冷凍食品市場は拡大傾向が続いている。日本冷凍食品協会の統計では、2024年の冷凍食品の消費額は1兆3017億円(前年比4.4%増)と過去最高を更新した。
冷凍食品マイスターのタケムラダイさんは「米不足の影響で冷凍米飯の需要が高まっている。生米よりも高いのに消費が増えている背景には、冷凍米飯が単なる便利食ではなくなっていることが大きい」という――。
■価格は「2倍超」なのになぜ売れるのか
近年、「令和の米騒動」と称される米不足が問題視されている。この状況は、冷凍米飯市場にも大きな影響を与えているようだ。
米不足は生米の店頭価格上昇を招き、それが結果的に冷凍米飯の需要増につながった。冷凍米飯メーカー各社は、この需要増に最大限応えるべく、調達、生産、販売、物流といったサプライチェーン全体の強化に努めている。
気になるのは、米を買うのと冷凍米飯を買うのとではどちらがお得かということだろう。現在は備蓄米の流通もあり、米の平均店頭価格は5kg3000円台にまで下がっているが、長らく高止まりが続いていた5kg4500円で試算してみる。
生米をそのまま炊飯した場合、およそ2.5倍の12.5kgまで増加する。これをマルハニチロの「あおり炒めの焼豚炒飯」と比較した場合、生米と同様の量にするには約28個分が必要となる。1個(450g)を400円で買うと1万1120円になるので、具材入りかつ調理済みという点を差し引いても、冷凍炒飯は「生米よりもコスパが良い」とはいえない。
また、当然のことながら米不足によって調達価格は上昇しており、もはや企業努力だけでは賄いきれない水準に達したため、2025年春季に価格改定を実施した企業も少なくない。

