■「自分視点」では真剣度が伝わらない
部下のみなさんから「相談しても、上司の関心が薄く、面倒くさそうな対応をされる」という話をよく聞きます。今の時代、上司もプレイングマネージャーが多く、自分の仕事のことで精一杯なのでしょう。それでは、管理職失格なのですが、上司を批判しても状況は改善しません。こちらが、できることを考えましょう。
上司の関心や真剣度を引き出し、助言、助力につなげるために最も大切なのは、問題の伝え方です。
例えば、顧客から納期が遅れている商品やプロジェクトについて、厳しい苦情を受けているとします。できることはすべてやりましたが、まだ納品の見通しは立っていません。メンタル的には限界に近づいています。そんな場面で上司に相談するとしましょう。次のような問題の提示の仕方では、なかなか上司は真剣に相談に乗ってはくれないでしょう。
「例の納品遅れの件で、お客さんから毎日のように厳しく責められ、もう限界です」
■上司の関心は「チームの成果」
よっぽど部下想いの上司ならば、真剣に相談に乗ってくれるでしょうが、プレイングマネージャーが多い現代の上司は期待薄です。
「例の納品遅れが、次の商談に影響していて、このままでは、予定している次の案件が受注できなくなりそうです」
「それは大変だ」と一気に真剣度が上がります。極論すれば、上司はチームの成果が一番大切。それに影響するなら真剣に対応するということ。問題を提示する場合、自分視点で強く言っても関心を引き出すことはできません。上司、チームの視点で提示する。簡単なことですが効果大です。
■“きちんとやっていたアピール”は逆効果
相談は問題解決のための活動です。そのため、相談の際のトークも問題解決の流れに沿って行うのが効果的です。
問題―状況―解決策案
この流れに従って、ポイントを整理していきましょう。「問題」を提示する際のポイントは、自分視点ではなく自社、チーム、上司の視点で表現すること。前項でも解説したように、いくら自分が困っていても、それはグッと飲み込んで、あくまでチームや上司の視点でシンプルに表現するのが効果的です。
次の「状況」は、問題発生の経緯や現状を伝えるステップです。これは、解決策を考えるために必要な情報です。このステップのポイントは事実中心で話すということ。この状況を話す際、つい「自分はきちんとやっていた」というアピールを入れたくなりますが、それは逆効果。話が長くなり、相手の理解の妨げになります。
最後は「解決策案」です。相談するときに「どうしましょう」だけでは、頼りない部下というレッテルを貼られてしまいます。必ず「私はこうしようと思うのですが、どうでしょうか」と自分案をつけます。
■「帰宅間際の緊急用件」をどう相談するか
では、「問題―状況―解決策案」という流れに沿った、話法のイメージ作りをしましょう。次のような場面で、自分だったらどのように相談するかを考えてみてください。
就業時間終了間際の17時20分に、自分が担当している法人顧客S社から「そちらから届いた部品のサンプルを開封したら壊れていた。このままでは使えない。明日朝一番に会議で使いたいので、今日19時までに交換してほしい」と言われました。代わりのサンプルは社内にありますが、今から宅急便で送っても間に合いません。
顧客の会社は自社から30分程度のところにあり、サンプルは小さいものであるため、自分で持っていくことはできる状態です。ただ、プライベートで約束があり、自分としては顧客に届け、そのまま直帰したい状況です。上司である課長にどのように相談したらよいでしょう?
それでは、ステップごとに解答例を挙げていきます。
【声がけ】
課長、S社のクレーム対応の件で急ぎのご相談があります。いま2~3分よろしいでしょうか。
【問題】
S社様にお送りした部品のサンプルが壊れていて、先方が今日の19時までに交換してほしいとおっしゃっています。
【状況】
先方は、明日の朝一番に会議で使いたいため、急ぎの交換を求めている状況です。代わりのサンプルは社内にあります。
【解決策案】
今から私が持参しようと思うのですが、いかがでしょう。
(持参についてOKが出たら)
持参後、直帰させていただきたいのですが、いかがでしょう。
■“真剣度を上げておく”と話が早い
「声がけ」の部分は、ケースの答えとしては不要ですが、実際には結構重要です。「クレーム対応」「急ぎの相談」というキーワードで、相手の真剣度を上げておくと話が早いのです。解答例の声がけ以降はセオリー通り。「問題」はシンプルに、「状況」は事実中心、そして「解決策案」を加えます。
最後の「持参後の直帰」は解答例のように、上司の回答があってから話すという手があります。相談は、相手の反応によって流れが変化する可能性があり、「私がサンプルを持参しようと思う」と言ったとき、上司が「いや、帰り道だから、オレが持っていくよ」と言ってくれたら話は感謝して終わり。直帰の件は、わざわざ話す必要がなくなります。相談の話法に加え、声がけの工夫、相手の反応の幅を見込んだ臨機応変な対応。
■「どうしましょう」は絶対NG
「相談の仕方で、上司からより大きな信頼が得られる」は、本当のことです。次に挙げるのは、そのイメージ作りのためのクイズです。
三流の相談:「どうしましょう」だけ。
二流の相談:自分なりの解決策をつける。
一流の相談:自分なりの解決策に[ ? ]をつける。
→[ ? ]に入る言葉を考えましょう。
自分なりの解決策をつけていれば二流とは言えませんが、そこは流していただいて。さて、みなさんはどんな答えをイメージしたでしょうか。正解は「選択肢」です。
相談とは、問題解決のためのアドバイスを求める活動でした。ただ、ここで言う一流の相談は、問題解決は自分で行い、判断だけを求めるやり方です。
今、T社の商談でさらなる値引きを要請されています。対応しないと他社に取られる可能性大です。対応として、「値引きを受け入れる代わりに、発注ロットを増やしてもらう提案」、「商品を値引きせず、在庫の保管を弊社でする提案」のどちらかだと思うのですが、どちらでいきましょうか。
