おいしいコーヒーを選ぶには、何を見ればいいのか。『世界のビジネスエリートが身につけている コーヒーの教養』(あさ出版)を書いた山本博文さんは「コーヒーには3つの品質基準が設けられている。
中でも『スペシャルティ』は最も品質が高く、香りも素晴らしい。カフェなどを訪れた際にも見分ける方法がある」という――。(第2回)
■コーヒーは大きく3つの品質にわけられる
コーヒーには、大きく分けて3つの品質基準があり、香味や欠点豆の数によってコモディティ、プレミアム、スペシャルティに分類されます。なぜこのような分類があるかと言うと、コーヒーの国際取引において買い手側がどういった品質を求めているか、売り手側がどのような品質のものを作っているかといった共通の認識がないと、コミュニケーションが難しくなるためです。
コモディティとは一般商品、つまり、一定の輸出規格に則って生産されるコーヒーのことです。取引価格は、生豆の輸出規格とコーヒー相場(ディファレンシャルを含む)をもとに決められます。
輸出規格とは「格付け」や「グレード」とも呼ばれ、コーヒーの品質を示すものです。各生産国の生産環境によって独自に設定されるのですが、次の4つをもとにしていることが多いです。
・産地の標高

・カップテストによる香味の品質

・生豆の大きさ(スクリーンサイズ)

・欠点豆(コーヒー生産の過程で出てくる不良品のようなもの)の数
■品質を読み解いてみる
例えば、ブラジルの場合、輸出規格は、一定のサンプル中に含まれている欠点豆の数、生豆の粒の大きさ、そして香味の3つによって決められています。取引時に交わす契約書には、「No.2, 17/18, Fine Cup」と記載されていたりします。意味は次の通りです。
No.2 →欠点の数

17/18 →コーヒー豆のサイズ

Fine Cup →香味の品質
プレミアムは、コモディティ品の輸出規格からもう少し、産地や豆のサイズを限定したコーヒーのことを指します。
例えば、上記の「No.2, 17/18, Fine Cup」に、産地の情報をもう少し細かく限定していきます。
ブラジルの中でも「セラード地域で収穫されたコーヒーだけ」「サイズの大きな豆だけ」を集めて、コモディティ品よりも高品質なコーヒーとして出荷します。プレミアム品の輸出規格は「No.2, 18, Fine Cup, Cerrado」のように表示されます。
■スペシャルティの特徴は「高品質」「トレーサビリティ」
スペシャルティコーヒーは先にお伝えしたコモディティやプレミアムよりも高い品質を持つコーヒーのことを言います。スペシャルティコーヒーをごく簡単に説明すると、「ちゃんと品質管理が行われており、香味が素晴らしいコーヒー」ということです。特徴のある酸味や香りがあり、カッピング(第1回で説明した品質評価方法)の点数としては80点以上のコーヒーがスペシャルティに分類されます。
基本的にはコモディティやプレミアムと同じ輸出規格に則っていますが、その上で香味の特性をしっかりと感じることができるコーヒーかどうかや、欠点数がスペシャルティの基準に則っているかなどを見定めて、品質を保証しています。
また、おいしさだけでなく、「トレーサビリティ」がしっかりとしているコーヒーであることも重要です。これは何かと言うと、例えばブラジルのミナスジェライス州の南ミナスのマンチケイラという地域で、カルロスさんという方が、ヴァルジェムグランデ農園という農園を運営しており、そこで生産されるコーヒーは手摘みで丁寧に完熟した実だけを選りすぐって品質を上げています。加工のそれぞれの工程においてもロット管理がしっかりと行われているようなコーヒーは「トレーサビリティがある」と言えます。
■「おいしさ」で取引できるようになった
スペシャルティコーヒーの登場によって、コーヒーの価値を香味品質で評価することができるようになりました。従来の品質評価方法では、コモディティにしろ、プレミアムにしろ、「変な味わいになっていないか」「コーヒーらしい香味になっているか」といったことが基準とされていました。
そのため、欠点となるような、発酵した風味やカビっぽい香りのしないコーヒーが良しとされてきました。
一方、スペシャルティコーヒーでは、「コーヒーには様々な香りがするから、その素晴らしい香味を評価して価値をつけよう」という、新しい価値基準ができました。
ここに、スペシャルティコーヒーの大きな功績があります。取引される価格帯も、通常のコーヒーとは違い、高値で取引が可能となります。コーヒーの品評会に出品して入賞すれば、さらに価格を上げることができます。
今まで相場と需給バランスで価格が決められていたコーヒーを、「おいしさ」という基準によって取引できるようになったのです。このスペシャルティコーヒーは、努力すれば作り出すことができることも重要なポイントです。もちろんワインのように、環境的に素晴らしい香味特性を生み出す土地も、コーヒー栽培にはあります。
■カフェでは何をみたらいいのか
しかし、コーヒーの場合、収穫した後の精選処理の方法によって品質や味わいが大きく変わるので、一概に「この土地で作られたコーヒーはこんな味になる」とは言えません。生産者や加工業者の技術によって、様々な味わいのスペシャルティコーヒーを生み出すことが可能となるのです。このように、香味品質を自分たちで工夫できるようになったこともスペシャルティコーヒーが普及した要因です。
さて、実際にカフェに立ち寄ってメニューを開いた時、ずらりと並んでいるコーヒーの種類と、たくさんのカタカナ語に圧倒され、「どれを注文すればいいのか分からない……」と迷った経験のある人も多いのではないでしょうか。
そんなとき、コーヒー豆の商品紹介欄をよく見ると、生産国や銘柄、品種や生産処理、味のイメージなど、コーヒーを楽しむためのたくさんの情報が載っています。これらを読み取ることができると、日々のコーヒーの楽しみ方が広がります。
■「スペシャルティ」は情報量が多い
①スペシャルティコーヒーかどうかを見分ける方法
まずは、コモディティとスペシャルティを見分ける方法をご紹介します。メニューに載っている商品がスペシャルティコーヒーかどうかを見極める際に重要なのは、商品紹介欄の情報量の多さです。
そのコーヒーが「どこで、誰が、どのように作ったか」が説明されていることがポイントです。例えば、スペシャルティコーヒーの場合、下記のような情報が記載されていることが多いです。
生産国:ブラジル