それでもなぜ、冷凍米飯の需要は伸びているのか。それは、冷凍米飯が生米の価格変動や供給不安定化に対する代替品としての役割を担っているのではないかと筆者は考えている。
■商品によって炊く方法を変えるこだわり
冷凍米飯の最大の魅力である「美味しさ」を維持するには、高度な品質管理技術が不可欠だ。このジャンルをリードするメーカーは、この点に関して多大なこだわりを持っている。
例えば、本格的な炒飯であれば、米の表面の粘りを取るために蒸気で炊飯するが、米にしっかりと味を入れたい商品には釜炊きを採用している。最終商品の特性に合わせて炊飯方法を変えているのだ。これは、米の特性を最大限に引き出し、理想的な食感と味わいを実現するための重要な工程である。
加えて、業界では、高級中華料理店の炒飯作りを再現する「あおり炒めロボット」のような独自技術が採用されている。
この技術によって、家庭では再現が難しいプロの味と食感を冷凍米飯で実現しているのだ。
もちろん、その美味しさを維持するため、急速凍結技術も採用され、炊飯直後の最も美味しい状態を閉じ込めることで、解凍後も高い品質を維持している。
■「ながら食べ」できる商品が若者にヒット
また、米の調達と品質管理においても、メーカーのこだわりは貫かれている。
長年のパートナーシップを組むサプライヤーから、良質な米を安定的かつ手頃な価格で調達することで、美味しい冷凍米飯に適した銘柄が都度、安定的に調達できる仕組みになっているのだ。
万が一、米の供給がさらに不安定になるような不測の事態には、最終的なリスクヘッジ策として、海外からの調達も視野に入れているという。品質の高い原材料を確保することが、最終製品の美味しさに直結するという強いこだわりが見てとれる。
冷凍米飯市場では個食タイプの商品が多いことも、需要が伸びている一因だろう。個食商品は、袋のまま電子レンジで温め、袋のまま喫食できるものが多く、簡便性に優れている。
代表的なのは、マルハニチロの「WILDish」シリーズだ。「袋のまま調理ができ、その袋が皿がわりになる」という画期的なもので、忙しい日常生活における「ながら食べ」など、特に若年層のライフスタイルの変化を捉えた商品として、高い支持を得ている。「焼豚五目炒飯」や「ねぎ塩豚カルビ炒飯」など多様なフレーバーでシリーズ展開されており、今後も新しい商品が登場する予定である。トレーも入っていないため、ゴミが少なく済む点も特徴的だ。
■「炒飯味の炊き込みご飯」が20年を経て大進化
大手食品メーカーがこぞって冷凍米飯事業に力を入れるようになったのは1980年代後半のことである。当時は弁当商材が全盛の時代だったが、冷凍食品の簡便性が広く認識されるにつれて、米飯を含む他カテゴリーへの需要も増加した。
2000年代初頭までは、米飯の調理法は炊き込む製法が主流であり、炒飯も「炒飯味の炊き込みご飯」が一般的であったが、この状況を打破したのが、ニチレイフーズが発売した「本格炒め炒飯」であり、これにより「実際に炒めた本格的な冷凍炒飯」の技術競争が始まったと、業界関係者は語る。
この技術競争に各社が参入し、装置の開発に着手し始めた。
前述の「炒飯ロボット」といった革新的な技術を開発するメーカーもあらわれ、本格的な冷凍炒飯の量産を可能にしたのだ。
例えば、2007年に発売されたマルハニチロの「あおり炒め炒飯」は、プロのシェフが作る炒飯の具材投入タイミングや鍋の温度などを詳細に分析・データ化し、その工程を再現できる機械を開発することで、家庭では再現が難しいパラパラで香ばしい炒飯の提供を実現した。
家庭で「パラッとふっくらした本物の炒飯」が電子レンジで手軽に調理できる点は、冷凍米飯の最大の魅力であり、市場におけるメーカーの優位性となっている。
袋のまま食べられるマルハニチロの「WILDishシリーズ」がヒットしたように、これらの取り組みは、冷凍米飯が単なる「手軽な食品」ではなく、「高品質で生活に寄り添う食品」へと進化していることを示唆しているといえる。
■防災備蓄食としても需要が高まっている
冷凍米飯は、米不足の時代の代替品以外においても、今後ますます需要の増加が見込まれる。
例えば、昨年の南海トラフ地震警戒情報が発令された際には、防災備蓄食として冷凍米飯の需要が高まったという。また、大型台風の予測が出た際も、ほぼ毎回需要が高まる傾向にある。これは、冷凍米飯が長期保存可能であり、かつ手軽に調理できるという特性からだろう。
主要な冷凍食品メーカーは、具体的な備蓄体制については詳細を開示していないものの、過去の災害時には冷凍米飯の需要が増加する中で、安定供給のために生産数量を増やした経験を持つ。東日本大震災のような未曾有の災害時には、供給量が限られる中で被災地への供給を優先した実績もある。
■過疎地の買い物難民の救世主になりえる
また、長期保存が可能な冷凍米飯は、物流の最適化にも大きく寄与する。
賞味期限が長いことで、輸送頻度を最適化し、広範囲への安定供給を可能にするためである。
2024年問題(トラックドライバーや倉庫の人手不足)により配送が困難になっている現状において、冷凍食品業界では、エリアによってはメーカー共同配送や、中一日配送(LT2配送)を開始するなど、社会課題にも少しずつ対応している。
さらに冷凍米飯は品数が多くストック性に優れているという点で、今後の社会構造の変化、例えば地方過疎地における買い物困難者が増加するといった予測にも対応可能な食品として注目されている。単なる非常食としての役割を超え、日常的な食料供給のインフラとして機能していくのかもしれない。
■冷凍米飯は単なる便利食ではなくなっている
もう一つは、フードロス削減だ。個食タイプの冷凍米飯商品は、一人前の容量で設計されているため、ゴミを出すことなく商品を食べきることができる。必要な量がわかりやすいという点でも、購入時の無駄を減らす助けとなる。
これはメーカー側にとっても利点が多い。家庭用冷凍食品は賞味期限が長いため、賞味期限切れによる小売店舗での廃棄はほとんど発生していないと考えられる。業務用分野においても同様で、ストック性や簡便性、さらに技術革新によって品質も向上した冷凍食品は、人手不足が深刻化する飲食店や給食施設において、フードロス削減に貢献している。
さらに、各社は製造工程における食品廃棄物発生の抑制にもしっかりとした課題意識を持っており、販売できない製品をこども食堂やフードバンク、それらを支援する企業へ寄贈することで、食の支援に貢献しているケースが見られる。
社会全体のフードロス問題に対し、冷凍食品というジャンルが重要な役割を担っているのだ。
米が手軽に入手できない現代において、冷凍米飯市場は今後さらに拡大すると思われる。
そしてそれは単なる食の選択肢ではなく、持続可能な社会を実現するための重要なインフラとして、今後ますますその価値を高めていくであろう。

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タケムラ ダイ(タケムラ ダイ)

冷凍食品マイスター

20年以上にわたって冷凍食品を食べ続ける筋金入りの冷凍食品マニア。現在は通算2万食以上の冷凍食品を食べた経験を活かし、冷凍食品のプロデュースやアレンジレシピの考案、食品メーカーや飲食店などのメニュー開発を手掛けるなど、料理研究家としての活動も多岐に及んでいる。テレビやラジオ、雑誌など多数のメディアに出演。著書は『レンジがあればなんでもできる! 早ワザ・神ワザ・絶品レンチンごはん』『1万食の冷凍食品を食べつくしたプロが考えた‼ プラス1食材でバリエーション無限大! 冷凍食品アレンジ神レシピ大全』(ともに宝島社)。2024年2月より、自ら開発した『TOKYO FROZEN CURRY(トーキョー・フローズン・カレー)』をECサイト『タケムラダイ セレクトショップ SELECT 010(セレクト・レイトウ)』にて販売中。

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(冷凍食品マイスター タケムラ ダイ)
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