受験が自分ごとになっていない子も自分から机に向かうようになる、「未来合格体験記」とは? ノウハウと家で書く方法を聞いた――。
※本稿は、『プレジデントFamily2025春号』の一部を再編集したものです。

教える人
中学受験カウンセラー

野田英夫さん

MIRAINO教育グループ代表。早稲田アカデミーで、在職中はトップ講師として5000人以上の生徒たちを難関校合格に導く。2020年、大学付属校受験専門塾「早慶ゼロワン」を開校。22年、大学受験のいらない医学部受験専門塾「Dr.Aiss」を開校。現在は計13教室を展開。

■それは、ビジョンがないから
僕は仕事柄、昔から多くの保護者から、子供のやる気がないという相談を受けてきました。
小学5年生、6年生と中学受験が迫ってきても、相変わらずふわふわとした様子で家でもだらだらと過ごし、受験生としての自覚がないように見える、親が言わないと宿題もやらない。例えば、そんな男の子。コツコツ頑張っているようなのに成績が伸びない、受験が近づくにつれて不安がるようになってきた。そんな女の子もいるでしょう。
これらは、子供がなんとなく勉強をしているから起きることです。「未来合格体験記」を書くことで、すべて解決します。

■「未来合格体験記」とは?
では、「未来合格体験記」とは何か?
これは、受験の前に合格した未来の自分を想像して書く合格体験記のことです。この体験記をしっかり書けた受験生の多くが第1志望校に合格しています。
受験の前に書くので、もちろんまだ本人は合格していません。
合格した自分を想像することで「なりたい」自分が見えてきます。子供自身が、なりたい自分と今の自分とを比べたときに、今の自分に足りないものがわかり、「なりたい自分」を目指すモチベーションが働き、志望校合格に近づいていけるというわけです。
■まずは「目的」をしっかりと定める
さて、「未来合格体験記」を書くために大切なのは、「目的」をしっかり定めることです。
多くの家庭が、○○中学合格!などと「目標」設定はするんですね。でも、その先の、例えば「学園祭で見た△△先輩みたいになりたい」「○○中学での学びを生かして、▲▲大学に入り建築士になりたい」など、“何のためにその学校を目指すのか”という「目的」こそが子供の駆動力になるのです。目的設定をしていないと、子供は「○○中学に合格することになんの意味があるんだろう」と思ってしまい、やる気が継続しません。
実際は、中学受験の志望校選びは親がリードすることも少なくないでしょう。その場合は、親が、子供がそこに入学したあとの様子や将来をイメージできるようなワクワクする話をしてやりましょう。「中学に入ったら、あの広いグラウンドで思いっきりサッカーができるね」「お父さんは、昔病気をしたときにお世話になったお医者さんが忘れられなくて、医師になったんだよ。
本当に感謝していて、退院していく子供の顔を見ると、疲れがすべて吹き飛ぶよ。○○は今、どんな仕事に興味があるのかな?」などと、自分の経験を話したりして、子供の想像力をかき立て、一緒に目的を設定していくのもいいでしょう。
子供にもよりますが、「未来合格体験記」を書くのは小学4年生にはまだ難しいかもしれません(早くやればいいというものでもない)。ベストなのは5年生の夏頃から遅くとも6年生のゴールデンウイークまで。ぜひ一度書いてみてください。
とはいえ、「では今から『未来合格体験記』を書いてください」と紙を渡しても、すらすらと書ける子はまずいません。そこで今回は、当塾で「未来合格体験記」を書くにあたって使用している「事前準備ノート」を紹介します。
まずはそれに具体的に回答するなかで、合格した自分の姿を子供にイメージさせていきましょう。また「未来合格体験記」は、一度書いてから何度修正してもOK。考えて修正する時間を子供に与えることで、「自分ごと化」していくことでしょう。
■志望校合格が近づく! 「未来合格体験記」事前準備ノート
それでは以下の質問に答えましょう。空欄はなるべくつくらないようにしましょう。

① あなたが一番入りたいと思う「志望校」をひとつ書いてください。

② あなたはなぜその「志望校」に入りたいと思っているのですか?