生産地域:ミナスジェライス州 マンチケーラ・デ・ミナス ランバリ

農園名:ヴァルジェムグランデ農園

生産者:カルロスさん

標高:1100m

品種:ブルボンアマレロ

精選方法:ナチュラル・プロセス

乾燥方法:アフリカンベッド

栽培方法:シェードグロウン

収穫:○○年8月

輸出規格:No.2, S17/18

香味:ベリー、いちご、ナッツ、キャラメル
■コモディティなら、ここまで書いていない
この場合、「どこで」は、ブラジルのミナスジェライス州マンチケーラ・デ・ミナス地区のランバリという産地にある標高1100mのヴァルジェムグランデ農園です。品種はブルボンアマレロとなります。「誰が」は、カルロスさん。「どのように作ったか」は、シェードグロウン(背の高い木々で日陰を作る栽培方法)で栽培されたコーヒーを8月に収穫して、ナチュラル・プロセスでアフリカンベッドの上で乾燥させて作った、となります。
商品をひとつ見ても、これだけの情報量が盛り込まれており、さらに細かく、例えば「生産者」のところに「カルロスさんがどういった人物なのか」という説明をしている場合もあります。コモディティコーヒーにはこうした情報が記載されていることは基本的にありません。

このように、商品ラベルから情報を読み取ることで「誰がどのように作ったか」を知ることも、コーヒーを選ぶ際の楽しみ方のひとつです。これを知ることで、産地にも興味が出てくるのではないでしょうか。
■「銘柄」は産地や港の名前などに由来している
②代表的な銘柄の味わいと、ブレンドの面白さ
マンデリンやモカという言葉を喫茶店で耳にしたことがあると思いますが、これらはいわゆる銘柄のことです。ブラジル、コロンビア、グアテマラと表記しているお店もありますが、同じ豆のことをそれぞれサントスNo.2、スプレモ、アンティグアと表記しているお店もあります。
これらは、日本にコーヒーが広がる頃から、徐々に産地やその港の名前、輸出規格などの名前で呼ばれるようになり、そのまま商品銘柄になったという歴史があります。
【サントスNo.2(ブラジル)】
サントスNo.2は、ブラジルの輸出港「サントス」と輸出規格がそのまま名前になったものです。「No.2」とは、ブラジルの輸出規格の中で一番上の等級を表すものです。ブラジルらしい、香ばしいナッツのような香りと穀物に感じる甘みがある味わいです。
【スプレモ(コロンビア)】
スプレモも、同じくコロンビアの輸出規格に由来しており、コーヒー豆のサイズが一番大きなものをスプレモと言います。水洗式ならではの柑橘系の酸味とコクに特徴があるコーヒーです。
【アンティグア(グアテマラ)】
アンティグアは、グアテマラの産地の名前からつけられた銘柄です。今でもアンティグア産のコーヒーは人気が高く、特にアンティグア産のものに「ブルボン」という品種を指定したコーヒーがよく売れています。
コロンビアと同じく酸味を感じられますが、ブルボン品種特有の厚みのある甘さが特徴的です。
■「マンデリン」と「モカ」の違い
【マンデリン(インドネシア)】
マンデリンは、深煎りされることが多く、苦みが特徴的なコーヒーというイメージがあります。マンデリンの精選処理「スマトラ式」によって作られる香味が、深煎りにすると独特な苦みに変わることで知られていたからです。
