人気グループTOKIOは、国分太一さんのコンプライアンス違反を受け、グループを解散すると発表した。桜美林大学准教授の西山守さんは「TOKIOは当事者のプライバシー保護を重視するあまり、最低限の説明責任すら果たさずに解散を決めた。
今秋復帰と報じられた松本人志さんの事務所の吉本興業とは大きな差が出た」という――。
■「コンプラ違反」からの突然のグループ解散
人気グループTOKIOのメンバー、国分太一さんの「コンプライアンス違反」が6月20日に発覚。同日に国分さんの無期限の活動休止が発表された。
そして、6月25日に同グループが所属する「株式会社TOKIO」が、公式サイト上でグループの解散を発表した。
「解散まで必要だったのか?」という疑問も出ているが、影響力の大きさを考えるとやむを得なかったように思う。TOKIOに限らず、タレントや有名人に同様の問題が起きやすくなっているし、実際に起きてもいる。その背景にあるのは何なのだろうか? そして、リスクを回避するためには、どのような対応が求められるのだろうか?
■TOKIO解散報道にモヤモヤする理由
国分さんの問題の前には、中居正広さんとフジテレビ元アナウンサーの女性とのトラブルが起き、フジテレビの不祥事へと発展している。直近では、田原俊彦さんが不適切な言動を行い、NHK番組の出演見合わせに追い込まれる事態も起きている。
彼らの行為に対して「昭和の感覚が抜けていない」「おじさん的発想」という批判が出ている。芸能界に限らず、20年から30年位前までは、ハラスメント行為に対する認識も薄かったし、いまなら許されない行為も「許容範囲」として受容されてきた。
芸能界に限らず、コンプライアンスが厳しくなる中、中高年の意識のアップデートが追いついておらず、意図せず不適切な行為を行ってしまう――というのはさほど珍しいことではない。
異なる点は、芸能人やタレントなどの有名人は、メディアで大きく報道されるという点だ。
さらに、SNSの普及により、情報が一瞬にして拡散してしまうという状況も起きている。なかには、真偽不明の情報や不当な誹謗中傷が広がってしまうケースもある。
国分さんの件では、日本テレビの福田博之社長が迅速に記者会見を行ったが、「プライバシー保護」を理由に、実態はほぼ語られないままに終わってしまった。メディアだけでなく、その先にいる視聴者、読者も消化不良を起こしてしまった結果、国分さんの行為について週刊誌やスポーツ紙が相次いで報道し、批判や擁護、憶測がSNSで飛び交うという結果となっている。
■「解散するくらい悪いことをしたのか」と憶測が生まれる
不祥事が起きた場合、一般的に以下の過程で対応を行う。
事実解明を行う ⇒ (実態に基づいて)謝罪を行い、責任を取る ⇒ 再発防止策を講じ、実施する
国分さんの案件では、事実解明は行われたかもしれないが、それが公表されていないため、取った責任が適切かどうかもわからない。TOKIOの解散についても、モヤモヤが残り続けることとなってしまう。
TOKIO側としては、「事態を重く受け止めて、解散という決断をした」というところかもしれないが、実態が公表されていない中で、「解散するくらいだから、国分さんはよほど問題のある行動をしたのだろう」という解釈も生まれてしまう。
中居さんの問題に関しても、相手女性とのトラブルの核心がいまだ不明であるなか「(中居さんがトラブル相手に)9000万円の解決金を支払った」という真偽不明の報道から、「中居さんはよほどひどいことをしたに違いない」という憶測を生んでしまった。さらに第三者委員会が中居さんの行為を「性暴力」と認定したことで、その認識が定着することとなっている。
■プライバシー保護と最低限の説明の絶妙なバランス
一方で、プライバシーの保護を疎かにできないというジレンマがある。中居さんだけでなく、松本人志さんの件もそうなのだが、ファンの「擁護したい」という思いから、被害者や関係者に対して誹謗中傷が巻き起こる――という事態が生じている。

プライバシー保護は重要である一方、最終的に週刊誌やスポーツ、ネットメディア等で真偽の定かでない報道がなされ、SNSで情報が飛び交ってしまったほうが、情報波及力は大きくなるし、結果としてはプライバシーの侵害が起きてしまうことになる。
起こった事案に対する最低限の説明は、やはり当事者自身が行うべきだと筆者は考えている。
福島の復興を始めとして、TOKIOは地域振興、社会貢献活動を多数行ってきた。中居さんも、ボランティアや寄付活動を積極的に行い、関係各所への気配りのできる人として、問題が発覚するまでは「人格者」として評判も高かった。
不祥事、特にハラスメント事案に関しては、「なぜこの人が?」と思わずにいられないような人であったり、社会的地位のある人、人格者と思われてきた人が起こすことは少なくない。
「あの人がこんなことをするはずがない!」というのは思い込みに過ぎない。
さらに、どんなに世の中に貢献してきた人、イメージが良かった人でも、問題を起こせば「一発アウト」となってしまう時代になっている。こうした風潮に対する疑問もあることは理解できるが、過去の行動によって、現在の問題行為が帳消しにならないことは肝に銘じておく必要があるだろう。
■不祥事を起こしたタレントに対する事務所の役割
旧ジャニーズ事務所所属タレントの不祥事が相次いで起きているが、これはジャニーズ事務所の崩壊と無関係ではない。
芸能事務所がメディアに圧力をかけたり、メディアの忖度が働きづらくなったりしていることは好ましいことだ。一方で、タレントが問題を起こさないための対策、起こしてしまった時の対応が疎かになっている点は、改善の余地があるように思う。
企業におけるリスクマネジメントには、2つの要素がある。

