※本稿は、池谷敏郎『高血圧、脳卒中、心筋梗塞をよせつけない! 「100年血管」のつくり方』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■「不健康である」という自覚が大切
人生100年時代、100歳まで生きるということは、今80歳の人なら、あと20年。50歳の人なら50年という年月があります。定年を迎えても人生はまだまだ続きます。「そうはいっても、もう体にガタがき始めているよ……」なんて思う人も、もしかしたらいるかもしれませんね。
でも、弱い部分を抱えていることは決して悪いことではありません。健康に自信がある人ほど、自身の体力を過信して日頃から無理をしがちなので、ある日突然重大な病気に倒れる……ということはよくあるのです。弱い部分を持っているからこそ、健康に気をつけようと思うもの。だから、不健康な部分を自覚していることはとても大切なことだと私は思います。
私は、診察にいらした患者さんに、血管の状態をサクラの木にたとえてお話しすることがあります。
幹や枝葉が健康な状態であれば、1つひとつの花びらのすみずみまで栄養がしっかり行き渡り、樹齢に関係なく、美しい花が咲きます。年を重ねたサクラが素晴らしい満開を見せてくれるのは、健康な幹・枝葉を維持しているからです。
しかし、幹や枝葉が何らかの原因で不健康になっていたとしたら? あの美しい「満開のサクラ」にはなりません。
■健康のベースは“血管力”
私たちの体も同じなのです。幹や枝葉、つまり全身の血管が健康であることがすべてのベースになっているのです。血管が健康であれば、栄養が全身の細胞1つひとつのすみずみまで行き渡り、臓器も健康を維持できます。この「幹と枝葉から元気にする」ことが、私たちの体でいえば「血管を若返らせること=100年血管をつくること」です。
「100年血管」をつくるとは、血管を若返らせるケアのこと。「血管がしなやかに開くこと」「血管の内側がなめらかで、血液をスムーズに循環させることができるようにすること」という両方を兼ね備えた「血管力」を高めることです。
血管力に注目して健康づくりを行えば、寿命を短くする要因も、健康寿命を短くする要因も予防することができます。
■「ラーメン+半チャーハン」は絶対NG
さあ、ここからは実践編です! 本稿では、血管ケアの3本柱のひとつ、食事の摂り方について説明しましょう。血管を若返らせる食事、まずは、「糖質の摂り方」です。
糖質(=ごはん、パン、めん類、いも類、甘い果物、スイーツなど)は、食べたら体内ですべてブドウ糖に分解され、血糖値を上げます。つまり、食後の高血糖(かくれ高血糖)を引き起こす張本人です。
糖質たっぷりの食事は、血糖値の急上昇・急下降を招き、血管をじわじわと痛めつけます。血糖値が上がると、すい臓がインスリンを分泌して血糖値を下げてくれるのですが、食事のたびに大量のインスリンを出していると、すい臓が疲れてインスリンの分泌量が減ったり、インスリンが効きにくくなったりします。そうして、糖尿病へと向かっていく。
その昔、スポーツ少年だった男性が選びがちな「ラーメン+半チャーハン」セットや「うどん+ミニ天丼」セットなど、ダブル炭水化物メニューはもってのほか。女性も、食べる量は少なくても、サンドイッチとスイーツ、パスタとパン、うどんと果物など、糖質に偏ったメニューになりがちな人は、見直しましょう。
■糖質制限は「なんちゃって」でいい
ダイエットの方法としてすっかり定着した感のある「糖質制限」ですが、私の考え方は、
・食後に血糖値を急上昇させて血管を傷つけないように、糖質は控えめがよい
・でも、ブドウ糖も体にとって必要なエネルギー源なので「断つ」のはNG
・主食を半分にするか、3食のうち1食だけ炭水化物を抜く程度に
という「なんちゃって糖質制限」です。
今は糖質を摂りすぎているために内臓脂肪が増えたり、血糖値を上げたりして血管を老化させている人が多いので、糖質は控えるべき。でも、まったく摂らないのはかえって体に悪いので、ちょっと減らす方法を私自身も実践し、患者さんにもすすめています。
「なんちゃって糖質制限」では、ごはんを半分にしましょう、朝・昼・晩のうち1回は炭水化物を抜きましょう――とすすめていますが、これまでダブル炭水化物メニューやごはん大盛りが当たり前だった人にとっては、ツラいかもしれませんね。「今日からごはんを半分にするから、その分、おかずを増やしてほしい」なんて奥さんに頼んだら、ムッとされるかもしれません。
■食べるなら“茶色い炭水化物”
習慣にするには、無理なく続けられることが肝心。そこで、「減らす」が難しいときに提案しているのが、「選ぶ」です。
主食を選ぶ。基本は、GI値の低い炭水化物を選ぶことです。GIとはグリセミック・インデックスの略で、ブドウ糖50gを摂取したときの血糖値の上昇度を「100」として、その食品を糖質50g分摂取したときの血糖値の上がり具合を相対的に示したもの。食後血糖値の上がり具合いを表す指標です。
GI値が100に近い食品ほど血糖値を上げやすく、GI値が低い食品ほど血糖値を上げにくい。あくまでもその食品を糖質50g分食べた場合の相対値なので、「1食分」「1個分」ではないことに注意は必要ですが、糖質を多く含む炭水化物を選ぶときにはいい目安になります。
GI値を覚えるのさえ面倒という人は、より精製度の低い穀物を選びましょう。白米よりも、玄米、胚芽米、もち麦。
■「炊き立てごはん」よりも「冷えたおにぎり」