■「相談しろ」「考えろ」は、実は矛盾していない
選択肢が選択可能なものになっていれば、上司は選ぶだけでよくなります。選択肢の組み合わせは2つとは限りません。投資とリターンの関係を大・中・小で組み合わせた松竹梅ラインナップのような提示方法もあります。選択肢がいずれも現実的なものならば、上司はその部下を高く評価し、信頼するようになります。
一方で、こんな質問もよく受けます。「上司に『事前に相談しろ』と言われたので相談したら、『そのぐらい自分で考えろ』と言われました。一体どうしたらいいのでしょう」。セミナーの受講者から実際に聞かれた質問です。
これはダブルバインド(二重拘束)と呼ばれる状況で、矛盾した指示を受けた側が混乱するケースです。上司が悪いのですがそう言っても事態は改善しないので、対応を考えましょう。
実は、このような上司の中では、「相談しろ」「自分で考えろ」は矛盾していません。翻訳すると「大切なことは相談してくれ」「細かいことは自分で考えてくれ」となります。では、大切なこととは何でしょう。
■「相談の分かれ目の基準」を聞いておく
前項でも出てきましたが、上司にとって大切なことはチームの業績。当然、売上やコスト、利益には敏感になります。部下が事前の相談なく自分で判断し、結果が悪ければ、上司は「こうなる前に相談してくれれば、避けられたのに」と考えます。ということで、改めて上司の言葉を意訳すると「チーム業績に影響が大きいことは、事前に相談してくれ」「影響の小さいものは自分で判断してくれ」ということになります。
これで、こちらの対応方針は決められるのですが、残るのは判定基準です。影響が大きい、小さい、の分かれ目はどこか。例えば金額では5万円なのか、10万円なのかといったことです。
これは企業の業種によって、さらには営業、製造、開発、管理部門などの職種によって異なります。「このぐらいが相談する、しないの分かれ目だろう」という自分の判定に自信がなければ、チームの重要な成果指標について、上司に「どのラインが相談の分かれ目になるか」を聞いて、共有しておくとよいでしょう。
また、多くの管理職は月単位で業績を見ています。上層部への報告も月単位だからです。部下が月の中で帳尻が合わせられるなら、上司はあまり気にしません。一方、帳尻を合わせるのに月をまたぐ場合は気にします。
ラインと期間の両方で判定すれば、相談すべきこと、自己判断してよいことの見極めは的確にできます。
■「お願い」ではなく「ご相談」がいい
管理職層が、主任や係長などのリーダー層や、中堅社員に期待することの1つに、「周囲を巻き込んで難しい仕事、大きな仕事に取り組んでほしい」というものがあります。これは業種、職種にかかわらず共通しています。しかし、「どうやって周囲を巻き込めばよいか」というアドバイスはなく、巻き込みの方法は自分で考えなくてはなりません。
そこで使いたいのが、「相談」をツールにする方法です。例えば、自分が持っているスキルでは解決できない課題に直面しているとします。隣の部署にはそれを解決できるノウハウを持っている人がいて、協力を求めたい状況です。あなたの上司は動いてくれそうもなく、自ら協力をお願いするしかありません。
ここで、あなただったら、次のどちらのアプローチにしますか。
A お願いしたいことがありまして、いま少々よろしいでしょうか。
B ご相談したいことがありまして、いま少々よろしいでしょうか。
お勧めはBです。Aのアプローチでは相手が警戒します。「面倒なことを頼まれるのではないか」と考え、守りを固めるでしょう。そうなると、なかなか話は進めにくくなります。一方、Bのアプローチでは、相手は負担を感じることなく話を聞いてくれるでしょう。加えて、相談されるという状況は相手の自尊心を高めるため、会話の雰囲気がよくなる効果もあります。
■結果報告を忘れてはいけない
さらに、「この分野に強い○○さんに相談するのが一番いいと思いまして」といったセリフを加えると効果的です。このように、相談というアプローチは、相手を巻き込む初期に有効です。こうして相手の懐に入ってしまえば、アドバイスや協力がもらいやすくなります。それは、自分のノウハウが増えること、自身のレベルアップにつながるわけです。
ただし、忘れてはいけないことがあります。相談した相手には必ず結果報告をすること。結果がよければ「おかげさまで」、結果が悪ければ「その節はありがとうございました。私の力不足で」をつけます。相手は意外に「その後どうなったんだろう」と思い出すもの。次の巻き込みにつなげたいなら、お礼とともに結果報告をしましょう。
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濱田 秀彦(はまだ・ひでひこ)
マネジメントコンサルタント
1960年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業。住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て大手人材開発会社に転職。1997年に独立。現在はマネジメント、コミュニケーション研修講師として、階層別教育、プレゼンテーション、話し方などの分野で講演を行っている。おもな著書に『仕事を教えることになったら読む本』(アルク)、『あなたが上司から求められているシンプルな50のこと』『あなたが部下から求められているシリアスな50のこと』(以上、実務教育出版)、『「上司に話が通じない」と思ったときに読む本』(かんき出版)、『どんな人とも!仕事をスムーズに動かす5つのコツ』(すばる舎)など多数。
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(マネジメントコンサルタント 濱田 秀彦)