、「今回の経験を活かして、次の同様なプロジェクトでは、10%の納期短縮を目標に、同時並行作業を増やしたスケジューリングをします」というひとことを加えます。
■「上司からの信頼」に差が生まれる
改善項目は、Quality(よりよい品質)、Cost(より低いコスト)、Delivery(より早い納期)、いわゆるQCDに関することや、Sales(より大きな売上)、Profit(より多くの利益)といったものにします。そして、それらが数値化されていれば、ゴールイメージが明確になり、さらに報告時の印象がよくなります。
単に結果だけ報告して終わりの部下と、このような次の一手を加えてくる部下。両者の間には「上司の信頼」という点で大きな差が生まれます。みなさんは後者を目指してください。
最後のプラス要素は「相手の好みに合わせる」ということです。単純な例として、口頭での報告を好む上司と文書での報告を好む上司がいます。口頭での報告を好む上司に、わざわざ文章で報告書を作るのは時間のムダ。相手の好みに合わせることも、少ない工数で相手の満足度を上げるポイントになります。
■悪い報告は“早く言ったほうが良い”が…
「バッドニュースファースト!」これは、複数の企業の標語ポスターで見かけたセリフです。中には社長の顔写真付きポスターもありました、「悪いニュースを早く知らせてほしい」は、経営陣や管理職の切なる願いのようです。しかし、部下層の関心は薄く、ホンネは「わかるけど、悪い報告は言いにくいよなあ」という様子です。
正直に言うと、私自身もクライアントに対し、悪い報告は伝えにくいと思っています。でも、仕方なく早く言います。それは、そのほうが自分にとってよいからです。
そもそも、経営陣や管理職が、なぜバッドニュースを早く知りたがるのか。それは、早く知ることで「打ち手の幅が広くとれる」「悪影響が小さいうちに処置できる」からです。時間がたつにつれ、打ち手の幅は狭まり、悪影響は広がり、収集がつかなくなっていきます。経営陣や管理職はそれを嫌がります。
ただ、それはあちらの事情。こちらは、それよりも個人的な「言い出しにくさ」のほうが強く作用します。だから、悪い報告は言いにくいのです。そこで、前出の2つの理由以外の、悪い情報を早く言ったほうがよい理由に着目します。それは、「早く自分の気が楽になる」ということ。その1点だけでも、「早く言ったほうがよい」と自分を説得できます。
■上司を身構えさせるといい
問題は言い方です。「前振りトークで『仕方なかった理由』を説明し、環境を整えてから悪い現実を伝えよう」と考えがちですが、それは逆効果。報告の3話法の1つ「結論から話す」にも反します。
では、どうすればよいか。ベタな解決策ですが「あまりよくないご報告なのですが」から話し始めるのがお勧めです。実際やってみるとわかりますが、その時点で肩の荷は下りた感じがし、後は比較的落ち着いて話ができます。
かつて、私は管理職として部下から「あまりよくないご報告なのですが」と言われたことがあります。その段階で、かなり身構え、さまざまな悪い状況を思い浮かべました。しかし、実際聞いてみると深刻なことは少なく、大抵は「なんだそんなことか」とホッとしました。今考えると、最初に身構えさせた部下の勝ちです。
仕事をしていれば、どんなに努力をしていてもバッドニュースを伝えなくてはならない場面はあります。できるだけ早く、さっさと済ませて楽になりましょう。

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濱田 秀彦(はまだ・ひでひこ)

マネジメントコンサルタント

1960年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業。住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て大手人材開発会社に転職。1997年に独立。現在はマネジメント、コミュニケーション研修講師として、階層別教育、プレゼンテーション、話し方などの分野で講演を行っている。おもな著書に『仕事を教えることになったら読む本』(アルク)、『あなたが上司から求められているシンプルな50のこと』『あなたが部下から求められているシリアスな50のこと』(以上、実務教育出版)、『「上司に話が通じない」と思ったときに読む本』(かんき出版)、『どんな人とも!仕事をスムーズに動かす5つのコツ』(すばる舎)など多数。

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(マネジメントコンサルタント 濱田 秀彦)
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