もうひとつ付け加えると、とくにパンを選ぶときにはやわらかいものよりも、硬めのものを。ロールパンのようにやわらかいパンより、ライ麦パンのような噛みごたえのあるパンのほうがよく噛んで食べられる分、満腹中枢が刺激されて、食べすぎを防げます。
やわらかいフワフワのパンを食べているうちに、1個のつもりが2個になり、3個になり、食べ終わったときにはなんだか眠気に襲われた……なんて経験、ありませんか? その裏には、血糖値の急上昇がかくれているかもしれません。食事で血糖値が急上昇し、インスリンが大量に出ると、眠気につながることがあるのです。
それから、ざるうどんとかけうどんで悩んだらざるうどんを、普通のパスタと冷製パスタで悩んだら冷製パスタをすすめます。
糖質のひとつであるデンプンは、一度熱を加えられた後で冷やされると、その一部が「レジスタントスターチ」と呼ばれる「消化されないデンプン」に変わるのです。レジスタントスターチは、小腸で消化されずに大腸まで届き、食物繊維と同じような働きをしてくれます。つまり、糖の吸収をゆるやかにしてくれる。
炊き立て派には残念なお知らせですが、炊き立てのごはんよりも冷えたおにぎり。米、小麦、いも類といったデンプンが多く含まれる炭水化物を食べるときには、温かいものよりも冷たいもののほうが血管には喜ばれます。
■食物繊維は“100年血管”に欠かせない
かけうどんよりもざるうどん、炊き立てのごはんよりも冷えたおにぎりのほうがいいのは、うどんやごはんに含まれるデンプンの一部がレジスタントスターチに変わって、食物繊維のような働きをするから、でした。ということは、食物繊維がいいということ? そうなんです。食物繊維は、「100年血管」に欠かせない栄養素です。
食物繊維には「不溶性食物繊維」と「水溶性食物繊維」の2種類があります。どちらも大事ですが、血管ケアでより大事なのは水溶性食物繊維のほうです。
水に溶ける水溶性食物繊維は、食品の水分を取り込んでゼリー状になります。そうして胃腸の中をゆっくり通過していくので、胃にとどまる時間が長く、小腸での栄養素の吸収を遅らせてくれます。また、吸着性もあって、余分なものを体外に出してくれます。そのため、次のような効果が期待できるのです。
・糖や脂肪の吸収を遅らせて、食後高血糖を防ぐ
・余分なコレステロールを吸着・排出して、脂質異常症を予防する
・余分なナトリウムを吸着・排出して、高血圧を予防する
血管を直接老化させる要因を撃退してくれるということです。
■「短鎖脂肪酸」がもたらす、体にうれしい働き
さらに、水溶性食物繊維は消化されずに腸まで届き、腸内で善玉菌のエサになります。そうすると、善玉菌が増えて腸内環境も良好に。
・腸内を弱酸性にして、大腸のバリア機能を高める
・腸の蠕動(ぜんどう)運動を活発にする
・インスリンの分泌を進める腸管ホルモンの分泌を助け、血糖値上昇を抑える
・食欲を抑える
・脂肪細胞に脂肪が蓄積されるのを抑える
血管にとっても、体全体にとっても、かなり嬉しい効果ばかり。これらはすべて短鎖脂肪酸の働きとして、報告されていることです。こうした短鎖脂肪酸の恩恵を受けるには、水溶性食物繊維が欠かせません。
■“食物繊維ファースト”を習慣に
水溶性食物繊維のメリットはいろいろありますが、血管ケアにおいていちばんのポイントは、糖の吸収をゆるやかにして食後高血糖を防いでくれることです。その効果を最大限に発揮してもらうには、食事の最初に食べましょう。だから、「ベジファースト(まずは野菜から)」とよくいわれるのです。
水溶性食物繊維が豊富な食べ物は、おくらや山芋、なめこ、納豆などのネバネバ食品、コンブやワカメなどの海藻類、玉ねぎ、にんにく、ごぼう、アボカド、芽キャベツなどの野菜、キウイやりんご、みかんなどの熟した果物、ドライイチジク――など。
水溶性食物繊維が豊富なものを先に食べることが大事なので、野菜サラダや野菜スープでなくても、おくらの味噌汁や納豆、わかめスープなどでもOK。アボカドも、調理が手軽でいいですよね。半分に切って、ちょっと醤油やオリーブオイルをたらして、スプーンですくって食べるだけでもおいしいです。私はベジファーストの代わりにキウイファーストとして、食前に1個、キウイを食べることもあります。
お腹が空いているときには、つい、ごはんやパンといった炭水化物から食べたくなるかもしれませんが、そこはいったん落ち着いて。炭水化物こそが血糖値を上げるので、食べる順番としては何より先に食べてはいけません。「食物繊維から」を習慣にしましょう。
水溶性食物繊維は、便秘予防にも欠かせません。便秘も血管を老けさせるもとです。便秘になると、腸内で悪玉菌が増え、悪玉菌が生み出す有害物質やガスが増えます。それらが腸から血管に移ると、血管を傷つけてしまう。だから、水溶性食物繊維は便秘を防ぐという意味でも血管を守ってくれます。
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池谷 敏郎(いけたに・としろう)
池谷医院院長、医学博士
1962年、東京都生まれ。東京医科大学医学部卒業後、同大学病院第二内科に入局。97年、医療法人社団池谷医院理事長兼院長に就任。専門は内科、循環器科。現在も臨床現場に立つ。生活習慣病、血管・心臓などの循環器系のエキスパートとしてメディアにも多数出演している。東京医科大学循環器内科客員講師、日本内科学会認定総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医。
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(池谷医院院長、医学博士 池谷 敏郎)