肩書がなくても仕事が集まるのはどんな人か。作家の有川真由美さんは「中高年の転職では『前の会社では総務部長をしていました』『営業成績で全国1位になったこともあります』などと過去の肩書や実績をアピールしがちだが、それは間違っている」という――。

※本稿は、有川真由美『肩書がなくても選ばれる人になる 幸せな働き方がつづく45のヒント』(ワン・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■仕事ほど無我夢中になって楽しめる遊びはない
どんな職種においても、なぜか仕事が集まったり、チャンスがやってきたりする人のいちばんの特徴は、「やりたいことを楽しそうにやっている」ということです。彼らは「それ、面白そう」「ワクワクしてきた」「やってみたい」と、気軽な気持ちで飛び込んでいくのです。まるで遊びを楽しむように。
この本の最初に伝えたいのは、「仕事は仕事。遊びは遊び」と切り離す人ではなく、仕事そのものを遊びのように面白がり、楽しめる人こそが、「肩書がなくても選ばれる人」になっていくということです。
遊び感覚でいい加減にやるのではありません。仕事ほど真剣になれ、好奇心がわき、無我夢中になって楽しめる遊びはないのです。
「仕事」の意味合いは、現代社会では大きく変わってきました。
飽食の時代、生きるために必死になる環境ではないし、人と同じレールを歩くプレッシャーも少ない。ご飯を食べるための「ライスワーク(Rice Work)」から、好きなことを追求する「ライクワーク(Like Work)」、そして人生を通して使命感をもって深掘りしていく「ライフワーク(Life Work)」……と、経済的な報酬よりも、やり甲斐や充足感など心の報酬を得ようとする人が増えてきました。
■やりたい放題やったら「認めてもらえる自分」になれた
しかしながら、いまだに心の報酬をないがしろにして、「少しでも収入が多いほうがいい」「名前のある会社のほうがいい」と、世間の基準に合わせようとする人もいます。
若い世代でも「仕事はお金を稼ぐためのものだから、辛くてもしょうがない」と、あきらめている人も少なくありません。
かくいう私も20代30代のころは、とにかくお金を稼ぎたいと必死でした。
まわりに認めてもらえない自分は、価値がないとさえ思っていました。
しかし、どうやっても「認めてもらえる自分」にはなれなかったので、「ならば、好きなように生きてやる!」と開き直って、やりたい放題やってきました。
まるで冒険の旅をするように「面白そう」「ワクワクする」「やってみたい」と心踊る仕事にあれこれ飛び込み、夢中でやっていたら、いつの間にか本を書くようになり、いつの間にか大学の講師や政府の諮問委員など、ほかの仕事もオファーされるようになっていました。
「認めてもらいたい」ともがいていたときより、そんなことは気にせず、やりたい放題やっているいまのほうが、認めてもらえているのは皮肉なほどです。
■好きなことをやるか、やっていることを好きになるか
「好きなことをやっても稼げない」とは、よくいわれることですが、やりたくないことを嫌々やっていても、続けるのはむずかしく、どこかで破綻がきてしまう。大した成果も成長も得られないでしょう。
いい仕事をしようと思うなら、好きなことをやるか、やっていることを好きになるしかありません。どんな仕事にも楽しめる要素はあるもの。やりたくてやっていることは自ずと力がわいてくるし、困難もなんとか乗り越えていける。そんな姿をどこかで見ている人がいて、オファーがくるのは自然なことなのです。