③ あなたの将来の夢や目標を書いてください。まだ将来の夢や目標がない場合は、どんな大人になりたいかを書いてください。

④ あなたは「なぜ中学受験するのですか?」受験する理由を書いてください。
※志望校(目標)とビジョン(目的)が合致しているかどうかをここで確認。ここで子供が迷っているときに先述の「お母さんお父さんは、こう考えて、今こういう仕事をしているんだよ」などと、話してやっても◎。この①~④が固まるだけで、その学校に合格したい!という意識は確実に高まる。
行動につながる「未来合格体験記」になる追加質問
こちらの質問にも答えると、合格した“理想の自分”となるために今やるべきことが明確になるよ!
(5)あなたはその志望校にどれくらい「合格したい」と思いますか?

以下の選択肢に○をつけてください。該当する選択肢がない場合は自由に書いてください。

・絶対に合格したい

・合格したい

・できれば合格したい
(6)その志望校は入学試験で「どんな生徒に入学してほしい」と考えているでしょうか? 想像でもいいので書いてみてください。必要であれば学校HPなどを参考にしても構いません。
(7)あなたはその志望校に合格したら「どんなことがしたい」ですか? 入学後に何がしたいか、想像して書いてみてください。

(8)合格発表を見て合格を知ったあなたは「どんな表情」をしているでしょうか? 想像して書いてみてください。
(9)合格発表を見て合格を知ったとき、あなたの「周りにいる人たち」は誰だと思いますか? また、その人たちは合格したあなたに「どんな言葉」をかけてくれると思いますか?
(10)その志望校に合格しているあなたは「どれくらい」勉強ができますか? 偏差値はあくまで目安でしかありませんが、偏差値ならいくつでしょうか?
(11)その志望校に合格しているあなたは、「朝は何時に起きて」「夜は何時に寝て」いると思いますか?
(12)今のあなたは、「朝は何時に起きて」「夜は何時に寝て」いますか?
(13)その志望校に「合格している自分」と「今の自分」とでは、どういうところが違うと思いますか? 想像して書いてみてください。
(14)あなたは今の成績に「満足」していますか? 以下の選択肢に○をつけてください。

・とても満足

・ある程度満足

・少し不満

・とても不満
(15)今のあなたの成績で志望校に「合格できる」と思いますか? 以下の選択肢のどちらかに○をつけてください。

・合格できると思う

・合格できないと思う
(16)「合格できないと思う」を選択した人に聞きます。「なぜ合格できない」と思いますか? 理由を書いてください。
(17)「合格できないと思う」を選択した人に聞きます。では、「どうしたら合格できる」と思いますか?
(18)あなたの「得意教科」と「苦手教科」があったら書いてください。どちらもない場合は「なし」と書いてください。
(19)得意教科がある人に聞きます。どうしたら「得意教科をさらに伸ばす」ことができると思いますか? 書いてみてください。
(20)苦手教科がある人に聞きます。
どうしたら「苦手教科を克服することができる」と思いますか? 書いてみてください。
(21)あなたは自分が「素直な性格」だと思いますか? 以下の選択肢に○をつけてください。

・素直だと思う

・素直じゃないと思う

・素直じゃないときがある
(22)「素直な子」と「素直じゃない子」がいたら、どちらの子のほうが合格しやすいと思いますか? 以下の選択肢のどちらかに○をつけてください。

・素直な子

・素直じゃない子
(23)あなたは「塾の先生から出された宿題」をしっかりやっていますか?

以下の選択肢に○をつけてください。該当する選択肢がない場合は自由に書いてください。

・必ずやっている

・やらないときがある

・やっていない
(24)あなたが志望校に合格するために、これから「克服しなければいけないもの」は何ですか? 「考え方」と「行動」にわけて書いてください。

■「合格体験記」を書いてみよう
それでは、前項で書いたことを参考にして、実際に「未来合格体験記」を書いてみましょう。
「合格体験記」を書く手順

① まずは志望校名を書く

② 合格した自分になりきって想像しよう!

