※本稿は、黒川伊保子『運のトリセツ』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
■女性と男性の「がんばり」は大きく違う
「しあわせになりたいけれど、しあわせになれない女性」が、ついおかしてしまいがちなミスがあります。
それは、もっとやせたら、もっとおしゃれになれば、もっといい女になれば、愛されると思うこと。あるいは、夜も寝ないでがんばれば職場で認められるはず、と思ってしまうこと。
たしかに、そのがんばりは認めてあげたいところなのですが、女の脳が考える「ステキ」や「がんばり」と、男の脳が考え、求めていることは、大きく違う。空回りしている女性たちは、たいてい大きな勘違いをしているのです。
実は、男性脳・女性脳の研究をしているうちに、私はある法則に気づいてしまいました。それが、「女は、がんばるほど、しあわせから遠ざかる」という恐ろしい法則です。
「がんばる」よりも大切なこと。
それは、「脳のはたらき」と「男と女の脳の違い」を知って、自然体で生きること。
すると直感力が上がり、素の自分を認めてくれる人と出逢えます。
「目標」や「成果」(こうなりたい自分)にこだわりすぎると、直感が鈍り、本来の自分も見失うことに。がんばればがんばるほど、人生が、自分の気持ちから離れていきます。
■「がんばらないで、しあわせになる」
感情、知性、行動──脳は、あなたが「しあわせに生きる」ための、すべてのカギをにぎっています。脳のはたらきにムリがないように生きていく(=がんばらない)ことで、直感力があがり、相性のいい異性を感知するフェロモンセンサーもアップして、運命の人と恋に落ち、深いところで男性に大切にしてもらうことができます。
しかも、お肌もツヤツヤになり、目力もアップします。情感も豊かになって、いい人間関係が築けます。イヤなことがあっても翌日に持ち越さず、そもそもイヤなことが起こらなくなっていきます。
もちろん、仕事でも、なぜかいつも、いいアイデアが湧いてきます。チームのメンバー、同僚や上司からのサポートもバッチリです。
つまり、「すべてがうまくいく」のです。
どうでしょうか、「がんばらないで、しあわせになる」って、とってもステキでしょう?
男性脳と女性脳の違いを知り、「脳」という頼りがいのある“相棒”を上手に生かすことで、大切にされて、運をよくして、すべてがうまくまわってしまう──そんな人生をつくるための方法を、さっそく、見ていくことにしましょう。
■左脳は「考える力」、右脳は「感じる力」
まずは脳のしくみについて、レクチャーしておきますね。
よく、左脳型人間とか、右脳型人間って、言いますよね。
でも、脳をシステム分析している私から言わせると、これはちょっと違っています。
人は、どのような場合でも左と右の脳をどちらも使っていますから、「どちらかだけ」を使っている、ということはありません。ただ、それぞれの担当はあります。
左脳は顕在意識に直結していて、おもに、言語や論理、計算、時系列的な思考を担当しています。言葉を使って行なうことには、この左脳がメインに使われています。いわゆる「考える力」というものですね。
そして、右脳は、空間認識や音楽感覚などを担当しています。いわゆる「感じる力」です。
■女性は「直感力」を発揮する脳梁が太め
そして、最後に「愛されてしあわせになる」ために大切な脳の力。
それが「直感力」です。
「あ、そうだ!」というひらめきや、「彼の表情がいつもと違うな」「この案だと、いまいちな気がする」など、言葉ではうまく表現できないけれど、「なんか、そんな気がする」というものです。
この「直感力」を発揮するためには、「左脳」と「右脳」をつなぐ脳梁(のうりょう)と呼ばれる情報線がよく働くことが大切です。右脳は感じる領域、左脳は顕在意識に直結していますから、脳梁は「感じたことを顕在意識につなぐ情報線」、すなわち「気づく」「察する」と言う能力をつくりだす器官なのです。
実は、女性の脳は、脳梁が男性より生まれつき太めで(諸説ありますが、5~10%ほどと見られています)、左右の脳の連携がよいという特徴があります。
そのため、情況や周囲の心情を察知する能力に優れていて、「ベストな選択肢」を一瞬にして見抜くことができます。その他にも、感じたことをすぐに言語化できるので、おしゃべりが得意で、同時にたくさんの文脈を理解することができます。
■男性は全体を俯瞰することが得意
つまり、男性よりも女性のほうが、「直感力」がはるかに優れている、ということですね。身の回りに潜む、あるいは周囲の人が醸し出す、わずかな違和感にも鋭敏に気づき、トラブルを未然に防ぐ――何万年も子育てをしながら進化してきた女性脳の才覚です。ちなみに、自衛隊でも、「危機回避力は、女性のいるチームのほうが高い」と言われています。
一方で、男性脳には男性脳のよさがあります。
脳梁が細くて、左右の脳の連携がよくない分、心情や事情抜きで、目の前の現実空間をつぶさに観察することができます。量や数の把握やそのとっさの比較、あるいは全体を俯瞰することが得意なのです。
そのおかげで、空間認識能力、数学的思考、構造を理解することに優れた力を発揮します。迫りくる危険に素早く気づいて反射的に迎撃したり、構造物を作ったり、果ては「宇宙」に向けて、果てしなく思いを馳せることができるのも、右脳と左脳の連携が悪い脳ならでは。
■「鈍い男性」ほど生存可能性が高い
