年を取ると、なぜ太りやすくなるのか。医師の池谷敏郎さんは「40歳を過ぎると、脂肪を燃やしてくれる褐色脂肪細胞が減っていくことが原因のひとつ。
脂肪が燃えやすい体を維持するために、コーヒーに含まれる『トリゴネリン』が注目されている」という――。(第2回)
※本稿は、池谷敏郎『高血圧、脳卒中、心筋梗塞をよせつけない! 「100年血管」のつくり方』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■フランス料理はこってりなのに、病気になりにくい
「フレンチ・パラドックス」という言葉、耳にしたことはありますか? フランス料理といえば、おいしいけれど、こってりという印象ですよね。
もう20年以上も前ですが、フランス人はバターや生クリーム、チーズなどの動物性脂肪をたくさん摂っているのに、なぜか、それらが原因のひとつといわれる心血管系の病気になりにくいという研究結果が報告されました。アメリカ人と同じように高脂肪食を食べているのに、心血管系の病気にかかる人の割合はアメリカ人の半分近くと少なかったのです。
このフレンチ・パラドックス(フランスの逆説)の答えとして注目を浴びたのが、赤ワインでした。赤ワインに含まれるポリフェノール(ファイトケミカルのひとつです)には、活性酸素を除去する抗酸化作用があるので、悪玉コレステロールが活性酸素によって酸化されて動脈硬化が進むのを防いでくれているのではないか、と考えられたのです。
フレンチ・パラドックスという言葉を初めて知った人も、「赤ワインは健康にいいらしい」という話は聞いたことがあるでしょう。ただ、その後、赤ワインが死亡率を下げる、心臓病にかかるリスクを下げることについては否定する研究結果も出ています。なんともスッキリしない話で恐縮ですが、前項目でも書いた通り、お酒については、まだはっきりしないことも多いのです。
■「緑茶」が長生きの秘訣になる
でも、ポリフェノールが抗酸化作用を持つことは真実。そして、ポリフェノールを含む飲み物は、赤ワインだけではありません。

