薄着になる夏、体型が気になってダイエットを始める人も多いだろう。ただ、年をとると、やせづらくなる。
フードライターの白央篤司さんは「スーパーにある食材で、糖質量をうまくコントロールするといい」という――。(第2回)
※本稿は、白央篤司『はじめての胃もたれ 食とココロの更新記』(太田出版)の一部を再編集したものです。
■食事を減らしてもやせない
食べる量は明らかに昔より減っているのに、やせない。
以前は数日食事を少なめにして酒を抜いたら2キロぐらいは余裕ですぐ戻せたのに、体重計の数値が微動だにしない。壊れているんだろうか……違う、おのれの体のほうがボロくなってきたのだ。先輩方からさんざん聞かされてきた「年を取ると代謝が落ちてやせにくくなるぞー!」という人間の定理のひとつを、ここ数年ではっきりと実感させられている。
私は、しぶとかった。なんだか最近胃が張ってズボンが苦しいなあ、これが膨満感というやつだろうか。いいや、単に太ったんである。なんだか顔がむくむなあ……昨日そんなに飲んでもないのに。違う、太って顔に肉がついたんである。膨満感だむくみだと決めつけて、しぶとく「太った」「やせにくくなった」という現実に向かい合おうとしなかった。
しかしある日、飲み会で知らないうちに撮られた写真に衝撃を受ける。
■私の中の自己イメージが崩壊
私に似た、体の大きな人が写っているではないか。なぜこの人は私と同じ服を着ているのだろう。3秒ぐらいそう思い込むことにして直視したくなかった。それは、私だ。私なのね。私かもしれない。いいや、俺だ。お前だ。なんだ、その腰まわりは! 首の肉は! 背脂は! ぎゃああああああああああと叫びだしたくなったが、もう認めなければならない。これは私なのだ。
腰まわりはぽこんと丸みを帯びて服がカーブを描いている。
うつむいた首まわりはむっちりと太く、目は自分で思っているよりもがくりと垂れて、線のように細くなっている。
あはは、ははは、はははははは……。
私の頭の中にある自己イメージがガラガラと音を立てて崩壊した。
これが  現実の  わたし  なのか
戒めにまず、画像をプリントアウトして冷蔵庫の前に貼った。やせているほうがかっこいい、素晴らしいと思っているわけではないが、自分としてはもう少し肉を落とした状態でありたい。そして、最初の文に戻る。昔のように数日食事を少々減らしたぐらいでは頑としてやせない。しかし過激なダイエットなど体に悪いことは重々承知している。
■まずはご飯を減らすところから
とりあえず、ごはん茶碗をひとまわり小さなものに替えた。食について見直すときは、まず自分の食生活の再確認から。私は基本ごはん党なので、ごはん、つまりは炭水化物を減らしていこうと。しかし急にいつもの3分の2、あるいは半量などにするとストレスも溜まりやすく、リバウンドもしやすいだろう。
これまでもダイエットに関する記事などは作ってきたので、情報は頭に入っている。あせらず、長期戦で体を慣らしていこう。
ちなみにごはんは日常、雑穀入りにしている。これはカロリーオフの目的よりも、食物繊維を増やしていこうという思いから。野菜はしっかりとっているつもりでも、不足しがちなのが食物繊維。食物繊維が足りなくなると、便通も悪くなりやすい。食べることを大事にするなら、出す(=排泄)大事さもセットで考えなければ。
雑穀を入れることで食感も富み、私は白米だけのときより「しっかり噛む」を意識しやすくもなった。しっかり噛むと食べる時間もゆっくりと流れて、消化にもいい。雑穀もいろいろあるが、私は胚芽押麦を利用している。「はくばく」というメーカーのものだが、値段が手頃で、近所のスーパーで買えるから、というのがセレクトの理由。毎日のように使うものだから、値段と買いやすさを第一に考えている。