しかし最近では、浅煎りで提供するお店も増えました。浅煎りにすると、ジューシーで完熟フルーツのような香りと甘みを感じられ、マンゴーのような印象を持つコーヒーとして人気が広がっています。
【モカ(イエメンまたはエチオピア)】
モカは、イエメンに昔あった港の名前から来ています。アラビア半島に位置するモカ港は、16~17世紀にはコーヒー貿易の拠点でした。イエメンだけでなく、エチオピアのコーヒーもモカ港から輸出されていたため、両者とも「モカ」という名前で呼ばれるようになったようです。イエメン・モカは、ヨーグルトや乳酸のような酸味があり、ローストナッツのような香ばしさが特徴的です。
一方、エチオピア・モカはスパイシーなハーブ系の香りとフローラルさを感じるコーヒーです。主に北部の「ハラー」という産地のコーヒーに使われる銘柄で、南部の「イルガチェフェ」産のものはモカとは呼ばれません。正確な理由までは分かりませんが、おそらくエチオピア北部にあるハラーのほうが距離的に港と近く、より多く流通していたからだと思われます。

図表2に代表的な銘柄を一覧にしたので、お店でコーヒーを選ぶ時にお使いください。こういった、単一の銘柄や産地のコーヒーのことを「ストレート」と表現します。
■「ブレンド」には“お店の味”が出る
一方、色々な産地のコーヒーを混ぜたものを「ブレンド」と言います。単一産地の香味を楽しむのではなく、さまざまな産地の香味をうまく組み合わせて作り出す味わいは、そのお店ならではのコーヒーとなります。いわば、看板メニューです。私は自家焙煎のお店に行ってメニューに「ブレンド」がある場合は、必ずそれを注文するようにしています。その店の味づくりの一端を知ることができるからです。
例えば、酸味に特徴のある産地と、香りがとても華やかな産地、そして落ち着いた味わいの産地のコーヒーを混ぜ合わせることで、単一の産地では作り出せない、立体的で広がりのある香味が出来上がります。この味づくりは、組み合わせる産地や配合の割合を変えることで無限に広がります。
好みの味わいを探す時、コーヒー豆を自分でブレンドしながら見つけるというのもコーヒーの楽しみ方のひとつなので試してみてください。

----------

山本 博文 (やまもと・ひろふみ)

坂ノ途中海ノ向こうコーヒー事業部事業開発責任者

2013年から2年間、フィリピンのベンゲット州立大学に留学し、アグロフォレストリー研究所(Institute of Highland Farming Systems and Agroforestry)でコーヒー栽培について研究。現地NGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」と協力し、農家への栽培指導や植林活動を行う。帰国後はコーヒー生産技術の専門家として東ティモールやミャンマーでコーヒー生産向上事業に従事した後、2020年より現職。アジアを含む世界各国のコーヒー産地と日本市場をつなぐ活動を行っている。

----------

(坂ノ途中海ノ向こうコーヒー事業部事業開発責任者 山本 博文 )
編集部おすすめ