緑茶も、ポリフェノールの一種である「カテキン」が豊富で、いろいろな健康効果が知られています。カテキンの働きとして知られているのが、抗酸化作用や抗ウイルス作用、糖やコレステロールの吸収を抑える作用など。継続的にカテキンを摂ることで、肥満気味の人の内臓脂肪を減らす働きがあることも注目されています。
少し前に、緑茶を飲む量が増えるほど死亡リスクが低くなるという研究結果を国立がん研究センターが発表し、話題になりました。
この研究では、1日1杯未満の人、1日1~2杯の人、1日3~4杯の人、1日5杯以上の人と、4つのグループに分けて、全死亡とがん、心疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患などとの関連を調べたのですが、緑茶を飲む量が増えるほど、死亡リスクは低下する傾向が見られたのです。
とくに心疾患や脳血管疾患、呼吸器疾患による死亡リスクは、お茶をよく飲む人ほど低くなっていました。
■1日3、4杯のコーヒーで死亡リスクが減少
また、ポリフェノールといえば、最近、コーヒーも株を上げています。緑茶に比べてコーヒーはなんとなく「ワルモノ」のイメージがありますが、1日3、4杯コーヒーを飲む人は、ほとんど飲まない人に比べて、心疾患や脳血管疾患、呼吸器疾患による死亡リスクが半分程度と低かったのです。これも、国立がん研究センターの発表です。
緑茶との違いは、飲む量が増えれば増えるほどリスクが下がるわけではなく、1日5杯以上飲む人よりも、1日3~4杯の人のほうが死亡リスクは低かったこと。コーヒーの場合は、1日3~4杯がベストなようです。
コーヒーに含まれるポリフェノールの代表は、クロロゲン酸。
クロロゲン酸にも強力な抗酸化作用があり、血管を守る働きをしてくれます。
もうひとつ、おすすめしたいドリンクがトマトジュース。繰り返しになりますが、トマトには抗酸化作用のあるリコピンだけではなく、リラックス効果の高いGABAも豊富です。長期的に飲むことで血圧を下げる効果があることが知られています。緑茶、コーヒーだけではなく、トマトジュースもレパートリーにどうぞ。
トマトは、アルコールの分解速度を速めるともいわれているので、二日酔い対策に、〆でホットトマトジュースを飲むのもいいですね。
■脂肪燃焼効果がある
コーヒーといえば、カフェイン、クロロゲン酸に次ぐ第3の成分が最近話題です。それは、「トリゴネリン」。植物に含まれる成分で、とくに焙煎する前のコーヒー豆に多く含まれています。
なぜトリゴネリンが注目されているのかというと、脂肪細胞を、脂肪をため込む細胞から、脂肪を分解して燃やす細胞へと変えるスイッチとして働くことがわかってきたのです。
脂肪細胞には、「白色脂肪細胞」と「褐色(かっしょく)脂肪細胞」の2種類があります。白色脂肪細胞は、脂肪をため込むだけの細胞。
一般的にイメージされる、脂肪細胞のことです。
一方、褐色脂肪細胞は、じつは筋肉系の細胞で、脂肪細胞でありながら、脂肪を取り込んで熱に変えます。脂肪を燃焼させる細胞なのです。
褐色細胞は、赤ちゃんのときにはたくさんあるのですが、年を重ねるとともに減っていきます。40歳を過ぎると激減して、60歳になるとほとんどなくなるといわれています。だから、加齢とともにだんだん“燃えない体”になっていくのですね。
■白色脂肪細胞の「ベージュ化」を促す
ただし、個人差は大きい。私は食べるとてきめんに太るタイプですが、妻は食べても太らない体質です。そして、同じ空間にいても、妻は「暑い」と言うことが多く、背中に触れると温かい。褐色脂肪細胞は、鎖骨や肩甲骨のまわりにあるので、妻はきっと褐色脂肪細胞が多いのです。
以前から妻のことをうらやましく思っていましたが、食べても太りにくい、うらやましい体質の大きな一因が褐色脂肪細胞にあるのではないか、と最近では考えられています。
そして、ここからが肝心です。
多くの人は60歳になると褐色脂肪細胞はほとんどなくなってしまうのですが、ある刺激で、普通の白色脂肪細胞が褐色脂肪細胞のように、脂肪を分解して燃やす働きをし始めることがわかってきたのです。こうした変身を「ベージュ化」といい、ベージュ化した白色脂肪細胞を「ベージュ脂肪細胞」といいます。
中性脂肪をため込む白色脂肪細胞から、脂肪を燃焼するベージュ脂肪細胞へ――。ベージュ化を促すスイッチとなる刺激はいくつか判明していて、そのひとつがコーヒーのトリゴネリンなのです。
■「トリゴネリン」入りを選ぶといい
ただし、どんなコーヒーでもいいわけではありません。コーヒーのトリゴネリンは、焙煎すると減っていくので、一般のコーヒーにはほとんど含まれていません。そのため、トリゴネリンがちゃんと残るように浅く焙煎しつつ、おいしさも損なわれないような、うまいバランスが求められるのです。
私は「UCC&Healthy スペシャルブレンド」が好きですが、いくつかのメーカーが独自の製法でトリゴネリン入りのコーヒーを販売しています。せっかくコーヒーを飲むなら、白色脂肪細胞のベージュ化も狙いたいですね。
そのほか、ベージュ化を促すスイッチとしてわかっているのは、食べ物では唐辛子の辛み成分のカプサイシン、ミントに含まれるメントール、緑茶のカテキン、EPA、DHAなど。生活習慣では、寒冷刺激や運動も、白色脂肪細胞のベージュ化を促す刺激となります。
ただし、寒さを感じると血管が縮み上がり、血圧が上がるので、寒冷刺激はほどほどに。
ぜひ取り入れてほしいのは、やっぱり運動です。
■“じっとしていても脂肪が燃える体”になる
内臓まわりの脂肪細胞に中性脂肪がたまると、炎症物質が出て全身の炎症を進めたり、血栓ができやすくなったり、血圧が上がりやすくなったり、インスリンの働きを抑える物質が増えて血糖値が上がりやすくなったり、がん化を促す物質が分泌されたり――と、とにかくいいことはありません。
内臓脂肪を減らすことは、血管と全身を守ること。もちろん食べすぎないこと、体を動かすことも大事ですが、白色脂肪細胞をベージュ脂肪細胞に変えることができれば、じっとしていても脂肪が燃える体になります。ベージュ化のスイッチをうまく取り入れましょう。
先ほど、緑茶のカテキン、コーヒーのクロロゲン酸など、ポリフェノールの話が出てきましたが、ポリフェノールといえばチョコレートも有名です。
チョコレートの原材料のカカオ豆に含まれるポリフェノール・カカオポリフェノールには、血管の炎症を抑える、血管をしなやかに開くといった効果があります。でも、チョコレートの場合、砂糖も多いですよね。いくら健康にいい成分が入っていても、食べすぎたらダメ。実際、「チョコレートにはポリフェノールが入っているから」と言い訳をしながら、食べすぎて糖尿病を悪化させた人もいました。
■果物もスポドリも摂りすぎはNG
こうした「よかれと思って」パターンは、いろいろあります。「夏は脱水になりやすいから水分補給が大事」とスポーツドリンクを飲みすぎて糖尿病になった人、「スイカは利尿作用があるから」と食べすぎて、これまた糖尿病になった人……など。