世界一の投資家で、一見、お金を追い求めてきたウォーレン・バフェット氏は、つぎのことをいっています。
「お金は自分が好きなことを上手にやった副産物であるべき」
そして、お金にこだわりすぎると、お金のために身を滅ぼすことになると。
私たちはお金のためではなく、幸せになるために生きています。
かぎられた人生の時間、一日一日の大切な時間を、自分がやりたいこと、大切なことのために使うことが、幸せにつながっていくのではないでしょうか。
道標はいつも自分の外側ではなく、自分の内側にあるのです。
■「すぐに取りかかって、最後まで終わらせる」
「肩書がなくても選ばれる人」として、真っ先に思い浮かぶのが、40代の友人Nさん。彼は高卒でミュージシャンを目指して渡米。挫折して帰国後、大手製薬会社でITヘルプデスク担当の派遣社員として働き始めました。
さまざまな役職の人から、「パソコンが動かなくなったから来て!」「英語ができるなら、この資料を訳してくれない?」「各国の責任者が集まる会議で司会してくれる?」「外国の展示会のリーダーをしてもらえない?」と、つぎつぎに頼まれるようになり、わずか10年弱、30代で数万人の巨大企業の役員に。現在は独立して、国内外の大企業や公的組織でサイバーセキュリティや組織づくり、コンサルティングなど、さまざまなサービスを請け負っています。
彼はなんの後ろ盾もなく、自分から積極的に営業することもないけれど、あちこちで「この人に頼めば、なんとかしてくれるから」と紹介されて、新しい仕事が舞い込んでくるのだとか。
おそらく、彼に会っただれもが「この人なら信頼できる」と、心強いものを感じるのでしょう。

Nさんに「どうしたら、そんなにオファーがくるの?」と訊ねたことがありました。答えはいたってシンプル。
「すぐに取りかかって、最後まで終わらせるだけ」
あたりまえのことのようですが、ちゃんとできる人は少ないと言うのです。
■やってきた波に乗った後は流れに身を任せる
「たとえば、ITヘルプデスクには何人も担当がいたけれど、『困っているから助けて!』と言われたときに、『時間がかかります』『それは自分にはできません』と答える人は多かった。相手はいま困っているんだから、いまサポートすることが大事。やったことがない仕事でも役に立ちたいと、無我夢中でやっていると、なんとか完結できる。その繰り返しで、いつの間にか自分も成長しているんだよね」
あちこちからオファーがくる人は、「この人に声をかけたら、応じてくれそう」という明るく積極的なオーラを身に纏っているものです。
対して、職場内でも声がかからない人は、普段からさまざまな誘いに「いや、それはやったことがないから」「でも、いまは忙しいから」「そうはいっても、むずかしい」と、なにかと否定的で二の足を踏むことが多い。頑固でプライドだけは高いので、動きが鈍くなってしまうわけです。
面倒なことや、うまくいかない結果を、考えすぎて避けてしまうのでしょうが、ほんとうにもったいない。やってきた波に、「よっしゃ!」とひょいと乗って、あとは流れに任せれば、自分だけでは行けない遠い場所まで連れていってもらえるというのに。
■考えてから動くのではなく動きながら考えて軌道修正
私は「声をかけられて、少しでも興味をもったことは一度、やってみる」と決めています。
どんな結果になるかは、やってみなければわからない。なかには「うまくできなかった」「これは自分には向いていない」ということもあります。
ただ、ほとんどは試行錯誤しながら進んでいるうちに「なんとかできた」となり、自分の世界を広げてもらえる。失敗や苦い経験も含めて、いい学びになるのです。
そんなふうに「やる?」と声をかけられたら、すぐに「やる!」と応える。「お願い」と頼まれたら、「喜んで」と駆けつける。「行く?」と誘われたら、「もちろん」と出かけていく。よく考えてから動くのではなくて、動きながら考えて軌道修正していくうちに、自分の道はできていきます。
考えすぎは、心と体を重くします。感覚でひょいと動くフットワークの軽さは、チャンスや幸運に比例するのです。
■「過去の栄光」は生きる支えにも足かせにもなる
「過去の栄光」とは、生きていくための支えにもなるし、反対に、足かせにもなるものです。
中高年が転職をするときに「前の会社では総務部長をしていました」「営業成績で全国1位になったこともあります」などと過去の肩書や実績をアピールすることがあります。

