チームをまとめられるリーダーは何がちがうのか。経営コンサルタントの加藤芳久さんは「リーダーはみんな不安を抱えているが、本音を正直に吐露することが大切。
それだけで、チームに一体感が生まれ、部下のモチベーションが高まり、生産性アップにつながるきっかけになる例を多く見てきた」という――。
■男の涙は「あり」か「なし」か
もし、会社の上司が突然会議中にワッと泣き出したら、あなたはどう感じるでしょうか? 戸惑ってしまったり、引いてしまったりする人もいるのではないだろうかと思います。
しかし、涙には、周囲へ「意外」な効果があるのです。今回は、自分の感情の変化に素直になるための方法も紹介できればと思います。
■きっかけになったのは「監督の涙」
A企業の実業団の選手を対象に、メンタルトレーニングの研修を実施していたときのこと。
監督は、年齢の若い男性。その分指導の経験が少ないものの、勉強熱心で責任感が強く、一途に指導にあたるタイプの方でした。それゆえに頑固なイメージを持たれやすく、せっかくの指導や監督の想いが選手に届きづらい現状となっている――。そんなもったいない印象を持ちました。
実は前年、この実業団は試合で惨敗していました。新年度を迎えて、心新たにみんなで頑張っていこうというキックオフのタイミングに、私が研修を行うことになったのです。
みんなが緊張していたので、まずは肩肘張らない雰囲気をつくることに。
身体を動かす体感型のワークやマインドフルネスなウォーキングをして、和やかな空気感ができてきました。頃合いを見て、「次は、皆の顔が見えるように向かい合って、輪になって座ってください」と伝えました。
事前に監督には、「輪になって座ったときには、素直に飾らずに、自分の気持ちを弱音も含めてみんなに話してください。正直であればあるほどいいです」とお伝えしていました。
全員で深呼吸をして、気持ちが落ち着いたところで監督が話し始めました。
意を決した表情の監督は「去年は予選突破できると思っていたのに、できなくて本当に悔しかった。選手のみんなに申し訳ない。自分の経験不足、指導力不足でみんなを勝たせてあげられなかった。本当に申し訳ない」と、男泣きしながら自分の気持ちを吐露したのでした。
監督の言葉を受けた選手たちもまた、口々に話し出しました。
「私も前年はめちゃくちゃ悔しかった」

「こんなに監督が私たちのことを想ってくれていたのに、私は本気を出せていなかった」

「これまで反抗的な態度を取ってしまって申し訳ありませんでした」
メンバーそれぞれが内省して、これまで黙っていた本音を言い合えたのは、監督が飾らずに弱さを見せて、自分の気持ちを正直に伝えたからです。その場にいる誰もが、チームとしての一体感を強く感じたであろう瞬間でした。

これはスポーツの現場で私が見た光景ですが、ビジネスシーンでも同じようなことは起こり得ます。監督とはビジネスの職場でいえば「管理職」のこと。
もしあなたが管理職の立場であるなら、ぜひこの監督のように、まず自分が本音を吐露することで、“部下たちが本音を話せる”雰囲気を作り出してほしいのです。そうすることで、チームに一体感が生まれ、部下のモチベーションが高まり、生産性アップにつながる例をこれまでたくさん見てきました。
■「涙」の位置づけが変わってきた
昨今、DX化・AI化が進み、論理的に「いかに生産効率を上げるか」が議論される機会が増えました。そして、これは人間の感情に進化が起きたと言っていいと思うのですが、同時に「人でないとやれないことは何か」という議論がされるようになりました。
前述した事例では、これまで本音を言うことのなかった頑固な監督が本音を吐露することで、チーム全体を包む雰囲気がぐんと変化しました。少し震えたような声、覚悟を決めた表情、赤裸々に等身大で自分自身に向き合い内省し謝罪する姿……こうした機微を、現状のAIでは分析することができません。
だからこそ、こうした目に見えない情動的なコミュニケーションに、今とても大きな価値が生まれてきています。感動という言葉はあっても、理屈で動く「理動」という言葉はありません。人は、感情が動いてはじめて動き出したくなるものなのです。
では、どのようにすれば、このような「メンバーを動かす感動」をビジネスシーンでつくり出すことができるのでしょうか。