(合格がわかった瞬間、どんな気持ち? どんな勉強をしてきたかな? 周りの人はどのように支えてくれた?)

③ ②で想像したことを紙に書いてみよう。
「未来合格体験記」は一度で完璧に書けなくて大丈夫。前と変わったことがあればまた書いて、どんどん更新していきましょう。
■「自分受験」の魅力3つ
野田さんいわく、「未来合格体験記」を書くことで、子供にとっての受験が「自分ごと」(自分受験)になるそうです。その魅力とは?
1 自走力が身に付く
自分はできると思うことで、子供は変わります。
今まで「親が言うから」「先生が言うから」とやらされていた受験から、「自分ごと」(自分受験)になるのです。
そうなると表情も変わりますし、実際の行動も変わってきます。具体的には、宿題を自らやるようになる、期限内に出そうとするなど、勉強への姿勢がぐんと変わります。テストの解答欄の字がキレイになる子も多いです。親が何度言っても、筆算を書かなかった子が書くようになり、ケアレスミスが激減するようになります。1点の重みがわかるようになるからです。
2 親のストレスが減る
自分受験になる魅力は、ほかにもあります。それは、親の手が離れること。親のストレスが減ります。子供ができないと思っているから、親は手をかけるんですよね。それが子供の様子が変わることで、親も「うちの子、本当にできるかも」と期待を持つようになるし、そのうちに期待が確信に変わって「自分が手をかけなくても、できるようになったんだ」と成長を感じることができるでしょう。
子供も怒られることがなくなると安心して学びに向かうことができ、家庭内で良い循環が生まれていきます。
3 不安も払拭できる
「このまま進んで間に合うのかな」「この成績で、志望校にとどくのだろうか」など、中学受験は子供だけでなく、親もすごく不安ですよね。
「未来合格体験記」のいいところは、このような親の不安もすべて払拭できるところ。
体験記を仕上げることで、子供が「自分はできるんだ」と思えるのはもちろん、親も「うちの子はできるんだ」と思えるのです。
子供の仕上げた「未来合格体験記」を読んで、感動する親は多いんですよ。
大人、子供関係なく「デキる」人の共通点は、自己肯定感が高いこと。自己肯定感が高い人は、自分の可能性にふたをしません。だから一見困難なことにも「挑戦したい」と思うのです。中学受験でも、何より大事なのが、この「自己肯定感を高める」こと。しかし、この「自己肯定感の高め方がわからなくて困っているんだよ」という家庭は多いと思います。
子供は「未来合格体験記」を頑張って仕上げていく過程で、自分で、自分の自己肯定感を高めていくことができます。この「できる!」は、体験記を仕上げた直後は勘違いかもしれない。でも、勘違いこそが大事で、子供の可能性は「勘違い」から始まります。まずは勘違いさせましょう!

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野田 英夫(のだ・ひでお)

受験カウンセラー、MIRAINO教育グループ代表取締役

4月19日(ヨイジュクをつくるため)、東京・市ヶ谷に生まれる。大手進学塾の専任講師から支部長、本社経営部門を歴任。在職中はトップ講師として5000名以上の生徒たちを難関校合格に導く。その後、独立し、早慶中学に特化した完全個別指導の「早慶維新塾」を開校。2020年に大学付属校専門塾「早慶ゼロワン」を立ち上げる。2022年に医学部受験専門塾「Dr.Aiss(ドクターアイズ)」を開校。現在、直営とフランチャイズ校で計11教室を運営している。著書に『御三家はわかりませんが早慶なら必ず合格させます』(朝日新聞出版)、『中学受験 大学付属校 合格バイブル』(ダイヤモンド社)がある。

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(受験カウンセラー、MIRAINO教育グループ代表取締役 野田 英夫 構成=プレジデントFamily編集部)
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