① 問題を起こさないための対策

② 問題が起きた時の対応
上記は、企業だけでなく、個人に対しても当てはまることだ。
タレントのフワちゃんは、お笑い芸人のやす子さんにSNSで暴言を吐いて、芸能活動の休止に追い込まれた。事件が起きたのは昨年8月2日のことだが、1年近くが経つ現在でも活動再開どころか、全く表に姿を見せない状況が続いている。
フワちゃんは過去にはワタナベエンターテインメントに所属していたが、問題発覚時はフリーランスだった。ちゃんとした事務所に所属していれば、上記の①、②の対応はもう少しうまくできたのではないかと思う。
■「隣家侵入」の吉沢亮は『国宝』で大活躍
対照的なのが、隣家への無断侵入する騒ぎを起こしてしまった俳優の吉沢亮さんの対応だ。酔っての失態であったこともあり、アサヒビールのCMは取り下げになったが、アイリスオーヤマのCMは継続となった。
それだけではなく、継続したことがSNSで賞賛を浴びた。俳優活動としても、ほぼ制約を受けることはなかったし、新作の出演映画『国宝』でも演技が高い評価を得ており、不祥事などなかったかのような活躍ぶりだ。
もちろん、起きた事案自体がさほど深刻ではなかったこと、吉沢さんの俳優としての実力が買われていたことは大きな要素だ。しかし、吉沢さんと所属事務所のアミューズが迅速かつ徹底した対応を行ったことも、事態の収束に大きな寄与をしている。
吉沢さんはすぐに隣家と和解して、マンションを退去、所属事務所と吉沢さんの両者から謝罪文書を公表した。
文書の内容も、それぞれしっかり練られていたように思う。
吉沢さんの所属事務所のアミューズは、大手だけにリスク管理がしっかりしているように見える。
TOKIOの事後対応は「不適切だった」とまでは言えないが、新たな情報は出ず、当事者も顔を出さず、日テレの記者会見の「ゼロ回答」でフラストレーションが溜まっているメディアや一般人のモヤモヤを解消するものではなかった。
謝罪文に記載された問い合わせ先がTOKIOのエージェント契約先のSTARTO ENTERTAINMENT社であったことも、TOKIOの自身のリスクマネジメント力の弱さを示している。
■松本人志の復帰の道筋を立てた吉本
旧ジャニーズタレントの一連の不祥事に際して、「旧ジャニーズのタレントは不祥事を起こすと干されるのに、吉本興業の芸人は問題を起こしてもすぐに復帰できるのはなぜか?」という疑問を呈する声も見られた。
いまの時代、吉本興業といえども、不祥事をもみ消すこともできないし、メディアに圧力をかけることもできない。違うのは「リスク対応力」であると思う。
直近のオンラインカジノ問題や、過去の闇営業問題の際も、必要に応じて記者会見をしたり、謝罪文を出したりといった対応を取っている。不祥事を起こした芸人には、起こした問題の度合いによって謹慎させたり契約解除したりといった対応を行っている。
一定の謹慎期間を経た後は、世論動向を見つつ、少しずつ活動をさせる「地ならし」をうまくやっている。劇場を持っている事務所ならではの強みもあるだろう。
今秋ごろには、お笑いコンビ・ダウンタウンによるインターネット配信サービスを開始し、性加害疑惑で活動休止をした松本人志さんが復帰する予定となっている。
週刊誌報道直後の初動対応は適切ではなかったと思うが、松本さんのスタンドプレイを抑えて芸能活動を休止して、一定期間置いた後に復帰の道筋を作っている。フリーや弱小事務所所属のタレントであれば、このようなシナリオは描けないだろう。
■芸能事務所の「リスク管理」がものをいう時代
もちろん、タレント自身が意識をアップデートして、問題行為を起こさないようにする「事前対策」が最も重要であることは言うまでもない。ただ、個人でやっていればそれも手薄になりがちだ。
さらに、問題が起きた時の対応、一旦活動を休止した後の復帰プランの策定なども重要になる。
芸能人がフリーランスで活躍できる時代が来ているのは紛れもない事実だが、その反面、リスク管理が手薄になってしまっている。リスクが高いタレントは、広告やメディアへの起用にも腰が引けがちになる。
芸能事務所のリスク管理体制の強化が求められると同時に、フリーランスで活動する芸能人・タレントを啓発したり、保護したりする仕組みをつくることが重要だ。

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西山 守(にしやま・まもる)

マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授

1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。
「東洋経済オンラインアワード2023」ニューウェーブ賞受賞。テレビ出演、メディア取材多数。著書に単著『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、共著『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社)などがある。

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(マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授 西山 守)
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