■リーダーはみんな「不安で怖い」
よく「男はプライドの生き物」と表現されます。
男性は、周囲からよく見られたいし、格好悪いところは見せたくない生き物。だからこそ、見栄を張ったり虚勢を張ったりしてしまうものです(もちろん、こうした感情は女性にもありますので、一概に男性限定という訳ではありません)。
上記の思考、行動傾向をふまえると、男性が職場で「涙を見せる」という行為は、ある意味こうしたプライドを捨てた瞬間でもあります。自分の弱さをさらけ出して、本音で自分と向き合っているからこそ涙が出るのです。
私はチームを束ねて生産性を高めたいなら、過去の表層的な言葉のやり取りで会議を100回やるよりも、自分の本音を見せるほうが、よっぽど効率、パフォーマンス共に良いと考えています。
ですから、普段、虚勢を張って、鎧を着て、本当の自分を出せないビジネスパーソンにこそ泣いてみてほしいのです。もちろん、泣くことがすべてではありませんし、泣くことが良いことだと言っている訳ではありません。
チーム仕事に悩んでいるなら、まずは、自分を飾らずに本音で語りませんか? ということをお伝えしたいのです。
これまで多くの会社の組織・風土変革に取り組んできましたが、その中で、経営者の涙、責任者の涙、リーダーの涙をたくさん見てきました。共通して言えることは、リーダーはみんな「不安で怖い」のです。人に言えない悩みを抱えています。

しかし、そんなふうに一見強く見られがちな肩書きのある人が、本音を吐露するようになると、周囲はその正直なあり方に尊敬の念を抱き始めるものなのです。
■コミュニケーション力を向上させる「4ステップ」
そう言われても「やっぱり本音なんて伝えられないよ」という人が少なくないでしょう。多くの方は、先述したプライドに加えて、自分の感情に無頓着だから泣けないのです。
いわば、現状は、感情の放置プレイ状態です。では、一体どうすれば気負わず、自然と本音を伝えられるようになるのでしょうか? これには簡単なトレーニングが必要です。
自分の感情の揺れに気づいたとき、嬉しさでも怒りでも構いませんので、その「源泉は何か?」を探求するのです。手順としては、以下の4つのステップがあります。
① 【感情認知】感情の揺れを感じましょう。

「あれ、私は今、なぜ鼻歌を歌っているのだろう」
② 【源泉探求】自己内省して、感情の源泉は何かを探してみましょう。

「そうだ、明日は朝からゴルフに行くんだ」
③ 【言語付与】その源泉に言葉を与えてみましょう。

「ワクワクするな。心躍るような気持ちだ」
④ 【感情共有】自分の想いを他者に伝えてみましょう。


「ゴルフって、前日からわくわくするよね。思わず今朝は鼻歌を歌っちゃったよ」

挙げた事例はポジティブな感情ですが、ネガティブな感情もぜひ扱っていただきたいと思います。こうして自分の感情のアップダウンを認識するようになってくると、自己理解が進みます。何度も行ううちに、①~④までの流れを、自然と1分ほどでできるようになります。
多くのリーダーは自分の感情を周囲に話すクセがありません。抱え込み、重たくなり、そして周囲に理解されず誤解されたまま悩んでいる人が大半です。しかし、ぜひ、この記事をきっかけに周囲に話してみていただきたいのです。このように、自分の想いを共有して周囲に良い影響を与える人を私はシェアリングリーダーと呼んでいます。
シェアリングリーダーとして、自分の正直な感情を周囲に話していくことで、「この人はこういう時にこういう感情になる人なんだな」「この人はこういう価値観を大切にしているんだな」と、他者からの理解が進みます。相互理解が進むと人間関係がよくなり、組織の雰囲気はどんどん良くなっていくのです。
男性だから人前で泣くのは恥ずかしいなどと思わずに、本音の吐露で周囲に感動を与えることができるんだ! と考えるとよいでしょう。

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加藤 芳久(かとう・よしひさ)

組織変革コンサルタント

リーダー育成と組織変革を得意とする。
「理念型育成®」を日本で初めて開発・体系化した人財育成の専門家。情報経営イノベーション専門職大学客員教授。大学卒業後、大手旅行会社、コンサルティング会社を経て、2016年に加藤経営を設立。2022年にファイブベイ(FiveVai)設立、取締役副社長兼CHO(チーフハピネスオフィサー)に就任。著書に『お客さまの9割をリピーターにする33のしくみ』(KADOKAWA)、『売上を追わずに結果を出すリーダーが見つけた20の法則』(かんき出版)がある。千葉県千葉市生まれ。

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(組織変革コンサルタント 加藤 芳久)
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