スポーツドリンクをはじめとした清涼飲料水は、飲みやすいように糖分をたっぷり加えているものが多いので、選ぶときには成分表のチェックが必須です。果物も、ビタミンやポリフェノールなどのいい面もある一方、多くの果物にはブドウ糖と果糖が半分ずつ含まれているので、やっぱり食べすぎると悪い影響のほうが出てきます。
どんなにいい成分が入っていても、甘いもの、糖質の多いものには注意が必要。食べすぎはNGです。
私は、甘いものは、午後の外来診療が始まる前の午後2時すぎに、ブラックコーヒーと一緒に少量を食べています。理想をいえば、甘いものは遠ざけたほうがいいのですが、もともと甘党なのです。
具体的には、チョコレートであれば、2かけらほど(6g程度)。今日はシュガーレスのラスクを2枚ほどブラックコーヒーと一緒につまみました。少量であれば、種類は問いません。
■「小腹が空いたとき」のおすすめの食べ物
では、「なんだか小腹が空いちゃった」ときの間食はどうするか。どうしても甘いものが食べたいのであれば、シャトレーゼの冷凍保存された糖質カットのケーキがおすすめです。また、レアチーズケーキやガトーショコラ、プリンなどは他のケーキと比べると糖質量が少なめです。ただし、基本的には糖質の少ない、甘くない間食でお腹を満たすことを選んでください。
・蒸し大豆&ヨーグルト

・キウイ(低糖質のフルーツ)&ヨーグルト

・もち麦スープ(インスタントスープにもち麦をプラス、または市販のもち麦スープ)

・蒸し大豆入りスープ(インスタントスープに蒸し大豆をプラス)
などがおすすめです。これなら、血糖値の上昇も心配なく、満足感もバッチリです。

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池谷 敏郎(いけたに・としろう)

池谷医院院長、医学博士

1962年、東京都生まれ。東京医科大学医学部卒業後、同大学病院第二内科に入局。97年、医療法人社団池谷医院理事長兼院長に就任。専門は内科、循環器科。現在も臨床現場に立つ。生活習慣病、血管・心臓などの循環器系のエキスパートとしてメディアにも多数出演している。東京医科大学循環器内科客員講師、日本内科学会認定総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医。

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(池谷医院院長、医学博士 池谷 敏郎)
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