■「食え~」と指令を出してくる体
しかし40代後半、ちょっとやせようとすると体からの「何をするのだ~やめろ~食え~食え~!」という叫びにも似た指令がすごかった……。2日3日食事量を減らしただけでまあ、食欲が間欠泉のように湧いてくる。適正体重に近づけたいだけだよ、やせすぎになんてならないからと自分の体に声がけしてみたが、指令は止まらない。
ここで食べてはすべてが台無し。お腹が空いたときは玄米フレークや、ごく薄味のクラッカーを少量ゆっくり噛んで食べ、空腹感をごまかすようにした。味気ないものを食べると食欲に火がつかなくていい。あるいはマウスウォッシュで口をゆすぐか、歯を磨くと食欲が飛んで1~2時間は気にならなくなることも発見だった。
紆余曲折はあったが、最終的に「3食はしっかり食べる、間食は基本無し」というスタイルで、
・朝は食べたいものを食べたいだけ食べる

・昼は主食(炭水化物)を少なめに

・夜は主食をこれまでの半分量にする
というのをルーティンにしたところ、3カ月半で4キロほど落とすことができた。4キロは劇的な変化ではないが、体がちょっと軽くなって気分がいい。炭水化物は生きていく上で大事な必須栄養素だから、不足しないようにするのを心がけつつカロリーダウン。
■しっかり噛んで食べるお味噌汁
朝食は何を食べてもいい、というゆるい決まりは「救い」にもなったし、「ここでストレス解消!」とドカ食いをしたい気持ちにも私はならずに済んだ。いや、たまに朝マックとか楽しんでいたけれども(ソーセージエッグマフィンが好きなんだ……)。