自分を知ってもらうためには意味がありますが、「こんな経歴があるんだから、どこか雇ってくれるだろう」と考えるのは、大間違い。「で、いまのあなたはなにができるんですか?」とツッコまれても仕方がないでしょう。
ひとたび、会社の肩書で大事にされたり、賞賛されたりすると、あまりの心地よさに無意識に「自分は大切に扱われてしかるべき」と感じるようになりがち。
プライベートな席や退職後も過去の栄光を語ってマウントをとったり、自分が正しいと信じて独特の価値観を押しつけたりすることもあります。
過去の栄光があるがゆえに、「認められたい、賞賛されたい、大切にされたい」という承認欲求に取り憑かれて、冷静にいまの自分を客観視できなくなってしまうわけです。
■頑固なプライドが新しい仕事や学びの妨げに…
「過去の栄光」があることはカッコいいし、価値のあることです。そんな肩書や実績があったということは、なんらかの知識やスキルが身についているということ。それがなにかを掘り下げて、「これならお役に立てますよ」と自然体で伝えることができたら、わざわざ過去をアピールしなくても「頼れる存在」として、あちこちから声がかかるようになるでしょう。
そんな仕事ぶりから「さすが昔、○○で働いていただけのことはある」「すごい経歴なのに、謙虚な人だ」と、自然と賞賛を集めるようになります。
子育てが一段落したあとの女性が再就職するとき、「○○保険会社で事務をしていました」などと遥か昔の職歴をアピールすることがありますが、パソコンなどのスキルはアップデートしないかぎり、数年で古くなっています。
それより、日々培ってきた家事能力や段取り力、ママ友や親戚とのつき合いで築いたネットワークやコミュニケーション力などが使えるスキルになっているもの。これらの力は、これまで仕事として評価されることもなければ、お金になることもなかったために、自分でも気づいていないのです。

プライドの高い人は、「いまさらそんな仕事はできない」「バカにされたくない」などと言って、新しい仕事や学びを遠ざけてしまいます。
■「自分のなにが喜ばれるのか」にフォーカス
転職や再就職で仕事が決まりやすい人は、「それ、面白そう」「私にもできるかな」と気軽に飛び込み、年下からも教えてもらいます。自分で自分を認める自尊心があれば、プライドはどうだっていいのです。
「いまの自分はなにができるか」といまを生きていて「こんな自分になりたい」と未来に向かって、謙虚に自分をアップデートし続けます。
何歳になっても、どんな立場であっても、いまを夢中で生きる姿が、ほんとうのカッコよさとして、まわりに映るのではないでしょうか。
有名大学の博士課程を修了し、長年、研究職についていた女性が、50歳を過ぎて突然、「介護の仕事をしたい」といくつかの資格をとって、有料老人ホームに転職しました。穏やかで教養があってコミュ力は抜群、データ管理や書類作成のうまい彼女は、すぐに管理職になり、生き生きと働いています。
世の中の人は、それぞれ自分のことで忙しく、他人にそれほど関心があるわけではありません。
「自分はどう思われるか」でなく、「自分のなにが喜ばれるのか」にフォーカスしてまわりを見渡すと、自分でも知らなかった力が見えてくるはずです。

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有川 真由美(ありかわ・まゆみ)

作家

鹿児島県姶良市出身、台湾国立高雄第一科技大学応用日本語学科修士課程修了。化粧品会社事務、塾講師、衣料品店店長、着物着付け講師、ブライダルコーディネーター、フリー情報誌編集者など、多くの職業経験を生かして、働く女性へのアドバイスをまとめた書籍を刊行。内閣官房すべての女性が輝く社会づくり推進室「暮らしの質」向上検討会委員(2014-2015)。著書に『感情の整理ができる女(ひと)は、うまくいく』(PHP研究所)、『30歳から伸びる女(ひと)、30歳で止まる女(ひと)』(PHP文庫)、『好かれる女性リーダーになるための五十条』(集英社)、『遠回りがいちばん遠くまで行ける』(幻冬舎)などがある。

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(作家 有川 真由美)
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