実は、男性の脳梁は、胎児期に、男性ホルモンによって細くなります。男性だけに受け継がれるY染色体によって発動される現象。つまり、男たちの脳は、「男性」として生きるために、わざとそうしてるってこと。何万年も、狩りの現場で成果を出してきた男性脳に起こった進化なのでしょう。
日常に潜むわずかな不穏(人の心の機微)には感度が鈍いのですが、いざ問題が起きたときの対処が的確で素早いのが特徴です。ちなみに、危険な現場では、目の前で起こっていることに集中するために、他人の気持ちのようなことに対する感度を鈍くする必要があるのです。このため、心情や事情に疎い男性ほど、生存可能性が高く、狩りから獲物を持って帰ってくる確率が高いわけ。当然、たくさんの遺伝子を残しています。つまり、現代男性の多くに、この性質が受け継がれているわけ。
人の話を聞くときは、結論にだけ意識を集中させます。
また、分類したりするのも大得意。収集マニアに男性が多いのも、脳の構造からしてうなずけます。
■新発見をしたアインシュタインの脳は…
実は、男性の脳梁の太さには個人差があって、男性の1割程度が太めで生まれてくるようです。物理学の天才アインシュタイン博士は、死後の解剖によって、30代男性の平均より約10%ほど太かったことが確認されています。アインシュタイン博士は、発達障害の傾向があり、やや特殊な脳の持ち主でしたが、世界中を驚かせるような新発見をした背景には、脳梁が太く、直感力を大いに駆使できたことも寄与しているように思います。
女性の場合は基本、全員が脳梁太めで生まれてきますが、ここに信号をあまり流さない癖の人がいて、男性脳的な感性の人もいます。
何が言いたいかと言うと、男性の多くが脳梁細め、女性の多くが脳梁太めという傾向はあるものの、どちらも100%ではないこと。そして、大勢と違う脳であっても、けっして間違っているのではなく、動物生態系においては、1%以上を占める特性は異常ではなく、何らかの適応的な現象であると考えるそうです。つまり、人類繁栄のための一つの役割だということです。
たしかに、男性ばかりの狩りのチームにも、「なんとなく気になる」直感力が働く人が必要ですし、女性ばかりの子育てチームにも、問題解決のために突っ走る人は必要です。
■女性脳は「妄想」が肥大化しやすい
この本では、男性脳として脳梁細めの脳、女性脳として脳梁太めの脳を指しますが、その傾向に当てはまらない人を否定する意図は一切ありません。とはいえ、男性脳的な脳の使い方をする女性でも、恋に落ちると、意外にも脳梁を頻繁に使うことが多いのも事実です。右左脳連携は、女性の(というより哺乳類のメスの)生殖本能に関わる機能だからです。
というわけで、女性なら一度は、この本を読破しておいたほうがお得。「私はここまでじゃないわ」と感じる方も、ぜひ、読み進めてみてください。
さて、女性がしあわせでいるためには、「直感力」がよく働くような状態を維持していくことが、何より大切なこと。
「直感力」に導かれるようにして生きているとき、女性の人生は、なんだか不思議なくらいうまくいき、思ってもみなかったような成果を手にします。そして、「なんだか知らないけれど、愛されてしまう」状態になっていくのです。
でも、この「脳梁が太めで、左右の脳の連携がよい」という長所ゆえに、はまりやすい罠があります。
女性脳は、様々な情報が連携しやすく、ある対象にはまってしまうと、なかなかそこから抜け出せなくなり、些細な気がかりなどから、「妄想」が肥大化しやすくなるのです。
そして、「しあわせな女」から自分を遠ざける一番簡単な方法は、こうした些細な気がかり、情報にこだわって、そのことばかりをグルグルと考えてしまうこと。
■些細なことで脳を悩ますのはもったいない
たとえば、「彼のメールの、あの表現、何か私、気にさわることを書いちゃったかしら」「あの人が言った、あの一言、何か裏があるんじゃないかしら」などと、始終、ぐるぐると言葉が頭にうずまいている状態でいることです。
女性というのは、「育む性」のため、細かなことまで、なめるように気づくように脳がつくられています。
それは、女性の長所でもあるのですが、些細なことをきっかけに、不安や心配を大きく膨らませて、ネガティブな妄想にとらわれてしまう脳でもあります。
そして、同じところをグルグルとめぐってしまう……ということが起きがちです。
だから、「かわいい女、いい女、しあわせな女」になるためには、些細なことにとらわれてマイナスのスパイラルに入ってしまったら、その流れをパチンと断ち切ること。
すると、身動きがとれなくなっていた状態から、持ち前の「直感力」がよみがえってくるはずです。
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黒川 伊保子(くろかわ・いほこ)
脳科学・AI研究者
1959年、長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピュータメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、“世界初”と言われた日本語対話型コンピュータを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。近著に『共感障害』(新潮社)、『人間のトリセツ~人工知能への手紙』(ちくま新書)、『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社)など多数。
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(脳科学・AI研究者 黒川 伊保子)