味噌汁にはちょっとした工夫もした。わかめや豆腐、きのこなど柔らかい具材だけでなく、根菜類を少し大きめに切って加え、「しっかり噛んで食べる味噌汁」を心がけたのだった。れんこんやごぼう、にんじんのほか、根菜ではないがブロッコリーもいい。ねぎも輪切りにするのではなく、ななめに大ぶりに切るなんて工夫で噛む回数も増える。小松菜の茎もしゃきしゃきとしていい。ごはんを少なめにしても満足感が増した。
友人が教えてくれた「最初のひと口は必ず30回噛むといいよ」というアドバイスがなかなか効果的だったので、書き添えておきたい。この決まりは、私の体に染みついた早食いの習性を少し抑える上でも役立ってくれた。
■パスタも少しずつ量を減らして
昼などパスタを作ることも多いのだが、いままで1食100g食べていたパスタの量を最初の1カ月半は80gにして、次に70gに落とした。ダイエットするときは、パスタに限らずごはんなど主食の量を「自分がいつも大体どのくらいとっているのか」計量して、自認することから始めるといい(と、管理栄養士の友人が教えてくれた)。
私の場合、「パスタの量、マイナス20g」が最初は「さびしい量だな……」とかなりトホホな気分になったものの、玉ねぎやきのこ、ブロッコリーなどをたっぷり加えることでしのいだ。パスタに加えるきのこなら、エリンギがいいと思う。
加熱しても食感がしっかり保たれて小さくなりにくく、かつ香りも豊か。満足度アップに一番役立ってくれた。
ブロッコリーは市販の冷凍商品を常備している。食べたくなったとき、すぐパスタソースやスープに加えられて便利だし、最近は「チョップドブロッコリー」という小さく刻まれたものもマルハニチロから出ている(スープなどに加えたいとき、便利!)。さらにいうとニチレイフーズの「ささみブロッコリー」という冷凍食品は、その名のとおり鶏ささみとブロッコリーがセットになっているもの。たんぱく質とビタミン類を手軽にプラスできる便利なアイテムだ。私はじっくり手間をかけて料理するのも好きだが、省力したいときも日常生活ではいくらだってある。便利なものはどんどん取り込んでいきたい。
■糖質カットうどんは有用
便利なものといえば、シマダヤの「健美麺糖質カット40%本うどん」もよくお世話になっている。従来品より糖質を40パーセントカット、数分ゆがけばすぐに食べられるもの。1玉で糖質が26.6g、そして食物繊維が16.7gもとれるというのには驚いた。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、1日の目標量として「18~64歳で男性21g以上、女性18g以上」とある。女性ならこれ1食でほとんど達成量に近づくからすごい。ただ、食感はかなり柔らかめなので好みは分かれそうだけれども。
健美麺は夜ごはんによく使った。半分に切って、具だくさんのカレーうどんやけんちんうどんにして、最初に具から食べていく。昼パスタと同様、具材をたっぷりにして満足感アップを狙った。鶏ささみや鶏むね肉とたっぷりキャベツ、ぶなしめじのカレーうどんなんてのは、なかなかおいしい。
脂肪分の少ない鶏ささみや鶏むね肉はパサつきやすくて苦手な人もいるだろうが、カレーやあんかけうどんの具にすると、とろみが肉を覆って食感が気になりにくい。とろみのない料理に加えるときは、手間だけれども小麦粉や片栗粉を薄くつけてから加熱すると、食感がなめらかになっていいものだ。小さなネタだが、カレーやカレーうどんに入れるきのこはえのきもかなりおすすめ。カレー味にとてもよく合う。使い切れないときなどぜひ試してみてほしい。
■便利に使えるいろいろな麺
私は鶏むね肉だと、皮を取ってから厚めのそぎ切りにして鍋の具に使い、健美麺を入れてシメるというのもよくやっている。鍋って基本的に刻んで煮るだけで済み、野菜もたっぷりとりやすい。本当にすぐれた日本の食文化だなあ……と毎度思う。
糖質カットの麺といえば、パスタも各社からいろいろと出ている。すべてを試せてはいないのだが、昭和産業の「蒟蒻効果」というスパゲッティは名前のとおりこんにゃく芋由来成分を含むパスタで、もっちりとした食感がなかなかおいしかった。
糖質とは関係ないが、パスタといえば最近は3~4分でゆであがるもの、たんぱく質がとれるもの、寸が少し短めでフライパンでもゆでやすいものなど、消費者のニーズに応えたパスタがいろいろと出ている。つい「昔から買ってるアレ」を手にしてしまいがちだが、たまにはスーパーの棚をチェックして試してみるのもおすすめ。ワンパンパスタ(フライパンひとつで料理するパスタレシピ)が近年人気だが、確かに短めのスパゲッティはゆでやすくて便利だった!
■ゆっくり食べるためのコツ
そうそう、基本的なことだが、箸やスプーンで一度に食べる量を気持ち減らす、ということにも気をつけていた。全体量を減らしたのに、いままでと同じ感覚で食べているとあっという間に食べ終えてしまい、むなしくなりやすいから。むなしさは健康的減量の敵だ。積もり積もって、「えーい、ストレス解消も人間は必要だ!」とドカ食いを引き起こしやすい。
パスタなら、フォークのひと巻きを少なめにして、ゆっくり食べる。スプーンはひと回り小さいものを買った。昔の自分なら「こんな食べ方じゃ冷めてしまうぞ。熱いものは熱いうちに、それが作ってくれた人と食べものへの礼儀だ!」なんて言ってたろうな、と思いつつまたひと口を少なめに。体にガッシリとしがみついている脂肪に少しばかりでも降りてもらうためには仕方ないのだよ、自分をなだめつつまた、ひと口を少なめに。
ちょっとやせてはまた戻りを繰り返しながら、なんとかマイナス4キロを保てている。もう3キロ減を目標としたいが、夏が暑すぎてビールをなかなか我慢できない……………。

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白央 篤司(はくおう・あつし)

フードライター

フードライター、コラムニスト。1975年生まれ、早稲田大学第一文学部卒業。「暮らしと食」をテーマに執筆、主な著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『自炊力』(光文社新書)、『名前のない鍋、きょうの鍋』(光文社)、『はじめての胃もたれ』(太田出版)など。

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(フードライター 白央 篤司)
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